俺の相棒は最強の遺伝子ポケモン   作:吾輩がネコである

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第二話 保護

「ん、んん~!……………どこだ、ココ?」

 

 前回目覚めた時と全く同じセリフを呟きながら、青年が目を覚ました。しかし、前回と違っている点は青年が目覚めた場所である。前回は真っ暗な洞窟の中だったが、今回はシンプルだが綺麗に整えられた一室の中だった。

 更に言えば、青年が寝ていたのは丁度良い固さのベッドの上だった。

 

 と、その時。

 

「痛ッ……!?」

 

 腹部に鈍い痛みを感じた。着ていた冬物の衣類を捲って腹を見てみれば、少し大きな青痣が出来ていた。

 

「そ、そう言えば……俺はさっき……」

 

 青年は先程、自分が遭遇した非常識な事態を思い出す。真っ暗な洞窟に倒れていたと思ったらゲーム「ポケットモンスター」に登場する伝説のポケモン“ミュウツー”に遭遇。立ち去れとか言われたと思えば青い球弾――恐らくは“はどうだん”――を食らってぶっ飛ばされて意識を失ったのだった。

 

 だが、目が覚めてみれば先程とは打って変わってちゃんとした室内だ。青年としては、できればこれが自分の薄汚れたボロアパートの一室であって欲しかった。そうすれば、リアルな夢オチで話は丸く収まったはずなのだから。

 青年は、自分が今一体何処に居るのかが気になった。そこで、近くに窓があったのでベッドから降りて窓に近寄って外を見てみる。するとそこは辺り一面真っ白な雪に囲まれていた。

 

「あれ?俺いつの間に雪国に来たんだ?」

 

 窓の外を見て青年はそう言った。ドッサリと積もった雪が窓の外一面に広がっており、少し遠くには雪だるまの姿すら見える。更に言えば、窓から見える家の軒先には大きさの違いこそあれど見事な氷柱が伸びており、見るだけで肌寒さを感じそうなくらいであった。

 

 しかし、その割に室内は快適な温度だなと部屋を見回せば、部屋の隅には薪ストーブが一台設置されており、室温を快適な温度に保つ様にしてくれていたようだ。

 

 ふむ、と青年が周辺の状況を探り終えた所で、部屋の扉が開かれた。

 

「おう。お前さん、目が覚めたのかい?」

 

 扉の向こうから現れたのは水色のダウンジャケットを羽織った恰幅の良い50代くらいと思われる初老の男性だった。その手には木製のお盆があり、その上には木製の皿とスプーン、そしてコップが2つずつ載っていた。

 

「あ、貴方は……?」

 

 青年は男性に問い掛ける。とは言うものの、青年はこの男性の姿を何処かで見たような気がしていた。ただ、目覚めたばかりで思ったように頭が働かず、誰なのか思い出せなかった。

 

「おれはウルップ。このエイセツシティのジムリーダーだよ」

 

 本来、人に名を尋ねる時は自分の名を先に名乗るのが礼儀である。が、ウルップと名乗った男性はその辺の事は全く気にした様子を見せずに自己紹介した。

 ウルップの自己紹介を聞いて、青年は彼が何者なのかをやっと思い出した。

 

(そうか。この人はポケットモンスターX・Yに登場するジムリーダーの一人だった。こおりタイプを使うジムリーダーで、ゲームだと配信で貰ったメガバシャーモ使ってフルボッコした記憶が……)

 

 青年はかつて自分がプレイしていたゲーム「ポケットモンスターX・Y」の事を思い出す。ゲームの進行上、最後のジムリーダーとして君臨するウルップ。当然相手のポケモンのレベルも高く、ちゃんとポケモンを育てていないと突破できない壁の一つであった。

 もっとも、青年は相性の良いバシャーモを使い、メガシンカさせてゴリ押しで突破した記憶しかないのだが。

 

(あの時はまさに“レベルを上げて物理で殴れ”って感じだったからなぁ……。って言うか俺、ポケモンの世界にトリップしちゃったパターンですか?それなんてラノベ……とか言ってる場合じゃねえよ)

 

 と、当時の様子に思いを馳せつつ、自分がどう言う状況に陥っているのかを再確認して軽くメダパニっていると。

 

「さて、物思いに耽っている所悪いんだがお前さんの名前は?」

「えっ?あ、ああ。申し訳ない!俺の名前は柊湊人(ひいらぎ みなと)です。ミナトとでも呼んで下さい」

 

 ウルップに促されて青年――ミナトは慌てて自己紹介をした。ここに来てようやく主人公の名前が判明した。

 

「そうか、ミナトだな。よろしくな」

「あ、はい。どうぞよろしく。……あの、所でここはどこですか?」

 

 ウルップとの挨拶が済んだ所でミナトは今ここがどこであるのかを問合わせた。ウルップが居る事や、外が雪景色に覆われている事からここがエイセツシティの何処かである事は推測できるのだが、確認しておくべきだとミナトは考えた。

 

「あ~、その、あれだよ。エイセツシティにあるおれの家だよ」

 

 あっ、やっぱり?

 ミナトはそう思った。でなければわざわざウルップが出てくるはずがないのだから。……どうせならオッサンではなくて可愛い女の子とかに拾われたかったとか思ってはいけない。

 

「あの、俺はどうして……」

「まあ、あれだよ。まずはこれを食べろ。冷めてしまう前にな」

 

 ミナトが更に質問しようとした所でウルップが遮り、お盆を近くのテーブルに置く。湯気が出ている皿やコップをテーブルに並べ終えると、彼はテーブルの横にあった椅子に座り、ジェスチャーでミナトにも着席するように促した。

 ミナトはそれに従い、空いている席に座る。目の前に置かれた皿の中を見れば、真っ白なシチューがもわもわと湯気を起てていた。ちらりと見ればウルップは既にスプーンでシチューを口に運んでいた。ミナトもそれに倣ってシチューを口に運ぶ。

 口に入れたアツアツのシチューは危うくミナトの舌を火傷させてしまいそうになるが、ミナトは我慢してそれを飲み込んだ。瞬間、喉が熱さに悲鳴を上げるが、涙を浮かべながら我慢した。

 

「おいおい、大丈夫か?」

「ひゃい。だいじょぶれす」

 

 ちゃんと冷まさなかった自分が悪いんで、と熱さで回らなくなった口で答える。二口目はしっかりと冷ましてから口に運んだ。

 程よい温度になったシチューはとてもクリーミーで甘く、具材として入っている数種類の野菜も良い味を出していた。とてもおいしい。少なくとも自分でスーパーで購入した専用のルーをぶっ込んで作る水分の多いスープみたいなシチューよりは何倍も美味かった。

 いや、比べるのもおこがましいかも知れない。

 

「美味いかね?」

「ええ。とても美味しいです」

 

 それからしばらく、二人は黙ってシチューを口に運び続けた。ミナトとしては、先程聞きそびれた質問に答えてもらいたい所だったが、今はこの料理を堪能したほうが良いと思った。

 

 それから10分後。

 シチューを平らげた二人は一休みした所で、再び向かい合った。

 

「さてと。えぇと、あれだよ。お前さんが何でウチに居るのか、だったかな?」

「えっと、はい」

 

 ウルップがミナトの聞きたかった内容を確認し、ミナトはそれに肯定した。ウルップはそれに「ん」と短く返事すると、ミナトがここに居る理由を語りだした。

 

「実はこのエイセツシティを少し南に行った所に迷いの森って所があってな。そこを抜けた先に、ポケモンの村って呼ばれている場所がある。そこには人に捨てられたポケモンや、心無い人間を見限って逃げてきたポケモンが集まって暮らしているんだ。それで、あれだ。おれはちょくちょくそのポケモンの村に行って、ポケモン達の面倒を見ているんだよ」

「なるほど」

 

 ウルップが語る内容に適度に相槌を打ちながらミナトは思う。

 エイセツシティとウルップ、ポケモンの村。そして自分が目覚めた洞窟とそこにどこか寂しそうな雰囲気を持ったミュウツー。この二つはリンクしていると。実際、ゲームでミュウツーが出現したのはポケモンの村の奥にあった“ななしの洞窟”と呼ばれる場所だ。

 恐らくそこから物理的に追い出された自分は、洞窟の外……つまりはポケモンの村と呼ばれる場所の敷地内で伸びていたのだろう。そしてそこでウルップに保護されたのだ。そう考えれば話の辻褄は合う。

 それが事実であるかどうかを知る為、ミナトはウルップの言葉に耳を傾ける。

 

「それでだ。今朝、ポケモンの村の方に顔を出したらポケモン達が妙に騒がしくてな。気になったもんで騒ぎの中心部へ行ったらあれだよ、お前さんが倒れていたんだ」

「それで、ウルップさんが俺を保護してくれたと?」

「まあ、そういう事だな」

 

 ウルップの話を聞き、自分が想像した通りの結果だったようだとミナトは納得する。

 

「ありがとうございました、ウルップさん。貴方に助けて貰わなければ、今頃どうなっていたか」

「まあ、それは別に構わないんだが。その、あれだ。一つ聞かせてくれ。お前さんは、どうしてあんな場所で倒れていたんだ?」

 

 ウルップからの質問に、ミナトは固まる。まあ状況的に当然の質問だと言えるのだが、かと言ってありのままに全てを打ち明けても理解してもらえる可能性は非常に低い。

 異世界からトリップしてきました!なんて口走った所で信じてくれる人間が何処に居るのだろうか。少なくとも、現代日本でそんな事を口走ったら笑い者にされるか中二病の痛い人にしか思われないだろう。

 かと言って、嘘を言うのも憚られる。ミナト自身、恩人であるウルップに嘘をつきたくはなかった。

 

「実は……」

 

 そこでミナトは、元の世界の事は告げずにこの世界で目覚めてからのことのみを打ち明ける事にした。名付けて「それでも俺は嘘を言っていない作戦」である。

 ミナトは、よく分からないが目が覚めたら洞窟の中に居て、そこに居たミュウツーと言うポケモンにぶっ飛ばされて気絶。目覚めたらウルップに保護されていた、と説明した。

 

 正直、説明している途中で「いや、こんな説明じゃ納得してもらえないんじゃね?」とか思ってしまったが嘘は言っていない以上、これでゴリ押ししていくしかないと思い、続行した。

 

 一通り説明し終えた所で、ウルップは腕を組んで黙り込んでしまった。

 内心ハラハラしながらも、表情には出さないように全神経を集中させるミナト。少しして、ウルップが口を開いた。

 

「まあ、あれだよ。そういう事もあるよな」

 

 いやねえよっ!

 

 ミナトは思いのほか軽い反応に思わず突っ込みたくなったが、それでは自分の立場を悪化させるだけなので堪えた。

 もっとも、ウルップはミナトの言葉を鵜呑みにした訳ではない。ただ、何か自分には言えない事情があるのだろうと察し、流す事にしたのだ。無論、ミナトが周囲に何らかの悪意や災いをもたらす存在であった場合は、自らの手で始末をつけようとも思っていたのだが。

 

「しかし、あの洞窟のポケモン相手に無事とは大したものだなあ」

「え?」

 

 いや無事じゃねえよ。まだボクのポンポン痛いのよ。

 ミナトは内心そう否定し、抗議した。しかしそんなミナトの思いを知る由もなく、ウルップは続けた。

 

「あのポケモン、強すぎるんだよなあ。前にアイツを捕まえようと、おれを倒したトレーナーがバトルを挑んだがあっさりやられて帰ってきたよ。周りのポケモンも明確なレベルの差に萎縮してしまってあまり近寄らないんだ」

「周りのポケモンすらも近寄らない、か……」

 

 ウルップの放ったその言葉を、ミナトは反芻する。

 

 その時、ミナトの脳裏には自分を洞窟から追い出した時のミュウツーの寂しそうな横顔がフラッシュバックしたのだった。




ポケモンが一切出ないというね……

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