もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

27 / 66
第二十七話 「夢魔」

「ん……」

 

 

まどろむ意識の中、徐々に頭が覚醒していく。なんだろう。いつの間に自分は寝てしまっていたのか。そもそも自分は誰だったのか。

 

 

「っ! そ、そうだ! オレ、メアに攫われて……あれ?」

 

 

ようやく事情を思い出して飛び起きる。そうだ、オレはあの時メアに攫われて全然知らない星に

 

 

「ここは……デビルーク王宮のお風呂……? でもなんで……」

 

 

目を覚ませば眼前にはいつか見たことのあるデビルーク王宮の浴場が広がっている。慌てて自分の身体を確認すればタオル一枚の入浴スタイル。意味が分からない。風呂で眠ってしまっていたのか。でも強烈な既視感がある。

 

 

(この状況って……確か前にも……)

 

 

そう、忘れるわけがない。人生で焦ったランキングトップスリーに入るであろう衝撃的な出来事がここであった。そしてもう一つがこの状況。まるで夢を見ているようなこの状況を生み出せる存在に心当たりがある。

 

 

「おはようリトお兄ちゃん! 一緒にお風呂に入ろうか? それとも背中を流そうか?」

 

 

その元凶である少女、メアがどこからか姿を現してくる。当然のように全裸。あられもない肢体を見せびらかせながらも全く恥ずかしがる様子はない。手に持っているタオルで隠す気もなし。どうやらあれは自分の背中を洗うために用意しているらしい。

 

 

「メ、メアっ!? やっぱりお前の仕業か!? っていうかなんでいつも裸なんだ!?」

「だってお風呂に入るんだから裸なのは当たり前でしょ? それにいつも言ってるじゃない。ここはお兄ちゃんも夢の中でこのイメージもお兄ちゃんのものだって。リトお兄ちゃんってえっちぃ生活してたんだね、素敵♪」

「ご、誤解だ! これはモモが勝手に入ってきたからで……と、とにかく精神侵入を解除しろ! それ以上に近づくな、とらぶるに巻き込んじゃうだろ!?」

「ぶー、リトお兄ちゃんのいじわる。ここは夢の中だからとらぶるも起らないのになー」

 

 

いつかのように頬を膨らませながらいじけているメアに頭を痛めながらも、もう何度目か分からない光によって夢の世界が包まれていく光景を目にする。それが精神侵入が解除され、目が覚める前兆だった――――

 

 

 

「あ、やっと起きた。おはよう、リトお兄ちゃん♪ いい夢見れた?」

「…………おはよう、メア。いい悪夢だったよ」

「あはは、お兄ちゃんにとってはそうなのかな? でもおかしいな、男の人ってえっちぃことが好きなんじゃないの? マスターもそう言ってたし」

「そ、それはまあ……でも時と場合によるかな。あと、恥じらいも必要かな……」

「?」

 

 

自分の言葉の意味が分からなかったのか、きょとんとしているメアに向かって二度目の挨拶をかわす。今自分はベッドに横になっている。メアはそんな自分から少し離れたところで上機嫌にニコニコしている。それがメアに攫われてから一週間、日課になりつつある朝の風景だった。

 

 

(ここに連れてこられてからもう一週間か……でも、本当にオレ、誘拐されてきたんだよな……? 全然そんな気がしないんだけど……)

 

 

違う意味で溜息を吐くしかない。本当なら誘拐され、人質にすらされかねない危険な状況。どんな酷いことをされるのかと戦々恐々としていたのだがそれは半日も持たなかった。

 

端的にいえば自分はこの一週間、メアと一緒に暮らしていただけ。身体的には何の拘束されていない。場所は自宅の部屋よりはいくらか広い部屋。しかもどこから用意したのか、地球製と思われる家具が設置されている。どういう仕掛けになっているのかテレビまで見れる始末。風呂とトイレも完備。携帯電話などは没収されてしまったがそれ以外は何もなし。着替えも用意してもらっている。まさに至れり尽くせりの待遇だった。

 

 

(流石に外には出してもらえないけど……いったい何が目的なんだ? マスターって奴も姿を見せないし……)

 

 

こちらとしては困惑するしかない。ただ単にメア達にお呼ばれしただけなのだろうか。肝心のマスターとやらも全く姿を見せない。どう動いたらいいのかわからない。もっとも自分にできることなどほとんどないのは確かなのだが。そんなことを考えていると

 

 

「よし、じゃあ今日はこのユカタって服にしようかな♪」

「っ!? メ、メア……お前また勝手に……!?」

 

 

気づかない間に自分の首筋に一本の髪の毛がつながっている。メアの能力である精神侵入。夢に侵入する場合はおさげを使う必要があるらしいが簡単なイメージを探るぐらいなら髪の毛一本でも十分らしい。だが使う前に一言言ってほしい。別に疚しい気持ちはないが勝手に心を覗かれるのは勘弁してほしい。

 

 

「うん、こんなカンジかな? どうリトお兄ちゃん、これであってるかな?」

 

 

そんなことを考えている間にメアの服装が変身によって変化する。その髪と同じように深紅の浴衣。いつもと違う格好のせいか少し大人びて見える。自分の記憶にある浴衣のイメージから再現したのだろう。これがこの一週間の日課の一つ。毎日自分の記憶にある地球の服装で着せ替えをする遊び。メイド服から制服、体操服までより取り見取り。まるでララの持つペケのような能力。恐らくは自分の記憶にあるララの行動をトレースしているのだろう。そう、だからメアが服装を変える理由もまたララと同じ。つまり

 

 

「お待たせリトお兄ちゃん……じゃあ、今日の分を消費しちゃおっか♪」

 

 

自分のとらぶるを消費するために、自分の好みに合わせた服装をしてくれているということ。

 

 

「い、いや……やっぱりこういうのはよくないんじゃないかな! ほら、オレはメアにとってお兄ちゃんなんだろ? 兄妹でえっちぃことするのはいけないことだからさ!」

「そうかな? 宇宙には兄妹で結婚する星もあるらしいけど……でも心配しなくていいよ。わたしとお兄ちゃんは血縁関係はないし、子作りまでいかなればいいんでしょ?」

「子っ……!? な、なにを言って」

「大丈夫だって、ちゃんとそこは自制するから♪ だから我慢するのはお兄ちゃんだけだよ」

 

 

もはやこっちの言い分を聞く気はないのかメアは自分ににじり寄ってくる。浴衣の胸元を広げ、顔は紅潮し、瞳は爛々と輝いている。まるで発情しているかのような有様。

 

 

(ほ、本当にこの娘はマズい……! ララやモモとは違う……本当に本能的にとらぶるを、えっちぃことを愉しんでる!)

 

 

滝のような汗を流しながらどうにか逃げようとするが逃げ場はなく、抵抗することもできない。ララのように羞恥心がないわけでもなく、モモのように理性的にえっちぃことを求めているわけでもない。えっちぃことは生物的な欲求で自然なことだとメアは考えている。ある意味これ以上にないほどストレートな本能。自分のとらぶるを消費するという目的もあるのだろうが、えっちぃことを求めているのも間違いない。しかも一週間、毎日続くごとにそれは悪化しているような気がする。このままでは取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。というかこっちの理性がいつまで保つか分からない。

 

 

「じゃあイクよお兄ちゃん? 四回目もシてくれていいからね♪」

 

 

そのまま為す術なく自分はメアに襲い掛かってしまう。襲われているのに襲ってしまうという自己矛盾。それが誘拐されて一週間、メアによる悪意のない拷問の時間だった――――

 

 

 

 

「ふぅ……気持ちよかった、素敵♪ 今日は三回だったね、お兄ちゃん。四回目は午後かな?」

「…………ど、どうかな。今日はもう、ないんじゃないかな。メアもその、無理しなくてもいいんだぞ……?」

「? 無理なんてしないんだけど。むしろ最近は調子がいいくらいかな。生体兵器だからどうしても体を持て余すことがあったんだけど、リトお兄ちゃんが来てくれてからは性欲も解消できてるし♪」

「そ、そうか……」

 

 

ボロボロの自分とは違い、どこか艶々しているメアに言葉がない。悪意がないのは分かるが女の子の口から聞きたくはなかった単語のオンパレード。もしかしたらそのために自分を攫ってきたのではとバカなことを考えてしまうほどには自分はこの日課に参ってしまっていた。ララとのとらぶるがこんなに恋しくなる日が来るとは夢にも思っていなかった。

 

 

(そういえば……ララ、元気になったかな? ヤミも美柑も……もう一週間か……夏休みに遊びに行く約束も守れなかったな……)

 

 

ここにはいないみんなのことを考える。心配をかけてしまっているのは間違いない。自分は大丈夫だと伝えたいが手段もない。明日また会いに行くというララとの約束も破ってしまった。知らず気持ちが落ち込みかけていると

 

 

「あ、そうだ! お待たせ、今日の朝ごはんだよ!」

 

 

思い出したようにメアは大きな袋を広げながら今朝の朝食を持ってきてくれる。毎日三食食べさせてくれるのは本当に有り難い。有り難いのだが

 

 

「今日はどれを食べる? わたしはこの新しいケーキがおすすめかな。あ、そこにあるクッキーもおいしいんだよ! それから」

 

 

その全てがお菓子だった。それも全て甘いもの。まるで金色の誰かさんを思い出すような甘党っぷり。甘いものは嫌いではないのだが三食、毎日これではたまったものではない。このままでは糖尿病になってしまいかねない。もしかしたら遠回しに自分を拷問しているのだろうか。

 

 

「そういえばメア、そのマスターって人はまだ来ないのか? もう一週間になるんだけど……」

 

 

何とか必要最低限の糖分とエネルギーを摂取した後、浴衣姿のままベッドに座り足をぶらぶらさせながら飴をなめているメアに問いかける。何はともあれ、そのマスターという人物の真意が分からなければどうにもならない。

 

 

「確かに遅いね。いつもなら三日に一度は連絡をくれるんだけど、もしかしたら忙しいのかも」

「そっか……マスターって人のこと、信頼してるんだな」

「もちろん! マスターがいなかったらわたしは生きてこれなかったし、わたしはマスターの下僕だからね」

「げ、下僕か……やっぱりあの下僕って意味なんだよな?」

「そうだよ? でもリトお兄ちゃんもヤミお姉ちゃんを下僕にしてるんでしょ?」

「ぶっ!? な、なんでオレがそんなことを……!?」

「違うの? 記憶の中でヤミお姉ちゃん、お兄ちゃんのことマスターって呼んでたからわたしとマスターと同じような関係かと思ったんだけど」

 

 

違うの? とばかりにこちらを見つめてくるメアに頭を抱えるしかない。どこからどう見たらそんなことになるのか。ヤミとは違った意味でこの娘は常識が欠如しているのかもしれない。思い返したらおかしなところがない宇宙人はセフィさんぐらいしかいないような気がする。もっとも一番おかしいのは能力的には自分なのは間違いないが。

 

 

「あ、もしかしたらマスターはヤミお姉ちゃんのダークネスが目覚めるのを待ってるのかも」

 

 

閃いたとばかりに声をあげているメアに戸惑うしかない。一体何の話なのか。

 

 

「ダークネス……? 何のことだ?」

「ヤミお姉ちゃんが持ってる凄い力のことだよ。詳しいことは教えてもらえてないけど、それが目覚めればわたし達、変身兵器にとっての幸福が訪れるんだってマスターが言ってたの」

「な、なんだかよく分からないけど……それが今の状況と何の関係があるんだ?」

「関係あるよ。わたし達、リトお兄ちゃんを攫ってきたでしょ? ヤミお姉ちゃん、きっと怒ってると思うんだ。それがわたしたちの目的なの。マスターはヤミお姉ちゃんを怒らせることでダークネスを目覚めさせようとしてるみたい」

 

 

どこか淡々と事実を述べてくるメアに驚きを隠せない。その目的のこともだが、それ以上にまるで機械のように自分たちの行動に疑問を持っていないメア達に。

 

 

「みたいって……自分でもよくわかってないのにそんなことをしてるのか!?」

「? なんで怒ってるの、リトお兄ちゃん? わたし、生体兵器として当たり前のことをしてるだけだよ?」

「当たり前って……マスターがやれって言ったら何でもするっていうのかメアは!?」

「……? 何がそんなにおかしいの? 命令されたことを実行するのは兵器の役目でしょ?」

 

 

何を言っているのかわからないとメアは言う。比喩でもなんでもなく、本当に兵器のような反応。先ほどまで見せていた人懐っこさは微塵も残っていない。きっとメアはマスターの言う通りに動いているだけなのだろう。でもそれにどうしても苛立ってしまう。

 

 

「じゃああの時……ヤミと戦ったのも、マスターの命令だったのか?」

「そうだよ。リトお兄ちゃんを攫うだけじゃ、ヤミお姉ちゃんのダークネスを目覚めさせるには足りないかもしれないからって。だから性能の差を見せつけるように言われたんだ。わたしもお姉ちゃんと性能を比べるのは楽しかったけど」

 

 

同時に思い出すのはあの時のヤミの姿。傷つけながらも自分を守ろうとしてくれた姿。泣きそうな顔をしながら必死に自分に向かって手を伸ばそうとしてくれた光景。

 

気が付けばメアをベッドに押し倒していた。普段の自分なら絶対にしない行為。でも頭に血が上っている自分はそれを止めることができなかった。

 

 

「オレをすぐに地球に返してくれ……ダークネスか何だか知らないけど、そんなことでヤミを傷つけるなんて許せない」

 

 

頭にはあるのはそれだけ。ただの姉妹喧嘩ならまだいい。変身兵器である二人の問題だと割り切れた。でもこれは違う。男として見過ごすわけにはいかない。

 

 

「素敵な眼……♪ でもマスターの命令は絶対だからそのお願いは聞けないかな」

 

 

自分がベッドに押し倒されているというのに全く臆することなく、むしろ目を輝かせながらメアはそんなことを口にしてくる。それを前にして自分にはできることはない。力づくでは自分はメアには到底かなわない。この部屋から抜け出すことも、よしんば抜け出したとしても地球に戻る手段もない。あきらめかけたその時

 

 

「でも、そうだね……リトお兄ちゃんが自分の意志でわたしにえっちぃことをしてくれたら少しは考えてあげてもいいかな?」

「え……?」

 

 

メアから予想していなかった提案が飛び出してくる。いきなりのことで何を言われたのかすぐには理解できない。だがすぐに理解させられてしまう。メアはその腰にある帯を外し、浴衣をはだけさせその裸体を自分に晒してくる。もうカラダは出来上がってしまっているのか顔は紅潮し、肌は汗で光っている。雄を誘惑する雌のような仕草。

 

 

「ほ、本当だな……? 嘘だったら本当に怒るぞ……?」

「うん、本当だよ♪ とらぶるじゃなくて、リトお兄ちゃんの意志でえっちぃことをしてくれるなんて……素敵♪」

 

 

自分の首に手をまわしながらメアは舌なめずりをしている。その光景に思わず息を飲みながらも決意を新たにする。

 

 

(そうしないと、このままじゃ……! やってやる……やってやるぞ……!)

 

 

自らの理性を総動員してこの状況を打破しなければ。だがどうしても手が震えて言うことを聞かない。どれだけ自分はえっちぃことを苦手にしているのか。このままでは何もできない。どうしても変態になり切れない。どうすれば。

 

 

――――瞬間、光明が走る。そこには後光を背に受けながらこちらを見つめているパンツ一丁の中年デブの姿がある。見間違えるはずのない、正真正銘の校長(ヘンタイ)。今の自分が成り切るべき答えがそこにはあった。

 

 

「メ……メメ、メアちゅあ――――んっ!!」

 

 

世界の敵の引き返すことのできない後押しを受けながら、叫びとともにその手でメアのおっぱいを鷲掴みにしようとした瞬間

 

 

「今帰ったぞ、メア……ん? なんだ、交尾中だったか。邪魔したな」

 

 

黒髪で褐色肌の幼女がてくてくとみたらし団子を食べながら、全く気にした風もなく自分とメアの横を素通りしていく。自分はパンツ一丁でルパンダイブをかまさんとした体勢のまま、ただ固まることしかできない。

 

 

「あ、お帰り、マスター♪」

 

 

それが結城リトとマスターネメシスの一生忘れることのない、忘れたい出会いだった――――

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。