Girls und Heiligenschein   作:ケツのインゴット

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禁句[ガルパンじゃなくてよくね]


SECTION1 《SPARTAN‐Ⅱ》
ある日、ある戦場で


 

 

「畜生!」

 

ウォレス・ガルスキー二等軍曹は今日何度目になるかわからない悪態をついた。

 

「おいリース!弾薬はあとどのくらい残ってる!」

 

「ライフルのマガジンが5、グレネードが3であります、サー」

 

「くそっ、あいつら数が多すぎるぜ!こちとら海兵隊員が3人しかいねえってのによ!」

 

マイケルソン伍長が毒づく。

 

「マイケルソン、喋る前に撃て!」ウォレスが怒鳴る「ブーツをケツにねじ込まれてえのか!」

 

「そう言われましてもね、こう数が多いんじゃあ愚痴のひとつも言いたくなるってもんですよ!」

 

ウォレス率いる海兵隊はリカッソ基地の陥落を知り、後方の検問所まで後退。

 

しかし敵の執拗な追撃を受け、20人いた海兵隊は今やたったの3人。

 

さらに無線機は先ほど通信兵ごと天に召された。COMリンクも使えない。

 

絶望的な状況だが、人類にとってこの程度は最早”ありきたりな”絶望でもあった。

 

 

 

 

 

「サー、もうほとんど弾がありません」

 

「そうか…」ウォレスはうなずき、ため息をついた。

 

グレネードが底をつき、弾薬もアサルトライフルに装填された分で最後となってしまった。

 

「もうこれ以上は…」

 

「いやだ…俺はあきらめねえぞ!」

 

伍長はもはや泣き叫びながらライフルを抱え、身を乗り出した。

 

「よせ!」

 

プラズマの着弾音、そして肉と骨が焦げた匂い…マイケルソンが撃たれたのだ。

 

ウォレスは倒れた伍長を素早く引きずり戻し、怪我の度合いを確認した。

 

左腕があった場所は溶けたボディーアーマーと半ば溶け合っている。プラズマにより出血こそ少ないものの、彼は被弾のショックによりひどく衰弱していた。

 

早く病院に搬送しなければ間違いなく死ぬ。そういう類の傷だった。気絶しているのが唯一の救いか。

 

バイオフォームで応急処置を試みようとするものの、あの撤退戦のとき医療兵の死体ごと置いてきたことを思い出す。

 

あの時危険を冒してでも取りにいっていれば…そう意味のないことを考える。

 

 

 

そしてもっとまずいことに、伍長が戦線を離脱した影響で敵部隊が一気に検問所に押し寄せてきたのだ。

 

気づいた時には青白く光る二又の剣を持つ敵の、4つに割れた顎がはっきりと見えるほど接近されていた。

 

「ここまでか…」

 

せめてハヴォック戦術核があればあの糞忌々しい顎割れ野郎どもを吹っ飛ばせたかもしれないが…

 

そう負け惜しみを思いつつ、ウォレスが目を閉じて運命を受け入れようとしたその瞬間。

 

 

 

 

 

「グァァ!」

 

今まさにウォレスに切りかかろうとしていた敵は、鋭い銃声とともに左胸に拳大の穴をあけて絶命していた。

 

突然の出来事に紫色の返り血を浴びたウォレスも他の敵もあっけにとられ、銃声のした方向を見た。

 

いつの間にか真上を飛行している黒く塗装されたペリカン輸送機…そのハッチからだ。

 

スナイパーライフルを構えた黒いアーマーとヘルメットにオレンジのバイザー…

 

『遅くなってすまない。救援要請を受け取ってここに来た。後は我々SPARTANに任せてくれ』

 

近接通信で命の恩人が呼びかけてきた。

 

あの通信兵だ!天に召される前にしっかり仕事をこなしていてくれたのだ!

 

「は…ははは!やったぞ!」

 

ウォレスは恋人にも囁いたことのない睦言を今は天にいる通信兵に言いたくなった。

 

もう安心だ。後は彼女らに任せておけばいい。

 

彼女らは3人ほどの人数の様だが、あの大部隊をいとも簡単に一掃してしまうだろう。

 

なぜなら彼女たちはSPARTANなのだから!

 

 

 

 

ほどなく戦闘は終わった。当然、あちらの全滅という形でだ。

 

噂には聞いていたが、味方から見ても寒気がするほどの戦闘力だった。

 

まず隊長と思われるスパルタンがペリカンから飛び降り、敵の射撃を避けつつ敵後方に突撃。

 

他のスパルタン達は隊長をペリカンから援護しながら「ついでに」検問所付近の敵を排除し海兵隊の安全を確保。

 

その間に敵後方に到達した隊長は敵戦車レイスを奪取し大暴れしていた。

 

そしてそちらに敵の注意が向いている隙に、他のスパルタン達はペリカンから降下し背後から急襲。部隊長やマークスマンを優先して排除し、敵部隊を混乱させた。

 

恐慌状態の敵を容赦なくペリカンのミサイルと奪ったレイスのプラズマ砲撃で攻撃し、そのまま敵は壊滅した。

 

まるでルーチンワークのような安定感。おそらく流れ作業になってしまうほど、同じやり方を何度もやってきたのだろう。

 

ウォレスはまだ自分が生きている喜び、戦闘の後の高揚感、そしてスパルタンの戦いぶりを見て感じた恐怖に似た感覚。

 

それらがない交ぜになり、しばらくの間放心状態となっていた。

 

 

 

 

 

「無事なようで安心した」あのすさまじい戦いの後とは思えないほどの平坦な声により、ウォレスは我に返った。

 

「ペリカンに乗ってくれ、そちらの彼を速やかに後方へ移送しなくてはならない」

 

「あ、ああ。そうだな。はやいとこマイケルソンを病院につれてかねぇと…バイオフォームを持ってるか?」

 

黒いペリカンに乗り込みつつ、ウォレスはスパルタンの隊長に尋ねた。

 

「無論ある。多めに載せているから、あなたたちも使うといい」

 

「すまない」 ウォレスはらしくもなく感極まった。「それとありがとう、スパルタン」

 

「気にしないで欲しい。そのために私たちはいるのだから。…ブラック2、出せ」

 

『了解しました、ブラックリーダー』

 

 

 

 

ペリカンが地面を離れ始め、VTOLの独特な浮遊感を感じながら、ウォレスはバイオフォームをマイケルソンの傷口に噴きつける。

 

少しして、マイケルソンは安らかな寝息を立て始めた。容態が良くなったようだ。

 

ここにきて、ウォレスはようやく一息つくことができた。

 

先の見えない戦いだが、こちらにはSPARTANがいる。それに俺はまだまだくたばらないぞ。

 

煙草に火を着けながらウォレスはそう決意を新たにするのだった。

 

 

 

 

 


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