Accelerated Red Invader 作:4E/あかいひと
「へぇ…………此処が無制限中立フィールド…………」
男は女性に弱いって本当だ。マインさんに押し切られて無制限中立フィールドでもう一度会うことを約束させられてしまった。つか、師匠達の目を盗んで入るのに苦労して精神的にもうキツい。
「と言うかマインさん、レベル急にあげましたけど、ポイントの方は大丈夫だったんですか?」
「自慢じゃないけど、
ああ、そういえばそうでしたね。
「でも、《親》とかに文句は言われなかったんですか? 今までレベル2で頑張ってたのに」
「特に何も。連絡しても、『…………そう、分かった。無事を祈ってる』って言われただけよ。むしろ《禁断の槍》について言った時の方がビックリしてたわ」
へぇ、それはまた随分放置プレイな親だな。まあその上を行く放置プレイかましやがった親もいるけどな。リュー兄だけど。
「にしても、見事に刺さってるわね……」
全身に槍が刺さって、痛ましい姿になっている俺のアバターを見て、マインさんが呟く。
「正直、現状では手打ちですよ…………なんだって、リュー兄はこんな物騒な槍を生み出したのか…………」
「話にしか聞いたことないけど、相当ねコレ…………私の親も、2本刺されたみたいだし」
あぁ、だから槍にだけは反応したのか。
「…………ってちょっと待ちなさい」
「?」
「リュー兄って誰よ?」
ん、口が滑ってたのか? まあもう存在しないバーストリンカーだし、いっか。
「《ガーネット・パルス》。俺の兄で俺の《親》ですよ。もう消えちまいましたけどね」
「……驚けばいいのかしら? それとも納得すればいいのかしら?」
「知らないですよそんなこと」
俺は加速世界でのリュー兄を伝聞情報でしか知らないから、こうして槍がブッ刺さってること以外はどーでもいいんだよ。
「ブン殴ろうにも、退場してるし関西だし…………次会った時どうしてくれようか」
「あーあー落ち着きなさい! 暗黒面に傾いてるわよ!!」
ん、暗黒面に傾いてる?
「いや、さっきアンタのアバターの傷口から黒い光がモヤモヤーって出てきてたから」
「…………?」
黒い光? それもこのドス黒い槍の能力なのだろうか? でもそんな能力いらないんですが…………。
「いや、むしろコレがヒントなのかも…………?」
さっき俺は、『どうにかしてリュー兄』をブン殴りたいと思った。もしかしたら、この『どうにかして』って感情が、現状打破に役立つのかもしれない。
「そんな単純なわけが…………と、言いたいところだけど、間違いじゃないと思うわ」
「え?」
「私の親が、前こんなことを言ってたのよ。『…………どうしようもない壁にぶつかったら、自分と向き合いながら、無理矢理どうにかしようという気持ちで行動して』ってね。まさにこういうことなのだと思うわ」
「お、おおお…………!!」
なんか、一気に光が差し込んだ気分だ!
「ありがとうマインさん! 愛してるって言いたいぐらい感謝してるっ!」
「ちょ、急に何言ってんのよこのバカッ!!」
と、いつものノリでマインさんは足元に罠を仕掛け…………
「…………あ」
ドカン! と1発。ただでさえ弱体化してる俺のアバターは、その体力を一気に削られた。
一つ言えることは、無制限中立フィールドでの死は、非常につまらないものだということだ。
◇◇◇
『自分と向き合いながら』、という意味がどうにも理解できないが、『無理矢理どうにかして』の意思は相当に強かったんだろう。
「き、記録更新…………!」
胸に刺さった槍が、僅か15分で半分近くまで抜けた。少し気を緩めてしまい、力を抜いてしまったのでまた最初からであるが、かなり前進したことが分かる。
全力かけて99分99秒と言われたこの槍。約50分で半分に到達する計算なのだが、15分で半分というのは些か早すぎる。この点から、俺は今、全力以上の力を発揮したことになる。もしかして、裏技なのだろうか?
「…………」
「どうしたんですか、マインさん」
「いや、今度は赤い光が見えたんだけど、さっき程ハッキリしてなかったから」
「赤い光、ですか」
光が赤い、というのはなんとなく理解できる。だって俺の装甲色だし。さっきの光が黒かったのは、おそらくマインさんが言ったように精神的に暗黒面に傾いていたからだろう。
だが、光がハッキリしてなかったというのはどういうことか? 抜いてやろうという思いが足りてないのだろうか、それともこれこそが『自分と向き合う』ということなのか。
…………そういえばだが、なぜ自分がこんなアバターになったのかは、分からないままだったなぁ。ふと自分に関して思い返してみたら、想像以上に《レッド・インベーダー》について、知らないことが分かってしまった。
「ねぇマインさん、デュエルアバターって、どうやって精製してるんだろう?」
何の気なしに、彼女に問う。
多分いつも通りに、呆れたような叱責が飛んでくる、と思っていた。
「…………アンタ、知らなかったの?」
でも、帰ってきたのは想像以上に張り詰めた、悲痛な声。まるで、俺のことが哀れともとれるその声音に、心の何処かが妙に反応した。
「デュエルアバターは…………自分の恐怖、欲望、劣等感、脅迫観念…………そんな、暗い感情から生まれるのよ」
「暗い、感情……?」
「ブレインバーストをインストールした日の夜、とびっきりの悪夢を見たのではないかしら? つまりは、そういうことよ」
確かにあの日、すごく夢見が悪かった。どんな内容かは思い出せないが、凄く凄く、悔しい思いをしたことだけは覚えている。
[悔しい]…………劣ってる自覚のある、諦めも付いたはずの自分なのに、まだそんな感情があったのか、とその時も思ったな。
そうか、ならば納得が行く。
このアバターの本体が、ビックリするほど雑魚いのは、俺自身が大したことがないという劣等感。それに反比例して性能の高い《ザ・レッド》は、周囲を追い抜くための力を欲したが故のあの速さ。《レッドゾーン》は、自分の劣等感を燃料にして疾る、俺自身の悔しさの権化。
「デュエルアバターは、バーストリンカーの傷そのものなんですね」
「ええ。その傷そのものを、自分を守る殻にしてるなんて、随分と皮肉の効いた話だと、思わないかしら?」
「言えてますね」
軽く劇薬ちっくなその事実に、俺は少し戸惑うのだった。
◇◇◇
デュエルアバターについて知った結果、さっきみたいに力が入らなくなった。恐らくだが、自分自身は大したことがないということを再認識してしまい、『自分がこんなに強いわけがない』と無意識に思ってしまったのが原因であろう。
「その……ごめんなさい」
「いや、これはマインさんの所為じゃなくて俺のせいだし。気にしないでください」
確かに、差し込んだ光明が一気に細くなりはした。
でも、それはいずれ向き合わねばならぬことだったのだろうし、後になればなるほど、そのツケは凄まじいものになったはずだ。
「だから、自分の傷が痛むのも構わずに、今その事実を教えてくれたマインさんに感謝を」
俺だけじゃなくて、マインさんにだって傷はあるのだろうし、悲痛な声がその証左である。でも、その話をすれば、デュエルアバター《アンバー・マイン》から自分の傷を予測されかねないと分かっていたのにも関わらずに、彼女は教えてくれたのだ。感謝こそすれど、それで悪感情を抱いたりできようはずがない、のだ。
「むしろ、こっちがなんか申し訳ない気分ですよ。無理に話させてしまう形になってしまって…………」
「……………………それこそ、気にしないでよ」
頬の部分を染めて、プイッと視線を逸らすマインさんは、小さく呟いた。
「でも、それとこれとは話は別よ。アンタがその槍が抜けるまで、手伝ってあげるわ」
「もう十分手伝ってもらった感じなんですが…………」
「うるさいわね、ケジメよケジメ!」
そういう彼女は、いつものような照れ隠し風味の声音ではなく、不敵な声で、そういったのだった。
「う、うわー…………見ちゃいけないもの見た気がするよぉ…………」
「邪魔したら、確実に殺られるやろうなぁ」
「にしても、あの娘…………ナナミンのトコで見た気が…………」
「ナナミンってのは知らんが…………なんや雰囲気が、《
「………………………」
「なんや急に黙りおって…………変なやっちゃのー」
「(…………やっべー! 《
ねぇ、言うまでもなくマインちゃんはヒロインだよね!!?
→そうです、彼女はヒロインです(多分)
ラッキーガールって誰?
→知らない方がいいと思います(なろうで書いてるオリジナル作品の一つで、健太のヒロインやってる女の子)
心意目覚めるの早くない?
→普通のゲーム感覚で進めた結果。自分の傷について再認識したせいでリセット&進行速度1/10。
なんでこんなガチ近接が赤色に…………
→現実世界で自分が向ける感情の方向が周囲で他方向に向いてたら赤くなるって言ってた気がします。そんなノリで。
あの凡人に傷なんてなさそうなもんなんだけど…………
→むしろあの凡人が1番傷まみれ。ふとした瞬間に零化現象が起きかねない。
暗い雰囲気目指して書いてたはずだよね?
→…………ほら、他の作品と比べたら比較的シリアス。
というわけで、感想、批評、駄目だし、質問、どしどしお願いしまーす!