Girls und Heiligenschein 作:ケツのインゴット
「お姉ちゃーん、こっちこっちー!」
「ああ今いくよ、みほ」
元気いっぱいな四歳の妹のみほ、それに連れまわされる落ち着いた七歳の姉のまほ。
それは地球から最も遠い農耕植民地惑星ハーベスト、その一都市グラデシェイム市にある大きな屋敷の近所に住む人達にとって、よく見る光景だ。
「前を見て走って、みほ」まほは少し低く作った声でつづける「また転んでも知らないぞ」
「大丈夫だって!そんな何回も転ばないもん」
みほはやんちゃで、走り回るのが大好きな子供だった。それとは対照的にまほは物静かであまり多くは語らない性格だった。
物心つく前に父は亡くなり、母は父の仕事の引継ぎで忙しく、手伝いの人は財産管理で構うことができない。
そんな環境で、まほがまだ幼いみほを一生懸命に世話をした。そのためかみほはまほを姉としてより、むしろ母として意識していた。
母代わりの姉のに甘える妹。ほほえましく、そしてどこか歪な姉妹。
そんな二人が、今日はいつもより遠くに出かけることにした。もちろん妹みほの考えだ。
「みてみてお姉ちゃん!畑だよ畑!」
「いつもお家の近くで見てるだろう」
「違うよお姉ちゃん!」みはは頬を膨らませる「あれは小麦!これはとうもろこしの畑だもん」
「そうなのか」まほは心から感心したように言う「みほは賢いな」
「えへへ、でしょ?みほ、お家の本で習ったんだー」みほは花が咲いたように笑った。
みほの笑顔。この笑顔が見たくて、まほはよくないと思いつつも、ついつい甘やかしてしまう。
姉もまた、違う形で妹に依存しているのだった。
「お姉ちゃん、みほあの畑で遊んでくる!」
「ああわかった。私はここで見てるよ」
「うん!」
みほは持ってきた戦車のオモチャと、奇妙なデザインをしたクマのぬいぐるみを持ってトウモロコシ畑に走って行った。妹の趣味は変わっているのだ。
その様子をぼんやり見ていると、視界の端にどこか異質な雰囲気を纏った女性が目に入る。
なんとなくその女性を眺めていると、目が合った。
少しぎょっとしていると、女性の方からまほに近づいてくる。
「あなた、名前は?」
「西住、まほです」
「ご家族はいらっしゃらないの?」
「母と妹だけです」
「そう…」
「あの」まほは少し怯えていた「この畑を持っている人でしょうか」
「うん?」
女性は目をパチクリさせる。
「もし持っている人でしたらすいません。あそこで遊んでる妹に注意してきます」
「いいえ、ちがいます」女性は少し笑って「あなた、しっかりしてる。いいお姉ちゃんなのね」
「そんな…」まほは頬を赤らめた「そんなことありません、姉として当然です」
「でもその当たり前のことができるお姉ちゃんが、どれほどいるのかしらね」そう言いながら、女性は手元のホロパッドに何かを書いた。
「あなたの妹さん、いつもああして遊んでいるの」
「ええ。元気な妹です」まほは目を細めた「妹のためなら何でもできます」
「ほんとうに?」いやに真剣な目をして女性が問う。
まほはそれに少しむきになって言う。
「当たり前です。姉ですから」
「そう…」
それから女性は何も言わず、遠くで背を向けて遊んでいるみほをただじっと見つめていた。
「みほはああなると一時間でも二時間でも遊んじゃうんです。わたしが見ていないと不安で…」
「そう…」
また気のない返事。まほは少し怪訝に思い、女性の覗き込もうとする。
何かをこらえている表情…どこかで見たことがある。そうだ、たしかあれは…
「…ごめんなさい」
「え?」思わず聞き返した「どうして謝るんですか」
もしかしてやっぱり畑の持ち主で、みほを怒ろうとしているのかも知れない。
思わずみほを大声で呼ぼうとしたが、後ろからなにかやわらかいもので口を塞がれ、声は出なかった。
「ごめんなさい」
この表情はさっきと同じ…これは久しぶりに三人でお夕食をたべたときのお母様の表情だ…
それを思い出した次の瞬間、意識は黒い闇の中に落ちて行った。
禁句[博士って徴兵には立ち会ってなくね]