Girls und Heiligenschein   作:ケツのインゴット

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第九話 超人

 

 

仲間の葬儀の後で、メンデスに教わったことがある。その時はジョンも一緒だった。

 

「隊長は部下を死ぬとわかっている場所へ向かえと命じる心の準備を持っていなくてはならない」と。

 

「部下の命を費やすのは、必要とあれば許される」と。

 

だがこうとも言っていた。「その命を無駄に費やすことは決して許されない」と。

 

そうメンデスは言っていた。

 

私はこれを胸に刻んで行こうと思う。

 

仲間の命をせめて有意義に消費する。ということを。

 

 

 

 

 

強化手術からひと月弱。マホは他のスパルタンたちと同じく、アトラスの体育館にいた。

 

まず準備運動。それからアームカールを始めた。

 

しかしマホは奇妙に感じる。あまりにも軽すぎるのだ。

 

うっかり重りをつけ忘れたかと思い確認してみるも、ちゃんとついている。

 

どうにもしっくりこないので、高重力エリアに向かった。

 

そこでようやく普段の感覚に近くなった。

 

 

 

マホはホッとし、そこにある器具を一通り終わらせ、サンドバッグに狙いをつけた。

 

まず手始めにジャブ…おかしい、すさまじく大きな弧を描きバッグが揺れている。

 

これではトレーニングにはならないので壁に着けてバッグを殴ることにした。

 

お次はストレート…今度はバッグを突き抜け、壁にも穴があいた。

 

さらにはバッグから零れ落ちる断熱材のような素材がこぼれてゆき、それが地面に落ち、さらに細かく砕けるのをはっきりと認識できてしまったのだ。

 

 

 

マホは顎に手を当て、考える。これが手術の効果なのだろうか?

 

これほどの効果をもたらすとは。だからこそ代償も大きかったのかもしれないが。

 

そう考えると、この結果を素直に喜ぶのは難しくなった。

 

しかしこれはとても有用だ。うまく活用すべきだな。

 

そこまで考えて、マホは初めてカートが向かいのベンチに座っていることに気が付いた。

 

「やあ」カートが話しかけてきた「マホも驚いている口かい?」

 

「ああ…これは想像以上だよ」

 

「そうだな…」

 

二人は口をつぐむ。まだこの状況に心が追い付いていないのだ。

 

 

 

 

 

それから五か月弱。それまで利用していた訓練施設がスパルタンたちの強化された身体能力に耐えられず、別の施設に移動することになった。

 

そこではパワー・ローダーの様な外骨格スーツを着込んだ教官たちが、スパルタンたちと訓練を行っていた。

 

なぜそんな物を教官が着るのか?そう考える者もいたが、すぐに納得することになる。

 

スパルタンたちの身体能力が高すぎるのだ。

 

経験豊富な教官たちの拳は止まって見え、隠れてしまえばIRセンサーでも使わないと見つからない。さらに時速50㎞で走ることが出来、反射能力も凄まじい。

 

こうなってはほぼ死蔵されていたMkⅠスーツを着込むことでしか訓練を行えなくなってしまった。

 

初日は教官の誰もスーツを着ておらず、またスパルタンたちが自身の力をまだ良く理解していないのもあり、3人の死者を出してしまったほどなのだ。

 

しかもスーツを着ていても教官がスパルタンたちに勝てることは一度も無い。

 

まさしく想定外の強化だった。

 

 

 

「ブラックチーム、始め」メンデスのアナウンスが実践戦闘訓練室内に響く。

 

そこにはブラックチームのリーダーであるマホ、そしてその指揮下にあるエリカ、コウメがいた。

 

エリカは半年と診断されていたが、恐るべき執念により三か月弱でリハビリを終え、復帰した。

 

マホやコウメもリハビリに手を貸したのも手伝ってか、担当の医師やハルゼイ博士も舌を巻くほどの再生を見せたのだった。

 

 

 

訓練開始の合図とともに、マホはエリカとコウメにアイコンタクトを送った。

 

それを受け取りかすかに頷いた二人は接近するスーツを着込んだ教官の大ぶりなパンチをよけ、岩陰に隠れた。

 

マホは教官にあえて正面から接近する。教官はそれに対しスタン弾装填の機銃を掃射するが、自動照準機能が追い付かないほど素早く背後に回り込み、スーツのエネルギーケーブルにとりついた。背後ろにとりついているマホを引きはがそうと教官が四苦八苦しているうちに、エリカとコウメが岩陰から飛び出し正面から教官に組み付く。

 

そして機銃の装着されていた右腕側に組み付いたコウメが力任せにスーツから機銃をもぎ取り、すかさず露出した頭部に発射した。

 

 

 

あっという間だ。一分もかからなかった。

 

一人目の教官と戦っている途中に投入されるはずの、二人目の教官が間に合わなかったほどだ。

 

それから一分を過ぎ、ようやく二人目が投入されるものの、コウメの機銃の援護を受けたマホとエリカにあっさりと引き倒され、そこから起き上がれるわけがなく、エネルギーケーブルをエリカに引きちぎられ機能を停止させた。

 

 

 

 

 

「やはり素晴らしいわ」ハルゼイ博士が観覧席でメンデスに話す「ジョンのブルーチームも素晴らしかったけど、彼女らのブラックチームも感嘆せずにはいられないわ」

 

「でしょう、マダム。特にブラックチームは正面からの攻撃の重要性を強く理解しており、他のチームですら忌避する状況ですら率先して挑む傾向にあります。それも被害をほとんど出さずに」

 

メンデスが誇らしげに答える。

 

「ではチーフ。彼らは本物の戦いをする準備は出来ているかしら?」

 

「ええ、マダム。我々が命じれば、彼らは極めて効率的にその命令を遂行するでしょう」

 

そこでメンデスははっとなる。

 

「博士、”本物の戦い”というのは…」

 

「実は、ONIですら想定していない事が起こったの、チーフ。彼らはその件にスパルタンたちを使いたがっているのよ」

 

「彼らは十分に準備は出来ています」メンデスは目を細めた「しかし予定よりもはるかに早い。何が起きたのです?たしかハーベストの近くで激しい戦闘が起きたとは聞きましたが」

 

「その噂は古いわね、チーフ」ハルゼイは恐怖に滲んだ声で言った「ハーベストでの戦闘はもう終わっているわ」

 

「では…?」メンデスが怪訝そうに聞く。

 

 

 

「ハーベストはもうない。破壊されてしまったのよ…」

 

 

 

 


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