女神達の奇妙な冒険   作:戒 昇

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第58話 ルナティック・カームその①

 5月7日 東京 

 

ゴールデンウィーク明けの今日、東京各所では「2015年東京都都知事選挙」の告示が行われていた。

マスコミはこぞってこの選挙を報じ、都民からの関心も持たれ投票率が50%を超えるかもしれないとの噂がたつほどだった。(過去三年は全て50%を下回っていた影響もある)

 

特に注目を浴びたのが、野党統一候補の「空条丞一郎」氏であった、政治経験ゼロにも関わらず高齢者医療問題の抜本的な解決を元とした都政改革を提示することで50代・60代の支持を集めている、さらに鮮やかな赤髪に左目に覆うような独特の髪型や整った顔立ち、他者を引き寄せる力強い演説などで若い有権者など幅広い層からの支持をされ始めていた。

 

だが、その一連の事をニュースで見て驚愕を隠せない表情をしているのは、昨日の戦闘で負傷しその傷を癒している「落合楓」であった。

ニュースが流れ始めた時は再び聞くことがないと思っていた名を耳にした瞬間、何故だがある確信めいたものを感じた。

 

 

(これまでのスタンド使い達に「同化人間」と自らを呼称する者達の襲撃…間違いなく「丞一郎」が関わっている!)

 

 

確かな証拠などはない…だがかつての(・・・・)「丞一郎」を知っている彼女は彼が無関係とは到底思えなかった、己の野心の為に日本をいや…世界を支配しようと固執していた奴が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~*****~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

同日 私立群堂ヶ岡中学校 教室内

 

昼休みの時間がもうすぐ終了になる教室内は、まだ談笑する者やトイレに立ったり次の授業の準備をする者がいる中、ただ一人だけ窓の外を見つめている生徒の姿があった。

 

 

「はぁ…」

 

 

その生徒…「出水(いずみ)英雄」はため息をついて再び窓の外に目をやった。

考えることは山ほどあった、特に自身の「能力」のことについては最大の悩みの種で最近はあまり本調子ではないのもそれが原因である。

 

(…昨日、財団からの連絡があったかと思えば楓さんが傷だらけだったよな…

    僕も同じ能力があるし…戦いになるなんて事には……)

 

無い…とは言い切れない、現に楓本人からこれまで知らなかった「スタンド使い同士の戦い」を聞かされた時は、恐怖という感情が体中に走り風邪でもないのに全身が震えてしまった、それだけではなく同じ能力を持つ自分も巻き込まれる可能性があると思うと、「今すぐ逃げたい!」…そう心が言ってしまうほどである。

 

(いや、ダメだ!ここで逃げては、あの頃の自分に戻ってしまう…!それだけは……)

 

弱くなりそうな心に喝を入れ、己を奮い立たせる。するとタイミング良く後ろから声をかけられ、そちらへ振り向く。

 

 

「どうしたんだよ、蜂が豆鉄砲をくらったみたいな顔をして!」

 

「それを言うなら「鳩が豆鉄砲をくらった」だろ…マサ」

 

「あはは、そうとも言うな~」

 

 

びっくりした時の表現を一文字違いで間違えるのは出水の数少ない親友でありアイドルオタクの「神崎正樹」である。どうやら走ってきたらしく着ている制服の所々にシワが目立ち、急いできたのか手には教科書も何も持っていなかった。

 

 

「何も持ってないけど、準備はもういいの?」

 

「ふっふーん、そこは抜かりないぜ!」

 

 

若干ウザいドヤ顔を披露し、神崎は出水の前の席に移動し机の引き出しを開け、その中を見ると次の授業の用意がきっちり真っ直ぐ並べてあった。

 

 

「昼休みの始まる前に用意しておいたのだッ!どうだい?」

 

「マサらしいといえばいいのかな…」

 

 

渾身のドヤ顔に内心イラっとしながらも苦笑いで応える。それと同時にチャイムが教室内に響き慌ただしくなる中、神崎は珍しく低い声で呟いた。

 

 

「…悩みがあるなら、いつでも相談してくれよ…ヒデ」

 

「え…?それって…」

 

 

出水の問いかけに答える間もなく五時限目の授業を務める先生が教室に来てしまい、結局全ての授業が終わるまでそのことについては聞けなかった。

 

 

 

 

 

放課後、普段なら神崎と一緒に寄り道をして帰るのが日課だったが、今日は彼が掃除係だったので久しぶりに一人での帰りとなっていた。帰る足取りは昼間に神崎から言われた一言が頭の中を反芻しており、とても気分がいいとは言えなかった。

 

(…やっぱりマサには分かるのかな?僕が悩んでいた事に…)

 

(でも…)

 

言える訳はなかった、非スタンド使いである神崎に自分が抱えている悩みを打ち明けた所で根本的な解決になるとは言いにくい、それに彼の性格を考えると絶対に今の問題に関わってくるだろう…そうなれば……

 

(戦いに巻き込まれてしまう…)

 

前述の通り、彼は何も力を持たない非力な中学生である。もし戦いになれば怪我だけで済めばいいものだが、最悪の場合命を失う危険性もある。

 

(それだけはダメだ…!絶対に…!)

 

心にそう固く誓い、改めて家に帰ろうとすると後ろから声をかけられる。

振り返り見てみると、70~80代くらいの男性が地図を片手にもっており、上下黒のスーツに黒のネクタイをしていた。

 

 

「すみません、この場所にいきたいんじゃが…」

 

「はい、ええと…」

 

 

行先を見た所、近くにある葬儀式場を示しておりどうやら誰かの葬儀に出る様子らしい。

何回も秋葉原を訪れた事がある為すぐにそこへの道を教える。

 

 

「確か、この道を真っ直ぐ行って右に曲がればありますよ」

 

「すまないねぇ」

 

 

教えた道を歩いていく老人を見送りながら、家路へと向かっていく。

その途中の路地にて何者かに後をつけられている感覚を覚える、最初は気のせいかと思ったが速足にしても、付かず離れずを保って足音が聞こえたので駆け足で路地裏に飛び込み、自身のスタンド「アイム・ヒーロー」を発現させ、追手を待つ。

すると、黒い影が角から飛び出してきた。

 

 

「ウオオオッ!!」

 

 

渾身の左ストレートを放ち、それは影の顔の部分にあたる個所に命中した。

だが、手ごたえがあまりなく感触も泥みたいな半固形のようであり、それでいて何かが中で蠢く感じもあり得体の知れない物への恐怖で、左足で蹴り飛ばす。

左手が何もない事を確認して、蹴り飛ばした相手を見てみる。

 

 

「なっ!…」

 

 

そこにいたのは、先ほど道案内をした老人が小さい声で呻きながら倒れていた。

しかし、その姿はあまりにも酷い有様であり、皮膚はドロドロに溶けているかの様に見え、黒い筋みたいなのが皮膚の中で動いているのが見えた。

 

 

「何なんだ…こいつは…」

 

 

すると、溶けかけていた皮膚が徐々に液体状になっていき数分もしない内に残されたのは身に着けていた服だけであった。

そして、その服の周りに黒い筋が集まってきており、一つの「集合体」へと変貌を遂げた。

 

 

それは……「異形のスタンド」であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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