Girls und Heiligenschein 作:ケツのインゴット
徴兵から二年。
思えばあっという間だったような気がする。
アルバトロス級輸送機の中で、マホはふと昔を思い返していた。
最初はみほを守る為に訓練を必死にこなしてきた。
だが二年たった今、この状況を望んでいるし、SPARTANの兄弟たちもかけがえのない存在となっていた。
自分を無二のリーダーとして慕うエリカとコウメ。
互いにライバル視し、切磋琢磨しあうジョンとその親友のサムとケリー。
わがままで強引だが、面倒見がよく気弱な訓練生から特に慕われているカチューシャ。
皮肉屋で物事を斜めに構えがちだが、実は純粋なアリサと、それになんだかんだとついていくナオミ。
格闘訓練で並ぶもののいないフレッド、昼寝が趣味で百発百中のリンダ、飄々としていても仲間を大切にするロン、猪突猛進気味なアッシュ、深い知識をもつファサド、冗談が大好きなルネ。
他にもたくさんの兄弟たちがいる。
皆個性的な、かけがえのない仲間で、そして家族だ。
もちろんみほのことを忘れた日は一日として無かった。
いつだって心配しているし、面倒を見れなくて本当に申し訳ないと思っている。
それでもこの場所で学ぶこと全てがみほの身の安全のためになると思えば、我慢もできる。
それに、いつか自分たちの役目が終わった時にまた会うことも出来るようになるだろう。
その時は兄弟たちをみほにも紹介しよう。きっと仲良くなれるはずだ。
「リーダー、もう着くみたいですよ」コウメに肩を叩かれる「今のうちに地形を確認しちゃいましょう」
「わかった。ありがとうコウメ」
今から始まる訓練は、おそらく全員バラバラに輸送機から降ろされるのだろう。
そう予想したマホは周りの兄弟たちに輸送機の窓から地形を把握しておくよう、小声で伝えておいたのだ。
「今回の任務は簡単だ」
そう言ってメンデスは紙束を取り出し、ケリーに手渡す。
「配ってくれ」
「はい!」ケリーが敬礼をし、全員に紙を配り始めた。
マホが渡された紙を見ると、それは大きな地図のひとかけらに見えた。
「これから降下する地域の地図の一部だ」
メンデスが訓練の説明を始める。
「地上に降りたらその地図に書いてある回収地点に行け。迎えを寄越す」
思った通りだ。マホはほくそ笑む。
「ひとつ言っておくことがある。最後に回収地点にたどり着いた者は、ここに取り残される」
ここから徒歩だと。マホは顔を大きくしかめた。
この地域は輸送機でもだいぶ時間がかかった場所だ。徒歩になると戻るのにいったいどれだけかかることか。
さらには雪も降っている。この辺りは山脈で、雪崩でも起きたら大変なことになりかねない。
そんな場所に兄弟を一人置いていけるものか。
ジョンを見ると、この恐れ知らずの兄弟もまた顔をしかめていた。
117番…ジョンがまず最初に降りた。
わたしはその次だ。
輸送機が少しの浮遊感とともに止まり、雪原へと着陸する。
ここがマホの着陸地点のようだ。
「リーダー、ご無事で」
コウメが不安そうに言う。彼女はいつでも心優しかった。その優しさに何度マホやエリカは救われた。
「大げさだよ、わたしは大丈夫さ」マホは彼女を安心させようとする。
「212番!前部中央に向かえ!」
「わかりました、チーフ・メンデス」
「すぐ行くからね、リーダー」エリカがエンジン音に負けじと叫ぶ。
それを背にマホは雪で覆われた土の上に飛び降りた。
降りたマホは、まず上空から見た地形を参考にジョンとの合流を目指す。
たしかあの川を背にして進めば、ジョンの着陸地点へ行けるはずだ。
マホはそう考え、川を背に進んでいく。
しばらく進むと、ジョンがブルーベリーを摘んでいるところが見えた。
「ジョン」マホが呼びかける「まずはわたしたちだな」
「そうだな。あとはサムあたりと合流したい。それからみんなで決めた合流地点にいこう」
「わかった」
「ブルーベリー食べる?」ジョンがたずねる。
ずいぶんとたくさん摘んだ様だ。仲間思いのジョンらしい。
「ありがとう。もらっておこう」
「ところで、どうする」ジョンが聞いてくる「俺は一人だけ置いていくなんてできない。みんな家族だ」
マホは、やはりSPARTAN のリーダーになるのはジョンが相応しいと考える。
「そうだな…輸送機を奪って全員で帰るとか」
「本気?それは…いい考えだな。チーフがいなけりゃ出来たかもしれないけど…」
「いない隙を狙うとか。メンデスがいるとも限らないしな」
「確かに。考えてみよう」ジョンはうなずく。
「ところで…マホってその…結構過激なこと考えるんだな。あんまりそういうこと言わないって思ってたよ」
「普段は、な。だが今回は違う。兄弟の誰かを犠牲にしてのこのこと基地に帰るわけには行かないよ」
「それに」マホは続ける「メンデスも言っていた。”チームメンバーを犠牲にして1人だけ勝っても、それは負けだ”と」
ジョンは大きく頷いた。自分のライバルが、自分と同じ考えを持っていることにジョンは大いに元気づけられたのだった。
少ししてサムとも合流し、他愛ない話をしているうちに合流地点である湖に到着した。
湖を一周し、集まっていた兄弟たちと合流。これで全員そろった。
ジョンは皆を集め、地図をパズルのピースの様に組み合わせた。
ちょうどカークの持っていた欠片に回収地点が記されていた。
「ここだ」
「でもここからだと丸一日はかかるぞ」サムが続ける「すぐに出発しないと」
「よし、行くぞ」ジョンは言った。
しばらく歩いていると、ファジャドが言った。
「今のうちにさ、誰がここに残るか決めておこうよ」ファジャドが続ける「僕たちはみんな一緒に回収地点に着くんだろ?誰かが残らないと」
「くじ引きで決めるとかどうかしら?」アリサが皮肉気に言った。
「だめだ」
ジョンが力強く言った。
「誰かが残るなんてだめだ。全員で帰るんだ」
「でもどうするの?」ケリーが頭をかきながら言う「メンデスは…」
「そのメンデスは言っていた。”チームメンバーを犠牲にして1人だけ勝っても、それは負けだ”と。それを守ろう」
マホはジョンに言った言葉をもう一度、今度はみんなに向かって言う。
ジョンはそれにうなずき、言った。
「マホの言うとおりだ。まだ方法は決まり切ってないけど、必ずみんなで帰るんだ」
そして太陽が空の端を赤く染色し始めたころ、一行はようやく回収地点に到着した。
降下艇を見つけたが、周りの様子がおかしい。
ジョンとサムが偵察に行くと、四人の男たちが降下艇の周りを固めていたという。
しかも軍服は着ておらず、見覚えもないとか。
まずは彼らが自分たちを見たとき、どんな反応するかを知っておきたい。
そうマホが言うとジョンはうなずき、考えをめぐらせた。
「それには誘いウサギがいるな」
そう言うとケリーが立候補した。
「あたしがやる。この中で一番早いの、わたしだからね」
「わかった、奴らを誘い出してくれ。俺は様子を見る」
その一方、マホはエリカに指示を出す。
「エリカ、足が折れたふりをして道に出てくれ。ケリーがおびき寄せた奴らに見せつけるんだ」
「残りは集まって森の中に待機」ジョンが言う「あいつらがエリカを助けようとせずに何かしようとしたら…」
「オオカミの授業を覚えてるな?」マホがジョンの言葉を続ける「あれをやる。石を集めるんだ」
全員がにやっと笑った。
「ねえ!あそこで友達が怪我してるの!助けてあげて!」
ケリーが大声で男たちに言う。
それを聞いた男たちは警棒をつかみ、ケリーに近づいてきた。
「あっちよ!」そう言ってケリーはエリカの方向に走っていく。
男たちは追いかけたが、ケリーにはとても敵わず見失ってしまった。
「ちっ、つまらん」
「張り合いがないなまったく」
「所詮は餓鬼どもさ」
ジョンはこれ以上聞く必要はないと、その場を離れた。
彼らはやはり敵だ。
「痛い!誰か助けて!」
エリカの声が森の中に響いた。
「さっきの餓鬼が言ってた奴か」
男たちはエリカに気づく。
「あっ、ねえ!足が折れてる!すごく痛いの!助けなさいよ!」
男たちは警棒に電流を流しながらすぐそばまで近づく。
「ああ、もっとひどくしてやるよ、嬢ちゃん」
「今だっ!」
マホの鋭い指示が飛ぶ。
突然、おびただしい数の石つぶてが飛んできた。
七十五人分の石を浴び、男たちはたまらずうずくまり、そのままなすがままにされた。
そのうち男の一人が警棒を取り落した。
マホはそれを拾い、電流を流してうずくまった男たちを叩く。
それに乗じて他の子供たちも一斉にとびかかり、男たちを滅茶苦茶に殴打した。
マホは冷たい目で血まみれになった男たちを見下ろす。
マホは怒っていた。仲間を、兄弟を、エリカを傷つけようとしたのだ。思いっきり頭を警棒で叩いてやりたかったが、我慢した。ジョンも同じように怒り、しかしそれを抑えていたからだ。
ともあれ降下艇は確保した。
マホは全員に乗り込むよう言い、コクピットに向かう。
マホはCOMでデジャに操縦を頼み、オートパイロットで基地に帰還したのだった。
ジョンとマホは気を着けの体制で、チーフ・メンデスのオフィスに立っていた。
あの後、呼び出されてしまったのだ。
冷や汗が流れる。マホとジョンはすっかり萎縮してしまっていた。
そこにあの女性…ハルゼイ博士が入ってきた。
「こんにちは、ジョン、マホ」
ハルゼイ博士だけが、数字ではなく名前でマホ達を呼ぶ。
「117番、それと212番!」メンデスが怒鳴る「なぜUNSCの所有物を盗み、また降下艇を見張れと指示していた男たちを攻撃したか、説明しろ!」
マホたちは謝罪したかったし、償いもすると言いたかった。
だが泣き言と言い訳は絶対にしたくなかった。だからこそ堂々と答えた。
「チーフ」ジョンが言う「見張りは軍服も、階級章も身に着けていませんでした。身元が不明なので、自分たちの安全を図るために攻撃したまでです!」
「うむ」メンデスは報告書に目をやった「そのようだな。では降下艇を盗んだことについては?」
「誰も置いていくわけにはいかないからです!チーフ」ジョンは答える。
「降下艇を盗んだことは、ジョンは関係ありません」マホが声を張り上げる「それは私のアイデアです。わたしが考え、実行しました」
「何言ってるんだマホ!」
「静かにしろ!」メンデスが吼える。
「どうしましょうか、マダム」メンデスはため息をつき、少し困ったようにハルゼイ博士を見た。
「それは明らかね、チーフ。ジョンを部隊長にし、マホを副長に置くようにするのね」