Accelerated Red Invader 作:4E/あかいひと
…………いざ書いてみると、TS戦闘狂がなんというかかんというか。
無制限中立フィールド。
時間的限度がほぼ無いに等しい、バーストリンカー達の真の戦場の、とあるダンジョンの前で、1人のリンカーが欠伸をしていた。
「ふわぁ…………眠いわぁ…………」
少しくすんだ銀白色の装甲の付いた、深海を思わせる深い蒼のドレスアーマー。そこから伸びる腕は、病的とも言えるほどの、青白さ。
質素な椅子に座っていたそのバーストリンカーの名は《チタニウム・アサルト》。《
「ふぅん? なら止めればいいのにね」
「フン」
パァンッ!! と乾いた音が響く。
音もなく現れたバーストリンカーは、アサルトの持つ拳銃で物の見事に撃ち抜かれ、体力を全て散らした…………
「酷くね?」
と、思われたのだが、このバーストリンカーはその事実を無かったことにしたかの様に起き上がる。
「気に入らないのですわ、《
「馬鹿言わないで頂戴よ戦狂いの女帝サマ。僕は貴女の
実にワザとらしい演技をかましながら、そのアバター《ゼロ・アクター》は両の手を広げ、首を振る。
「その何処かの道化師の如く嘯く様も気に入りません。私が、いつかの『王への討ち入り事件』を知らないとでも?」
そしてさらに声音に苛立ちを乗せ、半ば威圧的に無色のヒトガタを射抜くアサルトは、拳銃を突きつける。
「ア、アレは僕の友達が余りにも僕を舐めるからさァ…………まあ確かに、その友達…………レベル1に一撃死させられたけどねぇ」
「まぁ、貴方が? いくら本領を発揮できない相手とはいえ、一撃で?」
不機嫌そうに呟くアクターとは裏腹に、アサルトの声音に、少し興味の色が現れた。
「ええ、ソレはもうビックリするほど。と言うか、貴女も名前は知っている筈ですよ。あの、レッド・インベーダーですから」
「…………《
「珍しいですね女帝サマ。貴女なら真っ先に会いに行こうとしそうなのに」
「ナイトのヘタレが、嫌という程釘を刺してくれやがったのです」
実に、実に不本意そうに言うアサルトは、苛立ちをぶつけるかの様に、その足で大地を轟音と共に踏みしめる。
「厄介なことになり兼ねないだの、他の所も様子を見ているから抜け駆けするなだの…………全く、仰々しい二つ名持ってる割には、肝っ玉の小さい男ですわ」
「そういう割には、レギオンを抜けたりはしないのですね」
「これでも、義理は通す方ですの。なんだかんだで、この私が一目置いてる王なのですから」
「レベル8でそこまで言える貴女って、やっぱ凄いよいろんな意味で」
話を戻して、とアサルトは言う。
「では、そのレッド・インベーダーは強いのですか?」
「強いよ、少なくとも通常対戦フィールドで、心意を使わなかったら僕じゃ厳しいと思わされる程度にはね」
アクターがそう断言するとアサルトは、獲物を前にする肉食獣を彷彿とさせる笑みを浮かべて、
「…………そう」
と呟く。
「あーあー…………ベーダーもロックオンされちゃったかぁ。友人としては悲しいよ」
「もしそうなのであれば、貴方が身代わりになってくれてもいいのですよ、アクター?」
「そいつぁ勘弁。それにベーダー単体に被害が行きそうなわけでもなさそうだしね?」
「何故そう断言できますの?」
「そりゃあ、貴女が此処に居るからさ」
此処でアクターは初めて、その声に明確な敵意を乗せた。
「此処は池袋地下迷宮の入り口…………今も昔も、レギオンを創設したいと望むものが訪れる、ある意味でバーストリンカー達の聖地だ。此処に挑む者は、大なり小なり色々なものを背負ってやってくる…………聞いたよアサルト。貴女、此処に来るバーストリンカーを全て追い払ってるらしいじゃないか」
「ええ、その通り。で、
まるで、知ったことかと突っぱねるアサルトも、声に苛立ちを浮かべる。
「私、もう我慢できませんの。闘争に満ちた黎明期、友である《ブラック・ロータス》が起こした悲劇による混迷期…………毎日が愉しかったというのに、今のこの世界は一体如何です? 全損を怖れて上辺だけの仲良しごっこに興じるハイレベルリンカーに、そんな様を見て育つロウレベルリンカー。停滞……停滞なのです。余りにもつまらない。だから私…………自分の手で、敵を育ててやることにしましたの」
手に持つ拳銃を剣に変え、アサルトは宣言と共に突きつける。
「だから邪魔しないでくださいまし、アクター。貴方との闘争は、こんな不純な形で行われるものではありませんの」
「女性にそんなことを言われちゃあ…………と言いたいとこだけど。生憎、僕は自分の後輩達が可愛くて仕方がない停滞側なんでね」
とうとう声の色が消えたアクター。彼を知る者は、今の彼の感情を嫌が応にも理解させられてしまうだろう。
「さっさと去ねよ、我儘小娘」
「我儘で結構。貴方の様に枯れるぐらいならそっちの方がマシです」
◇◇◇
そんな、何処かで戦争が始まりそうになっていたその頃。
「ふーん、ほー、へー? 俺が世田谷にレギオン作ろう思ってたのに、こんの弟子ときたら」
「謝りませんよ。俺はランチャー達の思想に心を揺らされました。いくら先輩と言えど、俺は譲るつもりはありませんので」
中学校のローカルネット内で行われている通常対戦フィールドでは、銀朱の射手と赤の侵略者が対峙していた。
「それに、ランチャー達がレギオンを作れば、六大レギオンも黙ってはいないでしょう。最悪、赤のところは俺が交渉しますけど、他のところは確実に此処を狙ってくるでしょう。もしかしたら、先輩の望む停滞の終わりの切っ掛けになるかもしれません」
「…………まあ、そうなんやけどなぁ」
納得がいかない、と言わんばかりにデストロイヤーは言う。
「まあでも、《チタニウム・アサルト》を倒しに行くんは、ええんとちゃうか? 俺は噂でしか知らんけど、相当強いみたいやし。ええ経験にはなるやろ」
「やっぱり、ケンちゃんぐらいはありそうですかね?」
「んー……純粋な戦闘能力だけで言ったらアクター以上やわ、多分な」
「う、まじすか」
と、口にするインベーダー。しかし、その声音からは少しも怯んだとは思えない程の意思が。
「ふぅん、やっぱ気に喰わんのか?」
「ええ、気に喰いませんとも」
普段は白色のアイライトが、憤怒を示す赤色に変えながら、インベーダーは言う。
「どんな思惑があろうとも…………些か理不尽が過ぎると思いませんか? どう思ってるのか、どんな理由があるのか知りませんが、ランチャー達を力づくで追い返していい理由にはなりません。そんな老害を、このレッド・インベーダーが見逃すと?」
そう言い切るインベーダーに、デストロイヤーは内心ガッツポーズをしながら、それを表に出さずに頷く。
「んな、調整手伝ったる。まあないやろうけど、心意を使ってきた時の対処とか、レパートリーとか増やしとかなあかんやろうからな」
「恩に着ます、先輩」
こうして始まる、修行という名の戦闘。
(これはこれで、ええんかもな。上手くいけば…………俺も久しぶりに表に戻れるかもせえへんし)
その最中に別の思考を繰り広げながらも、インベーダーを寄せ付けない程の強さを見せる彼は、そのヘルメットの中で嗤った。
え、あの戦闘狂がTSしたらこんな奴になっちゃうの?
→あの戦闘狂をベースに、本来持ち得るはずだったトラウマが消えた為。TSしなくてもどうしようもない戦狂いになっっていたに違いない。
というわけで、なんか健太が本気になってるけど…………怖いなぁ。