Accelerated Red Invader 作:4E/あかいひと
具体的には戦闘狂のお兄さん。まだ先の話ですけどね。
景山健太という少年は、変人揃いの景山家の中でも異様な存在感を放っていた。
景山家…………というのは、別に名家でも華族の末裔とか、そういうものではないが…………30年まえぐらいのとあるライトノベルのマッドサイエンティスト一家みたいなのを想像すれば良いだろう。あそこまでトチ狂ってはいないが、全員が全員各分野にて色々成果を上げているからな。
では、景山健太はそんな科学一家の中でも目立つような、類まれなる才能を有していたかと問われれば…………答えは否である。
景山健太は、どこの誰が見ても、ビックリするような、ごく普通の少年だった。それはもう、思わず一族みんながドン引きしてしまう程。
しかし、彼の家族は知っていた…………彼が普通の才能なんぞ必要ないぐらいのナニカを見に宿して生まれたことを。
景山一族を天才集団と称すなら、景山健太はバケモノである。
◇◇◇
「いってぇ!!? 何すんだこの野郎!!?」
HPを切らしたことにより現実世界で再起動、そして感情のまま2人に掴みかかろうとした。
ただの槍…………ならば良いんだが、何やら良からぬ予感がする以上、こいつらを問い詰めなければならない。
「おうおう落ち着きなって。事情は上で話すから」
そう言ってケンちゃんが指をピッと立てると、否応無しに俺の動きが
「グッ…………つか、先輩の目があるところでそんなことしていいのかよ?」
「んー、ロイさんならいいかなってー。つかぶっちゃけ広まろうがどうしようが、『景山健太』は揺らがない」
…………あー、そうですか。
「んー…………、なあそーくん。俺の目疲れてんのかな? なんやアクターが、そーくんを
「ええそうですね」
「…………嘘やろ?」
「残念ながら、極めて残念ながら、今俺の目の前にいる男は、常識に喧嘩売ってる非常識です」
「…………唯一の広範囲顔バレリンカーやのに生き残っとる理由は、それか」
へぇ、顔バレしてんだケンちゃん。
そう思いながら、ようやっと解放された身体を屈伸させて、どかりと床に座る。
「非常識だなんて失礼な! 言うけどね、僕はこれ以上ないって程普通だから!!」
「まず普通の人間は女装なんつーこと、楽しまんと思うんやけど?」
「ぶっちゃけアンタが普通なのは、そのガワとホモ・サピエンスを対象としたテストでの記録ぐらいです」
「ひでぇ!!?」
ヨヨヨヨ…………と嘘泣き(これがまた本気で泣いてるように見えるから腹がたつ)をする彼だが…………まあいつものことなので放置である。
「……それで? まあ上って言葉で『無制限中立フィールド』なのは分かるんですが」
「お? 知っとったんか」
「世田谷のリンカー達との世間話で。まあ一つ目の壁という言葉と、全体的に減少傾向にあるはずの加速世界で、何故高レベルリンカーがレベルアップできるのかと考えたら、そういうゼロからポイントを生み出す仕組みはあるはずだと辺りを付けてたので」
加速コマンドを使えば使う程、ポイントは消える。いくら補充して、自分の分は増えようと、全体的なポイントとしては減少しているということだ。
そして《子》は1人しか作れないため、増えるポイントも少ない。それだけで加速世界を支えるのは、少しどころか無理に等しい。
「だから、ネトゲ的なフィールドもあると思っていたので、つまりそういうことなんでしょう?」
「…………ああ成る程。基本的なこと以外教えんでええって言ったけど、そういうことか。ギリギリ言うたかて、あの学校でやっていけるだけはあるいうことか」
「あんまり顕著じゃないんでアレですけど、僕の家族とも普通に会話できる辺り、流石『景山』の血をー、って感じですよねぇ…………僕よりも景山らしくて、正直羨ましいです」
失礼な。それでも劣等生である事実に変わりはない。つか、あの程度すぐに分かるだろうに。
「ともかく、理解はしたので早速その上……『無制限中立フィールド』に行きましょうよ。幸い、コマンドも覚えましたし、サーバーの切断タイマー設定もこの日のためにしてあります」
「そ、そのことについて教えた覚えはあらへんねんけど!?」
「だって、加速世界がそんな甘い場所なわけがないじゃないですか…………落ちたら現実に帰還できるだなんて。ネトゲよろしくフィールドにマーカーが残って蘇生待機状態になるんじゃないかなって。多分、それ用のポータルみたいなので外に出たりできるんでしょうが、それ以外だと無限エネミーキルみたいな状況になった時全損しかねないし、有線接続で入って、時間でグローバル接続が切れるようにしておけば、強制的にフルダイブから戻されて最悪の事態は避けれますし」
「おいアクター!? これもその景山の血ゆーことなんかい!!?」
「え、ええまあ。でもそーくんの場合、理解した1の情報から、10も20も理解を深めていくという方向に特化してるみたいですが」
今明かされる衝撃の真実ゥ…………なんて力なく呻きながら、ケンちゃんは頭を抱え始めた。
「(え、ちょこれどういうこと!? まさか覚醒が始まった!? そういやリュー兄もブレインバーストやり始めてから磨きがかかったし…………うそぉ、まさかブレインバーストって変人生成アプリかよぉ…………)」
…………なんだか、失礼なことを言われてるのは分かった。
「…………あーもーなんか疲れたわ。サッサと入ろうで」
「…………ですね」
「いや、あなた達がそんな呆れた顔するのはお門違いですからね?」
それはともかく、サーバーからコードを伸ばし、タイマー設定をしてニューロリンカーに刺す。
「じゃ、一斉に唱えんでー」
「らじゃー!」
「了解です」
せーのっ、
「「「アンリミテッド・バースト」」」
◇◇◇
『無制限中立フィールド』
文字通り無制限中立フィールドである。無制限なのは、加速時間。中立なのは、一個下でのように支配下に置いたりできないから。
このフィールドも、現実世界のそれを用いているみたいで…………なんというか、あの時リュー兄が加速世界を『第2の現実』と評した理由が分かった。
伝聞によると、痛覚も2倍らしいので現実感はさらにドン! である。
ちなみにこのステージに来るのに必要なポイントは10。結構喰うが、まあ限界なく加速し続けられるのだから、それぐらいは許容範囲だ。
そんなこんなで、《世紀末》ステージになってる中立フィールドに降り立って、視界上の体力バーと、止まったタイマーを確認した上で一言。
「…………槍、刺さってる」
先程刺された槍が、そのまんまになっていた。痛覚的には問題ないのだが、ヤケに体に力が入らないし、何よりマズいのが、《ザ・レッド》が起動しないということだ。
「さってっとー。んじゃ、こちらでも講義を始めますか」
後から現れたゼロ・アクターが、先程同様に黒板を出して、解説を始めた。
「…………アレ、先輩は?」
「『2人の分のポイント稼ぎに行くわ』って言って、早速エネミー狩りに行っちゃったみたい」
「…………逃げたな」
まあ確かに速攻スクラップにしてやると息巻いてましたけどね。
「あ、あはは…………まあ、まずそのベーダーに刺さってる強化外装《KNDN Lance》について説明しようか」
カツカツと白チョークで《KNDN Lance》とデカデカと書いたアクターは、さらにその下に、漢字で《禁断の槍》と書いた。
つかおい待て、《禁断の槍》ってまさか!?
「…………どういうこと? ガーネット・パルス/リュー兄は退場したんじゃ?」
「退場したからって、物を残せないとは限らない。特に《
…………うん、まあ一個下で刺された槍が、このフィールドでも刺さった状態である時点でそれはお察しである。
「とにかく、説明に入るよ。この《KNDN Lance》は、それ自体はただの高性能な槍だ。攻撃力も、耐久値も高く、とても使い勝手が良い。でもその真の能力は、刺し穿ったときに起こる」
そこでアクターは、黒板に《KNDN Seals》、その下に《封印》と書く。
「刺し穿った対象に、このアビリティを強制的に与える。しかも、どのフィールドで刺しても、抜くまではどのフィールドでも刺さったまま。ちなみに効果の程は、大体予想つくでしょ?」
「ああ…………力がある入らなかったのは、そういうこと」
おそらくだが、スペックの幾らかを封じるアビリティなのだろう。
「そう。具体的には、効果はいくつか。まず、《禁断の槍》以外の強化外装と《封印》以外のアビリティが使えなくなる」
「致命的ィ!!?」
レッド・インベーダーはバイクがなけりゃただのカスだと言うのに!!?
「次に、レベルの数値以外の全体的なスペックが8割減」
「はぁッ!!?」
なにそれ笑えない。
「一応メリットもないわけではない。体力を削りきる攻撃の無効化ね。まあ自爆とか状態以上系列の追加ダメージは普通に食らうから油断できないけど」
「それでも圧倒的プラマイでマイナスですけど!!?」
一体なんという物を突き刺してくれたのだ!? つかお兄様、なんて物騒なアバターなんだ!!? そりゃ誰もが語るのを躊躇うわけだよ!!!
「ちなみに抜こうと思ったら、全力で力を入れて99分99秒、つまり1時間40分39秒間力を入れ続けなければならない」
「ん、んなアホな…………」
「しかも力を緩めたらすぐに戻るという嫌なオマケ付き」
なんだそのビックリする程の呪い装備。いや、それが刺さってんだけどさ、6本も。
「まあ、あまりにもチートだから、いくつか制限はあるんだけどね」
「と言うと?」
「まず、自分が封印状態だと相手を封印できない」
…………? それはむしろ制限と言うより、相手に与えるデメリットなのでは? ほら、俺に複数刺さってるみたいに。
「いやいや、ガーネット・パルスはフィールドに降り立ったら強制的に槍が6本刺さった状態で始まってたからね。無闇矢鱈に封印できないようにするリミッターだよ」
へ、へぇ…………確かにそれならば。
「あと槍が抜かれたら、その抜いた槍はそのアバターに所有権が移り、《封印》が消える」
それは、面白そうだ。だって、この《禁断の槍》は持ってるだけでかなりの威圧に使える。
「まあ他にもあるんだけど、今はとにかくやってもらいたいことがある」
その言葉と同時に黒板がカツカツと鳴り、一つの単語を描いた。
『抜く』
…………うん。えらいシンプルだね。
「ベーダーには、その刺さった槍を全て抜いてほしい。正攻法でも、邪道でも、とにかく抜ければいい。時間は必要だろうから、その間の護衛みたいなのはやるから」
「…………まあ、このままは嫌だし抜くけどさ。ちなみに、これは他の人が抜くってのは?」
「無理。抜けない」
「ですよねー…………」
こうして、俺と禁断の槍との、数週間を越す戦いの幕が、切って落とされた。
何故禁断がKNDNなのか。
→原作TCG:デュエルマスターズでの禁断の訳がKNDNだから。
ちょ、お兄さん強過ぎない?
→大丈夫、封印解くまでに大体殺せる。
無制限中立フィールドでは?
→知らんな(現実逃避)
ゼロ・アクターの心意ヤバそうなんだけど。
→大丈夫、アバターの方が弱体化してる稀有な例だから。
ご質問などありましたら、どしどしどーぞ。