俺の相棒は最強の遺伝子ポケモン 作:吾輩がネコである
『……ここに、何の用ですか。人間』
ミナトの脳内に響いた声。同時に、ミナトの視界に彼が探し求めていた存在の姿があった。
「ミュウツー……」
ミナトは思わずその名を呟いた。その呟きを聞き取ったのか、ミュウツーが少し警戒度を強めた。
『……どうやら、貴方は私の事を知っているようですね。この地で私の事を知っている者など居ないはずなのに』
ミュウツーは、その手にサイコパワーを集めながらそう言った。ミナトは、その発言からこのミュウツーがカロス地方で生み出された存在では無いと察した。
いや、もしかしたらミュウツー自身の手によって文字通り消された可能性もあるのだが、ミナトはその可能性を自らの独断で否定した。そうであって欲しくないというミナト自身の願望がそうさせた。
「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!俺は敵じゃない。危害も加える気は無いんだ。ミュウツー、マイフレンド!ミュウツー、マイフレンド!!」
ミュウツーがサイコパワーを今にもぶっ放しそうだったのでミナトは大慌てで敵意がない事を、身振り手振りでアピールする。後半に呟いたセリフは状況が状況であったなら粛清のビンタが飛んできそうなものではあったが、ミナトはヤケクソ気味に言葉を発していたので何を口走っているのか良く分かっていない。
『私は貴方の友人などではありません』
現実は非情である。ミュウツーはミナトの必死のアピールを一蹴し、サイコパワーで生み出した球体をそのままミナトに放った。
「ウェイ!?」
プロ野球の投手が放った剛速球の様に飛来した攻撃に対し、ミナトが反応出来たのはもはや奇跡に等しかった。目の前に迫ってきた危険に驚き、奇声を上げながら伏せる事で球体を回避。
ミナトの真上を通り過ぎた球体はそのまま洞窟の壁に命中し、その壁を破壊してちょっとした瓦礫の山を生み出した。
「ファー……」
何処ぞの某芸能人が発する独特の声を上げながら瓦礫の山を見つめるミナト。下手すれば自分もあんな感じになっていたのかと思うと背筋がゾクッとした。
『今のを躱しましたか。人間の癖に鋭い反応ですね』
そんなミナトの様子を見つめながら、僅かに驚いたと言うニュアンスを含めてミュウツーが言った。が、直ちに次弾を発射しようと伏せているミナトに手を向ける。
「ウェイト!ウェイト!俺は丸腰だ!!堪忍して!!」
それを見て慌てたミナト。背負っていたリュックを近くに放り捨て、五体投地して降伏の意を表明する。流石に次は避けられない。となれば自分の身体は、次の瞬間にはボーリングのピンのように弾け飛んでしまう事だろう。ストライク待った無しだ。
ミナトはそんなスプラッタな状態にはなりたくなかった。スプラトゥーンな状態ならちょっとなってみたいとは思うが。
『……なら、何故ここに来たのですか?』
ミナトの見事な五体投地を見て、ミュウツーは手をミナトに向けたままではあるものの、その様に問い掛けて来た。
ミナトは、話を聞いてくれる程度にミュウツーの態度が軟化したのを感じ取り、顔をミュウツーに向けながら口を開いた。
「その、この間の礼を言いたくてな」
『……礼、ですか?』
ミナトの言葉に、ミュウツーは少し戸惑った声を出した。出したというか、伝わってきたと言うべきなのだろうが。
ミナトが礼を言いたかったと述べたのは嘘では無い。実際、ミュウツーと会えたらまずは礼を言おうと考えていた。
あの時、方法は荒っぽかったもののミュウツーはミナトを洞窟の外へと出してくれた。もしあの真っ暗な洞窟の中でミュウツーに出会わずに居たら、何処へ行けば良いか分からず洞窟内を彷徨い歩いた事だろう。今見ると分かるが、このななしの洞窟の内部は意外と広い。上手い事行けばそのまま出口から脱出する事も出来ただろうが、下手をすればそれとは反対方向に向かって出られなくなっていたかもしれない。
更に言えば当時の内部は非常に暗く、今もそうだが時折天井から水滴が垂れて洞窟内にその音が木霊するのだ。今現在のようにある程度の明るさが確保できているのならともかく、あの時はただただ暗く殆ど見えない状況で、得体の知れない音が響くのだ。意味不明な状況下で、得体の知れない場所に身一つで放り出されていた以上、ただの水滴が垂れた音でも恐怖心を煽ってしまう。
それを長い事続けていたら、SAN値がゴリゴリ削られていずれ発狂していたかもしれない。
もちろん、これらはあくまで可能性の一つではある。が、逆に言えばミナトがそうなっていたかもしれないのも事実である。
だから、偶然ではあるもののそんな状態の自分と出会ってくれた事。そして方法はなんであれそんな状態から解放してくれた事に関してミナトは感謝の気持ちを抱いていた。
『……ッ!?』
そんなミナトの視線に、そして自らのサイコパワーを用いてミナトの思考を限定的に読み取ったミュウツーは、ミナトの言っている事が嘘ではないと知り、目を見開いて唯々困惑した。
更に言えば今この瞬間、ミナトがつい先日この洞窟内に入り込んで、自らの手によって排除された人間であった事に気付いたのだった。
『何故。何故なのですか……?』
「え?」
『私はあの時、貴方を攻撃して排除した。だと言うのに……』
「……その様子だと、大体の事情を察してくれているみたいだな。まあ俺の口から改めて言うけど、俺はあの時どういう訳かここに居て、一人ぼっちで彷徨ってて出口を探していた。そこでお前と会って、ぶっ飛ばされた。でも、それが結果的に良い方向に働いて、俺はこの通り無事と言う訳だ。だもんで、ちょっとこじつけみたいな理由だが、一度ちゃんと礼を言いたいと思ってな」
ミュウツーの問い掛けに、ミナトはそう答えると、一瞬の間を空けて言った。
「ミュウツー、ありがとうな」
『……………!!』
ミナトの真っ直ぐな視線と、その口から発せられた言葉から彼の感謝を感じ、ミュウツーは大きく目を見開いて、絶句した。
これまでの
ミュウツーは、自分の力が憎かった。自分の強過ぎる力は、自分が望んだものを遠ざけて行くだけだった。
『(だと言うのに……)』
この、目の前に立つ人間は、純粋に自分に対して感謝の念を向けてきている。
ミュウツーはそれが解せなかった。自分の力を見せつけて、実際に一度危害を加えてしまっている。だと言うのに、彼はそれを意に介した様子すら見せていない。そしてその瞳には自分に対する恐怖、つまりは畏れと言った感情が一切無かった。
まさかと思いつつ、サイコパワーでミナトの感情を読み取ろうとする。しかし、サイコパワーによって示されるのは感謝と僅かばかりの好意だけだった。
『(この人間は……彼は一体何者なのだろうか?)』
自らを恐れない存在というのはミュウツーにとって未知の存在であり、目の前に立つミナトの存在は、ミュウツーにとって正に未知との遭遇であった。
それ故に、ミュウツーの中にミナトに対する興味という感情が湧き上がった。
「あー、それでな。ちょっと頼みというか、お願いがあるんだ」
『っ!?……な、何でしょう?』
黙ったまま思考に没頭していたミュウツーは、ミナトが声を掛けてきた事で少し驚いた様子を見せる。が、視線を足元に向けて頭をガリガリと掻いていたミナトはそれには気が付かなかった。
見ると、ミナトは少し気恥ずかしそうな様子を見せている。
ミュウツーは、静かにミナトが続きを言うのを見守る。少しして、ミナトは口を開いた。
「その、たまにここへ遊びに来ても良いかな?」
『……はい?』
ミナトの発言に、ミュウツーは思わず問い返した。お願いと言うので、てっきり自分の力か何かを要求されるのかと内心身構えていたのだが、ミナトの口から飛び出たのは思いの外小さく、そして少々可愛らしいともとれるお願いであった。
ミナトは、気恥ずかしさ故か慌てた様に言う。
「いや、えっと、その。何て言うかさ、俺こっちに来て初めて出会ったのが
柄にも無く照れた様子を見せているミナト。視線は右往左往しており、その頬は紅くなっている。お前は好きな子と会話する小中学生かとツッコまれそうなモノではあるが、生憎そんなツッコミが出来る者は近くには居ない。
「だから、その、お友達から始めましょう……?」
いやこれじゃあ告白のセリフじゃねえか、とミナトは自分自身で内心突っ込んだ。更に言えば、お友達から始めましょうは告白された側が言うセリフであって告白する側が言うパターンは珍しい。と言うか、客観的に見ると上から目線の自意識過剰な発言のようにも思える。
これでは『巫山戯るのも大概にしなさい』とか言われてズドンだ。自分の肉体がターンXの様に分離する未来が容易に想像できる。
(これは詰んだか……?)
そう思いながら恐る恐るミナトは伏せていた視線をミュウツーに向ける。その時、ミナトの視界に映ったミュウツーの様子は何処かおかしかった。
顔を伏せ、先程まで自分に向けていた手を握り締めて震えている様だった。
(やべぇ。これは激おこですわ。激おこプンプン丸ですわぁー)
これが気心のしれた友人だとか、インターネット上の相手なら「え、おこなの?○○君、おこなの?」とか言って煽っていた所だが、ミュウツー相手にやれば即バッドエンドだ。
ミナトは慎重に、何とかミュウツーを宥めようと掛けるべき言葉を模索し始める。
その時だった。
『……と……言う…ですか?』
「え?」
『貴方は、こんな私と友人になりたいと言うのですか?』
ミュウツーから発せられたその言葉を聞き、ミナトは一瞬黙り込む。ミナトを見つめるミュウツーの瞳には、何かに縋る様に震えていた。
「勿論だとも。じゃなきゃ、俺はこんな事は言わないし、礼を行ったらすぐにここを去っていたはずだ」
『……っ!!』
その答えがミュウツーの望んでいた答えだったのかは分からなかったが、ミナトは正直に自分の思いを言葉に乗せて言った。それが、自分げミュウツーに告げるべき答えであると信じて。
『そう、ですか……』
それを聞いたミュウツーは、ゆっくりと握っていた拳を解いた。また、全身の力も解いたのかどこか自然体になったようにも見える。
「それで、ミュウツー。俺は、ここに来て良いのか?」
ミナトは、ミュウツーに問い掛けた。ミナトはまだ「友達になって欲しい」と言うお願いの答えをミュウツーから貰っていなかった。
『私は……』
ミュウツーは、そんなミナトの問いに答えようとした。
その時であった。
PiPiPiPi!PiPiPiPi!
洞窟内に電子音が響き渡る。ミュウツーがその音に驚いて身構えるが、ミナトはそれとはまた違った慌てようを見せた。
「あっ、やべえ!多分ウルップさんだ!」
ミナトは近くに放っておいたリュックの中から携帯電話を思わせる小さな通信端末を引っ張り出す。これはウルップがミナトに持たせてくれた少し古い型式の通信端末で、何かあった時に連絡する為のものだった。電子音はその端末から出ているようだった。
「は、はいはい!ミナトです!」
【おう、ミナト。その様子だと無事目的地にたどり着けたようだな】
「ええ。まあ」
通信端末の画面に現れたのはウルップだった。ミナトを心配して連絡をくれたようだ。
【ああ。それで、あれだよ。そろそろ戻って来ないと暗くなって帰れなくなるぞ】
「えっ?……あっ!」
ウルップからのタイムアップ宣告にミナトは慌てて端末の画面端にある時計を見る。確かに、もうすぐ夕方とも言える時間になっており、今直ぐに戻らないと真っ暗になった迷いの森で彷徨うことになりそうだ。そうなったらエイセツシティに帰れる自信は無い。
【分かったら暗くならない内に戻ってくるんだぞ。ウチのカミさんや子供達も心配するからな。それじゃあな】
ウルップとの通信はそれで切れてしまった。ミナトは端末をリュックに放り込むと急いでリュックを背負い込む。
一連の流れに、蚊帳の外となっていたミュウツーは少し困惑している。
『あの……』
「わ、悪いなミュウツー!今すぐ戻らないと帰れなくなっちまうんだ!答えが聞けなかったのは心残りだが、また会いに来るから!!」
声を掛けようとするミュウツーに、ミナトは申し訳なさそうに言いながら洞窟の外へと向かって駆けていく。
そして、洞窟から飛び出すかと思われた瞬間にくるっと首だけをミュウツーの方に向けて、こう言った。
「ミュウツー、またな!」
『あっ……』
別れの言葉を告げ、ミナトは去って行った。
ミュウツーはそんなミナトが去って行った洞窟の出入り口へ向かって思わず手を伸ばしていたが、ミナトの姿が見えなくなり、その手を引っ込めてからしばらくの間はその伸ばしていた手を見つめていた。
やがて、ポツリと呟いた。
『またな、ですか……』
この時、ミュウツー自身は気が付いていなかった。
自分が呟いた時の声色がとても穏やかなもので、僅かに笑みを浮かべていた事に。
この瞬間から……いや、ミュウツーがミナトに友人になりたいのかと問い掛けた時から、ミュウツーの中で答えは決まっていたのかもしれない。
同時にあの時、ミナトが洞窟で最初にミュウツーと遭遇した時から、自分達の運命は定まっていたのだろう。後にミュウツーはそう思うのだった。
何故だろうか。
何時の間にかミュウツーがチョロインっぽくなっていた。もっとこう、ツンとした感じのキャラで行くつもりが、こんなのになってしまっていた。
まあ、ギャップがあっていいか!と思う今日この頃。
ちょっと無理やり纏めた勘があります(;´∀`)
そろそろストーリー進行的にアクセル掛けていかないとな。
あ、ちなみに余談ですが先日私の車のイグニッションコイルが割れて全然スピードが出ず、仕事に遅刻しかけました(笑)
アクセル踏んでもパワーが出なくて、ターボ使って無理やり走ってました。
そんで車屋さんに見せたら、「炎上しなくてよかったね」とか言われました(笑)
生きてて良かったと思う、うp主でしたとさ。
次回をお楽しみに。