Girls und Heiligenschein   作:ケツのインゴット

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第十二話 CQB

マホ率いるブラックチームは、UNSCによる対コヴナント大規模反攻作戦の一助となるため、SPARTANが最も戦果を挙げられる地上戦に投入されることとなった。

 

これからブラックチームが投入される惑星はハーベスト。

 

マホの故郷だ。

 

それについてチームのメンバーや、同時に投入されるジョン達やディジーに心配されるが、マホは自分が感情によってミスを犯さないと確信している。もう家族を失うのはたくさんだったからだ。

 

 

 

惑星ハーベストは、コヴナントとの初遭遇により破壊され占領されたが、この度UNSCはハーベストの奪還を決意。

 

史上稀に見る大部隊と艦隊を動員し反攻作戦が開始された。

 

今回の作戦でのブラックチームの任務は、首都ウトガルドを攻撃するUNSC機甲部隊への航空支援を妨害する、コヴナント対空部隊の排除だ。

 

ウトガルドを確保できればそこを橋頭堡に戦線を拡大できる。

 

そう目論んだ司令部からSPARTAN投入の指示が飛ばされた。

 

 

 

 

ブラックチームにとって、これが初の対コヴナント戦闘となる。

 

マホたちは地上戦へペリカン輸送機で降下する前に、まだ情報の少ないコヴナント歩兵ユニットの情報を入念に確認していた。

 

 

 

2m強の身長を持ち、高い身体能力と全身に薄い膜の様に張られているエナジーシールドを装備した「エリート」

 

背が低く、そして最も数が多い、文字通り肉壁となって数で攻める「グラント」

 

体は貧相なものの、高い跳躍能力と優れた視力を持つ「ジャッカル」

 

4m近い巨躯を持ち、全身を覆う破壊不可能な金属の鎧と、爆発性の燃料ロッドでさながら戦車の役割を持つ「ハンター」

 

まだそれほど確認されていないが、エリートをもしのぐ怪力と耐久力で突撃する「ブルート」

 

虫の様な外見を持ち、虫の様な羽で飛行しプラズマピストルを乱射する「ドローン」

 

 

 

これらが主に前線で確認された歩兵だ。

 

特にエリートは知能が非常に高く、他のユニットの隊長格に当たるとされ、優先して排除すべしと記されていた。

 

 

 

 

「隊長」

 

エリカに話しかけられ、マホはホロパッドをいじる手を止める。

 

「どうした」

 

「いえ、我々の投入される場所についてですが…」

 

「ああ。グラデシェイム市議会館跡地だ。私は子供のころに一度母に連れられて行ったことがある」マホはどこか懐かしそうに眼を細めた。

 

「地下会議室もあり、そこを前線司令部にすると聞いた。地下だけあり、ガラス化されても残っていたのだろう。今は周囲はポッド重輸送機により兵舎やエアパッドなどが建てられ、要塞化されているているはずだ」

 

「ウトガルド外縁部に降下するのでは?」コウメが疑問を口にする。

 

「ああ、その筈だったがどうやら件の司令部が敵歩兵ユニットに襲撃を受けているそうだ。まずそこに向かい、敵を一掃してから改めてウトガルドに向かうよう指示された」

 

「また急ですね」エリカが呆れて言う「第一、何かやろうにも司令部がやられちゃ意味ありませんよ」

 

「とは言っても、敵は海兵隊員の反撃を受け、基地内の無人の兵舎とその付近の倉庫に立てこもっているようだ。こちらの戦力を見くびっていたらしい。ここでまず奴ら相手の戦闘に慣れよう」

 

「確かに。丁度いい機会だと思いましょうか」

 

隊長のマホはオーソドックスにMA37アサルトライフルを装備。エリカはM392”DMR”で遠距離をカバー。コウメはM45ショットガンで室内でのポイントマンを担当する。

 

そして全員サイドアームとして、中距離でも高い精度と威力を誇るM6Gマグナムを装備している。

 

 

 

ブラックチームが着陸地点に選んだのは、コヴナントが立てこもっている兵舎近くのエアパッドだ。

 

そこからまずは倉庫を確保。次に兵舎を制圧という流れだ。

 

コヴナントは篭城に適したエネルギーの遮蔽物を兵舎内部と入り口付近に展開。さらに戦闘力の高いエリートが内部にいるため、海兵隊は作戦区域外での損耗を恐れ、うかつに手出しできない状況だった。

 

そしてそれが敵の狙いだった。こちらの作戦行動を遅らせるつもりのようだ。

 

しかし、司令部の近くに敵が存在することを許すわけにはいかない。

 

だからこそ、スパルタンによって迅速に制圧されなければならなかった。

 

同時に、地上戦でどれほどSPARTANが有効かを示す試金石でもある。

 

 

 

「着陸地点、見えてきました」コウメがヘルメットをかぶりつつ、くぐもった声で報告する。

 

マホとエリカもそれに倣いそれぞれのヘルメットをかぶる。

 

ペリカンが短い振動とともに地面から1mの所で静止した。

 

「ブラックチーム…行こう」マホが作戦開始の合図を出し、最初にハーベストの焼け爛れた大地に着地する。

 

それに二人は頷き、隊長に続こうとペリカン後部ハッチから飛び降りた。

 

 

 

 

ブラックチームは手筈通り、素早く倉庫に接近した。

 

「敵を発見。グラントとジャッカルが多数」コウメがヘルメットの内部データベースと敵を照合し、報告した。

 

「ジャッカルは左腕にエネルギーを固定化した盾を装備しているようです。実弾武器での破壊は困難とのこと」

 

「わずかに露出している右腕を狙おう。奴らはそこから発砲してくる筈だから、注意しながらな」

 

「了解」

 

 

 

ブラックチームは敵に捕捉されないぎりぎりの所で立ち止まり、隊長の発砲許可を待った。

 

「まずジャッカルから始末する。…今だ、撃て」

 

それに二人は銃撃で答える。

 

ほとんど重なって響く異なった銃声。そして肉体が倒れる音それにマホも続き、呆然としているグラントの集団にARを叩き込み、倉庫内のコヴナントを殲滅した。

 

「よし。後は屋根から兵舎三階窓に飛び移るぞ。奴らは銃声を聞いて一階入口からの侵入を警戒しているが、三階の窓から来るとは思っていないだろう。人類の建物は熟知していないだろうしな」

 

3人は倉庫屋根から兵舎の中身を偵察する。

 

「グラント12、ジャッカル7…エリートは数不明。三階に1」

 

「情報より多い。まったく、あてにならないわね…」エリカが愚痴る。

 

「やることは変わらない。まず三階を片付けるぞ。その次は屋上だ」マホ窘める「合図で飛べ」

 

その命令に二人が頷いたのを確認してからカウントを始める。

 

「3…2…1…行け」

 

 

 

 

窓から飛び込むと同時に、マホは窓の付近にいたジャッカルの喉笛にナイフを突き立てる。

 

他の二人は隊長のカバーをしつつ、混乱しているジャッカルやグラントの集団目がけてグレネードを放り込む。

 

爆発し、敵の肉片が飛んでくる。そのうちのいくつかに当たりつつもマホは次の行動に移った。

 

怒り狂ったエリートの排除である。

 

マホはARを数発射撃し、その全てはエリートに着弾したが、エリートの体表に命中する直前、体に電光の様な物が走る。

 

 

情報通り、エナジーシールドによって銃弾が弾かれたのだ。

 

エリートは少し怯む様子を見せたものの、すぐに態勢を立て直し、手にしたプラズマライフルで反撃してきた。

 

たまらずマホは兵舎内の倒れた金属製の机に隠れる。プラズマが隠れた机に着弾すると、着弾地点が煙を上げて溶解したが、それだけだった。どうやら弾に実体が無いため、貫通力は低いようだ。

 

マホは身を隠しつつ応射し、メンバーに通信を飛ばす。

 

『私が引きつけているうちに背後に回り込み、攻撃しろ』

 

二人はそれにセンサーの点滅で答えると、素早く移動し始めた。

 

マホがさらに引きつけるためにARのマガジンを交換しようとした瞬間、青く光る物体が弧を描きながら飛んできた。

 

これはグレネードだ。そう直感で判断し、素早くグレネードが付着した机から飛び出る。

 

どうやらあのグレネードは物体に粘着する性質のようだ。

 

予想通り、物体は机とその周囲3mほどを跡形もなく蒸発させた。

 

爆発に巻き込まれはしなかったものの、遮蔽物を失ってしまい、非常に危険な状況に追い込まれた。

 

しかしマホは慌てることは無かった。

 

メンバーを信じていたからだ。

 

エリートの背中に叩きこまれる無数の弾丸、そして消失するシールド。

 

それに唸り声をあげて反撃しようとして振り向いたエリートに、すかさずマホは背後に取りついた。

 

「死ね」

 

ナイフでエリートの喉元を切り裂き、そのままエリートごとうつぶせに倒れ込むと、二発、三発と後頭部を殴りつけ、続けて頭を掴み反対側にへし折った。

 

いかにタフな種族であろうとこれには耐えられず、即死した。

 

「ようやく死んだか」ナイフを引き抜きながらマホが言う。

 

「厄介でしたね。しかしこんなのがここに何体いるか」

 

ため息をつきつつエリカがDMRのマガジンを交換する。

 

「よし、私とエリカはこの下の階をつぶしてくる。コウメはこの階を確保しておいてくれ。挟み込まれる前に迅速にやるぞ」

 

「了解。隊長、ご無事で」ショットガンを抱えながらコウメは周囲警戒に移った。

 

 

 

階段を静かに降りつつ、二階食堂に到着する。

 

「エリートが一体か。私が前に出るから、援護射撃で取り巻きを倒してくれ」

 

「はい。任せてください」

 

エリカの応答に頷きつつ、ARを抱えて飛び出る。

 

そのまま食堂カウンター奥のエリートに向かって突撃しつつ、途中でエリカの射撃により倒されたグラントを掴み、肉の盾にした後走る勢いのまま投げ飛ばした。

 

エリートは飛んできたグラントを最小限の動きで避けるが、それが致命的になった。

 

グラントには、上の階で倒したエリートの持っていた物体…プラズマグレネードを付着させていたのだ。

 

その爆発と飛散したグラントのアーマーに曝され、エリートはシールドが剥げる。

 

そこに取り巻きを始末し終えたエリカのDMRがエリートの頭部に命中。あっけなく死亡する。

 

その後も一階から増援も来たが、ほとんどがグラントだったので、難なく殲滅できた。

 

 

 

この結果に満足し、コウメと合流しようとARのマガジンを変えた瞬間、マホはエリカの近くの空間にゆらぎの様な物を見つける。

 

まるで空間そのものが滲んでいるような…

 

そこまで考えた所で、マホは通信も忘れ、叫ぶ。

 

「エリカっ!ステルスだ!」

 

その意味を一瞬理解できなかったものの、すぐに把握したエリカはその場から素早く飛び退く。

 

次の瞬間、先ほどまでエリカのいた地面に、深い斬撃の後が走った。

 

マホは「滲んだ」場所にARをばら撒く。数発が透明化した敵に命中し、その姿を現した。

 

紅い、豪華な装飾の付いたアーマーに身を包んだエリートだ。マホはこの敵が只者ではないと一目で理解する。

 

紅いエリートは左腕に持ったプラズマライフルをマホに向かって発射する。

 

マホはそれをどうにか避けるが、ARがプラズマ弾に被弾してしまう。ARは半ばから溶断され、使い物にならなくなってしまっていた。それを紅いエリートに投げつけ、マホはカウンターの後ろに隠れる。

 

幸いあの紅いエリートは右腕にエナジーソードを持っているため、プラズマグレネードは投げてこないようだ。

 

 

 

しかしこのまま隠れ続けていてはエリカが危ない。だが先ほど見た限り、あの紅いエリートは3階やこの階で倒したエリートとは桁違いに固いエナジーシールドを纏っている。ハンドガン程度ではシールドを剥がせない…

 

そう思っていると、足元にC字形の物体を見つけた。

 

これは…たしかグラントの持っていた武器だな。こいつを使ってみるか。

 

マホはそう決断し、グラントたちの見よう見まねでプラズマガンを構える。

 

紅いエリートを再度捕捉すると、思った通り今度はハンドガンで応戦しているエリカに目標を定めている。

 

やらせはしないとプラズマガンを連射する。不慣れな武器ながらかなりの数が命中したが、実弾武器よりはマシな程度で劇的な効果は無さそうに見えた。

 

このままではエリカが…マホは焦りのあまり、思わず強くトリガーを引く。すると、それまで小さかったプラズマの光球が銃口で膨れ上がり、サッカーボールほどの大きさに変化した。そのままトリガーから指を離すと、大きな光球が飛んでいき、紅いエリートに追尾しながら直撃した。

 

するとARやDMRにはびくともしなかったシールドが一瞬で消失し、さらに周りの電子機器もダウンした。どうやらチャージショットのプラズマ弾は、局所的EMPパルスを発生させるようだ。

 

とどめとエリカがDMRでヘッドショットを決めようとしたが、敵もさるもので、咄嗟に右腕で頭を庇う。紅いエリートは右腕のソードを取り落したものの、まだやる気のようで、エリカに向かってプラズマライフルを構えた。

 

そこでマホは一気に接近し地面に落ちたソードの柄を拾って握り込み、エナジーで出来た刀身を出力すると、一息に紅いエリートの腹部に突き刺した。

 

紅いエリートはそれに目を見開き、しかしどこか誇らしそうな表情をした後、「見事だ…人間よ…」と囁く様に言ったのちその巨体を倒れ込ませた。

 

 

「敵の持つプラズマ火器は、エリートなどの持つシールドに対し有効なようだな。特にこのピストルのチャージ弾は有効だ」

 

マホはしげしげとプラズマガンを眺めて言う「さあ、コウメと合流するぞ」

 

「わかりました。…それと、先ほどは助けていただき、ありがとうございました」

 

「いいさ。お互い様だ」

 

そう言うとマホはエリートの持っていたプラズマライフルを拾い、ソードとプラズマガンを大腿部にマウントする。

 

 

 

三階に到着したが、コウメは見当たらなかった。

 

「居ないのか?おい、コウメ…」

 

短距離通信を試みようとした瞬間、屋上から銃声が聞こえた。この音はショットガンだ。

 

急いで屋上への階段を登ろうとした時、エリートとともに階段を転がり落ちてくるコウメの姿が見えた。

 

コウメは転がりながらも三階床にエリートを下敷きにして叩きつけ、そのままショットガンをエリートの腹部に押し込み、発砲。

 

エリートはシールドとその下のアーマーごと腹部を撃ち抜かれると、アーマーと内臓が散弾により攪拌され、血を吐いて動かなくなる。

 

そこに階段上からもう一体のエリートが現れ、コウメに向かってピンク色の鋭い棘状の結晶を連射する。

 

彼女は下敷きになったエリートの死体を盾の様に自分の上に覆い被せ、防御する。

 

死体に突き刺さる結晶。コウメはそれに怯えることなく、死体の脇からショットガンの銃身だけを出し、発砲する。

 

散弾は当たったが怯んだだけだ。マホは素早くプラズマライフルを連続して叩きこみ、散弾で弱ったシールドを剥がす。

 

シールドの消失とともにエリートは唸り声をあげてマホを睨みつける。

 

その隙にコウメは死体の下から這い出しつつショットガンの次弾をコッキングし、続けて発砲。

 

全身に8ゲージ・マグナムを浴びたエリートは、全身から血を吹き出しながら斃れた。

 

 

 

「間一髪だったな」

 

「隊長、ありがとうございました!」コウメが頭を下げる。

 

「お前もか」マホは苦笑しつつ言う「エリカにも言ったが、お互い様だ。チームはお互いをサポートするためにあるんだからな」

 

「所で、なんで三階の確保を命じられたのに屋上に向かったのかしら?」エリカが低い声で詰問する。

 

「…すみません。上から海兵隊員と思われる声が聞こえまして…確認しに行った時には死亡していました。その後敵に気付かれて交戦しました」

 

「そうか…すまない。私が三階の確保後すぐに屋上の排除を命じていれば…」マホは後悔を滲ませた声で言う。「判断ミスだな。単純に敵の排除を優先してしまった私の」

「そんな!人質が居るという情報を教えてくれなかった司令部にこそ責があります。隊長は悪くありません!」

 

エリカが感情をあらわにしてマホを擁護するが、マホの心は晴れない。

 

 

復讐心に駆られ、助けられたかもしれない人間を見殺しにした。その事実にマホは深く打ちのめされたのだった。

 

 

 

 


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