Accelerated Red Invader   作:4E/あかいひと

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琥珀色→アンバー
あとはお察しください。


ギア11-琥珀少女との邂逅

99分99秒の間、出せる全力で力を加えることで、槍は抜ける。

 

だが待ってほしい。これって無理ゲーなのでは?

 

それに気がついたのは、99回目の挑戦の時だった。

 

太陽が10回登り、『変遷』と呼ばれるフィールドリセット&フィールド属性変更現象も2回…………差し入れの焼き鳥串を心の支えに、胸に刺さる槍を抜こうとしたが、どうにもうまくいかない。

 

全力を、出すことは出せる。でも、それは陸上競技で言う短距離を最速で走りきる様なものであり、それを維持するのは全速力で42.195㎞を走るようなものだ。無茶にも程がある。

これが一般的なVRゲームならば、不可能でもないのだが、現実に添い過ぎてシビア過ぎる加速世界の、そのまたシビアな無制限中立フィールドだと思うようにいかない。

 

「ンギギギギギギィ──────ッ!!! …………ハァ」

 

何度も同じ作業で飽きも出始め、集中力も完全に切れた。

 

「…………こりゃ、無理かなぁ」

 

久方振りに、自分の心を支配する諦観に、俺は思わず空を仰ぐのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「あれで良かったのかなぁ…………」

 

思わず僕、『ゼロ・アクター/景山健太』はつぶやいてしまう。

必要なこと…………というのは理解しているが、寧ろコレでは彼を絶望させるだけになる可能性が頭から離れない。

 

「自分…………更には自分の傷と向き合うには、アレはもってこいなんや。つか、今更どうにもできへんし」

「幾ら《アレ》を習得させたかったとしても、やり過ぎだと僕は言いたいんだ」

 

加速世界から退場してなお、様々なバーストリンカーから畏怖と恐怖と共に口にされる『ガーネット・パルス/ガーネット・ランサー』。その理由は、彼の加速世界に大量に残したその槍に原因がある。

 

《禁断の槍》は、刺し穿った対象を《封印》する。その弱体化、経験済みである僕から言えば『悍ましい』のひと言だ。刺されたバーストリンカーは一部の例外を除き、絶望して消えていった。《災禍の鎧:クロム・ディザスター》と同列されて語られることも多いが、それも納得してしまえる。

 

更に抜いた者も、例外なくあの禁忌の業を身につけるのだから、この加速世界を支配してる気になってる6大レギオンの連中からすれば、たまったもんじゃないだろう。いろんな意味で《禁断の槍》だ。

 

とまあツラツラと思考に没頭したが、結局のところ、あのそーくんに槍が抜けるのかどうか、分からないから不安なのだ。せっかく同じゲームをやっているのだから、長いことプレイしたいと思うことは、不自然なことではないはず。

 

「コレで潰れてくれる様なら、この先加速世界ではやっていかれへん。もしそうなら寧ろアンインストールを勧める」

 

だがその一方で『ヴァーミリオン・デストロイヤー/狩野一鉄』が、善意で言っていることも分かる。

 

確かにあの《赤》色は、いろんな意味で厄介を振りまく色だ…………それを狙う輩からの自衛手段としてアレを身につけさせるのは正しい判断だし、急造で身につけさせるには、《禁断の槍》は最短ルートだ。

 

けれど、それは行き過ぎた…………とも思うのだ。

 

「ハン! 噂通りやな『無貌(ノーフェイス)』。身内には、甘いだけやいられへんで」

「…………『ボクら』のコレは、習性なんで」

 

そこは、あまり語りたくはないのだけど。

 

「それに、コレでベーダーが終わるとも思われへん」

「…………?」

「あいつが『理不尽』に強く反応するのは知っとるやろ?」

 

…………!

 

「だから予定よりも2本多い6本でやったんや。…………暫く見とったらええわ。あの侵略者、どっかのタイミングでキレよるで」

 

そんな風に、クックと引く様に笑う姿を見て、僕はなんとも言えない気分になった。

 

 

◇◇◇

 

 

息抜き、ということで一旦無制限中立フィールドから降りた俺は、ニューロリンカーのグローバル接続を切った状態で街に繰り出した。本来息抜きであるはずのゲームをするために息抜きとは、中々に面白い冗談だと思う。皮肉的に。

 

近くの公園のベンチで缶のジンジャーエールを飲みながら、思いっきりダレる。

 

「あ”〜…………こりゃマズイんじゃ〜…………」

 

気晴らしに加速世界で相棒を走らせようにも、そもそれができないから先程まで頑張っていたわけだし、久しぶりの負のループに陥ったみたいだ。

 

「…………ちくしょう」

 

ふざけての空元気も上手くいかず。思わずジンジャーエールを一気に煽り、炭酸の刺激で口内と喉を焼く。

 

バーストリンカーとして、絶体絶命窮地故にどうにも落ち着かない。頭の中でずっと、イライラしながら貧乏揺すり。

 

別に、理由があってこうなったことは分かっているのだ。おそらくあの2人は俺に何かを身につけさせたいんだ。

 

でも、心がそれを許容できるかと言われたら、否だ。

 

あの赤い人型とバイクは、《レッド・インベーダー》と《ザ・レッド》は、沈みきっていた俺を引き上げてくれたもう1人の自分なのだ。それがあんな風にズタズタに滅多刺しされて、いきなり『弱体化したから』と言われても、納得できるはずがない。

 

ただのゲームだったならば、こんなことで悩まずにアンインストールしてるんだけどなぁ。

 

「あーあー…………ん?」

 

視界の端に、何かが映った。

其処に視線だけ向けると、其処には公園に植えてある木…………と、それに隠れている女の子がいた。

隠れてる…………と言っても、なんかすっげぇこっち見てんですけど。視線だけだから俺の方もガン見してることに気付いてないのね。

 

「…………」

 

ちょっと悪戯心が湧いたので、急に身体ごとその方向に向けると、

 

「ッッッ!!!?」

 

思いっきり慌ててコケる女の子。あ、これは予想外。

後味悪いどころか女の子に怪我させたんじゃないかと慌てながら、立ち上がり、駆け足気味で駆け寄る。

 

「あ、あのー…………ごめんなさい」

「……………………別に」

 

ワインレッドのカーディガンを羽織ったその女の子は、ちょっとムスッとした様に、答えたのだった。

 

そんなこともあって、お詫びも兼ねてジュースを奢ることに。まあ勿論、本題は何故俺を見ていたのかなのだが。

 

そんな、若干黒い思考を展開させていることを知らぬであろう隣の女の子は、柑橘系の炭酸飲料をちびちびと飲んでいた。見たところ150㎝前後だし、小学生ぐらいだろう。顔も童顔だし。

 

「…………どーせ、この身長と見た目て小学生だと思ってんでしょ」

「ふへ!?」

 

なにこれ、エスパー!?

 

「分かりやすい顔してたからよ。コレでも厨二病真っ盛りの年齢よ」

 

…………ってことは、目の前の女の子は中2である、と? 俺と同い年とかちょっと信じられないな。

 

「それで、そんな間抜け面さらしてグダッて、グローバル接続もせずになにしてたのかしら、《レッド・インベーダー》?」

「ッッッ!!!?」

 

思わず距離を取ってしまう。

なにせ、この間痛烈なリアルアタックを喰らったばかりだ。もうあんな状況はこりごりである。

 

…………いや待て。そういやつい最近、別の人にもリアル割れしてたってことが判明したよーな。

 

「…………《アンバー・マイン》さん?」

 

恐る恐る、その名を口にしてみる。リアルでデュエルアバターの名前を発するのはご法度だが、向こうさんもやってるからおあいこだろう。

 

「ええそうよ。こっちでは、初めましてね」

 

どこか泣きそうな雰囲気を漂わせつつも、隣に座る小柄な女の子は、淡々とそう言った。

 

 

◇◇◇

 

 

「それで、あのゴスロリ美人とはどーゆー関係なのよ!?」

 

なんというか、落ち着いたマインさんってばしんせーん! なんて思ってたら、毎度お馴染みマイン節炸裂。身長差がここではあるので、肩を掴まれガクガクと揺らされることはないが。

 

「…………あれ、従兄。間違えないでね、従姉じゃなくて、従兄」

「嘘おっしゃい! あんな、奇抜な服も着こなせる長身美人が男だなんて、私は認めないわよ!?」

「其処に多分に私怨が混じってる気がするのは気のせいですか!?」

 

本当なら俺も信じたくないけどね!!

 

「それでなんというか…………女装が趣味なんですよ。しかもアレで彼女持ちですよ? 世の中終わってると思いません?」

「…………ええそうね。完全に同意できるわ」

 

あの憎たらしい従兄に理不尽さを感じているという共通点だけで、俺らのため息がリンクする。

 

「でも、安心した様な…………」

「ん? なにか不安なことでも?」

「う、うるさい! 別になんでもないわよ!」

 

思いっきり拒絶されてショックを受け、そういやもうマインさんとまともにバトルできなくなってしまったかも…………と、更に気落ち。気分は断がい絶壁に立つ感じ。

 

「あ、いやその、ゴメン。其処までショック受けるなんて思わなくて…………」

「あー違うんでお気にせずに。ちょっと、レッド・インベーダーが致命傷受けて再起不能になり掛けてるんですよ…………もしかしたらマインさんとも戦えなくなると思うと、正直、ね…………」

「…………それ、どういうことよ?」

 

ある種の凄みを放ち始めた彼女は、幼く見えるなりにその目を鋭くさせた。

…………あんまり言いふらして、それで全損するのは嫌ではあるが。

 

「…………」

 

真剣に、俺の心配をしてくれていることが、何故だか分かってしまう彼女になら、話してもいいかもしれない。

 

「えっとね、俺の師匠と知り合いに、物騒な槍を刺されちゃって──────」

 

粗方の説明を終えてマインさんに確認させろと迫られるまで、あと3分…………。

 




ちょ、マインちゃんと会わせるの早くない!?
→大丈夫、本来ならマインちゃんはベーダーがリアルアタック受けてる間に割り込んで救出させる予定だった。

ちなみに、ベーダー狙ったレギオンってどこなんだろ?
→原作2巻を思い出してください。あとはお察し(ry

なんで99分99秒なんて微妙な…………
→『禁断』というクリーチャーのパワーが9999。

え、普通さんに彼女いんの!?
→ベーダーが知ってるのは1人。実はあの野郎、この世界線では2人侍らせてるクソ野郎。

戦闘狂さん出すとか、加速世界終わらせる気?
→大丈夫、普通と戦闘狂はデュエルアバターの方が弱体化しているという極めて稀有なバーストリンカー。

ベーダーに、ドス黒くて悍ましい槍(意味深)が…………
→それ以上いけない。

質問など、どしどしどーぞ!

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