Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】   作:faker00

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第23話 未遠川血戦 終編

「あいつら話はついたんですかね」

 

「ええ、そうでしょうね」

 

 ライダーがアーチャーの要請を承認して4人が動き始めたそのとき、雁夜とアイリスフィールは彼らとは少し離れた土手に位置取っていた。

 切嗣から念のためにと渡されていた携帯電話が唐突に鳴り響いたのはほんの数分前のことである。

 

「アイリさん」

 

 再び始まった英雄達の異次元の闘い。

 今度こそ自分達にやれることはないだろう。沈黙の後その闘いを横に雁夜は素朴な疑問を口にした。

 

「なに、雁夜君?」

 

「いえ、セイバーの宝具(エクスカリバー)のことなんですけど。そんなに凄いんですか? 勿論名前くらいは聞いたことありますけど」

 

「凄い、なんてものじゃないわ。彼女の聖剣は」

 

 有名すぎると逆にその真の出自が分からなくなるんですよね。なんて雁夜は首を捻った。

 エクスカリバー──それはこの世に数限りなく存在する"剣"という概念において現在の世で最も有名な剣といえよう。僅かとはいえ神秘が残っていた時代がその活躍の場だったことを考えるとそれはありえないレベルの話だ。

 だが裏を返せば、そのあまりの高名さ故にその真価と言うと逆に知られていないとも言える。

 木を隠すには森の中ではないが。様々な伝承伝説が尾ひれ葉ひれと付きすぎてしまいもはや元が分からないのだ。

 

「彼女の聖剣はね、剣であって剣でないの」

 

「は?」

 

 なんと説明したら良いものか。

 ふむ、と手を顎にあてて一旦考えた末に出した答えはどうも雁夜には不明瞭なものだったらしい。

 その反応を見てアイリは疑問には答えることなく続けることを選択する。

 

「えーっと……普通剣っていうのはそれを作るための材料があって、それを職人が鍛えて形どられていくでしょう?」

 

「ええ、そうですよね。そうでないと剣なんて出来ませんから」

 

「けどセイバーの聖剣はその根底から他とは全く違うのよ。かの剣は人々の願いの結晶。素材なんてものがあるとしたら、それは私達一人一人の想いそのものなのよ」

 

「人々の、想い──?」

 

「"こうでありたい""こうなってほしい"そういう願望のような想いは人間誰しも少なからず持つものでしょう?

 セイバーの聖剣はそんな想いが星の中で積み重なって精製された、いわば星が鍛冶師として鍛えた神造兵器なのよ」

 

「あの──正直なところ理解が追い付かないんですけど……あれですか? 俺に皆の力を分けてくれー、的な?」

 

「貴方が何をイメージしているのか良く分からないけど──まあそんなところだと思うわ。

 最強の幻想(ラスト・ファンタズム)、その剣の輝きは人類がこれまで積み重ねてきた足跡に等しい」

 

「──!!」

 

 アイリがそこまで言い終えたところで突如として疾風が突き抜ける。

 気を抜けば足が浮いてしまいそうな強い風、それでいてどこか柔らかい風。

 どこから吹いてきたのか、雁夜は腕を顔の前にかざし風除けにしながらその元へ向き直る。

 

「これが──」

 

 正直に告白するならば、雁夜としてはアイリの説明はあまりにも抽象的で大して理解は深まっていなかった。

 概念を言葉で表すのは難しい、具体的な現象として成り立つものでないのならなおのことある。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)だっていうのか」

 

 ならば、その真価を推し量るには肌で感じるしかない。

 体感した空想の領域にある現実に雁夜はごくり、と唾を飲む。 

 川の中心に立ち上る極大光の柱。その溢れんばかりの輝きがたった一本の剣から放たれているとは誰が信じられるだろうか?

 その光りもただ眩しいだけではない。そう、確かあれは昔絵本を読んで思い浮かべた妖精の世界だったか。

 少年が子供心に描いたような夢が、憧れが、想像が、そのすべてが今目の前に具現化されているのだ。

 

 

「けど──」

 

 しかしそれと同時に、その一分の隙もない鮮やかな世界に不釣り合いな感情が、アーチャーによって治癒された左半身から生まれるのを雁夜は感じていた。

 

 あれ(・・)と同じものは作れない、模倣できるものでもない、真似すらできるものではない。それは当たり前の理である。

 それなのに──

 

 

「その輝きは夢の果て、人々が想い描くキセキという名の淡い願望。勝利を信じ走り続けた戦士達の生きざまそのもの。人類が生きる限り留まることのない希望を束ね、かの王は、今、形なき幻想を誉れの真と謳いあげる──!!」

 

 輝く極光。その眩しさに目を眩ませながら。

 

 ──あいつ(アーチャー)なら、俺なら、どう作り上げる?

 

 雁夜はそんなことを思った。

 

 

 

 

───────

 

「前をランサー、後ろが私、そして空は征服王だ。どうだ、これだけの鉄壁もそうはお目にかかれまい?」

 

「ええ、この守りは心強い」

 

 話がついた後は素早い。

 我先にと突っ込んでいくランサーとライダーを見送るような形になりながらアーチャーは冬木大橋の欄干に飛び上がり、セイバーはそこから海側に少しいった水面に立つ。

 

 最前線は再び暴風域なのだが、ここなら余裕をもって俯瞰できるとアーチャーはほくそえむ。

 

「なるべく近づいた方が良いんだな?」

 

「はい、その方がより効果的ですから」

 

「そうか。当然のことながら君の剣を解放すれば当然あの化け物は君を狙うだろう。だが案ずるな、何も考えず君は叩き込め」

 

 なんならランサーくらいなら巻き込んでも一向にかまわんのだぞ?

 そんなアーチャーの言葉を背にセイバーは振り返ることなく一瞬だけ微笑み、悠然と歩みだす。

 さながら日課の散歩にでも向かうかのような体だがそれでも問題はない。

 彼女の周りは最強の守護者たちによって固められているのだから。

 

 音もなく水の上を行く。外野で喚く怨叉の叫びなど彼女には聞こえない。恐ろしい程の静寂に包まれながらまるで神話の怪物退治の締めくくりのように。

 恐れなど何一つないとその瞳に光をたぎらせ対峙する。

 

「風よ──」

 

 疾風が渦を巻く。

 聖剣を守護する風の守り。その守りから解き放たれた時、黄金の刀身が遂にその全貌を表す。

 

「うお──」

 

「むぅ……」

 

 あまりの絶景に、時が止まった。

 敵も、味方も、傍観者もありはしない。セイバーを中心に包み込む柔らかな光。

 これこそが王。常勝不敗と謳われたブリテン国王、アーサー・ペンドラゴンであると威光を知らしめる。

 

「ああ──やはり君は」

 

その眩しさに目をくらませながらアーチャーは弓をだらんと下げて嘆息する。

 彼女は厳密に言えば自分の知っている彼女では、セイバーではないのかもしれない。

 それでも……彼女はセイバーなのだと。

 

 

 

 

「ジャァアアンヌウゥゥウウウ!!!」

 

 その光は自壊したはずの化け物ですら呼び起こすのか。

 地の底から響くような狂喜の叫びが大気を振るわせる。

 

「ああ!! その光、慈愛に満ち溢れて全てを包み込むその神々しさ!! ジャンヌ!! ようやく全てを思いだされたか!!!」

 

「うっげえ──なんじゃありゃ、気色悪いにも程があんだろ」

 

 最前線でその様を意図せずして見せつけられる形になったランサーの嫌悪は至極当然のものだった。

 何せこの光景は、力の入ったスプラッタ映画よりもよっぽど質が悪い。

 

 喜びの咆哮を挙げると同時に異形が歪んだ。

 大海魔の中心がうねうねと、それこそランサーの言葉の通り気色悪いという表現がぴったりとくるおぞましい挙動で波をうつ。

 それは粘土細工のように次第に形どられていき、最終的にはキャスターそのものへと変わっていった。

 

 

「神は私を! いえ! 私達を見捨てはしなかった!! さあ聖処女よ!! 今こそ私と共に今度こそ救世を! 貴女を虐げてきたもの全てに、さいっこうにクールな復讐を!!!」

 

 キャスターの叫びに呼応するように今までですらしつこいほどに多かった無数の触手が更に激しく分裂していく。

 やろうと思えば東京ドームですら包み込めるのではないかと思わせるほどの大質量。

 その姿はまるで聖書に出てくる悪魔のように、その全てが一度反動をつけるようにぐぐっと引き、まるで翼のように広げた。

 そしてそのど真ん中でキャスターが喜びの声を挙げる。

 

「さあ!! 今こそ再び私と共にぃぃいい!!!」

 

 今までの無軌道ででたらめなまるでやけくそのような攻撃から一転。

 統率のとれた一撃が未だ脱力したまま目を瞑り聖剣を上段に構えるセイバーに一斉に襲いかかった。

 

「──くるぞ!! ランサー! ライダー! 彼女に近づかせるな! 投影開始!!」

 

「わーってるよ! 指図すんなよ後衛が! あー、くそっ趣味じゃねえが今はこっちか。アンザス!!」

 

「おうよ!遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)!!」

 

 それを見逃すようでは英雄の名折れ。

 3人の反応も速かった。先ずは先陣を切っていたランサーが自らの宝具では相性が悪すぎるとルーンの火を灯す。クー・フーリンの逸話は確かに華となる一対一の決闘や大軍を前にした華々しい孤軍奮闘がその主を占める。

 しかし侮るなかれ、彼が影の国にて学んだものはそれだけではない。

 ケルトの紡ぐ神秘、その伝統を正統派として受け継ぐランサーのそれは、時として神代の魔術師の域に達する──!!

 

「焼き尽くせ──!!」

 

「──!!」

 

 炎の竜巻。

 円柱状に舞い上る業火地獄に海魔の先端から順に音にならない断末魔をあげながら消えて行く。

 そこから延々と続く同じ光景。燃やすランサー、物量と再生で突破を図る海魔、その結末は意外と早くと訪れた。

 

「こいつ……再生するごとに耐性つけてやがんのか!? これが令呪の力ってやつかよちくしょうが……!」

 

 焔の壁にわずかな穴が開く。

 ダムが崩壊する原理と同じだ。ほんの僅か、蟻が這い出るのがやっと程の小さな穴が数十mの壁を瓦解させるように。

 ほぼ丸焦げで息も絶え絶えにくぐり抜けた一本の触手、その隙間をぬって次の瞬間には倍、また次の瞬間に倍と増しはじめた。

 それを繰り返すことで難攻不落の壁も次第にその密度を失っていく。

 

「くそがあ!」

 

 そうして唐突に崩落する。

 今やランサーの作った壁は吹けば飛びそうな火の粉のようなものにまで小さくなっていた。

 そのようなものでは足止めすら到底叶わない。

 

 

 

「A Lalalaaaaiiii!!!」

 

 止められないのなら真っ正面から押し潰そう。

 雄壮な猛りと共に雷が轟く。ライダーの神牛、ランクにしてA+。対軍宝具としても破格の威力を誇る大火力を持ってして一歩たりとも退くことなく蹂躙する!!

 

「おおぉぉおお!!」

 

 困難に次ぐ困難を不撓不屈で乗り越えてきた彼の生きざまのように。

 流れを強引に押し返していく。じりじりと、一歩ずつだが確かに突き進む。

 

「貴様ごときに……私のジャンヌへの思いをとどめられるかああ!!」

 

「むぅ!?」

 

 キャスターの怒号と共に海魔全体に紋様が走る。

 先程ランサーが迎撃していた際も最後の最後に感じた魔力の揺らぎ。

 より明確になった強制力を持って悪魔は更にその威力を増す!

 

「ぐぅ……押しきれんか……」

 

 ライダーが苦悶の声を漏らす。

 令呪の縛りを持って無尽蔵に威力を保ち続けるキャスターに対してこちらには限界がある。

 故に最初から全開のフルスロットでの短期決戦を挑んだ。

 拮抗とは即ち劣勢なのである。

 

「すまん、騎士王よ──!」

 

 再度逆流した流れ、減衰していくこちらの威力。

 ライダーは決断せざるを得なかった。チラッと後方のセイバーを見やると申し訳なさそうにそう呟き斜線上から逃れていく。

 あと数秒判断が遅れていたならば、自らが消し飛んでいただろう。

 ライダーにできることは疲弊しきった双牛を1秒でも早く休ませるために地に降りることだけだった。

 

 

 

「くそ──まさかあの2人をこうも容易く突破するとは……私で稼げる時間など知れたものだがやるしかあるまい! 憑依経験、共感完了──」

 

 アーチャーの後ろに剣が一振り、二振りと増えていく。コンマ秒単位で増えていく偽物は瞬く間に視界を覆うほどの鉄のカーテンを築いていた。

 

工程完了、全投影連続層射(ロールアウト・ソードバレルフルオープン)──!!」

 

 名剣、魔剣、聖剣、時代を築いた数々の名剣が一斉に宙を舞う。

 剣の雨を束ねることで1本の強固な剣を作り出し、拮抗状態を作り出す!

 

「だが所詮は紛い物、怨念じみているとはいえ本物にはとてもではないが歯がたたない……!」

 

 アーチャーが歯軋りする。

 今やセイバーを守る最後の砦は自分なのだ。だというのに、こちらはその目的を完遂する手段がないという事実が重くのし掛かる。

 

「あはははは!!! ジャンヌ!! ようやく! ようやく貴女を!!」

 

 キャスターにもそれが分かっている。

 ランサー、ライダーの守りに比べれば与しやすいと言えるアーチャーのそれをジリジリと突破し、近づいてくる勝機に打ち震えた。

 そう、勝利はもうあと一歩。彼女を縛る守りはもうないのだと確信し──

 

「黙れ、外道が」

 

 背筋が凍りついた。冷水をぶちまけられた思考が高速で回る。

 待て、守りが3枚だといったいどこの誰が言ったというのか?

 

「──!!」

 

 喜びなど消え失せた。直ぐに、今すぐにでも彼女を手にしなくてはとんでもないことになる。

 今までになかった焦りを持ってキャスターはセイバーに迫る。行かせまいとまとわりつく剣達。お前など眼中にないと振り払う。ああ、見えた。これで彼女は私のものだ。

 そう安堵したキャスターの目の前に。

 

「よくやってくれました。ランサー、ライダー、そしてアーチャー。騎士として全霊を持った一撃で答えましょう」

 

 人類にとっての希望。そして、自らにとっての絶望が広がった。

 立ち上っていた光の柱はどこまでもその輝きを増している。そう、彼女は待っていたのだ。自分にとって万全の体勢が整うことを。そして、もう引き返せない位置まで獲物が踏み込んでくることを──!!

 

「エクス──」

 

「ま──」

 

約束された勝利の剣(カリバー)──!!!!」

 

 極光が振り下ろされる。

 誰がこの光を、騎士王の誇りを防げることができるというのか。

 拮抗などさせる暇すら与えない。人類最強の聖剣が、異界の化身を文字通り呑み込んでいく──!!

 

「おああぁぁああ!!」

 

「そんな、そんな馬鹿なことがー!!」

 

 気合いの踏み込みと共に更に加速する。

 キャスターの断末魔は己の運命を予見してのものだ。必死に抵抗しながらも、迫り来る時を防ぐことはできないと本能が理解してしまっているのだ。

 

「バカな、バカなバカなバカな! そんなことが! 私は、私は──あ─!!!」

 

 光が目前に迫る。

 走馬灯のように駆け巡る風景。そこでキャスターが最後に視たものは

 

【ジル──】

 

【旦那──】

 

 彼が、この現世でもっとも大事にしてきたものだった。

 

「そうだ──私はジャンヌを救わねばならない! 龍之介のクールを実現しなければならない!! こんなところでええ!!」

 

 最後の令呪が輝く。

 三度キャスターを覆う紋様。その輝きは一層強く。

 だが止められない。セイバーの聖剣は思いも意地も、そんなもの意に介さない。

 あれを止める手段などありは──

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)──」

 

「な──」

 

 無意識にキャスターはそんな言葉を呟いていた。

 

 

 

 

 

 

「私は……生きている?」

 

「そんな──馬鹿な……!!」

 

 何秒経ったのか。目を開けたキャスターの視界にあったのは英霊の座の風景ではない。

 夜の川、そして驚愕に顔を歪めるセイバーの姿。

 そう、キャスターはエクスカリバーの直撃を受けてなお絶命してはいなかった。

 怪物は塵も残さず消し飛んだ。だがキャスター本人は傷ひとつつかず健在だった。

 

「私は……私は生きている!! やはりジャンヌ!! 貴女は私を見捨てたりはしなかった! さあ、今こそ私の元へ」

 

 今度こそ絶対の確信を持ってキャスターは一歩を踏み出す。もう恐れるものはなにもなく、阻むものはないのだと──

 

「良いとこ取りみたいで悪いがな、テメエはここまでだ。刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

「え──」

 

 眩む視界、胸部に刺さる血のように赤い槍。

 戦いの終わりは、どこまでも呆気なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやっとキャスター編終わりましたよこんちくしょう

と言うわけでどうもです!
いやあ……長かった長かった(時間的に)ここは比較的原作沿いなのでむしろ難しかった……いやほんと乗り越えられてよかった。

そして次回からいよいよアーチャーと雁夜の物語も終章に入っていきます。
因みにこれは所謂打ちきりエンド的な巻き展開ではなく元々予定通りの展開です。終章と言っても大分尺取るつもり満々ですしね

それではまた!
評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!

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