女神達の奇妙な冒険   作:戒 昇

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第54話 ミセス・オールグリーンその③

 楓はここに至るまでの道中で敵スタンド使いの正体を推測していてどんな者が来ようと動じるつもりはなかったが…優雅に薔薇をあしらったティーカップを静かに口に運んで待っていたとは誰が予想できたことだろう…

 

 

「少し待っていてくださいね、これが飲み終わったらお相手をしてあげますわ」

 

 

「スタンド」を出し身構えた所、この一言が飛んできたので頭の中が混乱してしまって今はその整理を余儀なくされた。

楓は承一を含めたスタンド使い達の中では戦闘経験が豊富であり、動揺をあまり見せず冷静に対処することができるが…

 

 

(…正直に言って、やりずらい…)

 

 

目の前の敵スタンド使い…もとい緑のロングスカートに薄緑のブラウス、真っ白のカーディガンを羽織り、頭には鍔の広いこれまた緑色の帽子を被った女性は楓が培ってきた経験をまるであざ笑うかのような発言をして今は飲み終えたカップを丁寧に持参したバックに仕舞っている所であった。

 

 

「これで良し…待たせてしまったわね、では始めましょうか」

 

「気にしないで…おかげであんたをブッ飛ばす算段ができたから、むしろ有難うと言っておくよ!」

 

 

それを言うと、楓は一気に敵との距離を詰めるべく駆け出した。同時に屋上に来る為使っていたツタの先端部分に「波紋」を流し込み、真っ直ぐ敵に向かって投擲する。

 

(どうでる?植物で防ぐのかそれとも、スタンド能力を使わないで避けるのか…?)

 

どちらを選ぼうとも彼女にとっても些細なことでしかなかった、なぜなら本当の狙いはあくまで敵との距離を詰め「ツヴァイヘンダー」の射程距離内に入れることであり、接近して最大の「波紋」の呼吸をして力で押し切ろうと考えていたのである。

 

しかしーー

 

投げられたツタとの距離が縮むのに対し敵は動く気配はなく、さらに自らの左腕を差し出してきたのだ。

 

 

(ばかなっ!受け止めるつもりなのか!?、だが仮に止められても「波紋」でダメージは入る!)

 

「……「ミセス・オールグリーン」」

 

 

そう小さく囁いたかと思うと、迫ってきているツタは見る見る内に小さくなっていき彼女の元に届いたのは最初より十分の一ほどになってしまっていた。

 

 

「いい考えですけど、甘いですわね」

 

「…ッ」

 

「私のスタンドは「植物を異常成長させること」ですけど、その逆も可能でありますのよ」

 

 

距離を詰めることはできなかったが、重要な収穫はあった。

 

(能力を熟知していて尚且つ冷静に場を見ている…油断や隙が全くない強敵だな)

 

 

その一方で敵スタンド使いこと「海江田静葉」も表情には出さなかったが心中では驚きを隠せなかった。

 

(私の植物をあんな方法で攻撃に使うなんて…それにあの「スタンド」、見た目は近接戦闘を得意と見た…なら接近戦ではパワーが無い「ミセス・オールグリーン」では不利…)

(一定の距離を保ちつつ、倒すしかない…か)

 

 

お互い睨みあいながらも先に動く瞬間を待っていた、しかし能力や型が分かってしまっている以上下手に動くことはできず、時間だけが過ぎていった…

 

一分が経とうとした時、戦いは動き出すーー

 

 

ほぼタイムラグなしに二人が同時に動く……楓は前進を、静葉は後ろへ退いた。

 

 

「「ツヴァイ」!」

 

「…ッ、あくまで接近狙いか!」

 

 

射程距離まで数mまで迫った所で「ツヴァイヘンダー」が右腕と一体となった大剣を振り下ろす……が、それはツタ状の植物によって阻まれてしまう。

すぐさま後退し、再び敵との距離が離れてしまう

 

 

「く…」

 

「そう簡単に近寄らせる訳にはいきませんわ…それに植え付け(・・・・)は済ませていますから」

 

 

今の言葉に疑問を感じようとした所で、楓の周りに巨大な植物が囲うように生えだしてきた。

それは高さにして六~七m程に達した所で成長が止まり、あたかも竹林の様な風景だと見間違えそうになる。

 

(何だ…?!この植物は…)

 

一枚の葉がとても大きく、先端にはブロッコリーの形をしており小さい花がいくつも集まっているように見えた。その内の一つが風に煽られ葉が左手に付こうとした時、楓の中の本能が危険だと察知し素早く手を引っ込める。

 

 

「触らずに危険だと判断できる…やっぱりあなたは強いわね」

 

「私に気付かれない様に仕込むほどだからね…何もない訳がないじゃない」

 

「流石ね…だけどこの毒をみても余裕でいられるかしら?」

 

 

そう言うとツタの植物が一枚の葉に巻き付き圧力をかけていく…すると先端から一滴の樹液が出てきて、下のコンクリートに落ちると落ちた箇所から煙があがる。

 

 

「コンクリートを溶かすほどの強酸性の毒…私の「ミセス・オールグリーン」はただ成長させるだけじゃなく、その過程で植物の中の成分を変えることもできるのよ」

 

「全く…冗談でもキツイ…な」

 

 

タメ息をつき、楓は改めて周りを見渡す……

自分の周囲を囲っているのは猛毒の植物達、そして巨大化したツタ状の植物も見えている。

状況としては追い詰められていると言ってもいいほどであるが「落合楓」はそんな状況でも前を向き、静葉を見据えていた。

 

 

「…諦めては貰えないかしら?私は火牟囲(かむい)のような戦闘狂でもないし、殺すつもりもないからね」

 

「諦める?……馬鹿を言うなよ、

 

  可能性が1%でもある限り…諦めることはしない!」

 

 

静葉は楓から発せられる気迫に一瞬たじろぐも直ぐに一呼吸置いた後、自身の前に植物達を展開する。

 

 

「なら残念だけど、ここで終わりよ!!」

 

 

その言葉と同時に襲い掛かる植物…しかし楓は前へと駆け出すことを選んだ。

迫りくる攻撃を難なく躱し続けるが、目の前には猛毒の植物群が立ちはだかる…

 

だが、それでも彼女は歩みを止めようとはしなかったーー

 

 

「「ツヴァイ」!!」

 

 

植物との距離まで1mを切ったところで「スタンド」を発現させ、左手に持った大盾で目の前の植物を押さえつけた…!

そのことに驚く暇もなく、楓はその盾を踏み台代わりにして宙を舞った。

 

空中で「波紋の呼吸」を行い、落下と共に両拳に山吹色の稲妻が光る……

 

 

「震えるぞハート!燃えつきるほどヒート!!山吹色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!!!」

 

「な…!は、速ッ…」

 

 

放たれた高速の拳に防御する隙も与えられず体中に電気が走った感覚がした後、後方へ吹き飛ばされ屋上に設置された柵に叩きつけられる。

 

 

「うぐッ…はぁ、はぁ…」

 

「意識までは失わなかったのか…流石だな」

 

「フフ、良く言うわね…今の攻撃は本気じゃなかった癖に」

 

「殺すのが目的な訳ではないしな、それにあんたは完全な悪人でも無いからね」

 

 

静葉は呆気にとられた表情をすると、夕焼けに染まりつつある空を見上げた。

 

 

「完敗だよ…私の、ね」

 

 

戦意喪失した静葉を屋上に残し、楓は予定通り承一の部屋に辿り着き管理人室から拝借したマスターキーを使って中に入った。目的の物を手に入れると部屋から出ず、そのままベランダに行く。

 

 

「そろそろ来るはず…」

 

 

見渡していると、どこからか白色の鳩が飛んできてベランダの手すり部分に止まった。

 

「時間ほぼぴったりとはな…本部から借りてきた甲斐はあったものだな」

 

鳩の脚に目的の物を取り付け終わったのと同時にそこから飛び立っていく…

 

「頼むよ…「サヴェジ・ガーデン」、彼の元に届けてやってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かなりお待たせしまして申し訳ないです、次回は承一サイドをお届けしますので楽しみにしてください。


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