「川西 義俊」は兄である傑より背の高く、髪も首に届くほど長く伸ばしており左側には金色のメッシュを入れていて、17歳にはとても見えないと評される少年であった。
そんな彼は俗に言えば、「不良」と呼ばれるもので実家は1年前に飛び出し、今は市内のアパート暮らしをしながらガソリンスタンドでアルバイトをして何とか生活をしている。
決して良い生活を送っているとは言い難いが、その中で唯一の楽しみがあった…バイトで稼いで貯めた金で買った自慢のバイクである。
車種はSUZUKI「グラディウス」と言い、学校が休みなどの時は、これで郊外までツーリングするのが専らの趣味になっている。(免許は16歳の夏に取得済みである)
――この日は学校の帰りに仲間達と一緒にツーリングする予定で、その途中珍しく実家の前まで寄ってみた…まぁ、いい思い出はないが飲み物の一つぐらいはあるだろう。
家に入ると、兄貴がいた…後知らない男が居たが誰なんだろうか、兄貴の友達かな?
まぁどうでもいいが、さっさと用事を済まして出掛けたいので冷蔵庫の扉を開けると、随分と前に買っておいたコーラが冷えていた…ラッキー!
全部飲み干した後、ごみ箱に捨てて居間から出ようとすると、兄貴が何かうるさく言いながら腕を掴んできた。
…うっとしいから強く言って出ていく、昔は何かしら言い返してきた兄貴だったが、この日は何も言ってこなかった…珍しい日もあるものだと思いながら、家の前に止めておいた愛車に跨がり、エンジンをかけ出発する。
…そうだ、「彼」に今晩の事で連絡をいれるか、俺の事も…いや「俺の能力」をも理解してくれたあの人に…
*
「さっきのは、弟…さん?」
「ええ、まぁそうです…はぁ」
義俊が出ていってから重い空気が流れていたが、最初に口を開いたのは承一であった。
傑は申し訳なさ一杯で頭が上げられずにいる。
「昔は良い弟だった…ですけどね」
「仲が悪い…て言うレベルじゃあないね…」
「でも…」と続ける傑の顔はとても思い詰めており、声も絞り出す様な感じである。
「弟が…義俊がああなったのは、俺のせいだからかもしれない…だから余計に強く言えないんですよ」
「傑君…」
その表情から承一は、兄弟の溝の深さを思いしり、同時に兄は弟への思いやりに溢れている事が分かった。
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その日の夜、市内のビジネスホテルに宿泊している承一は夕飯を近くにあったファミレスで済ませた帰り道、町を散策していた。
まだ完全に陽が落ちきっておらず、夕焼けが残っている町並みを見ながら物思いにふけていた。
「何とかしてあげたいけどな…」
悩みの種は昼間に出会った兄弟であった、だが兄の様子からでは他人である自分にとっては、解決する事はおろか余計な火種になりかねない…と思うと何もしない選択をするしかない。
けど、傑の弟思いである事は確かな上に何とかしたい思いもある。
そんな姿を見ると手助けの一つはしたいが、悠長に時間を使う事もできない…
「あ~、モヤモヤする…」
頭を抱えるも、ただ時間だけが過ぎていく…仕方がないのでホテルに向かうべく踵を返す。
「ん…?」
…先程まで風は自分の左から右に抜けていたはずが、今は向かい風となって吹いていた。
さらに…承一がこれから行く道の曲がり角にバイクに跨がった人影のようなものが見える。
それは、こちらが気付いた事に反応して、真っ直ぐバイクを走らせてきた。
何とか避けるも、横を通り過ぎた時に何故か突風が起こり、それによってバランスを崩すも直ぐに体勢を整える。
「スタンドか…!てことは次の刺客になるのかな?」
その「スタンド」は、人もバイクも黒を基調だが、人の方はヘルメットに金色の文字で「Rider」と書かれており、黒光りするライダースーツを着ている。
バイクはエンジン部に当たる所もナンバープレートも黒く、唯一タイヤのホイールは赤色になっていた。
再び、エンジンを吹かし一直線に突っ込んでくるが、承一は「アウタースローン」を発現しバイクを受け止める。
「そんな単純な攻撃は…効かないぜ!」
右ストレートがライダーの胸あたりを殴り、後方へ飛ばされる…だが地面に倒れることなく、地面に吸い込まれる様に消えていった。
「…!まさか、こいつは…」
嫌な予感を感じながらも、その場を後にする。
しばらく歩き、とある城跡公園に差し掛かった時、再び向かい風が吹き「スタンド」が現れる。
「やはり…「自動操縦型」か、やれやれだぜ」
本体探しをこの決して狭いと言えない鈴鹿市内でやることにタメ息がつきそうになるも、「スタンド」は先程と同様に真っ直ぐ突っ込んでくる。
承一も同様に受け止めるべく、「スタンド」を出した。
だが、承一の手前で「スタンド」は前輪のみブレーキをかけた事により、慣性の法則に従い後輪の部分が浮き上がった後、ライダーが車体の左側部を蹴り、前輪を軸として回転したバイク本体が、勢い良く承一に向かってくる。
「な…!オラッ!」
左腕でガードをするも勢いがついたバイクを受ける事はできず、公園内まで吹き飛ばされてしまう。
「あ、あの攻撃は…受け止められるのを前提にした対処だ…それを「自動操縦型」ができるのか…?」
承一は疑問の答えを思索するが、その前に「スタンド」が目の前までやってくる…素顔を覗かせないヘルメットで
いかがだったでしょうか?
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