Accelerated Red Invader 作:4E/あかいひと
それはそうと早速PKされる侵略者に草不可避wwwww
リアル割れをされない努力はしてきたつもりだった。服装もジーンズ、白いティーシャツの上に青い半袖パーカーを羽織ったという特に目立ちそうもなく、アバターの色も連想できないものだった。行動だって、特定される様な奇抜な日課などは持ち合わせていない。
だと言うのに、何故俺はソーシャルカメラの死角で組み伏せられて、直結対戦を受けさせられてるのだろうか。
◇◇◇
「そういや一鉄先輩。アンタ練馬区がプロミの領土って知ってて俺に向かわせましたね?」
先週日曜日、赤の王襲撃事件で確実に寿命を減らした俺はその恨み言を、目の前で射撃訓練に励む先輩に漏らす。
現在リアルの場所は先輩の家、マンションの一室であるそこには、普通の家ではあったものの、賞とか盾とか、競技用電子ライフルがあったりと、改めてこの人は凄い人なのだと思い知らされた。
で、先輩にお呼ばれしてお邪魔しているが、先輩の家族はいらっしゃらなかった様で。折角の菓子折なのに、直接渡せないのはなんというかかんというか。
そんで意識の方は、先輩ん家の家庭用ホームサーバーの仮想空間、そこにそこそこの容量のある、先輩がイメトレに使っている射撃競技場を模した場所にいた。
「ん? あーあー悪かったなぁ。ま、1度顔くらいは合わせといた方がええと思って行ってもらったんやけどな? つか俺も、まさかスカーレット・レインが直接出向くとは思わんかったわ。まあでも、再認識できて良かったで…………やっぱいくら同レベル同ポテンシャルの原則があっても、《純色》は特別なんやって」
そう言う、モノなのだろうか?
「せや。あの世界での色は特別な意味を持つ。それに、そうでなくても《赤》は原色や。基盤の色を持つ《レッド・ライダー》は確かに特別やったし、そーやんも同じく、や」
…………今でもこうして語られる先人がいるというのは、なんと劣等感を駆り立てられることか。と言うか俺に、レッド・ライダーの様な偉大なバーストリンカーになれるとは思わないんだけど。ほら、赤なのにバイクだし、自滅するし。
「アホウ。誰でも最初っから強かった訳ないやろ。寧ろそーやんはよーやれとる方やっちゅーのに…………」
「…………本当ですか? 先輩が言うと胡散臭くて」
「お、俺が地味に1番気にしとることを…………!!」
あ、先輩の地雷踏み抜いた? いやぁ、マインちゃんの相手してたらいつの間にか地雷を踏みぬくことに抵抗がなくなったみたいです。
「さらに言うと、先輩の出身って関西なので? その胡散臭さに拍車をかける様な関西弁は、そう言うことなんですか?」
「…………えらいズケズケと言う様になったやないかそーやん。ブチ抜いたろか、ああ?」
おっと、ここらが引き際か。
「いやでも真面目に気になります。…………そして、関西弁を使い続ける理由も」
意外にも関西弁を喋ってると、関東だと生き辛いことがある。接客をするアルバイトでは、それだけではねられることもあるし、偏見持たれることだって多い。例えば、今の俺の様に。関西から関東にに移ってきた親戚のケンちゃんも、暫くはそれで苦労して無理矢理標準語を身につけたし。
「…………気になるんか?」
「ええ。ですが無理にとまでは思いません」
聞いていいことと悪いことはあると思うのだ。
「『意地』」
「…………え?」
「『意地』や。これ以上は聞かんでくれ」
そう言って銃を構え、見事的の中心を撃ち抜く先輩は…………アバターながら、非常に冷たい目をしていた。
「…………それはともかく。ホンマに誰だって最初っから強かった訳やないねん。今は亡き初代赤の王だって、ボロ負けが混んだことも一度や二度できかへんかったって聞くし、加速世界最大の反逆者の黒の王も、両手両脚全て剣のアバターの操作に苦しんだんや。無論、俺やって最初はヘッドショットばっか狙うから同じ射撃系のアバターのカモやったし、ガーネット・パルスもえらいキモいアバター掴まされてあっぷあっぷしてたみたいやしな」
あのリュー兄が、あっぷあっぷ? なにそれ見たい。
「やから、そんなハナっから諦めたよーな顔すんな。まだまだ《レッド・インベーダー》はこれからやろ?」
そうやって、いつもの胡散臭さが鳴りを潜めたその笑顔は、俺の不安感を取り除くだけの威力は持っていた訳で。
「…………あざっす」
俺の師匠役が、狩野一鉄先輩で本当に良かったと思うのだ。
「それでも、リュー兄がどんなことやらかしたのかは教えてくれないんですね?」
「まだ早いからなぁ」
◇◇◇
「とまあそんな感じで帰宅途中だったんで帰してくれませんか?」
「…………お前、今の状況理解して言ってんのか?」
回想終了。現在直結による戦闘により観客のいないフィールドで、俺は目の前の青系アバターに首を掴まれています。
先輩の家からお暇して帰ってる最中の出来事。割とピンチ。
「ええ、もちろん。リアル割れして現実で襲撃されて、俺はポイントを毟り取られるか全損させられるんですよね?」
「分かっててその落ち着きかよ、きめぇ」
うわぁ、傷付くわぁ…………。
「ったく、みっともなく騒ぐ様が見たくて加入したのに…………最初の依頼がこんなんとか、シケてやがる」
「依頼と言いますと、貴方は誰かから依頼を受けてリアル襲撃を行うレギオンにでも加入してるのですね。そして、そんなことをしそうなレギオンと言えば、音に聞く《スーパーノヴァ・レムナント》といったところでしょうか?」
「マジでコイツきめぇ!!!?」
いやいや、これでも俺はいつになく慌てている。心臓バクバクで、どう切り抜けようか無い知恵振り絞ってるところなのだ。
「で、そんなリアルマネーで依頼を請け負う様なゲーマーにあるまじき行為に身をやつしている残骸共の構成員さん、依頼者は誰なんですか?」
「言うわけねぇだろ!!?」
まあ、そうですよね。単なる時間稼ぎです。
「つか、俺も知ってるわけじゃねぇんだよ。レギマスから『試験だ』って言われたっきりそれ以外はなんも、な。まあ多分だが、6大レギオンのどこかじゃねぇの? ウチのメンツがそんなこと話してた気がすっからよ」
ガッデム、まさかの6大側かよふざけんな。やってることの卑怯さ具合が黒の王とどっこいどっこいじゃねぇか。つかそんなに《レッド》が目障りか俺のせいじゃねーっての。
「…………じゃあ、一つ提案良いですか?」
「あん?」
正直、俺はこの場で勝てる気がしねぇ。しかも直結対戦だから目の前に相手が現れるわけで、そこから逃げ切るにしても中々キツイものがあるし、遠距離武器を持ってない以上、青系は天敵だ。
だから、
「俺、地味にそこそこの勝率維持してます。レベル3の相手にも」
「成る程、BP稼いでくるからこの場は見逃せと」
そして、青系アバターは一瞬迷うフリをして、
「却下だ」
無慈悲な宣告と共に、尖ったその腕で俺の胸を貫いた。
◇◇◇
簡単に7回も殺された。
減少ポイントから、敵リンカーのレベルは4。正直、相手の戦闘タイプを鑑みてみると逆立ちしても勝てそうにないレベル差である。
万が一にも逃げられない様に現実世界では上手い具合に拘束され、すぐに乱入され、胸を貫かれる。嫌なループだ。
意外にも、自分の胸に渦巻く感情は『仕方ないか』という諦め。
確かに、自分はこのブレインバーストというアプリに救われた。しかし、それは本来ありえなかったものであり、なくしてしまったとしても、また逆戻りになるだけである。
……………………嘘だ。
本当は無くしたくない。手離したくない。一鉄先輩にも諭されたばかりだ、これからもう一度頑張ろうとしていたところなのに。
この世界なら、加速世界なら、劣等生なんて言われないと思ったのに。
「プチプチ潰すのも中々面倒だな。ま、仕方ねーか」
またその腕が、俺の胸を貫くのか。
「諦めろ、初心者」
……嫌だ。
「これが」
…嫌だ。
「この世界の」
嫌だ。
「現実だ」
嫌だッ!!!
◇◇◇
力なく首を掴まれていたはずの、赤いアバターが動く。
今まさに己の心の臓を貫かんとしていた腕を、両手を使って掴む。
「ほぅ? 流石に殺られっぱなしは嫌ってか?」
だがしかし、青系アバターはその余裕さを消したりしない。それもその筈、レッド・インベーダーの本体は余りにも弱く、バイクもすこし離れた位置にあるため、もしインベーダーがそちらの方に向かってもすぐに追いつける。
だから、その動きに対処できなかった。
片方の腕で首を掴んでいた腕は払われ、もう片方で掴まれていた腕で、背負われるその動きを。
俗に言う、背負い投げ。真に柔道を修めるものからすれば不恰好極まりないその動きはしかし、油断しきったアバターを地面に叩きつけるには十分だった。
反撃の狼煙の代わりに、バイクのエンジン音がフィールドに響き始めた。
さてさてどうなるんでしょうかね?
次回『PK死す』