キングは1匹! このコイだ!!   作:d.c.2隊長

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ギャグにチャレンジしてみました。以前にもお試し短編として書いたポケモンの手直しかつ連載者です。10数話の中編予定です。軽い感じで見ていってください。


コイキングでもハイドロポンプくらい撃てるよね

 この世界にはポケットモンスター……縮めて、ポケモンと呼ばれる存在がいる。その種類、生態は詳しく解明されておらず、未だに謎が多く残り、多くの研究者達が日夜探求の日々を過ごしている。その一方で、一部の人間は“モンスターボール”と呼ばれる特殊なボール状の機械を使い、ポケモンを捕獲し、育て、戦わせるスポーツのようなことを行っていた。

 

 通称、ポケモンバトル。ポケモン同士を戦わせるというこの行為は世界に深く浸透しており、今ではポケモントレーナー……ポケモンを捕獲して戦わせる者達の中で最強を決める大会、ポケモンリーグが開かれる程。トレーナー達はそのリーグに参加する為に1つの地方につき8つあるポケモンジム……それぞれにポケモンのタイプごとのエキスパートのトレーナーが存在し、そのジムの中で最強のジムリーダーを倒すことで貰える“ジムバッチ”を集め、日夜己と己のポケモンの鍛練を欠かさない。

 

 ……さて、ここまで説明したが、この物語は主人公が仲間達と友情を育み、日々の努力を惜しまず、それらの末に勝利する……なんて物語では断じてない。有り得ない。友情も努力もその辺のゴミ箱に投げ棄て、なんだかんだ勝利する。後、いろいろ理不尽なことをしたりやりたいことやったり自重を無くしたり世界の法則を無視したり割りと外道だったりする……その他もろもろあるお話。

 

 

 

 

 

 

 その地方の名を、カントーと呼んだ。決して関東ではない。そしてその地方の中に存在する、アニメとか漫画とかの主人公のスタート地点である町、マサラタウン……この小説の主人公もまた例に漏れず、この町をスタート地点として……いる訳ではない。主人公の物語は、ニビシティから始まる。

 

 カントー地方にもポケモンジムが8つ存在し、地面タイプのトキワジム、岩タイプのニビジム、水タイプのハナダジム、電気タイプのクチバジム、草タイプのタマムシジム、毒タイプのセキチクジム、エスパータイプのヤマブキジム、炎タイプのグレンジムとそれぞれのタイプのエキスパートのジムリーダーがいる。尚、トキワジムを最初に紹介しているが、他の7つのジムのバッチを集めなければ戦えない。理由を知りたいならゲームをしよう。

 

 さて、ここで主人公を紹介しよう。彼の名はレッド。ゲームと違って御三家と呼ばれるポケモンの前に進化済みのポケモンを持ち、伝説のポケモンに知らずに挑んであっさりと敗北するが、いずれ世界を救うほどにまで成長する、言わずと知れたトレーナーである……というのがポケットモンスターspecialという漫画の最初の主人公である。この作品には一切存在しないし、漫画のような事件など微塵も起きないので安心して欲しい。

 

 さて、次は本当に主人公の紹介をしようと思う。主人公の名前はアンバーと言い、年は19。特徴として名前と同じ琥珀色の瞳と首までの長さの髪を持ち、身長は180となかなかに高身長。服装は至ってシンプルであり、細かい説明は面倒なので省略。顔の造形は美形と言って差し支えないだろう。

 

 そんなアンバーだが彼は今、ニビシティにあるニビジムの門を潜り、ジムリーダーの前にやってきていた。理由は当然、ニビジムのジムリーダー……タケシを倒すことで手に入るバッチ、グレーバッチを手に入れる為だ。

 

 「はじめまして、ジムリーダー。俺はアンバー……あんたに挑戦しにきたぜ」

 

 「ようこそチャレンジャー。俺がジムリーダーのタケシだ……その挑戦、受けよう。知っているかも知れないが、このジムは岩タイプのポケモンを扱う。その名の通り、岩のごとき固い防御……そう簡単に貫けると思うなよ?」

 

 「当然、対策はしてあるさ」

 

 「その意気やよし……こちらは2体のポケモンを使う。そして最初のポケモンは……こいつだ。いけ、イシツブテ!」

 

 タケシが繰り出したのは、2本の石の腕が石の顔にくっついているような見た目のポケモン、イシツブテ。そのイシツブテを見て、アンバーはくつくつと小バカにするように笑った。

 

 「本当に岩タイプだけなんだな」

 

 「当然だ。それよりもそんな風に嗤ってないで、早くお前のポケモンを出せ」

 

 流石に嗤い方が気に入らなかったのだろう、タケシの口調がキツくなる。そんなタケシの姿に更に笑みを深くし、アンバーはベルトに取り付けられているモンスターボールを手に取った。

 

 「岩タイプの弱点は草に地面、格闘、鋼……そして水。出てこい!」

 

 「……っ!? ま、まさか……そのポケモンは!!」

 

 「そう、このポケモンこそが俺の唯一無二のパートナー! ニドキング、キングドラ、キングラー……それらと同じく“キング”の名を持つポケモン! いいや、キングの中のキング! そう!」

 

 アンバーがモンスターボールを上空へと投げ、開かれたボールの中から1匹のポケモンが姿を現す。

 

 

 

 小さくも圧倒的な存在感を醸し出している真っ赤な体。それが木材なら完璧とまで言える正方形に開いた口。その上にある長く立派な金色のひげ。極めつけは王冠を想像させる輝かしい光を放つ“背びれ”。

 

 

 

 そう、このポケモンこそがアンバーのパートナーであり、タケシを驚愕させたポケモン。

 

 

 

 「キングは1匹! このコイだ!!」

 

 

 

 コイの中のコイ。コイの王様。コイキングである。

 

 

 

 

 

 

 「……バカにしているのか?」

 

 タケシが震え声でそう聞く。脅えている訳では決してない。これはバカにされていると感じた為に沸き上がった怒りのせいである。

 

 コイキング。ぶっちゃけて言えば全ポケモンの中でワースト1、2位を争う程に“弱い”ポケモンである。縛りプレイでもなければ主要メンバーに入れることはないだろう。仮に入れるとしても進化させるのが目当てだろう。そんなポケモンを自信満々に出されたのだ、バカにされたと感じても不思議ではない。

 

 「まあそう怒るなタケミ君」

 

 「タケシだ」

 

 「このコイキングがただのコイキングと思うのは早計と言う奴だ。俺がこいつをゲットした過程を聞けば、侮ったことを後悔するぜ?」

 

 「む……」

 

 アンバーの言葉を聞き、タケシは己の浅慮と短気を恥じる。何せ世の中には何のためにそんなことをするのか? という行為やそんなポケモンで大丈夫か? というようなポケモンを使い、大丈夫だ問題ないとばかりにジムを、四天王を、チャンピオンすらも下したという事実が存在する。ならば、目の前のアンバーとコイキングもまたそういった者達のような存在なのかも知れないと思ったからだ。

 

 

 

 「話せば長くなるが、こいつとの出逢いはポケセンだった。うっかり財布を落とした俺は食うものに困ってな……非常時の金である500円玉しか持っていなかった。そしてポケセンで500円で売られていたこいつを買ったのさ……晩 飯 の 為 に !」

 

 「話が短いし大した過程でもなかったじゃないか! というかポケモンを食おうとしたのか!?」

 

 「因みに15分程前の話だ。こいつ体が無駄に固くて食えねーし、お陰で今も腹ペコだ。なんか食わしてくれ」

 

 「ついさっきじゃないか!! しかも図々しいなお前!? 終わったら後で残ってるシチュー食わせてやるから真面目に戦え!」

 

 

 

 ツッコミをしながらも食事をさせてくれるらしい。タケシ君はとても優しかった。

 

 「ならば真面目に戦うぞ。コイキング、先手必勝だ!」

 

 「しま……イシツブテ! “た……”」

 

 「おせえ! “はねる”!」

 

 「ココココココココココココッ!!」

 

 ぴちぴち。ぴちぴちぴちぴち。ぴちぴちぴちぴちぴちぴち。ぴちぴちぴちぴちぴちぴちぴちぴち。

 

 「……」

 

 「……」

 

 

 

 し か し な に も お こ ら な い 。

 

 

 

 「“たいあたり”」

 

 「コッ!?」

 

 「ああっ、コイキング!」

 

 まるで道端の塵を見るかのような冷めた眼で(糸目なので分からないが)コイキングとアンバーを見ながら冷徹に命令を下すタケシ。その命令を受けたイシツブテは特に鳴き声を発することもなく石の固さと重量を伴った体当たりを実行し、コイキングをふっ飛ばした。ふっ飛ばされたコイキングはアンバーの近くの地面に叩き付けられ、アンバーはコイキングの元に駆け寄り……。

 

 

 

 「真面目にやれえ!!」

 

 「コッ!?」

 

 「お前は何をしているんだ!?」

 

 

 

 情け容赦手加減なくコイキングを蹴り飛ばした。

 

 「……っ!?」

 

 「い、イシツブテ!?」

 

 しかも蹴り飛ばされたコイキングはイシツブテに直撃。余程(蹴りの)威力が高かったのか、それとも当たり所が悪かったのか……イシツブテの石の体に亀裂が入り、瀕死判定が下る。まさかのいちげきひっさつであった。

 

 アンバーは跳ね返ってきたコイキングの元に歩み寄り……優しく抱き上げる。それはもう元々が美形である顔にまるで聖母のような笑みを浮かべて。

 

 「ナイスファイトコイキング……見事な“たいあたり”だったよ」

 

 「いやまて! あれは技ですらなかったぞ!? どちらかと言うとお前の“業”だっただろう! 主に行い的な意味で!」

 

 「あれほどすばらしい“たいあたり”は見たことがない。最早神業とも言えるレベルだよ。むしろお前が神だよ。いや、王だよ王」

 

 「今の一連の流れのどこに高評価を得るところが!? それに神から王ってランクが下がっているんじゃ……ああもうこれ以上付き合いきれん! いけ、イワーク!」

 

 「イワァァァァク!!」

 

 遂にタケシはツッコミを放棄し、自身の最後にして最強のポケモンである幾つもの岩が数珠のように連なって蛇のような形になっているポケモン、イワークを繰り出す。その巨体はジムの天井に届かんばかりで、その巨体と体重のお陰でただの体当たりすら致命傷になりかねない。

 

 「さあチャレンジャー。お前はこのイワークを倒すことが……」

 

 「コイキング、ご褒美の“おいしいみず”だ。たんと飲め」

 

 「コッ……♪」

 

 「きけえ!!」

 

 タケシとイワークを無視しておいしいみずをコイキングに飲ませて体力を回復させるアンバーと美味しそうにかつ嬉しそうに飲むコイキング。話を聞かない彼にタケシもいい加減堪忍袋の緒が切れそうになるが、流石にポケモンを抱いているトレーナーに向けてイワークを突撃させたりはしない。心情的には物凄くしたいが。

 

 「さあコイキング。あのイワークをよーく見て……」

 

 「コ……?」

 

 

 

 「おら、飲んだ水を吐き出せやコラァッ!!」

 

 「コボボボボッ!?」

 

 「お前マジで何やってんの!?」

 

 「イワァァァァッ!!」

 

 「ああっ、イワーク!?」

 

 

 

 まさかのアンバー、コイキングに全力ボディブロー。折角回復した体力はまた減り、コイキングが飲んだおいしいみずは全て吐き出される。まさかの凶行にタケシのキャラが崩れ、吐き出されたおいしいみずはハイドロポンプの勢いでイワークに直撃し、イワークが苦しみの声を上げた。

 

 あまりに非常識。しかし、その非常識にタケシは追い詰められていた。ニドラン♂や♀の“にどげり”で蹴られたことはあろう。マンキーの“けたぐり”や“からてチョップ”を受けたこともあろう。バタフリーの“ねんりき”やゼニガメの“みずてっぽう”、フシギダネの“つるのむち”、ヒトカゲの“メタルクロー”など、様々な方法で負けたことはあろう。

 

 しかし、コイキングである。はねる、たいあたり、じたばた、とびはねる、わるあがきしか使えないポケモンである。そんなポケモンとポケモンに暴力を振るうトレーナーに今、タケシは負けそうになっている。それが何よりも信じがたく、許せなかった。

 

 「さあコイキング、止めの“たいあたり”だ!」

 

 「しまっ……」

 

 そうして悩んでしまったことで動きが送れ、イワークへの命令を出せなかったタケシ。イワークは“おいしいみずハイドロポンプ”のダメージが大きいのか動けない。こんな敗北の仕方をするなんて……と泣きたくなった。が、アンバーの命令を受けたハズのコイキングは何も行動を起こさない。アンバーとタケシの2人が不思議に思い、コイキングの方を見てみると……。

 

 

 

 「コ……コ……」

 

 

 

 「……」

 

 「……」

 

 未だアンバーに抱き抱えられたままの、ビクビクと痙攣して瀕死にしか見えないコイキングの哀れな姿があった。

 

 「休んでんじゃねえ!!」

 

 「コッ!?」

 

 「やめてやれよ!?」

 

 アンバーはコイキングの尾ビレの付け根を掴んで地面に叩き付けた! タケシは止めるように言った! しかし相手にされない!

 

 タケシはコイキングの扱いに涙ぐむ。なぜ晩飯として買われて食われそうになった挙げ句にこんな拷問紛いのことを受けなければならないのかと。この勝負が終わり次第ジュンサーさんにポケモン虐待を届け出ようと心に決め、タケシは何とか動けるようになったイワークに命令を下す。コイキングが早く楽になれるように。

 

 「イワーク……“たたきつける”!」

 

 「イワァァァァク!!」

 

 ほとんど瀕死のコイキングと近くにアンバーがいることに対してまさかの技選択だった。間違いなく物理的に命を散らす形で楽にさせにきている。ジムリーダーの業は深かった。

 

 しかし、アンバーは慌てずに叩き付けたコイキングの尾ビレの付け根を掴んで持ち上げ……イワークの尻尾によるたたきつけるに対して真っ向から挑んだ。

 

 「さあ、逝け! コイキング!!」

 

 「コッ!?」

 

 

 

 「“とびはねる”!!」

 

 「ゴッ!?」

 

 「イワァァァァクッ!?」

 

 「イワーク!?」

 

 

 

 尾ビレから手を離したことによって落ちるコイキングをアンバーは思い切り、一切の躊躇なく、一片の後悔もなく蹴りあげる。そうして蹴りあげられたコイキングはイワークの尻尾にぶつかり、突き破り、イワークの顔にぶち当たり……イワーク、戦闘不能。有り得ないハズのコイキングの勝利だった。

 

 イワークを倒した(?)コイキングはアンバーの元に跳ね返り、アンバーは落ちてきたコイキングを抱き止める。そして凶悪な笑みを浮かべ……こう呟いた。

 

 

 

 「俺のコイキングに不可能はない」

 

 「そのコイキング、白目剥いて痙攣してるぞ」

 

 

 

 こうして、アンバーとコイキングのポケモンマスターへの道は始まった。それは長く辛い、苦難も困難もある道のりだろう。しかし、アンバーは行く。己と相棒を信じ、愚直なまでに突き進んでいくのだ。

 

 頑張れアンバー! 負けるなコイキング! 500円の魂を引っ提げて、目指すはポケモンマスター! さあ! 右手の人差し指を伸ばし、天高く掲げて叫べ!

 

 

 

 キングは一匹! このコイだ!!

 

 

 

 「この後滅茶苦茶シチュー食べさせてもらった。そして俺を捕まえにきたジュンサーさんと熱い夜を過ごした」

 

 「!?」




こんな感じでジム戦を行っていきます。ヒロインとかは決まってませんし出るかも謎です。

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