Accelerated Red Invader 作:4E/あかいひと
というわけで、手探りしていくハードモード。
その赤系統アバターは、異様だった。
ベースはひょろりとしつつも、流線的なフォルムと所々目立つ装甲を持つ人型であるそれは、『
赤系統のアバターは、基本的に遠距離攻撃を得意とする。故に基本的には強化外装だって銃器などを模したソレなはずなのだ。
無論、例外はある。特に有名なのは、『血まみれ仔猫』や『禁断の槍』だろうか? それにしたってその2名にも赤系統らしい技があるのだが、このバイクに跨ったアバターは、どうにも神風特攻をする様なアバターにしか見えない。
【Red Invader】
驚愕と共に、その事実は加速世界に広がる。
曰く、『亡くなった純色………[赤]が戻ってきた』と。
◇◇◇
…………朝起きて寝ぼけ眼を擦りつつ、外の空気に当たるため玄関を出ると、いつの間にか強制的にフルダイブした上に、何かのアバターを動かしていた件について。
「…………どゆこと?」
オマケに乗ったこともないバイクに乗っていた。この時点で俺の頭は考えることを止めかけた。
いずれにせよ、赤い。赤くて目(正確には視覚情報として脳内に送られてくる信号)が痛い。
それに、此処は…………草原? フルダイブ環境は昔と比べると確かに技術が向上してよりリアルな再現ができる様になったが、此処までリアルに再現できるなんて聞いてない。そよ風に揺れる草のマットと、感じる空気の感覚が、現実世界と見紛うレベルで気持ちいい。
これは一体どういうこと…………いや、おそらくというか間違いなくリュー兄の寄越したあのアプリなんだろうが。というか、昨日の時点でも、朝起きても弄れなかったし、狐につままれた気分になっていたのに。
それはそうと、草原とは言ったものの、建物がないわけではなかった…………というか、現実世界の街並みをボロっちくした上で、道路を草原に張り替えた様な場所だ。
「…………つーか、アレって俺ん家」
視線の先に、古惚けてはいるものの、まごう事なき寝泊まりしている家が映る。
一気に覚める意識。それを用いて現状を把握する。
画面…………というか、視界の上部に左右に広がるゲージと、その中央にある[1703]とある、認識してからもカウントダウンを続けるタイマーの様なもの。
…………以前、リュー兄に、キャラクターを操作して敵を倒すという、数十年前に廃れたゲームジャンル、格闘ゲームと呼ばれる類のゲームアプリを貰った。
そして、視界上部に写るソレは、格闘ゲームをプレイ…………つまり対戦する際に画面上部に写るソレと、非常に似ていた。
「…………格ゲーっすか、リュー兄」
というか、こんな急にフルダイブとか、現実世界の自分の身体が心配になるんだけれど…………。
まあいい、今はとにかく自分に何ができるのかを確認しなければ。手当たり次第にそれらしいコマンドを探す。
「な、ない!? まさかバイク特攻しかできないんじゃないだろうなこのアバター!?」
アバターがランダムなのか、毎回変わるのかは分からないが、少なくともこのアバターはピーキーあるいは弱キャラであることは分かった。
そしてこの格ゲー、どうやらすぐにエンカウントするタイプでもない様なので。
「逃げようッ!!」
何故か操作方法を理解していたそのバイクのアクセルを全開にし、ギアを上げつつその場から離れる選択をした。
◇◇◇
走り始めてわかった事。
このアバターは弱キャラではなくピーキー性能のキャラである。
何故ならば、
「FoooooooooOOOOOOOッ!!!!」
走り始めて一定速度………120km/hを超えた辺りで車輪と後輪の左右に2本ずつあるマフラー、そしてこのアバターのヘルメットのデコと後頭部にあるマフラーみたいな突起から、炎が噴き出しているのだから。基本的にはぶつかるだけなのだろうが、こういう特殊能力があるのなら話は別だ。少なくとも弱キャラとは言えないだろう。
草原のステージを走り回るバイクは、走った痕に炎を残しつつ、そこから大きな火を生み出していく。
炎を撒き散らしながら、現実世界ではレース以外で出せない速度で走り回るこの快感。ああリュー兄、貴方はとても素晴らしいものをくれました。願わくばこのアバターが俺専用である事を願います。
とここで俺は、視界上に浮かぶ残り時間と、自分、そして相手の残り体力を把握する。
147…………つまり残り3分もしない内にこのバトルは終わりを告げる。
そして自分と相手の体力ゲージの差は…………
「…………なんか、俺のも減ってるけど、向こうの方が減ってるな」
自分も、自分の放つ炎に焼かれたという事か。まあ向こうはガッツリ焼かれてるだろうし、このまま逃げ切れば俺は判定勝ちを拾えるという事か。
テンションが上がってきたところで、ギアを6まであげて更に加速。最初の方で慌てていたのが嘘の様だ。
…………ここで俺は、幾つかミスを犯した。
まず一つ、俺はこのアバターないしこのバイクのことを何にも知らなかったという事。
次に、操作ができると言うだけで、俺自身はバイクの知識がほとんどないという事。
最後に…………このアバターのピーキーさを見誤ったこと。
速度メーターは、旧式バイクの様に針を用いた物。そしてその針が、赤く塗られた領域まで振り切った時に、ソレは起こった。
「FooooooooOOOO…………お?」
ピシピシという音と共に、バイクが分解を始めたのだ。
「え、ちょ、待って待って待ってってば!!!?」
そして、その超高速で移動しながらバイクは崩壊し続け、最終的には──────
「ウアァァァアアアアアッッッ!!!!?」
速度を維持したまま、俺は前に放り出され、
「イギギギガァァアアア!!!?」
地面に着地、そのまま削れる様に滑り始め、体力ゲージを完全に削りきってしまった。
…………前言撤回はしないけど、このアバターは気に入ったけど、もうちょい情報が欲しいッス。
◇◇◇
「リュー兄」
「なんだ宗介」
バトル(と言うには1回も敵と対面してないし、逃げ回っていただけだったけど)が終わった後、俺は自分が玄関の前で倒れているか、部屋に運ばれていると思っていた。
しかし、そんなことは無く俺は息を吸い込んだ態勢のまま現実世界に復帰した。
おかしい…………あまりにもおかしい。だって少なくとも30分近くはあのバトルフィールドで走り回っていたのだ。その確認のためニューロリンカーで時間を確認したが、部屋を出てから1分どころか30秒も経っていなかった。ぶっちゃけ部屋から玄関までが25秒ぐらいだから、俺はあの約30分の制限時間を、5秒以内で体感したことになる。
そして、思い出した。タイトルロゴが消えた後の一文、『加速世界へようこそ』。
あまりにもな推論を確信に変えるため、同じテーブルに着き、同じ様に朝ご飯を食べている兄に、質問することにした。
「『ブレインバースト』が、格ゲーなのは分かった。でも、それだけじゃないでしょ?」
「ふむ、宗介のことだから既に答えも出しているだろう?」
「馬鹿言わないでよ…………正直、自分の意見に確信が持てない。…………まさか、
僕のその答えに、ニンマリと笑いながらリュー兄はその端正な顔をこちらに向けた。
「大丈夫、そこは安心しろ。アレはただの格闘ゲームではない。いつかはお前も分かるだろうが、もう一つの現実と言っても差し支えのないモノだ」
「…………もう一つの、現実」
「単に、思考が1000倍に加速できるだけのアプリだと、思わないことだ」
「いやいや待て待て」
単に、って前置きして話された内容が衝撃的すぎて思わず突っ込んだ。
「思考を1000倍って…………ああそうか、5秒どころか1.8秒の出来事…………って」
思わず立ち上がり、怒鳴り声を上げそうになるが、
「落ち着くんだ宗介」
「ムグッ!?」
強制的に口の中に突っ込まれた食パンのせいで、喋ることができなかった。
「さて、最初で最後の説明だ。思考加速をしたい時は、『バーストリンク』と唱えろ。後はこのアプリをどうするか、お前が決めるんだ」
「……………………」
リュー兄、餞別としてあげるには、少々ヤバ目な代物ではありませんか?
「とは言え、手放す気は無いのだろう?」
「…………まあね」
加速云々はともかく。
俺はあの空間に取り憑かれた。1800秒の制限時間があるとは言え、あんな自由度の高いゲームを手放す道理は無い。
それに…………望むモノが手に入るかもと言う言葉も気になるし。
「でも、ありがとうリュー兄」
「気にするな。あと、俺はこのアプリを消すことで記憶を失う。これ以上何も答えるつもりは無いし、記憶が消えたあとは何も答えられないから、そのつもりでな」
…………前言撤回してもイイっすか? 流石に記憶が消えるとかコエーよ。
初っ端からレッドゾーンなんてありえないので妥当なラインで自壊。
そもそもレッドゾーンって背景ストーリーだと主役級クリーチャーが2匹揃ってようやっと互角で、3匹揃ってようやっと倒せたバケモノなのに、最初っから出せるわけがない。