Accelerated Red Invader 作:4E/あかいひと
「それで、ウッドランド・ランチャー。クローズドにしてまで話したいことって何?」
その日の夕方。マインさんと共に家への帰路へと着いていた頃、今度はランチャーの方から乱入があったので、『今度はレッドゾーンでぶっちぎってやる』と息巻いてたらまさかの展開。まあクローズドしてつまらないのは観客の方だし俺は別に構わないんだけど。
「すまない。本当は先程話を付けたかったのだが、まさかああいう方法で勝ちに来るとは思わなかったのでな」
「…………俺かマインさんの力が必要な案件でも?」
「まだ何も話していないのだが…………」
唸るようにそう言いつつも、ランチャーはドカリと、《黄昏》ステージ故に草の生い茂る地面に座る。
「まあ、お前の言う通りだ。世田谷で近接最高火力のお前か、設置火力最強のアンバー・マインのどちらかに、あるバーストリンカーを倒すのに協力してもらいたかったのだ」
「ある、バーストリンカー?」
そう言うと、少し言い辛そうに、ランチャーは声を発した。
「《チタニウム・アサルト》」
その、余りにもな名前に…………俺は思わずほうけてしまう。つかこいつ、なんて言った?
「チ、チタニウム・アサルト? あの、《
アバターの装甲の色が、通常のカラーチャートとは別枠に存在する、『メタルカラー』。メタルカラーに属するアバターは総じて、奇抜な強化外装を持たず、人型であることが多い。他にも、特殊なアビリティを持っていること、あるいは覚醒することも多く、それぞれの金属に合わせた特色を得ている場合が多い。
例えばチタンで言うならば、かなり固く、金レベルの腐食耐性も持つ、かなり当たりなメタルカラーだ。反面、高温に弱いという弱点はあるけれど。
…………まーそんなことを抜きにしても、あの即撃女帝とはことを構えたくはないけどね。
《チタニウム・アサルト》は、青の王のレギオン《レオニーズ》の幹部にして、古参レベル8バーストリンカー。
なお、当人はかなりの戦闘狂で落ち着いた口調とは裏腹にはっちゃけてるらしく、フランクであるとわりかし有名な青の王《ブルー・ナイト》ですら、『あいつの手綱は握りきれない』とコメントを残している。
「正直さー…………噂だけでどうこうってのはあまり趣味じゃないんだけど、流石にレベル8は荷が重いし、俺自身近接戦闘タイプに弱いから、相手にしたくないのだけど」
「無論、承知している。其処は私や、同志エバー・フォックスが協力する」
「……………………ふむ」
確かに、彼のヘイト管理とフォックスの撹乱戦闘があれば、確かに一撃を届かせられるかもしれないけど。
というか、この2人を相手にするのは流石のレベル8でも苦労すると思うんだけど…………特に、フォックスの《チェンジフォックス》は回避力も抜群でしょうに。
「確かにはたから見ればそう映るのだろうな。…………これはフォックスの許可を得た上で話すのだが、あのアビリティは非常に縛りがキツイのだ」
「へ?」
「前提条件として、狐型エネミーを呼び出すアビリティ《コール:フォック》を使っておかなければならない」
「ちょ、ちょっと待て!!」
い、幾ら許可があっても、そんなにベラベラと話すもんじゃないだろうステータスって!!
「そのことについては、後で話す。今は聞いておいてくれ」
「……………………」
「そして《チェンジフォックス》を使うには、《コール:フォック》で呼び出したエネミーを3匹に調整せねばならない。更に、エネミー→フォックスへの入れ替わりは必殺ゲージの消費だけでいいのだが、フォックス→エネミーの入れ替わりは、必殺ゲージを大量に消費する上に、エネミーを一体犠牲にする。よって、ここぞというときにしか使えないのだ」
…………確かに、それはかなりの縛りだな。
「ちなみに私のヘイト誘導専用の軍旗型強化外装《ヘイトフルカラーズ》の弱点は、昼間お前が看破した通り、ヘイト管理が同時に1人又は1体のみであるということだ。それでも、相手が1人ならば弱みにはならんのだが…………」
「チタニウム・アサルトの攻撃力が、お前の固さを上回っているということ、か?」
「そういうことだ」
なるほど、其処で俺を組み込みたい理由は分かった。
なるほど、奇襲力はあるし、相手の行動を強制して立ち回ることはできるのだろう。だが、火力が足りなくて決め切れず、強制力も相手が余りにも強い為意味をなさず。
其処に俺という一撃必殺を取り込むことで、高い奇襲力を生かす為の火力が生まれ、身を挺しての攻撃誘導を致命的な隙に変えられる。
理解した。理解はした…………んだが、尚更分からない。其処までして、致命的な情報開示をしてまで、チタニウム・アサルトを倒したい理由は、なんなんだ?
「さて、そろそろ説明しよう。我々が何故、ここまで身を切りながらお前を引き込もうとしているのか。何故其処までして、チタニウム・アサルトを倒したいのか」
少し間を置いて、ランチャーは言った。
「チタニウム・アサルトは現在、『池袋地下迷宮』の入り口を、陣取っている」
「…………チッ、そういうことか!!」
それだけで理解した。
この2人…………正確にはこれに加えてあと2人以上は、レギオンを結成したい。だが、結成するには無制限中立フィールドにあるダンジョン『池袋地下迷宮』をクリアせねばならない。
しかし、その前にチタニウム・アサルトが陣取っている。おそらく彼女に、『私を倒せなければここは通さない』とでも言われたに違いない。
なるほど、今度こそ理解した。身を切ってまで倒してほしいという理由を、理解した。
「お前、世田谷を領土にするつもりか」
「ああそうだ」
「お前を慕ってる奴は多いもんな。そいつらが全損する確率を減らす為に…………違うか?」
「そうだ」
ハァ…………全く。色々と色詐欺だのなんだのでカオスってる世田谷を生き抜くのは、並大抵のことじゃない。
ああ…………こいつ地味に人気だもんな。面倒見もいいって噂だし、俺がPKされた時の話をしてた時も特に心配してたヤツの1人だし。
「無論、無報酬というわけにはいくまい。レギオン創設の暁には、構成員には無闇矢鱈にお前を狙わないように徹底させよう」
「…………いや、いい」
ここでなんか見返りを求めるのは…………レッド・インベーダーとして、気が引けた。
「『理不尽は轢き潰す』…………それが俺の信条だ。そのついでにお前らはレギオンをおっ建てればいい」
「…………恩にきる」
こうして、俺は『チタニウム・アサルト討伐作戦』に乗り出すこととなった。
-余談-
「…………平野さん。俺今度、《チタニウム・アサルト》を潰してくる」
「ふーん、そう…………え?」
「理不尽は、轢き潰さなきゃだよねぇ…………」
「ちょっと待ちなさいアンポンタン! 何があったの!? クローズドであのゴリラと何を話したのよ!?」
「旦那ァ、アンバー・マインには声掛けなくて良かったんですか?」
「少し考えてみろ、ベーダーが暴走して、彼女が何もしないと思っているのか?」
「あー成る程…………ベーダー爆ぜろ」
…………もしかして、あの戦闘狂って。
→こんな会話があった。
レッド「あの戦闘狂、どっちの性別にしよう?」
???「女の子で」
レッド「乗った」
つまり俺は悪くない。
他、何か疑問がございましたら遠慮なく!