Girls und Heiligenschein   作:ケツのインゴット

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第五話 小さな暴君

 

翌日の訓練も、昨日とおおむね同じ内容だった。

 

朝の運動にストレッチ。

 

2キロ走ってデジャのもとに向かい、座学を受ける。

 

今回はオオカミの映像だった。

 

オオカミは群れで襲いかかり、自分よりも大きな相手を仕留める、といった内容だ。

 

チームプレイの重要性はよくわかっているので、真剣に授業を受けた。

 

隣のジョンもクラッカーを摘まんだりはしてこなかったし、マホもジョンの牛乳を飲むことはしなかった。

 

やがてオオカミが巨大なヘラジカを仕留め、貪り食う場面ではコウメが小さな悲鳴を漏らしていた。

 

 

 

そして授業が終わると、子供たちは再び遊び場に集まった。

 

遊び場は昨日と様変わりしており、ロープの本数が増え、滑車が追加され、さらにはベルの付いたポールの高さが20メートルとなっていた。

 

今度は昨日の様には行かなそうだ。きちんと三人一緒に進んでいく必要がある。

 

そこでマホはコウメを真ん中に置き、自分が前、エリカが後ろの塊を作って進むことにした。

 

後はルートだが…マホは道が細めで滑車が少ないルートにした。一人がミスをしても他のメンバーがすぐに手助けしやすいルートだからだ。

 

その作戦を二人に話していると、ふとチーム11が目に付いた。

 

 

 

チーム11は長身だが気弱そうな少女と、4歳のみほと同じくらいの背の少女。そして穏やかそうな少年のチームだ。

 

トレーナーのタグにはそれぞれ〈Nonna‐102〉〈Ekaterina‐073〉〈Jorge-052〉とあった。

 

エカテリーナが指示を飛ばし、ノンナとジョージはそれに応えようと指示の内容をイメージトレーニングしていた。

 

これは厄介だ。強敵になりそうだとマホは思った。

 

 

 

「行け!」メンデスの号令が飛ぶ。

 

マホたちチーム6は塊となり、その質量で他の候補者を跳ね飛ばしながら突き進んでいった。

 

チーム11はエカテリーナがその身長を活かし、ロープの間をすいすい進んでいく。

 

ジョンたちチーム3は非常に足の速い少女が全員抜かして滑車付の籠に乗ろうとする。

 

そうしてそれぞれが違うルートで進む。

 

 

 

最初にポールのそばに着いたのはエカテリーナだった。

 

ロープまみれの道を大幅ショートカットし、ベルのすぐそばの台に立ち、残りの二人のために、置いてあった滑車付エレベーターを下に放り投げた。

 

ノンナとジョージは体格がよく、そのおかげであっという間に滑車のロープを引き、頂点に到着しベルを鳴らした。

 

が、ここで問題が起きた。エカテリーナの背が低く、ベルに届かないのだ。

 

そこで長身のノンナがエカテリーナを肩車し、無事にベルを鳴らすことが出来たのだった。

 

 

 

チーム3は昨日のジョンのワンマンが嘘のようなチームプレイをし、三位に入っていた。

 

マホのチーム6は四位だった。早さよりも確実性を取ったためだ。

 

 

 

終わった後、最下位以外のチームが夕飯を食べていると、エカテリーナがチームメイトをつれながら話しかけてきた。

 

「あんた、中々やるわね」

 

「どうしてだ?」マホは訝しむ「わたしたちは四位で、君たちは一位。その言葉は二位辺りにでも言うべきじゃないのか」

 

「そうかもね」エカテリーナはうなずく「でもね、他のチームは危ない橋を渡ってた。それとは逆にあなたたちは危なくないように集まって進んでいたじゃない」

 

「それがどうしたんだ」

 

「あなたの指示でしょ?」

 

「ああ…」

 

「やっぱりね」エカテリーナは得意げに続ける「ふつう、競争で一位をとっちゃうと次も絶対にとるって考えちゃうじゃない」

 

「そうかもな」マホは答える。

 

「だけどあんたは違った。いそがずあわてずにチームの安全を考えて作戦を立ててた」

 

エカテリーナはにぃと口元を歪めて言った「そうそうできないわよ、そんなこと」

 

 

 

「よしてくれ」マホは手を横に振る「買いかぶりすぎだよ」

 

「そうかもね。でも、カチューシャはあんたが気に入ったのよ。ありがたく思いなさい」

 

「カチューシャ…きみの愛称か」

 

「そうよ!エカテリーナでカチューシャ!まだノンナとジョージにしか呼ばせてないけど、特別にあんたたちにも呼ばせてあげるわ!」

 

「それはうれしいな」

 

「わかればいいのよ!」

 

そこにジョージが口をはさむ

 

「カチューシャはお友達が出来てうれしいだよ。ねっ?」

 

「ジョージ!余計なこと言わないの!」

 

その光景にマホは微笑ましくなり、手を差し出した

 

「ふふふ…これからよろしく。カチューシャ」マホが言う「一緒に頑張ろう」

 

「ええ、よろしくね!マホーシャ!」

 

カチューシャがマホの手を握る。

 

「マ、マホーシャ?」

 

なんだそれは。

 

「そうよ」カチューシャが胸を張って言う「あんたの愛称!これからそう呼ぶからね!」

 

なんて強引な。拒否権はないのか。

 

まるで暴君だ。

 

珍妙な愛称にノンナやジョージ、エリカにコウメ、果ては向こうの席のジョンまで笑っていた。

 

「あ、ああ…」

 

「じゃあね。ピロシキ~」

 

唖然とするマホを気にも留めず、カチューシャ達は手を振りながら去って行った。

 

 

 

「中々変わった人たちでしたね」先ほどまで笑っていたコウメが言う「マホーシャ…くくっ」

 

いや、まだ笑っている。

 

「こ、こら。笑っちゃ…駄目よ…ぷふっ」エリカまでも。

 

マホはなんだかすごく恥ずかしくなり、素早く食事を済まそうとした。

 

早く自分のベットに突っ伏したかったのだ。

 

真っ赤になりながらも、急いで夕食をかき込む。

 

「おい!」メンデスが注意する「よく噛んで、ゆっくり食え。体によくないぞ!」

 

「すみません!」

 

マホはあわてて謝った。

 

それを見たほとんど全ての子供たちによって、食堂は爆笑の渦に巻き込まれたのだった。

 

 

 

 

 

余談だが、しばらくマホはジョンや他の皆にもマホーシャと呼ばれるようになってしまった。

 


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