Accelerated Red Invader   作:4E/あかいひと

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書き直し回数→9回

いやぁ…………難産でしたわぁ…………。


ギア13-振り抜く赤光

 

「だから、もう暫く彼についてあげようかと思ってるわ」

 

一旦お開きにした《禁断の槍》攻略。タイマーが切れる前にポータルで現実世界に戻り、私は自分の《親》と連絡を取っていた。

 

『…………そう。別に構わないけど、どうしてそこまで?』

「どうしてと言われると、正直なところ自分でも分からないわ」

 

理由自体は、適当にでっち上げられるのだ。ライバルみたいなものだから全損されるとつまらなくなるとか、自分のせいでチャンスをふいにさせてしまったとか。

 

でも、正直なところ。なんで私があの間抜けな赤バイクにこんなにも干渉しているのか、自分でも不思議に思っているのだ。

 

「ただ何というか…………見てられないのよ。こう、危なっかしいというか…………。だからその、つい」

『…………はぁ。それ、押掛け女房的な何かに見える』

「それ、どーいう意味!?」

 

聞き様によっては、私があの赤バイクに対してそういう好意を持っている様なその言葉に、思わず声を荒げてしまう。

 

『…………どんな形にせよ、好意は持ってるでしょ?』

「……………………凄く不本意だけど、そうね」

 

好意を持っていない相手に対してまであんな風にお節介を焼こうと思える程、できた人間でないのは理解している。

 

アイツと戦うときは、ちゃんと対戦している気分に浸れて楽しいのだ。弾幕のように張った罠に上手く嵌めて勝ったときは飛び上がる程嬉しいし、接近されて為す術なく轢き殺されて負けたら唇を噛んでしまう程悔しい。余程のめり込んで楽しんでいなければ、そうはならないんじゃないかって思う。まあそれに? 多少は話していても楽しいし?

そう思えるのは、やはりあの間抜け赤バイクだからこそなんでしょうね…………うん、そこは認めてあげなくもない。

 

『…………ダメだこの娘。自覚できてない』

「ん? 何か言った?」

『…………なんにも。それよりも、加速世界をエンジョイしてるみたいで良かった』

「それは…………うん。感謝してるよ、七海」

 

諸事情あって沈んでいたところに手を差し伸べてくれた彼女には、頭が上がらない。

それでも、その時のことを思い出すと『ないわー』って感想しか出てこないんだけれど。

 

『…………むぅ、不本意』

「学校のクラスメイトだったってだけの、接点も何もないに等しかった私に『ついてなさそう』って理由だけでブレインバーストをインストールさせるかしら普通?」

『…………姉さんと違って、私はノリと運で生きてるから』

 

そのノリと運に任せた結果の産物で自分がブレインバーストをインストールすることになったのは、今でも少々複雑だけど、文句は言えない。

 

『…………でも、懐かしい』

「え?」

『私にも、ライバルがいた。LUKに全振りしたような私のアバターに、真っ向から向かってくるバーストリンカーがいた。勝ったり負けたりの繰り返しで、顔を突き合わせれば喧嘩ばかりしてた。けど、戦ってる時は、これ以上なく楽しい。そんな、リンカーだった。…………もう、戦うことはないだろうけど』

「そう、なの」

『…………だからね、真希。そのライバル、大事にしなさい。無くなってからじゃ、遅い』

「……助言、感謝するわ」

 

なれば尚のこと、私はレッド・インベーダーを…………である。

 

『…………あと、私よりも先に幸せになったら許さない』

「だから違うってば! というかアンタ達姉妹に関しては自業自得よ!」

『…………双子だから彼氏もい』

「一緒なわけないでしょうが!!」

 

姉妹丼とか、無駄なところでハイレベルな《親》にして友人である、所謂変人に分類されるであろう少女『七夜七海』に、頭を痛めるのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

マインさんが離脱した後、俺も離脱すると見せかけて、

 

「うーむ…………」

 

未だに、あの謎オーラによるパワーアップを図ろうとして成功せず、頭を悩ませ続けていた。

 

「あの謎オーラを用いるという方向性は悪くないはずだ…………でも、自分のパワーアップはどう思い込んでもできない…………」

 

とここで俺は思った。

 

《レッド・インベーダー》の本体であるこの人型は、何ができるのだろう?

 

確かに、そのポテンシャルをほとんど《ザ・レッド》に吸い込まれて云々はその通りで、間違いなくそれは俺の劣等感から来る心の問題である。でも、そうなるとあれだけのモンスターマシーンを運転できる(・・・・・)だけの機能を有している筈がないのだ。

 

「…………俺の特技?」

 

《ザ・レッド》の運転に関しての技能は生憎身につけた覚えがないが…………劣等感塗れの俺とて、それとは関係ないとは言え、特技と呼べなくもないものは持ち得ている。

 

どうにも俺は、周囲の一部の情報から全体像を見抜くことに適性がある…………らしい。らしいと言うのは自覚がないからなのだが、確かに昔から『教えてないのになんで知ってるの?』と言われることは多かった気がする。

 

もし、それがこの本体にも反映されているのであれば、そういう能力に関しては長けている筈。

 

でも、解析系能力を身につけてるわけでもなしに、その能力と運転技能が結びつくとはどうにも思えん。

 

「いや、この際運転技能は置いておこう」

 

全身に突き刺さった槍の内、胸に突き刺さったものを掴み、深く集中する。

 

どんな方向から刺されたのか、どんな力で穿たれたのか、どの力で抜けばいいのか、どの角度に力を入れればいいのか。

 

集中し、適度に弄りながら最適な答えを出すために試行錯誤。

 

そうして9日を費やした後、

 

「…………ココだッ!!」

 

見つけた条件(ポイント)から導かれた直感(こたえ)のまま構え、振り抜く。

 

一条の赤光となった腕は、ブチブチと何かを引き裂くような音と共に俺の胸から槍を引き摺り出そうとする。

 

「グッ……ガッ……ァァァアアアッ!!!」

 

穿たれた時以上の痛みに、思わず手を離してしまいそうになるが、人生最大の集中力を持ってそのまま引っ張り続け…………

 

「ガ、ア…………ッ!!!」

 

己の体力を全て刈り取りながら、レッド・インベーダーに突き刺さった槍の一つが、その胸部から解き放たれた。

 

その時、俺は答えを得た。

 

《レッド・インベーダー》も《ザ・レッド》も、その最大の武器は変わらない。

 

腕を振り抜く速度に、レッドゾーンの轟速を幻視しながら、俺は灰色に染まる世界に、その身を横たえた。

 

 

◇◇◇

 

 

「ねえベーダー? 私、言ったわよね…………危ない橋は渡るなって」

「お、おっしゃる通りです」

 

現実世界で15分、内部時間で10日と少しを過ごしていたら、マインさんが憤怒のオーラを撒き散らしながらアイアンクローをきめてきた件について。

 

「ねぇ、どういうことなのかしらベーダー。ねぇ、ねぇ、ねぇねぇねぇッ!!!!」

「ギガァァアアアッッッ!!? すみませんでしたマインさん、ほんの出来心だったんですゥゥゥゥウウウウウッ!!!」

 

おかしい、関節系のアバターはそこまで身体能力は高くはないはずなのに、同じくお察しなレッド・インベーダーが為す術なく…………あ、よくよく考えたら今封印状態だった。

 

「うっさいッ!! 心配した私の身にもなりなさいよッ!! 15分後、落ち合う時は連絡するって言ったわよね!!? わざわざネームタグ交換して!!!」

「ギ、ギブギブ! 俺が悪かったっすからそろそろ離してェッ!!!」

 

…………いや、俺が悪いのは分かるのだが、死んでしまうと弁明ができない。それは非常に困る。

 

まあ、せめてもの慈悲を見せてくれたのか、そもそも殺すつもりなんてなかったのか、琥珀色の長身女性アバターは、その手から俺の顔を離し、落とした。

 

「…………ハァ、私こんなことがしたかったんじゃないのよ」

「ごめんなさい……そうさせたのは俺ですね」

「分かってんなら最初から止めなさいよ、馬鹿」

 

それで、という言葉でそれまでの怒りと不機嫌さを霧散させたマインさんは、俺に問う。

 

「成果はあったの? まあ、胸に刺さってた槍が消えてるところを見ると、うまく行ったようなのね」

「ええ、なんとか。マインさんのおかげですよ」

 

そう言うと、マインさんは非常に複雑そうに頭の後ろを掻きながら、気まずそうに言う。

 

「べ、別に私は何もしてないわよ。助言はしたかもだけど、足も引っ張ったでしょ?」

「それでも、マインさんのおかげで道が開けたのだし、知らないことで傷付くことも避けられました。それに、結局は自分のことを再認識することで成功できたのですから、やはりこれは貴女のお陰ですよ」

「……そう。なら素直に受け取るわね」

 

少しテレテレしながらもじもじするマインさんマジ天使。キャワワで鼻血吹きそう。

 

まあそれはともかく、体力が消える前にやったあの動きを忘れないように、俺はビシュン!! と腕を振る。真っ赤な軌跡を描きながら、赤光が前方に飛んでいく。

 

「…………ふぅん。これが《心意》」

 

マインさんが、何やら新しい単語を発した。なんぞ、そのシンイって。

 

「あなたがほぼ独学で習得したその光る技よ。必要になると思って、《親》に聞いてきたのよ」

「あ、あぁ…………ちゃんと体系化されてるんですね」

 

そう聞いて、俺は確信した。

あの2人は、そのシンイとか言うのを身につけさせたかったのだろう。

 

「まあ詳しい話はまた落ち着いてからにするとして、その心意…………《心意(インカーネイト)システム》は、加速世界における最大の謎にして、禁忌とのことよ。自衛手段…………それも相手が心意を使ってきた時以外は、使わないほうがいいみたい」

「…………? どうしてさ」

 

確かに、本来のアバターのスペックを超えて戦闘能力を発揮できるこのインカーネイトシステムは脅威だ。

でも、ぶっちゃけさっきの光を飛ばすのだって、他のアバターならできることでしかないのだ。だから、そこまで慌てるようなことでは…………

 

「《心意》は自分の傷を拡げる上に、《心意》同士でしか防御できない代物だと聞いても同じことが言える?」

「わぁ」

 

そりゃあ、禁忌指定されても仕方ないな。

 

「それでも、見につけといて損はないらしいし、心意を用いた襲撃から自衛するには必要だし、過度に気にすることはない、って言ってたわ」

「…………ホッ」

 

マインさんの言葉に、思わず安堵の息を漏らす。ただでさえ《赤》なんて厄病神を背負っているのに、さらに禁忌の業を身につけたとあれば、色々とアウトだろって話になる。

 

「にしても、先を越されたわねぇ…………少し悔しいわ」

「この状況見てもそんなこと言えます?」

 

マインさんのその拗ねたような口調にムッときた俺は、力強くまだまだ残る刺し穿たれている己のアバターを指す。

 

「あ、いやそうじゃないのよ。そりゃあ、ベーダーも苦労してるのは承知してるわ。でも、ほら…………その、ほとんど同期みたいなものだし、一緒にそういうのやっていけたら…………って違う違う今のなし! やっぱり勝ち越されたのが悔しいだけよ!」

「…………やっぱりておま」

 

そう言えば、前にリュー兄に言われたことがある。

 

『いいか、宗介。天邪鬼(ツンデレ)はこの世に存在する属性の中で、最も破壊力に長けた属性だ。十分、気をつけることだ』

 

嗚呼、今ならリュー兄が言ってたこともわかるよ。

 

これは凄い。

 

 

 

 

 

 

この後、もう一度心意を使って槍を振り抜こうとした時、『こんのリア充がァァアアアッッッ!!!』なんて叫びながらこっちに飛びかかってきた先輩をぶっ飛ばしてしまったのは余談である。

 

 

 

 

 

 




ちょ、双子丼っておま
→そのアイデアを出したのは私じゃない。私よりもずっとトんでる人からの助言。

こんなのツンデレじゃないやい!
→すみません、作者はツンデレがそこまで好きではないためコレジャナイ感があると思いますが大目にみてください。

結局ベーダー心意身につけるの早かったような…………
→そこは主人公補正ってことで流していただけると。それに彼の加速世界での強味は『速さ』なので。

で、この心意技の分類は?
→射程拡張です。ちなみにベーダーには威力拡張と強度拡張は一部の特殊条件下以外では習得できない模様。


いつも感想ありがとうございます。
オマケになんか知らぬ間に評価もつけていただいて、ちょっと作者泣きそうです。

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