Accelerated Red Invader 作:4E/あかいひと
「うむうむ、うめーっ! やっぱそーくんのカレーは最高だねっ!」
「なんやそーくん、自分こんな特技隠しとったんかい」
自分の家に変態を案内し、自分の服を押し付けて着替えさせ、昼飯をくれと宣うので思わず作ったカレーを提供したところ、こんな反応が返ってきた。
「いえ、まあ。父も母も料理は作れない人なので、必然俺かリュー兄がするしかなかったのですよ。そうでなければ今でも毎日店屋物のオンパレードですよ」
「成る程なぁ…………今時骨董品なガスコンロ持ち出された時は焦ったけど」
確かに、昨今掘り尽くされそうで価格が爆上がりしてる化石資源ではあるが、どうもウチの父が天然ガス関係の仕事をしているせいで、こんなモノがウチに転がり込んできてしまうこともありまして。意外に、電磁調理器と実際の火の差というのは、バカにならない。
「…………それはそれとして、どーいうことなのケンちゃん。なんで君が此処に────」
「あー、コウとナナミンのお土産に持って帰ってもいーい?」
「いいけど、これ以上はぐらかさないことが条件です」
というか、知らない名前が出てきたんですが誰ですそれ…………。
「あーうー…………」
「そんな進退窮まった顔すんなや鬱陶しい。さっさと『狩野一鉄』が呼んだ言えば済む話やろーに」
「…………へっ!!?」
「えーでも、バラすなって言ったのアンタじゃないっすか」
「まさかこんな形で、しかも途中で勘付いたとはいえ、そーくんの親戚やとは思わんかったんや」
俺を置いてけぼりに、2人が会話を交わす…………って!
「どーいうことですか先輩!!? 先輩がケンちゃんならぬ《ゼロ・アクター》を呼んだってことですよね!!?」
「そうや? コイツ居らなレベル上げできんかったからな」
…………どーゆーことっすかソレ?
「…………マジでやるんすか、ロイさん。正直、そーくんにあんな酷い事はしたくないのですけど」
「気持ちは分からんでもない。俺もそーくんに対して弟子的な愛着わいてるし、あないなことせんでもええんならそれで良かった」
俺の質問を無視して、先輩はその胡散臭い顔を引き締め、糸の様に細く閉じられたその目を開く。
「でもな、知らん間にコイツPKされとんねん。なんとか返り討ちにしたはええけど、またやられかねへん。そん時に、今のままやと耐えられる自信がない」
「…………成る程、そういうことっすね」
ケンちゃんも、なんか納得した様にうんうんと頷き始めた。
でも、断片から言わんとしてることは分かった。
「レベル上げと共に、俺の強化をする、という認識でいいんですね?」
「…………うん、そうだね」
そう言いながら、今生の別れの様にヨヨヨと泣くケンちゃんに嫌な予感がしつつも、俺は腹だけはくくるのだった。
…………なんか、肝心なところ逸らされてる感あるが、まぁいっか。
◇◇◇
バトルロワイヤルモードで戦闘フィールドに降り立ち、そのままレベルアップに移行。
レベルアップボーナス…………なんとも心躍る単語だが、その項目が、
・《ザ・レッド》の機能拡張
・《ザ・レッド》の基礎スペックアップ
…………もっとこう、なんかないのかしら? ほら、体力拡張とか、新しい武器とか、本体のスペック上げとかさ。
いや、コレがレベル2のボーナスだけコレならいいんだ。でも、レベル3も4のボーナスも、同様だったんだ…………。
そして、そのことを2人に尋ねると…………
「まあ、偏り切ったアバターならそうなるわなぁ…………」
「大丈夫だよベーダー。僕も同じだった」
どこか、アバターの目に当たるランプの部分を虚ろに光らせながら、2人とも肩を叩いてきた。あぁ、この2人も同じ苦しみを味わってきたのか。
「まあ此処はピーキー組でもベーダーと同じタイプ、『強化外装完全偏重型アバター』のアクターからアドバイスもろたらええわ」
いやー、そういう意味でもアクター呼んできて良かったわ〜。なんていうロイ先輩は、その目に光るものを零しながら膝を付く。
「…………自分の弟子やのにアドバイスでけへんて」
「あーうん。そりゃしゃーないっすよロイさん。てなわけで、不肖この僕が、ベーダーに参考になる様な情報をお教えしよう!」
慰めつつも黒板を取り出したアクターは、チョークを持って黒板に何かを書き始める…………って、
「…………そんなモノ、加速世界にあるんですか」
「まーねー。一個上は、ゲームであること以外ほとんど現実世界となんら変わらないから」
…………一個上? それはどういう意味なのだろう?
「ソレについては嫌でも思い知ることになるだろうから、今はこっち!」
「了解」
有無を言わせない透明アバターからの迫力が凄まじ過ぎて、思わず即答する。
「まず、僕らのよーなタイプは、強化外装に全てを吸い取られた様なアバターしてるだろ? だから、実は今のままでも十分強かったりする。ベーダーのソレなんか、レベル1なのに僕を瞬殺できる程度には強いしね」
確かに。たくさんのデメリットの上に成り立っているが、レベル1とレベル7の差すら引っ繰り返せるモンスターマシーン《ザ・レッド》…………その性能は凄まじいの一言だ。
「だからまずは、機能拡張で様子を見る」
カツカツと小気味のいい音を立てながら、黒板に『機能拡張!』の文字が躍る。
「機能拡張は、文字通りの意味ではあるけど、僕らにとっての強化外装の機能拡張は、割とシャレにならないんだ。僕のを例にしてあげると…………」
と、此処でアクターが先程も使用した透明な仮面を取り出した。
「僕のスペックをほとんど吸い取ったコレ、《アバターメイカー》。元々はランダムでアバターを自動生成してそれを纏うっていう、相手に真の意味で対策を取らせないトンデモ強化外装なんだ」
「…………さっきも思ったけど、ハマりすぎだしヤバいし」
その気になれば、殺人者すら理解して演じることができるケンちゃんに、その能力は持たせちゃいかん。コレも一種の完全一致アバターなのだろうな…………ってアレ?
「さっき、今日の気分はー…………って言ってた気がするんだけど…………」
「良いところに気が付いたね!」
気分良さげに景気良くバン!と黒板を叩いた彼は、手の平で仮面を回しながら俺の質問に答えてくれた。
「元々ランダム生成だった《アバターメイカー》なんだけど、レベル2のボーナスで機能拡張したら、《色指定》の機能が追加されたんだよ」
「…………ゲッ!!?」
なんつーことを…………上手くやれば、生成した後はどうしようもないアバターを自由に変えられるだけでも凄まじいのに、常に後出しジャンケンに勝てる様になったものじゃないか。色に対する知識があれば、生成するアバターの方向性すらある程度決められる上に、相手のアバターに有効な色を用意できる。
「この様に、元々強力極まりない強化外装に、
おお、失敗はほとんど起こりえないということか。これは良いことを聞けた。
「しかし、基礎スペックアップも僕らにとっては重要なものだ」
此処で、今度は『基礎能力!』という字をカツカツと音を立てながら書いたアクターは、さらに真剣な空気を漂わせながら解説を始めた。
「いくらトンデモスペックを誇る…………といっても、いつまでもその状態で使い続けるのは無理があるもの。僕を例にして言うなら、元々あの仮面で変身できるアバターのレベルは、自分のレベル-3だった。相性を取れるとはいえ、余りにも心許ないスペックだね」
確かに、レベル差はシャレにならないものねぇ…………。
「しかし、基礎スペックを上げていくことで、自分の分身たる強化外装を、高レベルでも使用に耐え得るモノへと底上げができる。こうすることで、拡張した機能も生きてくるし、そのスペックを注ぎ込んだが故の優位性も維持できる。ベーダーも、自分の分身が負け犬に転落していく様を見たくないだろう?」
思わず、俺は傍にある《ザ・レッド》を見てしまう。
赤を基調とした、流線形のバイクな、俺の頼もしい相棒。
こいつが…………負け犬になる図は…………。
「…………絶対に見たくない」
「だろう? だから、こちらも外せない」
成る程、どちらも重要。さらにレベルアップの機会は複数回ある。ならば、
「機能拡張と基礎スペックアップ、より偏重させたい方を最初のレベルアップで選び、後は交互に選んでいく…………というのがベストなんだ」
「ざっつらい!」
となると、現状でのスペックは問題ないから、機能を充実させた方が良さそう。
「機能拡張×2の基礎能力アップ×1。コレで問題ないだろ」
すると、《ザ・レッド》の車体が淡く光り…………その存在感を増した気がした。
調べてみると、《ザ・レッド》に新たな機能が…………
・《Transform-《The Mach》》
・《Transform-《Single》》
…………変形?
「これ…………どういうことだろ─────」
背後にいる、先輩とアクターに聞こうと、言葉を吐いていたそのときだった。
「グゲ…………が、アッ…………!!!?」
グシャリという音と共に、胸から突き出た、ドス黒く、紅い槍。それが、俺の言葉を中断させていた。
続いて両肩、両足、腹部にも、同じ槍が突き刺さる。
「…………悪ぅ思わんでな、ベーダー。コレも必要なことなんや」
「ごめんねそーくん…………」
最後に聞こえたのは、2人の申し訳無さそうな声だった。
…………一体、何がどうしてこうなった?
◇◇◇
《KNDN Seals》set up.
◇◇◇
もし元ネタゲームでドキンダムを知ってる方がいれば、そーくんが何されたかも分かるはず。