Girls und Heiligenschein   作:ケツのインゴット

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第十三話 英雄

 

 

 

ハーベスト奪還作戦が発令されてから五年。戦局はいよいよ大詰めに入った。

 

地上、宇宙戦両方で大きな被害を出しつつも、UNSCは泥沼の戦いを経てようやく奪還まで後一歩の所まで来た。

 

宇宙ではほぼ敵艦を掃討し終えたとの情報が入ってきたが、まだ地上には相当数のコヴナント残存兵力が抵抗を続けており、今はヴィグロンド高地に墜落した空母の残骸に集結している。

 

残存兵力と言っても、大隊クラスの人員と機甲戦力が存在し、空母の残骸などでバリケードを張り、場合によっては疲弊したUNSC地上戦力も危ぶまれてしまう。

 

そこでUNSC艦隊司令部は敵がこれ以上の防衛体制を固める前に一気に攻め落とす作戦に出た。

 

 

 

 

 

ブラックチームは、その第一波として派遣される部隊のワートホグ偵察車両に揺られていた。

 

「いよいよですね、隊長」

 

「ああ。これが終わればようやく弔うことが出来る

 

弔いと言う言葉は、マホの家族やハーベスト市民だけでなく、ハーベスト戦にて死亡したSPARTANにも向けられている。

 

ディジーの事だ。彼女はジョンが看取った。ペリカンを守ろうとしての名誉の戦死だったという。

 

「…みんな、ここまでついてきてくれて感謝する」マホが頭を下げながら言う。

 

「気にしないでください。したくてした事なんですから。ね、エリカさん」

 

「そうですよ!」後方のチェーンガンの銃座に立つエリカもそれに同調する。

 

「それでもだ。…ありがとう」

 

「見えてきました、エレファントです」コウメが前方を指し示した。

 

 

 

エレファント。非常に大きな履帯付き移動基地、といった趣のUNSC陸戦兵器である。

 

4器のチェーンガンによって武装され、内部にはスコーピオンMBTなどの戦闘車両を搭載できる。

 

このエレファントに搭乗し、海兵隊員とともに敵高射砲などの防衛設備を先んじて攻撃するのが、今回のブラックチームの任務だ。

 

ブラックチームは、後部ハッチからワートホグをエレファントに乗せると、簡易武器庫に向かった。

 

「皆、SPNKrをひとつずつ持て」マホがSPNKrロケットランチャーを指さす「火力があればあるほどいい」

 

「了解」

 

「このグレネードランチャーも貰いましょうか」

 

そう話していると、先ほどから遠巻きに見つめていた数人の海兵隊員がマホたちに近づいてきた。

 

「お、おい、あんた達が噂のスパルタンか?数人でコヴの大部隊を倒したとか、空母に潜入して中から吹っ飛ばしたとか言われてる…」

 

マホ達はしばし目を見合わせる。

 

「ええ…まぁ」エリカが答える。

 

「ホントか!すげえ!これでハーベストからクソッタレどもを追い出せる!」

 

「頼むぜスパルタン!あんた達は俺たちの希望だ!」

 

「そうさ、英雄だ!」

 

海兵たちが騒ぎ立て、それにつられ集まってきた他の海兵も加わり、エレファント内の士気がにわかに上がり始める。

 

こういった状況に慣れていないマホ達は困惑するものの、高い士気が兵士に備わっている状態は望ましく、また最大の能力を発揮できると知っていたため、悪い気はしなかった。

 

「…私達を頼ってくれてを光栄に思う」マホがブラックチームを代表して発言する「しかし我々は君たちがスパルタンを頼るように君たちを頼っている。この作戦の成功は全員の奮闘にかかっている。共に戦おう」

 

このマホの短い演説に海兵隊員は熱狂し、また同時にこのSPARTANの為なら命を捧げよう、それは結果的に人類を守るために繋がるはずだ、と。そう決意したのだった。

 

マホは本人も気づかない天性のカリスマを持っていた。

 

 

 

「このエレファントだが」マホはエレファントドライバーに尋ねる「どれ程の装甲を持っている」

 

「この”マリリン”か?そうだなぁ正面ならレイスのプラズマやバンシーのロッドガンぐらいならビクともしないぜ。乗り込まれたらやばいけど、あんた等がいるならその心配もいらないしな」

 

「わかった。ブラック2、何か考えはあるか?」

 

マホたちは自分たちの素性が露見しないよう、SPARTAN以外のいる場所ではコールサインなどで呼び合うように教わっていた。

 

「そうですね…ここは正面装甲を頼りに敵防衛陣に突入して撹乱しつつ、搭載したスコーピオンを出撃させ、一気に高射砲を叩きます。その後は素早く岩棚の裏に後退し、爆撃を要請。残りは後続部隊に任せます」エリカが一息に自分の作戦を述べる。力任せだが、これがブラックチームを最も活かせる戦い方だ。

 

「よし、それで行く。ただし臨機応変にな。スコーピオンにはブラック3が乗れ。ブラック2はエレファントの護衛だ。私は遊撃しよう。海兵たちはエレファントの操縦とチェーンガンによる対空射撃に注力してくれ」その場にいる全員が首肯するのを確認し、マホは配置に付くよう命令を下した。

 

 

 

 

 

「さあ行くぜ!マリリン!」

 

高揚したドライバーの叫び声とともにエレファントが重々しく動き始める。

 

エレファントはそれほど速くは無いものの、その大きさもあって途轍もない威圧感を放っていた。

 

「合図したら発進させろ、ブラック3」

 

「了解」

 

エレファントはずんずんと防衛陣地に突き進んでいく。

 

「敵射程内です。レイスの砲撃に注意」エリカが周囲にも聞こえるよう報告する。

 

エリカの言った通り、前方の平原から数両のレイスがプラズマ迫撃砲を放って来た。

 

レイスはどれも薄汚れており、中には半壊している物もあった。やはり、敵は万全とは言えない状態のようだった。

 

「少し蛇行しながら進め」マホがドライバーに指示を飛ばす。

 

「わかった!」

 

ドライバーが短く答えると、エレファントは左右に動き始める。すると先ほどまで走っていた場所にプラズマが着弾した。半壊しているレイスは多いものの、照準器は無傷の様だ。

 

エレファントは蛇行しながらもレイスが砲撃をしている陣地に接近する。最早目と鼻の先だ。

 

「このままレイスを引き潰せ」

 

「よっしゃ、任せろ!」

 

エンジンが悲鳴を上げながらもエレファントは速度を上げて突進し、進路上の哀れなレイス三両をスクラップに変えてしまう。

 

 

 

何とかエレファントの突進を免れたレイスが転進してエレファントの後部を狙い打とうとするが、そこでマホの合図が飛ぶ。

 

「今だ、ブラック3」マホがコウメに命令する。

 

「行きます」スコーピオンの履帯が動きだし、後部ハッチから発進しつつ目前のレイスに主砲を直撃させる。もろに90㎜タングステンの高速砲を食らったレイスは、溶けた飴細工の様な有様に変貌したのち、紫の炎に包まれ爆散。

 

もう一両のレイスが慌ててコウメに照準を向けるが、スコーピオンの12.7㎜同軸機銃を剥き出しのプラズマ濃縮器に浴びせられ、直結したコンデンサの暴走により内部から搭乗員を丸焼きにして沈黙した。

 

「さすがだな。後一両は任せろ」

 

そう言うとマホは走行中のエレファントの上部に立つと、エレファントの側面に攻撃を加えようとしているレイスに飛び乗った。操縦席のハッチに手を差し込み、力任せに剥ぎ取ると、中にいたエリートにナイフを突き立てプラズマガンを奪い取り、そのまま車外に投げ捨ててから操縦席に飛び込んだ。

 

「レイスを奪取。エレファントの露払いをする」

 

「隊長、ファントムが来ました」エリカが接近するファントム降下艇をマークした。

 

敵は内部から乗り込んで無力化する腹積もりのようだ。

 

「分かった。ブラック3、ファントムに火力を集中するぞ」

 

スコーピオンはその特殊な構造により、上向きにほぼ90°の俯角を取ることが出来る。これにより低速の飛行目標にも砲弾を命中させられるのだ。

 

そしてレイスは元々半重力ホバーが可能な迫撃砲。低速だが大きなプラズマ弾で、接近する飛行目標には比較的楽に狙いをつけられた。

 

この二両の大火力にファントムは少しの間耐えたのち、乗せていた兵員ごと空中で爆焔をまき散らした。

 

 

 

 

 

歓声を上げるエレファント乗員たち。しかし全てが上手く行くとは限らない。

 

周囲が突如明るくなったと同時に30mほど前の地面が真っ赤に熱されたのだ。

 

「砲撃です。あれは…メガタレット…」エリカが上ずった声で報告する。

 

メガタレットとは、コヴナント地上砲台の中でも最大級の火力を持つ兵器である。

 

その火力は、UNSCの標準的な展開式前線基地を長距離砲撃でわずか三発で破壊してしまうほど。

 

さらに六分程度で再充填され、すぐに発射可能。また弾体は実体を持たないため、迎撃も不可能。

 

どうやらメガタレットが敵の切り札の様だ。それまではアクティブカモフラージュで光学的に隠蔽されていたため視認できなかったが、突撃するエレファントに恐れをなしたか、なりふり構わず撃ってきたのだろう。

 

いかに頑丈なエレファントといえど、至近弾だけで数千度のプラズマで乗員は蒸発してしまう。

 

次段までそう時間は無い。初弾だから外れたものの、次弾は恐らく命中する。

 

このままだと全滅してしまう。マホはそう考えるが、冷静に思い返すと一つの事に思い当たった。

 

あのファントム…兵員輸送型にしては随分と軽装甲だったな。いくら二両の砲撃でもあれほど早く落ちるにはもろすぎる。輸送型は敵の攻撃ではそう簡単に落ちないようになっているはずだ。

 

そこまで考えてはっとする。

 

あのファントムは観測用だったのではないか。だからあそこまで早く接近できたのだ。兵員輸送はその目的のついででしかなかった。そしてファントムが破壊されると、エレファントの内部からの制圧を諦め、やむを得ずメガタレットの砲撃が飛んできた。辻褄は一応合うと言える。

 

確証は無いが、今はこう考えるしかない。

 

やるべきことは一つ。

 

もう一度観測機が接近するはずだ。その観測機を乗っ取り、一気にメガタレットを制圧する。それしかない。

 

マホは自分の考えを仲間に伝えると陽動を頼み、自分の考えが間違っていないことを祈りつつ観測機が来るのを待った。

 

 

 

 

 

やがて二分後、飛行物体を確認する。今度の観測機はバンシー攻撃機の様だ。

 

バンシーは上部を包むような形状の大型ハッチとブースターと飛行翼の付いた下部に挟まれるように搭乗する一風変わった攻撃機で、全長はわずか4m強ほどしかない。

 

これは好都合だ。マホはプラズマガンを構え、バンシーが自分の上空を通過しようとするのを確認すると、すかさずチャージショットを放った。

 

プラズマガンのチャージショットはバンシーに追いすがり、直撃。するとバンシーはEMPパルスにより制御を失い、慣性を保ったまま不時着。マホはそこへ全速力で疾走し、バンシーが再起動する前にハッチ側面に取りつく。

 

取りついたとほぼ同時にバンシーは再び息を吹き返し、上昇していくが、マホはそれに振り落とされないよう突起部にしがみつきつつ、開閉スイッチを引いた。

 

飛行中、突如上部のハッチを開けられたエリートはなすすべもなく蹴り落とされた。

 

難なくバンシーを奪ったマホは機体を反転させると、ブースターをフルパワーにし、一気にメガタレットに向かう。

 

機体内にけたたましく通信が入ってきた。

 

「まだ座標を確認していないぞ」「恐れをなしたのか」「すぐに戻れ」

 

様々な命令や侮蔑の言葉が機内に溢れるが、高射砲は撃ってこない。狙い通り、IFFでコヴナントはこちらを味方だと認識しているようだ。

 

 

 

この隙を逃さずマホはバンシーから飛び降り、メガタレットに乗り込む。

 

内部には操作している人員だけで、守備戦力はいなかった。タレットの操作をしているエリートの背後に忍び寄り、ナイフを首筋に突き刺し無力化すると、残りのグラント数体ををハンドガンで沈めていく。

 

マホは奇妙な宗教的・幾何学的なシンボルの浮かぶコンソールを操作し、逆に背後のコヴナント陣地に充填の済んだメガタレットで狙いをつける。

 

コンソールに警告が出るが、構わず砲撃。集結していたコヴナント防衛部隊司令所は消え去り、大きなクレーターになってしまった。

 

前方に気を取られていたコヴナントは完全に意識の外にあった物から攻撃され、また司令官の死亡により大混乱に陥った。

 

そこへ泣きっ面に蜂とばかりに到着したエレファントに前方バリケードを押し潰されると、コウメのスコーピオンとエリカが回収したレイスの攻撃によりコヴナントは総崩れとなる。

 

エレファントは本来の役目通り兵員を展開し、最高の士気を持った海兵たちは破壊目標であった高射砲を無傷で奪取。

 

背を向けて逃げ出す歩兵はチェーンガンや砲撃で吹き飛ばされていく。

 

コヴナントは退路を作らなかったため、身を守るはずだったバリケードがそのまま棺桶になってしまったのだ。

 

そうこうしている間にメガタレットのコヴナントに向けた第二射が叩きこまれる。

 

何度かそれ繰り返すと、生きている敵の姿は見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

ここに、第三波まで予定されていたコヴナント残存戦力一掃作戦は、たった一両のエレファントと搭載したスコーピオン、数十名の海兵、そして三名のSPARTANによってほとんど損害を出すことなく、僅か半日足らずで終結してしまった。

 

そしてこの戦いはSPARTANの驚異的なまでの戦闘力をUNSC将兵に広く知らしめ、ONIセクション2によるSPARTANを戦意高揚に用いる計画を押し進める一因となったのだった。

 

 

 

 


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