Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】   作:faker00

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第27話 前夜

「アーチボルト家9代目当主、ケイネス・エルメロイの名に於いてここに誓おう。共に魔導を極めん者として、遠坂時臣を仮初めの盟友として認める。これより最後の決戦に至るまで、我々は肩を並べようではないか」

 

「冬木の土地を納める管理者として、我、遠坂時臣はケイネス・アーチボルト、そしてソラウ・ヌァザレ・ソフィアリを歓迎致します。これよりかの霊地は貴方の支えとなるでしょう」

 

 中世欧州の貴族を彷彿とさせるような芝居がかった上品さ、こんな仕草を笑い1つ起こらないほど厳粛に行えるのはそれだけで品の良さが分かるというものだろう。

 深山の地からこの冬木を一望する遠坂邸の来賓室、陽がてっぺんに登ろうかと言う時刻に向かい合う三人は一般人とは一味も二味も違うのだ。

 

 

 

「まずはお座りください。貴方……いえ、貴殿方がこの会談と私の申し出を快く受け入れてくださり誠に感謝しております」

 

「礼には及ばないさ、時臣君。君ならば理解しているだろうがことは非常に切迫してしてきている。こうなってしまった以上取るべき手段は限られ、その中でこの選択は私としても悪くないものだ」

 

「幸いです。レディ・ソフィアリ、貴女も彼の判断に異論は?」

 

「別段異論などはありませんわ。ミスター遠坂。私もこの同盟こそが目指すべき勝利への最短路だと確信しておりますもの」

 

 ケイネスとソラウ、それぞれ椅子に腰を下ろした二人と向かい合う形になった時臣は彼らの返答に満足げに頷いた。

 やはり魔導の名門と言うのはとく心得ているものなのだ。同じ会談でもまともな問答1つできやしない若輩者とは根本から異なる──

 

「ミスター遠坂? どうかなさいましたか?」

 

「──っ、いえ、なんでもありません。レディ。しかし驚きました。サーヴァントと我々を結ぶ令呪システムを部分的とはいえ解析し、複数人による魔力供給という変則契約を実現させうるとは。なるほど、私達魔術師にとって魔力の枯渇は最大の危機、それを未然に防ぐ策としてはこれ以上の選択肢はない。ですがこの短期間で容易くこなすとは流石時計塔の誇る神童と呼ばれる評判に偽りなしというところですな」

 

「ふんっ、持ち上げられるはそう気分の悪いことではないが、これくらいは私にとっては造作のないことだ。むしろこの程度での称賛は私がそれだけ底の浅い魔術師と見られているのではないかと勘ぐってしまうくらいなのだが」

 

「滅相もございません。ケイネス・エルメロイの威光は倫教から遥か極東のこの冬木にも聞こえるところ。そんな貴方を低く見ることなど」

 

 ソラウの一言に時臣はハッとすると、脳裏にうつった妻の忌々しい幼馴染みの姿を頭の中からかき消した。そんなこと今はどうでも良い。それよりも目の前にいるケイネス・エルメロイという男が自分の想定以上の切れ者だという事実の方がよほど関心を寄せるべき事案なのだ。

 

 時臣がまず面食らったのは、彼が一人ではなく婚約者のソラウを伴ってこの遠坂邸に訪れたことだ。驚きはそれでおさまらない。加えて彼女がサーヴァントに魔力を供給しているという事実、加えてそれにともないケイネスが令呪という聖杯戦争のキーとなるシステムに限定的とはいえ手を加えるという偉業を発現から長くとも開戦までの短期間で成し遂げたという事実。

 

 常に余裕を以て優雅たれ、遠坂家に伝わる家訓をしても時臣は背中に冷や汗が流れるのを止められなかった。

 分かってはいたことだが、それ以上にケイネスは魔術師として自らの先を行っている。

 

 

 

「まあ良い。それでだが時臣君。お互いのサーヴァントについてなのだが」

 

「もちろんですとも。同盟を組む以上最大の切り札について晒すのは最大の信用というもの。ランサー」

 

「はいよ」

 

 時臣の声に応じるように虚空が揺れる。

 隣で霊体化していたランサーがどこかつまらなそうな雰囲気ありありでその姿を現す。

 

「ふむ、分かってはいたことだがランサー、クーフーリンか。一騎打ち、対多戦共にその武勲は測り知れず。ケルト神話において最強を誇った大英雄──流石は聖杯戦争始まりの御三家と言ったところか」

 

 ケイネスは驚いた様子も見せず、定型的な賛辞を送った。

 戦いは進み、札はある程度割れている。その中で未だサーヴァントと陣営が一致しない存在はもはやないと言っていい。

 本来ならそこから真名を探るつばぜり合いがあってしかるべきなのだが、希代の大馬鹿一人にこの戦い唯一の謎一人のせいでその手間は省けている。

 あとはそのサーヴァントがどこに属しているかだが……今回は表に出張ってくる陣営が多くそれもあまり考えを巡らせる必要はなかったのだ。

 

「見え透いた世辞は結構。で、そっちのサーヴァントはどうなんだい? 俺の頭がおかしくなってなきゃ、あのアーチャーに次いで謎が多いやつがあんたのサーヴァントなわけなんだが」

 

 そのような事情も相まってランサーはその賛辞を適当に受け流した。

 代わりに鋭い視線をケイネスに飛ばす。大概の面が割れているのはランサーにとっても同じこと、しかしまだ謎は残っている。自らやセイバーの出自をあっさりと看破したアーチャー、そして……初戦のみに参戦し、その後は完全に沈黙を守っていたバーサーカーである。 

 

「そう慌てるなランサー、サーヴァントを前にするとなればバーサーカーの制御はこの私の能力をもってしても気を使う。下手をすればこの邸宅一つ簡単に吹き飛びかねん」

 

 ケイネスはそんなランサーの視線をせせら笑うように大仰に両手を上げて答えた。そしてサーヴァントに話が及んだ途端に顔が強張ったソラウを見やる。

 

「ソラウ、いけるかい?」

 

「問題ないわ。狂化させるわけじゃないんでしょ?」

 

「ああ、あの偉そうな口上を聞かされるのは非常に業腹だが致し方あるまい。ああするのがバーサーカーを説明するには一番良い」

 

「口上だ?」

 

 ソラウとケイネスのやり取りにランサーは違和感を覚えた。

 コントロールにリスクの伴うバーサーカーの狂化の度合いを抑えるのは当然のことだ。しかしながらだ、狂戦士が狂戦士であることには代わりないはず。

 今ケイネスが口にした言葉はその原則からすると有り得ないではないのだろうかと──

 

「ふむ、ではゆくぞ──こい、バーサーカー」

 

「──っ!」

 

 視界がくらみ鼓膜が弾け飛びそうになる。

 始まりの倉庫以来になる黒い雷光の炸裂にランサーは腕で顔を覆った。もちろん不意のことで反応の遅れた時臣の一歩前に出ることも忘れない。

 サーヴァントの能力を以てすれば光によるボヤけなどすぐに戻る。ほんの数秒、靄がかっていた視界が安定するとそこにはドス黒い狂気に包まれたバーサーカーが……

 

「……おい、どういうことだよこれは」

 

「なんと──」

 

「神秘を落とした大罪人、そもそもこいつはその生涯から正常にして狂っているのだよ──ああ、そうだ。一つだけ確認しておくことがあった。このサーヴァントと同じく魔術の面汚しと言えるマスター、衛宮切嗣は私が手ずから殺す。これは絶対だ」

 

 

 

 

 

 

 

────

 

「同盟組む気はないね……まあお前らしくていいんじゃない?」

 

「ほう、随分と落ち着いておるではないか坊主。またいつものように癇癪でも爆発させるものと思っていたのだが」

 

「いくら付き合いが短いって言ってもお前のやることに一々驚いてたら身が持たないってことくらい良い加減分かるよ……良いからきっちり休んどけよ。明日はサーヴァント4騎を片っ端から狩っていくんだろ? どうせそう来るだろうと思って少しでも魔力の流れがよさそうな場所探してわざわざこんな山の中にまで来たんだから」

 

 パチパチと枝が焼けて弾ける音だけが響く。

 ここは冬木のとある森の中、夜も深まり通行人などまず通らないこの場所で、ウェイバーとライダーは宿を取っていた。

 キャスター戦における宝具の全力展開での消耗は思いの外激しく、ここでウェイバーはライダーの己に対する気遣いを知ることになった。戦闘におけるその消費量の大半を自身の貯蔵魔力で補うという彼の力量を汲んだ上で最大限の気遣い──そして最大の侮辱を

 以前のウェイバーならば、この事実を知って即憤慨したことだろう。

 ふざけるな、バカにしやがって、使い魔ごときが、文句でも罵倒でも言葉はいくらでもあるはずだった。

 なのにそれをしなかったのは、する気すらしなかったのはどういうことなのか。

 ウェイバー自身良く分からなかった。

 

「おうとも。この陣であれば余も万全と言える状態で決戦に臨めるだろうよ」

 

「そか──」

 

 霊体化しているライダーの答えはまるで直接脳に響いてくるようだ。

 ウェイバーは寝転んで星空を眺める。

 

「なあライダー」

 

「うん? どしたい」

 

「お前はさ、僕で不満はないのか?」

 

「また細かいことを気にしておるのか全く」

 

「うるさいな。良いから答えてくれよ。このままじゃモヤモヤして眠れやしない」

 

 姿は見えずともライダーがむうっと唸って顎髭を擦るのが分かる。

 少し窮につまったようなその沈黙は、今までウェイバーがどんなことをしても悠然と表情1つ崩すことのなかったライダーにはなかった反応だ。

 

 いつかは呆れ以外でこの余裕を崩してみたいとは思ってみたいとは思っていた。しかしそうとはいえこんな形でかなったところでなとウェイバーは苦笑する。

 

 

「ふーむ、別段不満はないかのう」

 

「なんでだよ。僕にはなんもないんだぞ。他のマスターみたいな魔術師としての実力はないし、魔力もサーヴァントのお前に気を使わせるレベル。頭もキレるわけじゃないしお前みたいに度胸があるわけでもない。ほんとに、なんもないんだ」

 

 ──あーむかむかする!

 

 言っているうちに胸から競り上がってくるような不快感を覚え、最後には半ば叫び出しそうになりながらウェイバーはガバッと上体を地面から起こす。

 そんな彼に、今度こそ呆れ返ったような溜め息が上から降ってきた。

 

「あのなー坊主、お前が何を考えているのか知らんがな、そんなもんは些細なことではないか。一体何をそう卑屈になる?」

 

「些細なことだって!? ああ、お前みたいな訳分かんない連中からしたらそうなのかもな! けどな、僕は今までずーっとそれが欲しくて努力してきたし、才能もあると信じてたんだ!!」

 

「ほう、それで?」

 

「だってのになー。この冬木に来て分かっちゃったんだよ! 僕は僕の思ってたような存在じゃないし、これから先もなれないって! それどころか随分小さいやつだった!」

 

「ふむ」

 

「なのになんで! 僕より遥かに大きいお前は1つだって文句すら言やしないんだ!? 同情か? 憐れみか? ふざけるなよ!! 僕はなあ……僕はなあ!」

 

 ひとしきり吼えるとウェイバーは息を乱しながらグッと砂を一掴み、見えないライダーに投げつけるかのように空にぶちまけると膝を抱え込んでうつむいた。

 天に唾を吐けばなんとやら、宙に舞った砂がパラパラとウェイバーの頭に降る。

 

 もしも違う世界線があるならば、彼が自らの小ささを受け入れ、その上で道標となる覇道を見つけて真っ直ぐに芯をもって一歩を踏み出して行く運命もあったのかもしれない。

 だがしかし、今回は時間が足りなかった。ウェイバーは確かに自らを知った。だがそれだけだ。理想と現実のギャップを受け入れるだけの猶予も、そんな自分を支えるなにかもありはしないのだ。

 今のウェイバーに、この現実は重すぎた。

 

 

 

「だから、それがどうしたと言っておる」

 

「え……?」

 

 そんな潰れそうな肩に、ポンと大きな手が置かれる。

 こんなに大きな手はウェイバーの知る限り一人しかいない。

 

「ばっ、なにしてんだよお前!? 少しでも魔力を節約するために霊体化しとくって──」

 

「うるさい! ったく、黙って聞いておればうじうじとつまらんごたくを並べおって……それでも貴様は余と共に戦場を駆けるマスターか!」

 

「──っ!」

 

 背中に走る衝撃。前につんのめりながらウェイバーはいつのにか実体化し横に胡座をかくライダーを視界に捉えた。

 

「こんの!」

 

 

 吹っ飛びそうになる身体を歯を食いしばって押さえつけて、ウェイバーはライダーを睨み付ける。

 そんな姿を見てライダーは感心したように、ほうっと息を吐いた。

 

「やるではないか。小坊主が」

 

「いくら僕がちっぽけでもなあ、そう何度と同じだと思うなよ」

 

「そう、それで良いのだ」

 

「はあ?」

 

 先程までの嘲るような表情からガラッとライダーの顔が変わった。

 その大きな手でウェイバーの頭を掴むとがしがしと揺する。

 

「魔術師としての能力がない、魔力もない、マスターとしての機転もない。おうとも、確かにその通りなのだろうよ。お前には確かになにもない」

 

「おい……そんなまじまじと頷くなよ……」

 

「だが坊主、それがどうした」

 

 ライダーを払いのけようとしていたウェイバーの手が止まる。

 息を呑んだ。今このとき、ライダーはこれまでのどんなときよりも真剣な顔をしていた。

 

「お前は確かにあるものさしにおいて小さく矮小なのかもしれん。だがな、余からしてみればそのものさし自体がちっぽけなものなのだ。そんなものに囚われて自らを卑下するな。本当に小さくなってしまうぞ」

 

「どういう意味だよ……」

 

「前にも話したかも知れんがなあ、世界と言うのは本当に広いんだよ。その世界からすれば余も貴様も等しく小さきものだ。覚えておるか?」

 

「まあな」

 

 あれは初めてライダーとあった日のことだった。

 強烈なデコピンをお見舞いされ、世界地図を眺めた日。あんな強烈な日を忘れるわけがない。

 

「人は誰しも恐いんだよ。自らが世界に比べて遥かに小さいことを認めるのが。故に自分達の中でさしを作り、大きく、秀でたものを見つけようとする……勘違いしてはいかんが、それ自体は決して悪いことではないぞ。問題はだな、その居心地の良いものさしにすがりすぎるあまり、それを世界の全てと思い込んでしまうことだ」

 

「都合の良い、ものさし──」

 

「魔術の実力、頭の良さ、腕っぷしの強さ、あるに越したことはないのだろう。だが心地よいものに固執してはいかんのだ。大事なのはな……自分が世界に比べれば、あるものさしから見れば小さいものであることを自覚し、なお足掻く、ぶつかっていく覚悟をもつことだ」

 

 ライダーは語る。

 自らもその足掻く一人に過ぎないのだと。この世界に大きな人間などいやしないのだと。

 

「己を知った上で足掻く覚悟……お前もそうなのか?」

 

 そんなライダーに、ウェイバーは一つ問うた。

 ライダーはニカッと笑ってドンと胸を叩く。

 

「おうよ。ちっぽけな身体一つでいつかこの世界を食らってやろうと狙っておる。無論、坊主と同じ葛藤を抱えながらな。そしてその悔しさを抱えていると言う点で余も坊主も同じスタートラインに立っておるのだ」

 

「故に、余に不満などない。ウェイバー・ベルベットよ。お主は余と戦場を駆けるだけの資格を持っておる」

 

「全く……一生敵いそうにないな、お前には」

 

 

 

 

 

─────

 

「さて、配置はわかっているな? サーヴァント2人に僕は単独行動、アイリ、雁夜君、舞夜の3人はチームで動く。恐らく僕がケイネス、3人が遠坂時臣と対峙することになるだろう。連絡は渡してある携帯で頼む。今日で、全てを終わらせよう」

 

 

 

 

 

 




久々のバタフライ効果でございます。

ああ、いよいよ終わりが近づいてきたのかな~と……まだ色々ありますが

では、また。

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