Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】 作:faker00
バビロニアの王
──一つの偶然から運命はねじ曲がり、一人の青年の絶対とも言える宿命を覆した。
間桐雁夜とアーチャー、エミヤが造り出したその物語はハッピーエンドを迎え、その先に連なる道は切り替わり、希望の色に染まっている。
彼等の物語は終わった。それは確かなことだ。だが、一筋の波紋から波打つように切り替わった運命はその一つだけではない。
その影響は大なり小なり、人それぞれである。言ってしまえば99%以上の人間の人生に大した影響は無いと言って良い。
そんな中に、見える世界の全てが別物になった一人の"少女"がいる。
かつて、目に見えるもの、見えないもの、その全てを背負いこもうとした彼女は、1つの答えを得て初めて純粋たる己の意思で前へと、その歩みを進める。
これは、そんな彼女の一歩目の物語
──fate/kaliya anotherstory epicof Artoria
「それで、ここですか?」
「その通りさアルトリア。まあ目的地まではまだ数十kmあるけれどもね」
「数十km? 貴方程の魔術師が、いかに異世界とは言え転移地点をそこまでずらしてしまうとは考えにくいのですが」
「信用してくれてどうもありがとう。もちろん、その通りさ。やろうと思えば床板1枚分もずらすことなく行けるとも。けど、その前にまず君にこの世界をその目で見て欲しくてね」
澄んだ青空と、どこまでも広がる荒野に風が吹く。
だだっ広い大地に似つかわしいとは言えない二人組が立つ。
一人はその空の色のように青いドレスに身を包み、吹き付ける風に金色の髪を靡かせ、その翡翠の瞳をしばたたかせる。
一言で表すなら絶世の美少女。だがその瞳に秘めた強い意思は、かよわい少女のそれではない。
アルトリア・ペンドラゴン、かつてアーサー王と呼ばれた、英国の誇る史上最も高名な騎士王
彼女の訝しげな問いに、隣に立つ青年は涼しげに答える。
彼の名はマーリン。華の魔術師、キングメーカー、異名には枚挙が無い。
そんな彼に対して知る人間の共通した評価としては"とんでもないクズ野郎"という所だろうか
「今なにかとても失礼な言葉が聞こえたような気がしたけれど」
「何か言いましたか? マーリン」
「なんでもないさ。で、どうだい第一印象としては?」
「こんな荒野だけ見て印象も何もあったものではないですが……そうですね。とにかく空気中のエーテルが凄まじく濃い。私のいたブリテンでは比にもならない。更に前……神代ですか?」
「正解。ここでなら君がその聖剣を数度連発してもその魔力を枯渇させないレベルさ。細かい解説は面倒だから控えるけどね」
「その事実さえ分かれば充分です。では行きましょうか」
「はいはい」
マーリンを前に二人は歩き出す。
──荒野を越え
──山を越え
──森を越え
──川を越え
──華を謳う魔術師の語りでこの世界のあらましを理解する。ここは古代メソポタミア。シュメール王朝初期、ウルクの地。神代、神と人間が交わる大地。
それが今自分達が存在する場所であると。
目指すはその文明の中心地──
「と、言うことであそこが目的地さ、どうだい立派なものだろう?」
「これは……」
歩くこと丸二日
流石に遠すぎたーなんて汗を拭うマーリンのぼやきはアルトリアの耳には入ってはいなかった。
「なんと言う壮大な……本当にこれが紀元前の文明だというのですか?」
「そう。信じがたいのも無理はない。これだけの機能、規模を持った城塞都市は平均的な人類では本来まだ辿り着くのに数千年の時間を擁する──けど"彼"のカリスマと頭脳、統率力、その全てを持ってすればこの程度造作もないことなのだろうね」
崖の上から見下ろす都市に、思わずアルトリアは息を呑む。
詳細までは見えないが、均整のとれた軒並はそれだけで文明レベルの高さを伺うに充分なもの。
全体に広がる城壁は正しく鉄壁の要塞。
何より、中心に位置する祭壇は言葉に言いようがないほどに雄大。
「ウルク、間違いなくこの時代に置いて最大にして最高レベルの文明を持った都市。ここが私と君の目的地さ。さあ中へ入ろうか。これ以上王様を待たせたらどうなることか分からないからね。私も、そして君もね」
──────
「やあシドゥリ、君が祭壇の外に出ているとは珍しいね」
「魔術師マーリン、帰還されたのですね。ご苦労様です──そちらの方は?」
「初めまして。アルトリアと申します」
「貴女がマーリンの言っていた──初めまして。私はシドゥリと言います。このウルクで祭祀長を努めております」
街並みならまた改めてゆっくりと見ると良い、その方が君も楽しめる。
そんなマーリンの言に従いウルクの街を一直線に祭壇へ。そしてその真下まで辿り着いたところでマーリンは、逆方向から同じくここを目指して歩いてきた女性に気付くと、彼にしてはまともと言える会釈をして挨拶を交わす。
「ちょうど良かったシドゥリ。そう、彼女さ。と言うことで王に話をしたいんだけど」
「私がここにいるということは、朝の執務のピークは過ぎているということですよマーリン。それにしても王はご多忙ですが……まあ今回は事が事です。アルトリアさんもどうぞ」
シドゥリと名乗った女性は、目元から口まで覆うベールの下で柔らかくアルトリアへ微笑むと、先導するように歩き出す。
「マーリン、彼女は?」
「一言で言うならばこの国のナンバー2と言ったところかな。彼女に横柄な態度をとってごらん、一瞬にしてこの地から消し去られてしまうだろう」
「いたいけな少女に事実無根を吹き込むのはおやめください。さもなければ私にも考えがありますよ──アルトリアさんはメソポタミア文明外の人間ですか?」
「え、ええ」
「意外そうですね。まあ当たり前のように異邦人であることを理解するのは確かに珍しいかもしれませんね。ですが、ウルクではそれすらも日常なのです……私の仕事は主に祀り事を仕切ること、そして王の業務補佐、と言えば分かりやすいかと」
「これから会う王様は人の1000倍は誇張表現抜きで働く癖に、その頭の回転に付いていける人材がいないから補助をまともにこなせるのが彼女しかいないんだ。何千年後の東洋のとある島国も真っ青になるブラック体質さ。そして、そんな王の補佐が務まると言うだけでもシドゥリがナンバー2と言うのは疑いのない事実と言う訳だ」
「シドゥリは聡明なのですね。一目見たときからそうであろうとは思っていましたが」
「アルトリアさんまで……はあ、まあとにかく先ずは王と話をしてからですね。どうなるにせよ全てはそれからです」
いつの間にか頂上へと辿り着く。
場の空気が一段重くなったことを、アルトリアは確かに感じた。
間違いない。この先に王たる存在がいる。
思わずごくりと息を呑む緊張感。
が、そんな事知ったことではないと言わんばかりにマーリンは陽気に脚を踏み入れる。
「やあギルガメッシュ王、お疲れかい? 君が過労にもがいていない時間など有るわけ無いから気にもしないさ。魔術師マーリン、只今帰還したよ」
「喧しいぞ魔術師。この程度の仕事、この我の能力を持ってすれば過労どころか些事ですら無いわ。して、貴様の言う"切り札"とやらは連れてきたのであろうな?」
「もちろん。彼女でダメなら私は潔く君に首を跳ねられようじゃないか」
玉座の左右にうず高く積み上げられた石板の山は、でがかっている仕事のそれだろう。
その眼下にまで歩みを進めたアルトリアはそう理解する。
目を合わせるでもない、まだ顔すら見えていない。だが、直感が告げている。
彼が王でないなら、この世界に、未来永劫王と言う存在など生まれ得る筈がない。
「良い度胸だ。では早速──」
──そうして、その男と目が合う
深紅の双貌はどこまでも苛烈に、どこまでも深く燃え上がる。アルトリアと同じく金色にたなびく髪、黄金比としか言いようがなく整った顔付き。
だが、そんな外見的特徴なぞ彼女にとってはどうでも良かった。
圧倒的な王気、王気と書いてオーラとでも呼ぶべきか。
遥かな威圧感との奇妙な同居。その圧力は、今までアルトリアが体験したことのないそれだった。
数秒の間。耐えかねたシドゥリが控えめに動こうとしたその時、沈黙は心底愉快そうな笑い声によって破られた。
「ふっふ──ふはははは! 何と言う者を連れてきたのだ花の魔術師よ! なるほどなるほど。これは確かに我の関心に値する──さて、そこな小娘よ。我が赦す。名乗ってみよ」
「小娘だと──!」
遥か高みから楽しむように、品定めでもするように。
艶やかに流れるような仕草で顎に手をやりながら王が嗤う。断じて笑うではない。
その差を直感として理解したアルトリアは蒼い風を纏い黄金を睨み付けた。
「ストップ。頼むからストップだよアルトリア。気持ちは理解して上げるから初っぱなから騒ぎを起こさないで。言ったろ? 彼がここの王だ。ここで決裂でもされたら文字通り人類が終る。それは私にも看過できないんだ」
一触即発な空気に割り込んだのはマーリンだった。
珍しく冷ややかな物言いをする魔術師。いつもおちゃらけているその男の冷静な言葉はどこまでも重い。その意味を理解している、アルトリアは沸き上がっていた怒りの感情をどうにか抑え込む。
「初めまして。王よ。私の名前はアルトリア。アルトリア・ペンドラゴンと申します」
違う世界線では最悪の敵同士であった二人。その二人が、運命とは違う形で邂逅する。
開き直ったセイバーさんのバビロニア編スタート
他キャラの後日談と平行してのんびりやります
感想お待ちしております!!