Girls und Heiligenschein   作:ケツのインゴット

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第十一話 雷神のいかずち

 

 

ハーベストが破壊されたと伝えられてからしばらく。

 

ジョンはハルゼイ博士から指示された対反乱軍作戦を、すべてのスパルタンたちが実践経験を積めるよう、既に纏まったチームごとに出撃させた。

 

カートのグリーンチームや、マホのブラックチームだ。

 

マホはその精神状態から一時は出撃を再検討されたが、本人の弁により出撃を承認された。

 

 

 

本人が言うだけあり、ブラックチームの成果は目覚ましかった。

 

誰一人負傷しないのは当然とし、目標の反乱軍基地に潜入してからわずか19分で目標の反乱軍幹部を暗殺。さらに副次目標として設定されていた武器庫、それとフライトデッキまで完膚なきまで破壊した。

 

この結果にはハルゼイ博士も称賛したが、”あまりに破壊的すぎる”と苦言を訂してもいた。

 

そこで博士自ら心理評価を行ったものの、特に問題なしと評価される。

 

 

 

マホはハーベストの現状を知らされ、血を分けた妹が殺されたことに対し、エリカたちが思わず息をのむほどの激情を見せた。しかしエリカたちはマホの復讐に協力を誓い、どこまでもついていくと宣言した。

 

それに対し一言マホは「すまない」と言ったきり、それ以降少しも表情を崩すことが無くなる。

 

まさしく能面のような表情であった。

 

 

 

 

 

 

そして今、スパルタンたちはあるプロジェクトのためUNSCフリゲート”コモンウェルス”に乗艦し、チ・セティⅣ星系へと向かっていた。

 

「隊長…その」エリカが口ごもる。

 

エリカとコウメは、ブラックチームとしての任務を境に、マホを正式に隊長と呼ぶようにした。マホが名実ともにチームの隊長となったためだ。

 

「どうした?何かあるならはっきり言え」

 

「い、いえ。これから行くことになるマテリアルグループのダマスカスで、何を受け取るのかな、と」

 

「博士は」コウメが答える「パワードスーツのようなものだと」

 

「パワードスーツ?教官たちが使ってた奴みたいな?あんなんじゃだめよ。私たちは生身の方がよほど強いからね」

 

「たしかMJOLNIR…だったか」マホも話に加わる「博士の考案したものだそうだ。スパルタンの運動能力や反射能力を考慮しているようだから、心配はしなくていいだろう」

 

「あの人なんでもできますね…」コウメが半ば呆れたように言う。

 

そんな風に、各人思い思いにカードや軍事情報誌などで時間をつぶしていた。

 

 

 

しかしそこにコモンウェルスの艦内放送が響き渡る。

 

「SPARTAN-117、ただちにブリッジに出頭せよ」

 

「はいマダム。マホ、みんなをまとめておいてくれ。いつでも出撃できるように」

 

ジョンがブリッジに向かう。

 

「聞いたな」マホがスパルタンたちに指示を飛ばす「軍服を着て、装備の点検をするんだ」

 

 

 

 

 

 

それから数十分後。どうやら敵…コヴナントの戦闘艦と戦い、退けたようだ。

 

コモンウェルスには亀裂がいくつも走り、主砲となるMACも使用不能となってしまっている。

 

艦の状態に不安を覚えるものの、ひとまずは目的地に着くことは可能だそうだ。

 

ダマスカス…そこでMJOLNIRを受け取り、コヴナント艦を引きつけているコモンウェルスに再び乗艦する。

 

 

 

 

 

ダマスカスの薄暗い地下素材研究施設に着いたとき、マホは目の前にある緑色のアーマーに目を奪われた。

 

「プロジェクト・ニョルニルよ」ハルゼイ博士が言うと、一斉に施設のライトが点灯し、アーマーの姿がより鮮明に映る。

 

学者の常というものか、ハルゼイ博士はそれから小難しい理論などを話していた。

 

要約すると高い防弾性能に加え強力なパワーアシスト。さらに常人の五倍の反射神経を与えるとのことだ。

 

ジョンがまず試着し、その素晴らしい性能を見せつけると、他のSPARTANたちは我先にと技師によるアーマー装着を始めた。

 

マホの物はジョンの物と同じボディだが、指揮能力を考慮し、ヘルメットに指令アップリンクを装備されている。

 

スパルタンですら手間取るほどの反応速度に慣れようとアスレチックコースで四苦八苦していると、ブラックチームの姿が見えた。

 

エリカのアーマーはヘルメットが偵察型で、コウメは堅牢そうな防爆/EODタイプのヘルメット。

 

それぞれの希望したタイプのものだ。

 

「隊長、これすごいですね!全く体の動きを阻害しないし、まるで着ていない時みたいに快適です」

 

コウメが珍しく興奮した様子で言う。

 

「確かにな。これほどのものとは」

 

マホはアーマーを装着し、体が大きく見えることも相まって、それまでただでさえ限りなく頼もしいと感じていたスパルタンたちが、さらに頼もしく見えた。

 

これならやれる。

 

そう確信した。 

 

 

 

 

そしてそれから1時間後。軌道上に停止していたコモンウェルスへアルバトロスで再び乗艦しようとするも、先ほどのコヴナント艦がまた戻ってこちらの様子をうかがっていると知らされた。

 

それに対し、部隊長であるジョンはハルゼイ博士にひとつ作戦の提案をする。

 

1チームを敵艦内部に生身で送り込み、内部から核弾頭で爆破するというものだ。

 

博士は最初許可を与えようとはしなかったが、ジョンの説得により作戦を承認する。

 

そこで問題になるのが”どのチームがやるか”という所だ。

 

当然みな立候補し、特にブラックチーム…マホはジョンに自分たちを行かせてくれと頼み込む。

 

しかしそれは却下され、結局ジョン率いるブルーチームが作戦を行うことになった。

 

ジョン個人としてはマホの復讐に手を貸してやりたい気持ちが強くある。が、皆の隊長としてはマホが復讐心を持って任務に望み、またコヴナントを直接見ることで自制心を保てなくなってしまうのではないかと懸念を持った。

 

ジョンは仲間の誰にも死んでほしくは無かった。

 

その旨をマホに伝えると、特に何か言う事もなく引き下がった。自身も把握していたからだ。

 

 

 

 

 

そしてアルバトロス後部ハッチ。

 

「ジョン…私からのメッセージを奴らに伝えてくれ。”くたばれ”とな。頼んだぞ」

 

「わかった」ジョンが頷く「必ず伝えてやるさ。スパルタン流の宅急便でな」

 

「マホ、俺からも伝えとくぜ」とサム。

 

「私達も本気で怒ってるからね」ケリーも言う「家族の妹の仇、必ず取るよ」

 

「…ありがとう、ジョン、サム。そしてケリーも」

 

「花火だ。大きいのが打ち上がるぞ」フレッドまで。

 

マホは兄弟たちをとても誇らしく感じた。

 

「さあ行きましょう」リンダがジョンに促す。

 

「ああ。ブルーチーム、出撃だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルーチームが出撃し、マホが副長として残りのスパルタンに待機命令を出してから15分後。

 

コヴナント艦が内部から爆発を起こし轟沈するのが、遠くのアルバトロスからはっきりと見えた。

 

それからさらに数分後、ジョンたちが帰ってきた。

 

だが…一人足りない。

 

サムだ。サムがいない。

 

ジョンは言った。

 

「俺の命令でサムは残った。彼は英雄だ。奴らを倒せると証明した」

 

誰もジョンを責めはしなかった。ジョンはただ指揮官としての役目を忠実にこなしただけだと知っているからだ。

 

スパルタンたちは仲間の戦死に深く心を痛め、しかしジョンと、死しても英雄となったサムに対し尊敬の念を持つのだった。

 

 


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