Girls und Heiligenschein   作:ケツのインゴット

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第八話 別離

 

「ここに我々は倒れた兄弟の遺体を宇宙にゆだねる」

 

メンデスが厳粛な顔で瞳を閉じた。

 

いつもはたくさんの兵士があわただしく走り回っているこのミサイルベイも、今は閑散としていた。

 

彼がミサイル発射ベイの制御ボタンを押すと、灰の入った容器がゆっくりと発射管に装填されていく。

 

「敬意を示し……気をつけ!」メンデスが大声で叫んだ。

 

それにジョンやマホたち生き延びたスパルタンたちは一斉に敬礼する。

 

「義務、名誉、自己犠牲。彼らの死は、その一つも損なうものではない。我々は決して彼らを忘れない」

 

メンデスが言うと、マホたちが乗っているUNSC航空母艦アトラスのランチャーから容器が射出されていく。

 

メンデスは長い敬礼を終えると、こう言った。

 

「全員、解散」

 

 

 

 

 

多くの仲間がいなくなってしまった。

 

任務から無事に生き延びたのはマホを入れて39人。

 

無事ではないが生きているものは13人。

 

残りは先ほど宇宙に去っていった。

 

その事実に胸を痛めながら彼らを見る。

 

カークやレネはあのまま神経浮揚ジェルタンクに入れられている。

 

カチューシャは全身をギブスで固定され、台の上に乗せられていた。

 

ファジャドは車いすに座り、体を痙攣させていた。

 

エリカは…エリカも車いすに座り、呼吸器をつけている。

 

他にも大きな損傷を受けてしまっている兄弟はたくさんいた。

 

 

 

看護師たちがエリカたちをエレベーターに運んでゆく。

 

ジョンとマホは急いでその前に立ちふさがった。

 

「仲間をどこに連れて行く気だ」

 

「自分は…あの、命令をうけて」

 

そこでメンデスに呼ばれる。

 

「部隊長、それと副長、来い」

 

2人は看護師にここで待つよう言い、メンデスのもとへ向かった。

 

「チーフ、あれはどういう事ですか」マホが詰め寄る。

 

「彼らはもう戦えない。ここには属してはいないんだ」

 

「彼らはどうなるのですか」ジョンが問う。

 

「海軍は仲間を手厚く保護する」メンデスが力強く答える「彼らには高い身体能力こそ無くなったが、まだ優秀な知性は持っている。まだ任務を計画したり、戦略を立てたり、調停や…」

 

「ならよかった」マホはホッとした。

 

「自分たちが望むのはそれだけです。仕える機会さえいただければ」

 

 

 

 

 

マホはエリカへと近づこうとする途中で人だかりを見つけた。

 

カチューシャの台の近くだ。

 

「カチューシャ…」

 

カチューシャのすぐそばにはノンナとジョージにクラーラ、そしてニーナとアリーナもいた。

 

「みんな心配しすぎなのよ」カチューシャは周りに檄を飛ばす「いい、カチューシャはもう戦えない。でも、必ずあなたたちを助けることが出来るところに配属されるよう、チーフに頼んどいたわ。だから…だから後ろは任せなさいよね!あんたたちは前を向きなさい!じゃないとシベリア送り20ルーブルよ!」

 

「それって」ノンナが泣き笑いのような表情で言う「訓練所の周りを20周の事ですよね」

 

それを見届けたマホは、踵を返しエリカのもとに向かう。

 

 

 

エリカの隣にはすでにコウメがいた。

 

「リーダー…」

 

「エリカ」

 

「すみません、こんな情けない格好で…」エリカは呼吸器越しに弱々しく言う。

 

「いいんだ」マホは言う「何も情けなくはない」

 

「手術の前、リーダーは後からついて来いって言ってましたよね。でも…私はついていくことが出来なかった。それが…それが情けなくて!」

 

マホはそれを聞いてたまらずエリカを抱きしめた。

 

「いいんだと言ったろう、エリカ」マホは言う「どんなことがあってもお前は私の大切な仲間で、家族だ」

 

「リーダー…」エリカが涙ぐむ。

 

「そうですよ。私は運が良かったから生き残れました。けど、本当は私じゃなくてエリカさんが成功するべきだって思ってます」

 

コウメは自嘲気味に笑う「私にはリーダーの補佐の仕事が務まるかどうか…」

 

「そんなこと言わないの。あんたは私がいなくても、しっかりリーダーの助けになりなさい」

 

エリカがいつものようにコウメに喝を入れた。

 

「そうだぞコウメ。お前も家族じゃないか。それにお前だって私にはもったいないぐらい優秀な兵士だ」マホも断言する。

 

「…わかりました。精一杯、その大役務めます!」

 

「頼んだわよ」エリカが笑う。落ち着いたようだ。

 

 

 

「その件なんだがな」

 

メンデスが割り込んできた。「050番や066番、それと075番などは”回復の見込みあり”と診断された。時間はかかるが、そのうち復帰できるかもしれない」

 

「ほ、本当ですか!エリカやソレン、カサンドラ達が…また…!」

 

マホは驚愕する。

 

「本当だ」メンデスはにやりと笑う「特に050番は早ければ半年で復帰できるとのことだ」

 

「エリカ、やったぞ。お前はまだ戦える」

 

「そうみたいですね…よかった…」

 

エリカは心から安堵していた。

 

尊敬するリーダーに置いて行かれずに済む。それがどれだけ喜ばしいか。

 

「エリカさん、あなたが復活するまでの間に、リーダー補佐の役割取られても泣かないで下さいよ」

 

コウメがいたずらっぽく挑発する。

 

「言うじゃないコウメ。待ってなさい、こんなのすぐに直してやるんだからね!」

 

 

 

 

ああ、これだ。

 

この結束の固さこそが我々だ。

 

二人に笑顔が戻った。

 

この笑顔を守らなければ。

 

他の兄弟たちもだ。

 

仲間が多く死んだのは本当に悲しい。

 

だが今は生き残った兄弟たちに目を向けねば。

 

それが、志半ばに散って行った兄弟たちの望みでもあるはずだ。

 

 

 

 


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