俺の相棒は最強の遺伝子ポケモン   作:吾輩がネコである

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第七話 旅立ち

「今まで、お世話になりました……!」

 

 エイセツシティのとある民家の前で青年の声が響き、周囲に木霊する。今日この日、準備期間を終えたミナトがミュウツーと共にカロス地方を巡り、旅立つ事になっていた。

 ミナトは白い長袖シャツにダークブルーのダウンベスト、黒いジーパンと異なる点もあるが少しウルップの服装を意識したような衣類を身に纏っていた。

 

「まあ、色々とあるとは思うが気張っていくんだぞ」

 

 そんなミナトを見送ってくれるのは、今まで彼の世話をしてくれていたウルップだった。その近くに彼の妻や子供たちの姿はない。

 本当なら、ウルップ家総出で見送りたいところだったのだがこの日は平日で子供達は学校……所謂トレーナーズスクールがあり、そちらに出席しなくてはならず、ウルップの妻もパート先で急な招集があり、見送りを断念せざるを得なくなってしまったのだ。

 彼らは家を出る前にミナトやミュウツーに旅立ちの門出を祝う言葉と、別れを惜しむ言葉を掛けてくれた。特にウルップの娘に至っては、幸福のおまじないだと言ってミナトの額にキスしてくれた。

 そんなサプライズに喜び、直後にウルップから何か「娘はやらん」的なリアクションがあるのではと慌てて警戒し、結果杞憂に終わると言う一幕もあったが。

 

『短い間でしたが、世話になりました。家族の皆さんにもよろしく伝えておいてください』

「ああ。まあ、あれだ。ミナトは危なっかしいからな、相棒としてしっかりサポートしてやってくれ」

『フフフ……心得ておきましょう』

 

 ミュウツーも、ウルップと別れの挨拶を交わす。ウルップからミナトのお守りを頼まれ、ミュウツーは表情を和らげながらそれに返答した。二人の間ではもうミナトは完全に子供扱いである。

 

「おいこらー。俺を子供扱いするなー。もうじき酒もタバコも解禁される年回りなんだぞー」

「それは、あれだな。まだ辛うじて子供扱い出来る年齢(とし)って事だな」

 

 彼らの言葉を聞いて頬を膨らませて抗議するミナト。わざとなのかは不明だが、その反応や口調は子供っぽいの一言に尽きた。

 続いて放たれたウルップの言葉に論破され、小さくグウの()を出すミナト。そんな彼の様子に、隣に立つ心強き相棒は再び小さな笑みを零した。

 

 向かい合うウルップもまた笑みを浮かべていたが、真剣な表情に切り替わる。それを見たミナトは、この顔は《ジムリーダー》としての表情(かお)なのであると理解した。

 

「ま、それはそれとしてだ。………気張れよ。この世界は、お前達が思っているほど甘くはない。これから待ち受けているのは辛く厳しい《現実》だ。俺達ポケモントレーナーはポケモンと言う生命を預かり、その生活を保証していく義務と責任がある。よく子供達はトレーナーとしてポケモンと旅に出る事に強い夢や憧れを語っているがそんな甘く優しい世界じゃあない。ゲームか何かと勘違いしていたら、いずれ破滅する。それでプロトレーナーを目指すのであれば尚更だ。俺はジムリーダーとして多くのトレーナー達を見てきた。中にはポケモンを自分の道具の様に扱う愚か者も居た。それでいて実力だけはあるという質の悪いトレーナーもな。だが、そんな奴らも最終的にはこの世界から姿を消した。ポケモントレーナーとして最も大切なのは強さではなく信頼―――即ち“絆”だ。互いを思い合う心と強い絆があれば、力なんてものは努力次第で勝手についてくる。力を求めるなとは言わないが、力に溺れるな。お前は一人じゃ無い。いいな?」

 

 ウルップのジムリーダーとしての有難い訓示を貰い、ミナトは神妙に頷いた。

 ウルップは、伝説レベルの力を持つミュウツーを仲間としたミナトがその力で驕り、堕落してしまうのではないかと危惧した上で忠告したのだが、この様子ならば杞憂で終わるだろうと内心安堵した。

 

「よし。ああそれと、あれだ。この辺や旅の道中ならともかく、街中に入る際は出来る限りミュウツーをボールに戻しておけ」

「え、ボールにですか?」

『それはまた何故でしょうか?』

 

 ウルップが口にした言葉にミナトとミュウツーが疑問の声をあげた。ウルップは二人にその理由を口にする。

 

「ミュウツーは所謂伝説や幻と呼ばれるポケモンに該当するはずだ。そんなポケモンを人通りの多い街中で連れ歩いてみろ。幸いこのエイセツシティではそんな事にはならなかったが、外に出たら分からん。中には良からぬ事を考える奴も出てくるかも知れない。そうなったら例え自力で解決出来るとしても、面倒な事この上無いだろう?それにそう言う奴に限って諦めが悪かったりする。だから事前にそういった騒動に発展しないように予防しておくべきなんだ。分かるな?」

 

 言われてみればそうである。ミュウツーは伝説ポケモンに該当する存在だ。それがどんなポケモンなのかが分からずとも、見た事のない上に情報が全く無ければ珍しいポケモンだという事で注目を浴びるだろう。注目されるだけならまだしも、そこに悪意による陰謀や謀略が絡んでこないとは言い切れない。

 生き物には欲望と言うものが付きものであり、特に人間の欲望というものは恐ろしいものである。欲が絡めば人が変わることもあるのだ。例えそれまで温厚で誠実な人であったとしても、何らかのきっかけで欲が出た結果、豹変してしまって今まででは考えられないような行動に走ってしまう可能性もある。

 そして、それがミュウツーという存在によって引き起こされないとも限らないのだ。

 ましてや、このポケモン世界にはロケット団というカントー地方を中心に活動していた有名な悪の組織も存在した。彼らの様に人からポケモンを奪ったり、悪事を働く輩に狙われないとも限らない。逆にその存在が露見したら格好の的となりかねない。

 皆が皆、目の前のウルップのように優しい人間ではないのだ。悪意の塊のような人間だって存在する。

 だからこそ伝説のポケモンという特殊なステータスを持つミュウツーの存在は、考えようによっては本人が意図しない点で危険を孕んでおり、ウルップはそれを危惧しているのだ。

 

「ええ、そうですね。実際そうなるかはわかりませんし、そうなった時の相手がどんな奴なのかも分からない以上は用心する必要がありますね」

『確かに……。私の力があればミナトを守る事は十分に可能ではありますが、かと言ってわざわざ危険に晒す必要も皆無ですね。ミナト、必要だと判断したら私をボールの中に戻してください。いざとなったら自力でボールから出ますので』

「そう……だな。念には念を入れておくとしようか」

 

 ミナトは腰から一つの赤いモンスターボールを取り出し、それを少し握り締めながら言った。自分の相棒であるミュウツーの為に普通とはちょっと変わったボールをと思って探していた所で偶然見つけた特別なモンスターボール。そのボールに小さく彫り込まれたシリアルナンバーの数字もミナトから見れば特別な意味を数字であり、そのボールとの出会いはまさに運命であった。

 そしてそのボールは、ミュウツーとの《運命的な出会い》を表してくれるものであった。

 ミナトは今一度そのボールを大事そうに握り締めると、ウルップの目を見て言った。

 

「ウルップさんの忠告に従います。必要に応じて、ミュウツーの存在を秘匿しようと思います」

 

 ウルップからの忠告を重く受け止めたミナトとミュウツーは、その時々の状況を考慮してミュウツーをボールに戻しておく事を決めた。いざと言う時には大暴れしてもらえば良いのだから、その為の布石だと思えばいいだろう。

 

「ああ。……さて、老人の長話に付き合わせたせいで折角の旅立ちが辛気臭いものになってしまったな。せめて、旅立つその瞬間くらいは温かく送り出させて貰おう」

 

 ウルップはそう言うと、うんと小さく呟いてから柔和な笑みを浮かべて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大きな夢と希望を抱いて世界へと羽ばたけ、若き新人トレーナーよ。そして、輝かしい未来を掴んで見せろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!」

『ええ!』

 

 

 

 

 

 ミナトとミュウツーは、ウルップの激励の言葉に大きく返事をした。そして、行って来ますと最後に付け足して、ミナトは駆け出した。ミュウツーもサイコパワーで浮遊しながらそれに続いた。

 

「ミュウツー!俺の……いや、俺達の本当の物語はここから始まるんだ!」

『ええ。共に参りましょう。我々の未来を求めて』

「ああ!まず目指すのは、ここから西にある街【ハクダンシティ】だ!!」

 

 

 ミナトとミュウツー、そしてまだ見ぬ仲間達との冒険の物語はまだまだこれから始まるのである。






ミナト達の冒険はこれからだ!

ご愛読ありがとうございました。先生の次回作にご期待下さい。










という、ソードマスターヤマト的な打ち切りネタがやりたかっただけです(笑)

GW中の空いた時間で急いで書き上げたものなので内容が薄いかも。
補足すると、作中で軽く触れたミュウツーのボールに関しては閑話か本編中で改めて触れようと思いますので気になる方は暫しお待ちいただければと思います。

次回もよろしくお願いします。

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