Girls und Heiligenschein   作:ケツのインゴット

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第十話 「敵」

 

 

訓練がほぼ完了したことをチーフメンデスから通達され、ジョンたちブルーチームが反乱軍幹部を暗殺し、自らの価値を証明した後の事。

 

他のスパルタンたちは自分たちがスパルタン初の”公的”な任務に参加できないことを悔しがったが、ジョンたちを名誉あることだと大いに祝福した。

 

その祝福とは、模擬戦でブルーチームを鬱憤を晴らすように指揮するチームで叩きのめすということだったが。

 

カート率いるグリーンチームやジェロームのレッドチームはブルーチームと戦い、勝利を収めた。

 

皆負けず嫌いなのだ。

 

 

 

そしてジョンがパープルハート勲章を受理した後の事。

 

スパルタンたちは黒い礼服を着せられ、ある一室に集められていた。

 

扇状の部屋…かつてハルゼイ博士に自分たちの使命を伝えられた部屋だ。

 

ここでいったい何を?マホがそう思っていると、誰もいない中央の檀上にスポットライトが点灯された。

 

そこに、博士よりも少し年配の人物が現れた。階級は中将のようだ。

 

スパルタンたちはそれに気づき、姿勢を一層正す。

 

「休んでくれたまえ、スパルタン」中将は言う「私はスタンフォース中将だ。そしてこれはベオウルフ」

 

中将は嫌悪をにじませつつ、幽霊のようなAIを示した「我々ONIに付属するAIだ」

 

「さて、今回はいくつかの重要な案件があるさっそく始めようか」

 

 

 

部屋が暗くなり、部屋の中央にある惑星が映し出された。

 

あれは・・・。

 

「ハーベストだ」中将がマホの言葉を代弁するかのように言った「人口約300万。UNSC管理領域の外縁部に位置する惑星だが、最も生産的で平和な惑星だ」

 

ハーベスト。私と妹の故郷。私が守らなくてはいけないもの。

 

マホは思わず頷く。しかしなぜここでハーベストの話題が?

 

「軍事カレンダーの2/3、一四二三時に、ハーベストの軌道プラットフォームがレーダーでこの物体を捉えた」

 

ぼやけているが、どこか流線形だとわかる物体が檀上に現れた。

 

「分析はしたが、正体は明らかにされなかった」中将は言った「未知の物質で建造されていたのだ」

 

建造?となると人工物。しかし材質が不明とは一体。マホは考える。

 

「ハーベストとは」中将は話を続ける「その後まもなく連絡が取れなくなった」

 

 

 

 

何と

 

言った?

 

 

 

マホはしばらくの間、先ほどまで考えていたことを放棄し、放心状態になった。

 

「…彼らはイプシロン・インディ星系に入り…」

 

いや、ただの通信アレイの故障だ。もしくは…

 

「…これから君たちに見てもらうものを発見した」

 

そうだ、税の引き上げによるボイコットか!それで通信施設の職員もストライキを起こしたのだろう。

 

住民の生活の妨げにならないよう、内部工作しろとの任務だろうか。でなければ…

 

 

 

惑星ハーベストのホログラフが変わった。

 

瑞々しい草原や丘は穴だらけの砂漠に変わっていた。

 

砂漠ではガラスの様に鈍く陽光を反射し、地表は穴だらけになり水蒸気が上がっていた。

 

あちこちに赤く光っている地域があった。

 

「これがハーベスト…その”名残”だ」

 

これが…こんな地獄が…ハーベスト?

 

マホは先ほどとは比べ物にならないほど恐怖し、混乱した。

 

しかし、住民は脱出したはず…

 

マホは壊れかけた心で、どうにか希望的観測を引っ張り出した。

 

「住民は」脱出したんだ!そのはずだ!みほはまだ…

 

「全滅したと結論された」

 

 

 

全滅。二文字。たった二文字で妹や母の運命を結論付られた。

 

記憶の中の母の口を横に引き結んだ表情が…みほのあの笑顔が灰になってゆく。

 

トウモロコシの畑。いつ母が帰ってくるのかとまほに聞いたときの妹の泣きそうな顔。妹の笑顔を守ると決めたあの日の夜。母が帰れなくなった後、初めて見せてくれた妹の笑顔。全てが溶けてくすんだガラスになっていく。

 

まるで彼女たちが運命を共にしたハーベストの様に。

 

 

 

守れなかった。命よりも大切なものが。

 

防げなかった。大切なものを奪おうとする手より。

 

私はなんのためにここまでやってきたのか。

 

守るものもないというのに。

 

これからどうして戦えというのか。

 

生きる理由もないというのに。

 

 

 

 

壊れかけた心におぼろげながら情報が入ってくる。

 

「プラズマ兵器」「エネルギーシールド」「非人類の宇宙船」「高度なテクノロジーを持つ種族」「コヴナントと自称」「敵からの通信」

 

 

 

敵からの通信…敵からの…敵。

 

これは敵の情報だ。

 

「敵」。ハーベストを破壊した「敵」。みほを…殺した「敵」。

 

敵だ。奴らは憎むべき敵だ。

 

殺す。これまで教わってきたやり方で。

 

マホの壊れた心が復讐心と歪に混ざり合い、また一つになった。

 

敵は高い技術力を持ち高度な兵器で武装しているらしい。

 

だが、それがどうした。どんな手を使ってでも殺す。

 

敵は殺す。

 

そのために集められ、訓練してきたのだ。

 

 

 

これは個人的な復讐でもある。

 

だが、個人的でない復讐などあるものか。

 

 

 

守るものはもうない。あるのは復讐だけだ。

 

 

 

 

マホの心が再び歪に組みあがったころ、話はメンデスが新しいスパルタンのために訓練の完了とともにここを去ることに移っていた。

 

もう、メンデスの演説は終わっていたが。

 

「敬礼!」ジョンが叫ぶ。

 

「解散だ、スパルタン。幸運を祈る」

 

 

 

メンデスがマホとジョンのもとに向かってきた。

 

「最後の教訓だ、部隊長。それと副長。自分よりも強い相手と戦うとき、どんな戦術が有効だ?」

 

マホが答える「相手が実力を発揮する前に、素早く急所を突き、他が対応する前に潰す」

 

「他には?」

 

「その組織がワンマンな構図の場合、その用心の人質も有効でしょう。また、工業生産地を狙って破壊工作。もしくはBC兵器を用いて敵居住地の殲滅などが有効かと。敵が陸戦を仕掛けてくるときに核を使うのもいいかもしれません」

 

「そ、そうか…」メンデスは気圧されていた「部隊長はなにかあるか」

 

「…ええ。退却し、ゲリラ戦を行いながら増援を待ちます」

 

「そうだな。後もう一つの選択肢として」メンデスはマホをちらっと見た「降伏という手もある」

 

マホの視線が恐ろしく細まる。

 

「と言っても、我々はそれを考えてはいけないがな」

 

「奴らは降伏を受け入れないでしょう」

 

ジョンがマホに気を遣いながらも言った。

 

「確かに。だが反乱分子どもや、臆病風に吹かれた連中がそう考えないとは限らん。手土産を持って…」

 

「もしそんなことがあれば」マホが被せるように言った「誰であろうと必ず私が殺します。それも敵ですから」

 

 

 

 


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