Girls und Heiligenschein 作:ケツのインゴット
暗い闇の中から意識を戻したとき、まほは無機質な鋼鉄のはらわたの中に横たわっていた。
酷くだるい。昔風邪を引いた時よりもずっと。
今自分はカプセルのような…見たことがある、コールドスリープポッドだ。そこに入れられている。
カプセルのふたが開く。
そこからどうにか上体だけ起こし、あたりを見回してみる。
機能性のみが目的な空間。油や鉄の匂い。そして見知らぬ男。
見知らぬ男、彼は何らかの制服を着ており、どこかの組織に属しているようだった。
「あの」
まほは恐る恐る声をかけた。
男は何も答えない。
「あの!」今度は強く言ってみた「わたし、どうしてここにいるんでしょうか」
やはり男は何も答えない。
それでも挫けずもう一度聞く。
「ここはどこですか。妹は?」
今度こそ男は反応した。言葉ではなく視線でだ。
「ひっ」
その剣幕に、おもわず声を漏らした。
「着いたぞ」
どこに?なにが?そう聞く暇もなく、それまでいたコールドスリープポッドから起き上がらせられた。
天井や壁が妙にぴかぴかした施設の中を進んでいく。
途中の通路で同年代の少年少女たちも自分と同じように連れて行かれているのが見える。
そのまま更衣室に連れて行かれ、少年少女たちと制服に着替えさせられた。
その制服には一人ひとり数字と名前が振ってあり、自分のは〈Maho‐212〉と書かれている。
まるで囚人のようだとまほは思う。
着替えが終わると、またどこかに連れて行かれた。今度はあの男もいっしょだ。
私の保護者かの様に前を歩いていく。周りを見ると、ほかの子供たちも同じのようだ。
お家で見たことがあったかもしれない。たしかハーメルンの笛吹き男だったか、あの本の挿絵によく似ているかもしれない。
まほはそうぼんやりそう思った。
そうしているうちに扇状の広い部屋に着く。
真ん中に女性が立っている。あの人はあの時の女性だ…
まほは酷く驚いた。隣を見ると、丸刈りの男の子も驚いているようだった。
席に着けと言われ、そのまま席に座るとあの女性が咳払いをして話し始めた。
「海軍規約45812条により、あなたがたはここにUNSC特殊プロジェクトに徴用され、SPARTAN‐Ⅱというコードネームを与えられます」どこか声が上ずっている。
右斜め前の女の子が立ち上がって部屋から逃げ出そうとしていたが、付き添っていた大人によって抑えられていた。
あの女性が一歩前に出た。
「あなた方は人類に仕えるために選ばれたの。訓練を受け、最高の戦士になって、地球と植民地のすべてを守るために」
そうか。
まほの中に何かがすとんと落ちた。
最近、特に反乱軍の活動が活発だとお母様に聞いたことがある。
ほんの3、4年前にも首都ウルガルドの市長が暗殺されたとか。
ハーベストは駐留する軍隊が少なく、そういった集団から標的にされやすいとも話していた。
そんな存在から植民地を守る。それはハーベストも…ひいてはみほも守れるはずだ。最早心の中に先ほどまでの不安と恐怖心はない。
「理解するのは難しいかもしれません。でももう家には帰れないのよ」
みほにもう逢えない。それはもちろん悲しい。胸が張り裂けそうなほどだ。
だが、まほはもうずっと前から、部屋で一人で泣いているみほを見てから決めている事がある。
”みほのためならなんでもする”と。
「ここがあなたたちの家になるの」
女性が強張りを隠せていない声で言った。
「これからは、一緒に訓練を受ける皆が家族よ。訓練はとても難しいしとてもつらい。けどあなたたちみんな、一人残らずやりとげるわ」
嘘だ。まほは直感でそう感じた。おそらく立ち止まりでもしたら置いて行かれる。
「今日は休んで。明日から訓練が始まります」
「解散!」
一際体格のいい男が声を張り上げる。
それを合図に、子供たちがぞろぞろと部屋を出ていく。
みな打ちひしがれた表情であったり、困惑しきった表情だが、誰一人泣いてはいなかった。
まほはそれを当然と考え、泣くどころか、むしろどこか誇らしげに部屋を出て行くのだった。
禁句[217ってナンバーでかすぎじゃね?候補者って150人っしょ]