女神達の奇妙な冒険   作:戒 昇

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第62話 川西兄弟その①

5月8日

 

 承一にとって電車の始発に乗ることは初めてであり、未体験の域に入る程である…ゆえに彼の現状は致し方がないことでもある…つまりは。

 

 (…はっ!、ま、また眠くなる所だった…)

 

 今、承一は睡魔と言われる強敵と必死に戦っていた…天理から乗り換えること数回、やっと最期の乗り換えになる所で5時起きの代償がやってきてしまった。

 少しでも気が緩むと意識が底無し沼に引き摺りこまれる為、常に気を張る必要がある。

 緩めては引き締めを繰り返し、彼は電車に乗っていただけで既に疲労感に襲われ目的地である三重県は「鈴鹿市」に着く頃には、直ぐにでもホテルで休みたいと思うほどであった。

 

 

「やっと…着いた、はぁ…」

 

 

駅に降り立ち背伸びをする…ここまで二時間以上もかかったこともあり、思わずタメ息がでる。

そんな承一の目にある物が映る、それは飲み物などがある自動販売機であった…疲労が全身に残っている今「冷た~い」の表記はとても魅力的で、気付けば、体は自然に動き始めていた。

 

 目の前まで来ると様々な飲み物達が待っており、どれも美味しそうに目に映る。

桃や林檎などの果汁ジュースにブラックコーヒーやミルク入りのコーヒーもあり、さらにコーラやジンジャーエールといった炭酸飲料も揃っていた。

 財布を昨日の一件で楓から届けて貰ったので、小銭は有り余るほどある、そこから買うのに必要な分だけ取り出し、投入口に入れようとした時だった。

 

 疲れの影響からか十円玉が手から落ちていく…承一が気付いた時には既に眼前から消えており、拾うべく下を見ようとすると…次に聞こえてきたのは小銭が落下した際の音ではなかった。

 

 

 『痛ッ!』

 

 

 明らかに聞こえたその声は人のものではない、承一が恐る恐る視線を落とした先にいたのは…「小人」だった、比喩ではなく本当に小さい人間の様なものが見える。

 髪形なのか分からないが頭から針の様な物が生え、耳が三角形みたいな形をしており、さらに三日月をあしらったスーツを着こなし蝶ネクタイも締めている姿だった。

 そんな小人が頭を押え(うずくま)っていると、もう一人の小人が出てくる。服にデザインされているのが満月であることが唯一の違いであった。

 

 『大丈夫カ?!誰二ヤラレタンダ?』

 

 

 痛そうにしている仲間に慌てた様子で駆け寄る。

 すると、頭を押さえてない方の腕で真っ直ぐ承一の事を指差しした。

 

 

 『オ前カ!ヨクモヤッテクレタナ!!』

 

 

 「い、いや…俺は落としただけだから」

 

 

 『問答無用ダッ!』

 

 

 凄い形相で睨みつけられ、一瞬たじろいだがすぐに弁明するも聞く耳を持たず、ある物を手に取る。

 承一は身構えるが、それを見て脱力をする。

 

 それは承一がさっき落とした十円玉であり、小人は円盤投げのような姿勢をとっていた。

 

 

 『構エナイトハ、舐メタ真似ヲスルジャナイカ!

 ソノ余裕ブッタ面ヲ吹キ飛バシテヤルヨ!!』

 

 

 その言葉と同時に手にした物を投げてくる…避ける必要もないと思い、受け止めようとした承一の目が確かに捉えた。

 小人の手を離れた十円玉は、途中まで見えていたが、次の瞬間には忽然と消えていた。

承一はとっさの判断で「スタンド」を出していた。

 

 

 「「アウタースローン」!!」」

 

 

 飛び出したスタンドは承一の目の前に拳を降り下ろす!

金属音と共にズボンのポケット辺を掠めながら地面のコンクリートに十円玉が落ち、跳ねながら後方へと転がっていく。

 

 

 『マサカ…コノスピード二付イテイケルトハナ…』

 

 「お前…!」

 

 

 見下ろすとポケットの部分が破れ、中に仕舞っていた財布が少しだけ見えていた。

先程の軌道は自身の目の辺を狙ってきた事から、承一は明確な敵意を感じスタンドを全面に出す。

 小人は不敵な笑みを浮かべながら、口を開く。

 

 

 『ヨウヤク、ヤル気二ナッタカ』

 

 「…」

 

 

 周りを見渡し一般人がまだいる事を考慮し、ここからなるべく離れて戦う事にする。

その為に左手に飲み物を買うのに用意しておいた残りの小銭を、密かに右手に一枚持たせる。

 

 「オラッ!」

 

 『ハッ!何処二向カッテ攻撃シテルンダ!』

 

 「アウタースローン」はわざと大振りの攻撃をする…当然小人には届くことはなかったが、しかし承一の狙いは右手に持っていた小銭を投げる事にあり、それに能力をかけていた。

 

 

 「「アウタースローン」…十円を中心に集まる…!」

 

 『ナッ!ヒ、引ッ張ラレル?!』

 

 

 能力をかけられた十円に小人が引き寄せられ、その場から離れていく。

 その隙に承一は反対に逃げていく、なるべく人がいなさそうな所へと行く為に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 人通りが多い駅前を離れ、閑静な住宅地へと移動し、人気がない小さな公園へと着く。

かなりの距離を走ってきた為、一休みの為にベンチへと移動する。

 座ろうとした時、やけに腰のあたりに重みを感じたので、そこに目をやると…

 

パンパンに膨れ上がり、長方形の形が無残にも歪んでいた財布の姿があった。

 

 「な、何だ…これは?!」

 

 一部財布から溢れている物もあり、百円玉や五十円玉、特に十円玉の量がとても多かった…さっきまでは無かったはずの小銭達に驚いていると、後ろに気配を感じた。

 

 

 『ヘェー、モウ異変二気付クトハナ…』

 

 『キャカカカ!良イネ、歯応エガアリソウダナ!』

 

 『五月蝿イゾ…オ前ラ』

 

 

 不意に背後から聞こえてきた声達に反応して、振り返るとベンチの背もたれの上に立つ「四人」の小人の姿があった…




お待たせしました、やっと投稿できました……


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