Accelerated Red Invader 作:4E/あかいひと
[幕間その4:⓪のパーフェクト対戦教室]
「よっしゃオラァッ!!! かかってこいやァァアアアッッッ!!!」
俺、ベーダー。今観戦中なんだけど、目の前で対戦する従兄が凄く怖いです。
対する相手、
「コ、コイツ……きめぇ」
最強の一角、現在の加速世界最大火力最大射程を誇る幼女アバター《スカーレット・レイン》すら、今のアクターを見て慄いている。
さて、なぜこんなことになったのか…………4時間ほど前に遡る。
◇◇◇
「ケンちゃんって、本当に強いん?」
「ふへ?」
例の封印騒動から暫くしたあと、我が家にてアジフライ定食もどきを振舞っていた昼下がり。
俺はふと頭に過ぎった言葉を、そのまま口にした。
「いやね、チート性能とはいえレベル1の俺に一撃死させられるし、先輩から聞いたところによると、先輩にも負けたらしいじゃん? レベル7に到達したと言っても、実のところケンちゃんってコツコツやってなんとか辿り着いただけなんじゃ…………ってケンちゃん?」
ブルブルと震えながら、ケンちゃんは俯いていた。
(あ、あかんコレ)
俺は、そのことを口にするべきではなかったと、後悔した。
そう、この景山健太という青年は、存外負けず嫌いであるのだ。
「ふっふっふ…………いやはや、確かにそう思われても仕方ないよね。だって、負けてんだもん」
「あ、いや別に弱いとまでは」
「ちょっと今から《純色の六王》潰してくる。観戦してくれるよな?」
「…………ハイ」
◇◇◇
『ちょっと今から《純色の六王》潰してくる』
まともな神経をしたバーストリンカーならば、絶対に口にしない言葉である。
まず、現在の六大レギオンの王は、全員9er。まず挑もうだなんて思えない上に、倒すどころか潰すだなんて、口が裂けても言えないのだ。
しかし、彼はそれを成した。
まず青の王《ブルー・ナイト》と戦い、目で追いきれない剣戟の応酬の末、辛勝。
次に黄の王…………は、直接は出てこなかったので無し。
紫の王《パープル・ソーン》とは、雷撃の撃ち合いを繰り広げ、引き分け。
緑の王と白の王は、どれだけ挑発しても現れず。
さて、結局のところ2戦しかできなかったが、ここで特筆すべきは、アクターはなんと弱点を突く色を使わず、相手と同系統の色を纏って戦闘したという点。
純色の王は、その色彩系統のトップにして、その道のプロフェッショナルである。その道のプロを相手に、同じ方法で挑みかかり、互角に持っていけるその技量は、レベル7バーストリンカー《ゼロ・アクター》が如何に規格外な存在であるかが理解できる。
そして、最後にやってきた練馬区。ここで最後に残った赤の王に対戦を申し込み、赤の王が受理した為成立したが…………
「[ハッハッハッハァァアアアアアアッッッ!!!! 燃えろ燃えろ燃えろォォォォオオオオオオオッッッ!!!!]」
「うっせえサッサと死にやがれッ!!!!」
原生林のステージ。至る所に木が生い茂り、視界が悪く、火力をばら撒くタイプには向かないステージなのだが、アクターの生み出した焔使いのアバターと、《不動要塞》《鮮血の暴風雨》の二つ名で知られるアバターがそれらを焼き尽くし、距離を置いて撃ち合う2人の周囲は、焦土と化していた。
で、おそらくだが現在ゼロ・アクターが演じているのは『どうしようもない放火魔』。目に見える物…………周囲の原生林、スカーレット・レイン、彼女の放つ弾丸、ミサイル…………果てはレーザー、バーニアの噴き出す炎にすら火種を放ち、あろうことか燃やしていく。
もちろん、赤の王も負けてはいない。圧倒的な火力…………《強化外装》による超大な図体から放たれる数々の武装は、確実にアクターの体力を削っていた。たとえアクターからの火種で装甲の一部が溶けようとも、《不動要塞》の名の通り1歩も動くことなく対峙していた。
「う、うわぁ…………」
とは言えレベル差ありで互角に戦ってるこの状況。やっぱケンちゃんっておかしい。
つかアレ本当に俺が一撃でスクラップにしたバーストリンカーと同一人物? ちょっと信じられない。
「…………強いなー」
「『
「いや、それにしたって──────」
ズザザッ! と後退。ここが赤の王が治める練馬区故、遠巻きに見られてヒソヒソされることには慣れたが、こうやって話しかけられるとすごく焦る。
と、ここで俺は声をかけてきたアバターを注視する。
血赤に見える装甲、肉食獣…………特にヒョウを思わせるフォルム。
「…………ああ、なんだパドさんか」
「Hi ベーダー。
「どこかの誰かが不意打ち気味に話しかけてきた以外は至って問題ないですよ」
《プロミネンス》のNo.2、《血まみれ仔猫》の二つ名を持つ、俺と同じく近接戦闘を主にする赤系配色のバーストリンカーである。
余談だが、この人が『ベーダー』と呼び出して、周りもベーダーと呼び始めた。なんでも、インベーダーは長いらしい。無駄にせっかちな人である。
「そう」
「……………………」
華麗にスルーしたなこの人。
まあそれはともかく。
一鉄先輩の師匠命令という下で行われる『パティスリー・ラ・プラージュ』へのパシリで、結構頻繁に行かされる練馬区で、よく俺に割り込みを掛けてきたり、練馬区内での戦闘観戦でよく顔をあわせたり、赤系近接戦闘アバターという共通項もあって、プロミのメンバーの中では比較的仲はいいだろうリンカーである。だから今回みたいに急に話しかけられることも珍しいことではなく。
「それで、『無貌』を連れてきたのは貴方。K?」
まあバレてしまうか。
なんせ俺はプロミでは顔バレしてるっぽいし、ケンちゃんに至っては他方向に顔バレしてるし、一緒には歩いていないとはいえ、同時に現れたらなら、そう答えを出すだろう。
「ええそうですよ。あの人、『純色の六王潰してくる』なんて言い出して」
「…………。『無貌』は、馬鹿?」「まあ俺如きの煽り擬きでこうなっちゃうから、否定はできませんねぇ。結構な負けず嫌いでもありますし…………従兄とは言え、ビックリですよ」
「…………成る程、理解した」
凄く納得したように頷いているけど、何を理解したのさ?
「とにかくベーダー、気をつけて。気安くリアルについて話すのはNG」
「……………………あっ」
こうして、俺のリアルは段々と割れていくのだろうなぁ。
と、そこで戦闘に大きな動きがあった。
豪快に撃ち合う、実に派手な戦闘に興じていた両者が、唐突に動きを止めたのだ。
「ったく、キリがねぇ。認めるのは癪だが、流石だ『無貌』」
「[ん、ああ…………]あーあー。うん、褒めていただき歓喜の至り。所詮、器用貧乏を極めただけのモノだけどね」
「よく言うぜ…………本職顔負けの器用貧乏なんざ、聞いたことがねぇ。そりゃあ最早、『万能』だろ」
「そんなもんかね…………まあ無駄に加速世界で歳食ってる老害なワケだし、こんぐらいは経験の範囲さ」
そこでアクターは、ガラリと雰囲気を変えて、腕を突き出す。
「で、ここで止めたということは、次で最後にしようという、決闘のお誘いなので?」
「ああそうだ。別に乗らなくても構わねーけどよ」
「いやいや、女性のお誘いを受けぬなど、恥以外の何物でもない。それに…………」
その腕をこれでもかと燃え上がらせながら、掌に赤い球を形成しながら、アクターは笑った。
「
「ハッ、おもしれえ!!」
最初の嫌悪感丸出しの声音は何処へやら。スカーレット・レインもその声を喜色に染めて、装備している巨大な主砲を、アクターに向けた。
そして───────
「《バックドラフト》!!!」
「《ヒートブラスト・サチュレーション》!!!」
両者の間の、丁度真ん中で、各々の放った火力がぶつかり…………爆ぜた。
◇◇◇
「結局、1勝1敗1分け。つか、最後に負けて有終の美は飾れなかったけど、そこんとこどうなの?」
「うっさい!! つか王様と互角に渡り合えるだけでも凄いと思いやがれクソッタレ!!」
「あーあー冗談冗談。凄く強くて…………楽しそうに戦ってて、羨ましいなーって思ったよ」
あの後、結局火力負けしたアクターはその体力を全て散らした。でも、その後巻き起こった拍手は両者の健闘を讃えるものであり、一概には敗者とはいえないだろう。
「にしてもここのケーキおいしいなぁ。練馬区じゃなかったら毎週でも来れるのに」
「練馬区じゃなければ、ねぇ…………」
「NP。NFとベーダーなら歓迎」
「「…………ん?」」
弾かれたように上を向くと、この店の制服であるメイド服を纏った、三つ編みの女の子が。
しかし、それで言いたいことは言い切ったのか、そそくさとバックヤードへと消えていく。
「…………ケンちゃんの所為だぞ顔バレしてるから」
「…………そーくんの所為だぞ通い詰めてるから」
ちょっと訂正もしつつ、年齢設定。
レッド、アンバー
→原作最年長リンカー組。現在中2。
ヴァーミリオン、ゼロ
→原作最年長リンカーより一個上。一鉄さんは家がニューロリンカーの開発に携わった関係上で幼少期より、健太に関してはバケモノだからなんとかなった(という帳尻合わせ)。
ガーネット
→原作最年長リンカーより2個上。これまた家が開発に以下略。
無理矢理な気もするが目を瞑ってください…………。