女神達の奇妙な冒険   作:戒 昇

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第57話 メタル・フリックその③

 車上で対峙する承一と一つのスタンド…先に仕掛けたのは承一の方だった。

「アウタースローン」の拳が敵スタンド「メタル・フリック」に対して振るわれる、予想を超えたスピードに辛うじて左腕で防御をするが、そこにあった装甲が割れてひびが入る。

 

 

『ぐッ…!』

 

「オラッ!!」

 

 

続けざまに左ストレートが顔面を捉えるべく振りぬかれた、だが敵もこれを予測し素早く能力を発動させる。

 

 

「なっ…」

 

 

承一は驚愕した…目の前にいた敵スタンドがまるで溶けるかのように天井部の金属部分に沈んでいったからである。

そしてメタリックレッドの金属部分に敵の姿が映し出されていた。

 

 

「これが、お前の能力…!」

 

『そうだ、そして攻撃は終わっている…』

 

 

横からの声に反応すると、そこに半身だけ出した「メタル・フリック」の姿があった。

「攻撃が終わっている」との言葉に疑問符を浮かべていると、突然車体が左へと大きく傾き始めた。

 

 

「こ、これは…!」

 

『タイヤを切り裂いておいた、これで壁に激突しな!』

 

「お前ッ…!」

 

 

それだけ言うと敵はすぐ後方を走っていたトラックへと移動した、その間も車は壁に吸い込まれる様に近づいていった。

すると運転席の窓が開き、そこから島が顔を出していた。

 

 

「承一はん、このままじゃ…!!」

 

「島さん!俺はこれから奴の元へ行きます!…短い間でしたが、本当にありがとうございましたッ!」

 

「な、何を…?」

 

「オラオラオラオラッ!!」

 

 

すると迫る壁のコンクリートに対して「アウタースローン」のラッシュを浴びせ、その衝撃を受けるのと同時に勢い良く車から飛び出していき、右からきたトラックの荷台に移った。

 

 

「何ッ!!じ、承一はん?!」

 

 

壁にぶつかり停車した車から島が出てきて、承一が乗り移ったトラックを見送る。

承一は島の無事を確認したのか、軽く会釈した。

 

 

『まさか…ここまで来るとは…』

 

「お前を倒さないといけないんでね」

 

『それほど早く死にたいになら…

   ここが貴様の墓場だァァァァ!!』

 

右腕を高く振り上げ、迫ってくる。承一は「アウタースローン」で迎え撃つ。

自身の首に向かっていた鎌を左手に付けていた手甲で受け止め、空いた右拳で腹部を狙う。それは左腕で防がれるが敵が防いだ事に一瞬動きを止めた時、足をかけ仰向けに倒す。そして…

 

 

「オラオラオラ!!」

 

『グブッ!ハァッ…!』

 

 

倒れている動作の最中にラッシュを胸部・腹部にくらわせる。確かな手ごたえと同時に敵が崩れて荷台から飛び出す。が…荷台の金属に潜行し、姿を消す。

 

 

『やってくれたな…だがここが某の独壇場だと忘れては困るッ!』

 

「…くっ!」

 

 

その言葉と共に、承一の下の金属が剣の形となり飛び出してくる。それを拳で弾き飛ばして防ぐ。

だが、今度は荷台の側面部の金属が鉤爪状となり、承一を挟み込むように迫ってくる…上に跳ぶことでそれを避けようとする。

 

 

『跳んだな、目の前に迫る物を知らずに…な!』

 

「はッ!」

 

 

迫ってきたのは行き先を示す標識だった…身をよじって避けることもできない中、承一は自らのスタンドで自分を殴ってその標識のさらに上に押し上げた。

標識を乗り越える形で避け、そのまま荷台に着地する。

 

 

「痛ッ~!、咄嗟の判断といえど自分のスタンドに殴らせるモンじゃないな…」

 

『く…ここまでしても仕留めきれんとは…』

 

「簡単にやられる訳にもいかないのでな…

  それと…お前の能力も分かってきたことだしな…」

 

 

先ほどまでの戦闘で承一は確信を得ていた。

「メタル・フリック」の能力…「金属」の中に潜行し、内部から自在に形を変えられることができる。そして本体の場所にも検討はついていた。

 

 

「お前の型はおそらく「遠隔操作型」…

  さっきの剣を作りだした時、正確に俺の急所を狙った…それは本体が見ていたからできた事だからな」

 

『…!しかし、それが分かった所でッ!』

 

「俺に負けないとでも?、残念だがお前を倒す方法は考え済み…だ!」

 

 

承一は真っ直ぐ敵に向かう、敵は先ほどの言葉に動揺しているのか一瞬の躊躇いの後、荷台の「金属」に潜行しようとするが…

 

飛び込んできた承一の「アウタースローン」が蹴りを入れられ、宙に浮感覚くの後トラックから押し出される形になってしまう。

追撃を予測し防御の構えをとるが、承一の取った行動に思わず声が漏れる。

 

 

『なッ…!?』

 

 

彼がズボンのポケットから取り出した物…先ほど自分が作った「金属」の剣であったのだ。

いつの間にか取っていたのか、その疑問が出る前に承一はそれを自分の頭上高く投げた……そして

 

 

「この手でお前の敗北は決定する…」

 

 

それを聞き終える前に「能力」が自動的に発動してしまう。実はこの「潜行」する際その対象は自身の半径1m以内の「金属」にのみ移動するもので、範囲内に自分の意思でない物も入ってしまっても発動してしまうのだ。

さらに移動中は身動きがとれなくなってしまうので移動先が見破られたたら格好の的になってしまうのが唯一の欠点であった。

その為、この事は相手に悟られない様にしてきたが今想定していた最悪のことが起きてしまう。

 

移動を終える直前、自らの顔面に綺麗な右ストレートが飛び、その影響で能力が中断してしまう。

 

 

『ぐ…はッ…!』

 

「捉えたぜ…完全にな」

 

『い、いつから気付いていたのだ…?某の能力の欠点を…』

 

「お前の能力が分かって少ししてからな…

   てか、気付いた段階でわざわざ喋るのかよ、お前は?」

 

『そ、それは…』

 

「まぁいいさ…それより覚えているか?

    お前に…倍返しにすることを…」

 

『え?…あ…』

 

 

仮面で表情を見えないが、確実に恐怖をしている事に気付いた承一はゆっくりとした動作で構えに入る。

 

 

「覚悟はできたな…?」

 

『ひっ!…うわああああああ!!』

 

 

「オラオラオラオラッ!!

   オラオラオラオラオラオラァッ!!!」

 

 

高速ラッシュによって吹き飛ばされる敵スタンド、それと同時に後方から凄まじい音と共に壁にぶつかる車が見えた。

それを確認すると、ちょうどトラックが料金所に差し掛かる所だったので荷台の屋根から料金所の屋根へと移った後そこから降り、激突している車に近寄る。

 

中を見てみると、ボロボロになった男が運転席に座り怯えた目でこちらを見ていた。

 

 

「こいつが本体か…」

 

「ひ、ひぃ!お願いです…こ、殺さないで、ください…」

 

「別にあんたを殺す気なんてないよ…」

 

 

やれやれといった感じでこれからどうするか決めかねていた所、真っ直ぐこちらに向かってくる黒塗りの車が見えてきた。

 

 

「承一はん~無事か~!」

 

 

助手席から顔だけ出しているのは先ほど別れた島であり、運転席にはアパートであった彼の部下の姿も見えていた。

 

 

「島さん?どうして…?」

 

「あんたが心配でな、若い連中に無理言って車を出させたんや」

 

 

「わいのランエボちゃんは尊い犠牲になったんや…」と言い、肩を落とす島を尻目に運転席から出てきた人が承一の隣…つまり敵スタンドの本体を指さして叫ぶように言う。

 

 

「あ!兄貴、こいつですよ。踏み倒そうとしたんのは!!」

 

「なるほど…あんたが、ねぇ?」

 

 

島が運転席を覗き込むように言うと、男の肩がビクッと跳ね上がる。

それから少しの間、考える素振りをした後に承一の方を向く。

 

 

「承一はん、今から車を出させますんでこの人の事は任せて貰ってもいいですか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 

それを聞いてすぐさま今まで乗っていた車に促し、運転は島の部下である人に任して承一は最終目的地である「天理PA」へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地へ着いた頃は既に日が傾き始めている時だった。

パーキングエリアの駐車場で待っていた…すると

 

 

「…ん?」

 

 

遠くの方から小さい黒い点のようなものが段々と近づいてくるのが分かった。

それは確実にこちらに向かっており、はっきりと確認がとれたのは数秒後である。

 

正体は真っ白な羽毛を持つ1羽の「鳩」であった。

鳩は承一の姿を確認すると、脚に付けていた金属部品を外し彼に渡す。

 

 

「なるほど、伝書鳩みたいなものか…」

 

 

優雅に飛び去るのを見送った後、明日は移動の為に今夜の寝床を探すことにした承一であった……

 

 

  

 




いかがだったでしょうか? ここでスタンド紹介です。


スタンド名:「メタル・フリック」
   本体:鍵山 蓮(27歳)
破壊力-B、スピード-B、射程距離-A
持続力-C、精密動作性-B、成長性-E

遠隔操作型のスタンド
能力
「金属」の中のみを潜行したり、その金属を変形させて好きな物を作りだせる能力
但し、変形させた場合その分だけ金属は減っていく(つまり無限には作りだせない)
移動する際は移動先は半径1m以内にあるものしかできず、本体の意思では移動先を選べない


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