俺の相棒は最強の遺伝子ポケモン   作:吾輩がネコである

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第五話 決意

「おいっす。来たぜ、ミュウツー」

『ミナトですか。二日ぶりですね』

 

 ミナトがななしの洞窟に足を踏み入れながらそう言うと、奥にいたミュウツーが姿を見せてテレパシーで返事をくれた。

 ミナトがミュウツーと再会したあの日から、既に二週間近くが経過していた。あの日の翌日、洞窟に三度足を踏み入れたミナトを待っていたのはミュウツーによる歓迎の言葉だった。

 以来、ミナトとミュウツーはちょっと奇妙な友人と言う関係を築き、ミナトが頻繁に顔を出しては色々な話題を振ってミュウツーがそれに反応を示し、時折その逆でミュウツーが話題を振ると言ったサイクルで友人同士の会話を楽しんでいた。

 

 時折洞窟の外に出て二人で散歩する事もあったが、その場合ミュウツーを見掛けたポケモン達が逃げ出し、微妙な雰囲気のまま帰って来るなんてことがままあった。

 

 そんな日々を送るミナトとミュウツー。この日はミナトが珍しく二日の間を開けてミュウツーのもとを訪れた。

 

「ああ。ちょっとウルップさんの娘が風邪で寝込んでてな。ウルップさんもジム戦の予約が入ってて、奥さんも近くの街にママ友さん達と出掛けた後でな。だもんで、代わりに俺が看病してたんだよ」

『そうですか。その子の病状は快復したのですか?』

「おう。近所の婆ちゃんが作ったらしい漢方薬を飲ませたらすぐに良くなった。まあ、それでも様子見でもう一日休ませたがな」

 

 ミナトが姿を見せなかった理由を聞き、納得した様子を見せながらウルップの娘に対する気配りを見せるミュウツー。なお、ミュウツーにはウルップ一家の事を話しており、ミナトが世話になっている一家だと説明してある。

 少し前まで人間に対し、どこか棘のある対応していた彼女だが、今は会った事すら無いウルップの娘を心配してくれている。完全に人間を信用した訳では無いだろうが、それでも初めて会った時程の敵意を抱く事はそうそうないだろう。

 そう思うと、少し嬉しくなるミナトだった。

 

『どうしたのですか?突然ニヤニヤとこちらを見つめて。いやらしいですよ』

「いやらしいとは失礼な」

 

 そこまで気持ち悪い笑みを浮かべていたのか、と自分でもビックリだった。思わず自分の顔に触れてしまうくらいに。

 そんないつも通りなやり取りを交わしつつ、ミナトとミュウツーは二人の時間を楽しみ始めた。

 

 

  ☆

 

 

「そういやあ、昨日の晩見たテレビ番組が興味深くて面白かったなあ」

『テレビですか。以前遠くの街に潜んでいた時に見た事がありますね。メガネを掛けた男性が各地で発生した事件や話題の内容を淡々と喋っていくだけでしたが』

「それはニュースだな。世間で何が起こっているのかを把握する手段の一つだ。俺が見たのはちょっとした特番で【ミアレシティの記者に聞く!業界一押しのトレーナー特集】だったかな」

 

 会話が弾む二人の話題は、ミナトが振ったテレビ番組の内容へとシフトしていった。

 ミュウツーは人間社会からは距離を置いた生活をしている為、知識は有るものの直接目にしたり触れる機会が少なくともここ最近は全く無い。その為、これまでミナトはミュウツーが分からないと言う所に補足説明を入れながら会話を進めていた。

 幸い、今回のテレビ番組に関してはあまり詳しい説明は必要なさそうで少し安心した。

 

『トレーナー特集……つまり、ポケモントレーナーと言う人々に注目した番組だったと?』

「ああ。今回はミアレ出版のパンジーと言う記者がイチオシのトレーナーを紹介するって内容だったな」

 

 パンジーとはミアレシティを中心に活動するジャーナリストで、ネタがあれば何処へでも取材用の機材を抱えて向かうアグレッシブな記者である。家族構成として妹にビオラと言う女性がおり、彼女はハクダンシティでハクダンジムのジムリーダーを勤めているという。

 つまり、自分の目で見た人物像とプロである妹からの口利きで有望なトレーナーをチェック出来る立場に居り、その信用性も高いと言う事でこの手の情報を発信する側としては貴重な情報源であり、信用できる記者である。実際、高い実績を誇っているらしく、カロス地方でミアレ出版の情報誌を購読している者からの評判は非常に良い。

 ちなみに、そんなパンジーは実はビオラよりもトレーナーとしての実力は上と言う噂がある。真相は不明だが、記者という立場上修羅場を潜る事もあるだろうからそれはそれで納得できそうなものでもある。

 

「今回紹介されたトレーナーは《メイス》とか言うトレーナーだったな。キザったらしい態度はどうかと思ったが、手持ちのポケモンは皆強そうだったなあ」

 

 画面越しに見たメイスと言うトレーナーはパンジーのインタビューに対して真摯に、しかしどこかカッコつけた様な態度やセリフで答えており、ミナトはそんな彼を見ていてモヤモヤした気分になった。しかし、話題がトレーナーからそのポケモン達に移ると、ミナトの視線はテレビに釘付けとなった。

 テレビの画面に映り込むメイスのポケモン達。現在の彼のメンバーはメタング、ヒノヤコマ、ゴースト、ラルトスであった。まだフルメンバーではないが、それぞれの最終進化系を思い浮かべて並べた瞬間、「なんやこの厨パァ!?」と叫んでしまったミナトを、一体誰が責められるだろうか。ラルトスを見た瞬間、「あっ、可愛い」とか思ったがそれは置いておく。

 パーティーだけを見ればポケモン達のスペックで勝てているだけだろと取られかねないが、番組内の企画で行われたエリートトレーナーの男性とのバトルを見て、その可能性を投げ捨てた。素人目にも、的確なタイミングで的確な指示を出しているのがわかったし、ポケモン達もそんな彼を信頼してバトルしていた。

 一緒に番組を見ていたウルップも「良いトレーナーだ。彼とのジム戦が楽しみだな」とどこか嬉しそうに呟いていた程だ。

 

『なるほど。ミナトはポケモンバトルに興味があるのですね?』

「ん?まあ、そうだな。俺はプロトレーナーになりたい訳じゃないけど、正直憧れるよ。なんかこう……一緒に頑張ってる、夢に向かって努力してる!って感じでさ。俺は今まで、目標らしいものなんて殆ど抱いた事が無くてさ。何事も程々に、適当に頑張ればいいとか思っていたからさ。ポケモントレーナー達を見ると、羨ましいと思うよ」

『羨ましい、ですか……』

「おう。ポケモントレーナーの、それも特にプロトレーナーなんてのは激しい競争社会だ。勝敗が全て。結果次第ではドロップアウトして、路頭に迷うなんて事すらあるらしい。でも、だからこそどいつもこいつも旅をする中で必死こいて互いに切磋琢磨し合っている。そんな人達、俺みたいな落ちこぼれには眩しすぎるぜ」

 

 ミナトが激しい競争社会であると評したようにポケモントレーナーの世界は、ゲームのように甘い世界ではない。

 ポケモンバトルにおいて、バトル終了後には賞金というものが発生する。これはゲームでも描写されていた事だが、この世界でもそれが有効である。其の辺の原っぱで遭遇したトレーナーと野良バトルを行っただけでも大なり小なり賞金が発生する。バトルの勝者は賞金を獲得し、敗者はその賞金を負担するのだ。

 プロの世界ともなると、そのへんでやるバトルとは賞金の額も違ってくる。状況によっては所持金や全財産を持って行かれ、破産状態に陥ってしまうのだ。更に、破産してしまうと、場合によってはトレーナーとしての資格を剥奪される事もある。これは、実力のないトレーナーによる行為によって不幸なポケモン達を増やさない様にする為の措置であるとされている。

 それでも、ポケモンの村に住み着いたような可哀想なポケモン達が少なくないという事が、この業界の闇とも言える部分ではある。

 そんな世界だが、少年少女達は高みを目指して、プロを目指して旅をする。プロを目指さずとも、世界を見つめ、人生の経験を積ませる為に、その他の目標の為に。

 ミナトは、プロトレーナーとして活躍したい訳ではない。でも、そんな彼らの姿が眩しくて仕方が無かった。

 

『ミナト……』

 

 ミナトが自らを「落ちこぼれ」と評した事に対し、ミュウツーは悲しそうな視線をミナトに向ける。何処か後悔しているような雰囲気を纏うミナトに、ミュウツーはどう声を掛けるべきかと思案した。

 やがて、ミュウツーはミナトに語り掛けた。

 

『ミナト、貴方は落ちこぼれなどではありません。羨ましいと思うのなら、行動を起こすべきではないのですか?』

「行動……?」

『そうです。貴方は、トレーナーに憧れていると言いました。ならば、トレーナーになれば良いではないですか』

「いや、そうだけどさ」

『自分は落ちこぼれだからと燻っていては、本当の落ちこぼれになっていしまいますよ?やる前から諦めずに挑戦しなさい』

「挑戦、か。でも、俺はプロトレーナーになりたい訳じゃないし、そもそもパートナーとなるポケモンが……」

『居るではないですか』

「え?」

 

 ミナトは、目を見開いてミュウツーを見つめる。ミュウツーもまた、ミナトを見つめ返す。まさか、いやそんな馬鹿なとミナトは首を振りながら口を開く。

 

「まさか……お前が?」

『その他に当てがあるのですか?』

 

 そう言われてしまえばミナトもぐうの音も出なくなる。可能性として、ポケモンの村に住むトリミアン達がいるが心に傷を負っている彼らに頼るのは違うと思う。

 かと言って、その他にパートナーとなってくれそうなポケモンが居るのかという問題だ。ウルップに協力してもらって野生のポケモンを捕まえると言う方法も無くはないが、色々と世話になっているだけにそこまで面倒を見てもらうと言うのも気が引ける。

 

 それに、ミュウツーが自ら立候補してくれているのだ。この世界において一番の友人である彼女が、自分のパートナーとなってくれる。これほど嬉しい事は無いだろう。実に有難い申し出だった。

 

「でも、良いのか……?」

『ミナト、私は貴方の事を友人だと思っています。貴方もまた、私の事を友人と呼んでくれています。友人とは、親しい間柄であると同時に互いを助け合える存在だと私は思っています。私は、孤独から解放してくれた貴方を助けたい。力になりたいのです。そして貴方を傍で支えたいのです』

 

 ミュウツーの言葉に、ミナトは胸を打たれた。自分の事をそんな風に想ってくれていたのかと。同時に、ミナト自身も思った。彼女と共にこの世界を歩みたい、自分の夢を、目標を見つけたいと。

 彼自身、未だに現状を理解しきれていない部分があった。何故自分はこの世界に来たのか。何の為にやって来たのか。それは今でも分からない。

 

 なら、それを探しに行こうではないか。共に歩みたいと思う、最高で最強の“相棒”と―――!

 

 ミナトは、ミュウツーの前に立ってその手を伸ばした。

 

「なら、是非とも共に歩んでくれないか?」

 

 ミナトの言葉に、ミュウツーもまた同様に手を差し伸べて応えた。

 

『喜んで、貴方と並び立ちましょう。それが私の望みです』

 

 ミナトとミュウツーは、グッと固い握手を交わした。

 

 この日、この瞬間。ミナトとミュウツーは、友人と似て異なるもの―――“相棒同士”と言う絆で結ばれたのであった。




何というか、後半部分が中途半端な描写になった気がする……。
修正入れるかどうかは現時点で未定です。

それはそうと、新作が発表されましたね!サンとムーンでしたか。次の冬が待ち遠しいですね。続報に期待しましょうかね。

あと、タイトルがタイトルなだけに「伝説はソルロックとルナトーン」とか「メガソルロックとメガルナトーン」なんてネタコメントが出てて、少し笑ってしまった自分がいる……。

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