Accelerated Red Invader 作:4E/あかいひと
『レッドゾーン』
エンジンの回転数が限界に近い領域を指す。
バイク型強化外装《レッド》は、容易くメーター上のレッドゾーンに到達してしまうが、エンジン自体の限界は、さらに向こうにある様な気がする。車体自体が分解を始めても、暫くは安定して走り続けられるのが何よりの理由だ。
《レッド》自体に、もしかしたら速度の限界はないのかもしれない。もしかしたら、無限に加速し続けられるのかもしれない。
もし、そうならば…………レッドゾーンの向こう側、無限の果てにある速度の境地には、いったい何が待っているのだろうか…………。
「現実逃避してねーで、こっち向け」
「…………ふぁい」
いや、確かに速度の向こう側も気になるところですが、現在は心臓の方がレッドゾーン越えててヤバい。つかレベル1リンカーの前に9erとか、シャレにならんでしょ。
まあいい、この際だから先手を打とう。
「い、言っときますけど、俺は『プロミネンス』だの王の座だのになんか、興味なんて全然ないんですからねっ!?」
「ツンデレ風に言うな、キモい」
「グハッ!!」
余りにもな冷めた口調に精神的に大ダメージ。あ、でもなんか余裕出てきた。
「でも、言った内容に関しては本当ッスよ。なんなら東京全域に回りながら戦闘して、プロミネンスだの王だのに興味なんてないって言いふらし回っても構いません」
「そこまでしたら逆に勘ぐられるっつーの。まあアンタ自身がウチを揺るがす様なことをしねーっていうことは分かった」
ホッ…………流石に今の状態だと大手に睨まれたら生きていけないから助かった。
「とは言え、アバターの色被りが無い以上どのバーストリンカーも貴重っちゃあ貴重だが、純色ってのは別の方向で貴重だ。オマエ、どっかレギオンに入る予定とかはあるか?」
…………うん、分かってた。勧誘がありそうだってことは分かってた。とは言え、声の調子からそれを強制させようってわけじゃなさそうなのが幸いである。
「レギオンに入る予定は、今のところ無いッス。暫くは、俺を鍛えてる師匠の元でレベルアップッスかね」
「ふぅん? ま、ダメ元ってトコもあったし、別にいいけどよ」
それにしても、こうまで赤系アバターに囲まれてると…………その、居心地が悪いっていうか、場違いっていうかなんていうか…………。
「いや、色的にはしっかり馴染んでるからなオマエ? まぁ、純色の癖に突出してイロモノだから、間違っちゃいねーが。あの『禁断の槍』でも、多少は赤系らしかったっつーの」
そうなんだよねぇ…………誰よりも赤系らしくないアバターが、まさかの『レッド』なんスから。
というか、今聴き逃せないセリフが流れた。
「『禁断の槍』? その禁断の槍さんも、赤系アバターだったんですか?」
「あ? テメー、あの『ガーネット・パルス』を知ってんのか?」
「知ってるというかなんというか…………」
なんか、ピリッとした空気してるし、もしかしたらそのガーネット・パルスとか言うアバターの《子》かもしれないなんて言ったらヤバいかもしんない。
「し、師匠がイロモノ赤系アバターの例としてあげてくれたので、つい気になってと言いますか」
「あぁ、成る程。…………だが、知らない方が幸せだ」
…………拝啓既に記憶をなくしているであろうガーネット・パルス改めてリュー兄。貴方、この加速世界で何をやらかしたんすか。
◇◇◇
結局のところ、その後も当たり障りのない質問をされ、それに答えて制限時間が経ち、時間切れのドローということでなんとかその場は切り抜けたが。
すぐに乱入が入らないようにニューロリンカーのグローバル接続を切り、『必要になるかも』と渡されていた前時代の遺物、タブレット端末を駆使して件のケーキ屋さんにたどり着くことができた。
確かに美味しかったのだが、俺を怪しげに見つめるおねいさんの視線のせいで、2度ととまでは言わないが、あまり彼処に行きたくはなくなったのは余談だ。
◇◇◇
帰り道、自分の町に着いたあたりでグローバル接続をオンにすると、割とすぐに乱入された。
いつもの空気を叩きつける音と共に広がったのは《霧雨》ステージ。炎を扱うレッド・インベーダーには相性の悪いステージだ。
そして、今回の対戦相手は。
「久しぶりね、レッド・インベーダー!!」
俺の記念すべき2戦目で相手をしてくれた、『アンバー・マイン』。橙と黄色の中間、琥珀色の、マントとシルクハットが目を引く、長身女性デュエルアバター。轢き潰したあの日から、彼女は俺を目の敵にしてくる。
「え、ああはい。お久しぶりですマインさん」
「なーに腑抜けた声出してんのよ!? シャキっとしなさいシャキっと!!」
あ、いやそうじゃなくて。
「マインさんに会えたら、なんか安心したと言うか、帰ってこれて嬉しいっていうか…………とにかく、会えて嬉しいですマインさん」
特にあの威圧感マックスの王と会った後だから余計にそう感じてしまう。
「うれ…………ッ!!? 急に何言ってんのよこの暴走赤バイク!!」
そう言いながらマインさんは腕を伸ばし、指が指す方向…………即ち俺の足元に地雷を仕掛けてきた。
なんども対戦してきたからその攻撃も慣れてきたのか、バックステッポで躱していた。
「いきなり酷いじゃないかマインさん。というかマインさん、いつまでレベル1でいるつもりなのさ」
「うるさいわね!! 勝ち越してからじゃないと、逃げたみたいで嫌なのよ!!」
さ、さいですか。
「とにかく、今日勝てば11戦中6勝、つまり勝ち越し!! 今この場でアンタをぶっ飛ばして、レベル2になってやるわ!!」
うーん、困った。
安心したお礼に、この場は負けてもいいかと思ったけど、目の前の真っ直ぐなバーストリンカーは絶対にそれを良しとしないだろうし、本気で戦わないと失礼だ。
だからまあ、いつもの様にやるしかないと。
「オーケーオーケー…………じゃあコッチも遠慮なく行くぜェェェエエエエエッッッ!!!!」
頭を切り替え、戦闘用のソレにする。呼び出した《レッド》に跨り加速を始める。
相棒の走破能力は、かなりのものがある。通常技の罠設置如きではどうにもならない。だからと言って、油断はできない。なにせ目の前のバーストリンカーもまた、俺の戦闘パターンを知っているのだろうし、少なくとも通常技の罠設置のみで負けたこともあるのだから。
「逃がさないッ!!」
さっそく、走り始めた《レッド》のすぐ下に地雷設置がなされる。しかもその地雷、縦に2つ重なっており、上を踏んだら、上の分は《レッド》によって轢き潰せるが、下の方まではできず、爆破してしまうのだ。
しかも今の、避けられない位置に来たもんだから思いっきり踏んで…………
「うわっ!!?」
爆音と共に後輪が浮き、バランスを崩す。着地狩りをされない様に《レッド》の装備解除を行い、受身を取りながらゴロゴロと転がる。
「ふっ、コレで暫くはあのバイクは使えないわね!!」
「チッ、それが狙いか」
しかし、マインさんのその判断は正しい。俺のデュエルアバターのポテンシャルの大半吸い込んでるであろう《レッド》を封じれば、本体の方はザコ同然と言い換えても差し支えないのだから。
とはいえ、やられっぱなしは癪であるし、そのまま俺は単身マインさんに直接向かっていく。
そのさい、踏場をなくす様に設置されていく地雷を避けながら、なんとか3メートルまで縮めた…………のだが、
「かかったわね!! 《ナパームマイン》!!」
必殺技、それもどう足掻いても俺が踏む位置に仕掛けられた。
…………流石にこれはチェックメイトと、諦めながらその必殺技地雷を踏みぬくと…………
「ひ、光が逆流して───────」
「うそ、こんなに広いなんて聞いてな──────」
その後のことを、俺たちはあまり語りたくない。分かったことは、同時爆破による引き分けということと、勝負のケリは、次回に持ち越されたと言うことだ。
(リアル)地雷系女子、ツンデレ系爆破ガールのアンバー・マインちゃんでした。
余談、ガーネット・パルスの元ネタが知りたければ
『禁断の鼓動 -封印されしX-』
『伝説の禁断 ドキンダムX』
で画像検索を掛けてみましょう。