5月6日 東京、オデュッセウス・インダストリー社、本社ビル28階
一流企業特有の空気に包まれている社内の中でも28階は特別な場所であった。そこは「第一会議室」と呼ばれている大きな部屋と複数の「資料室」、そしてこの階へと降りられるエレベーターしかない奇妙な所である。
しかし、そこへ入れる者は数千を超える社員の中であってもごく僅かである為か存在すら知らない者も少ないない
今、そこにある「第一会議室」の扉が重々しく開く音がする、開いたと同時に複数人の男女が中へと入っていく。
「緊急召集だってな、何かあったのか?」
「さぁ?でも何かがあったから呼ばれたのではなくて?」
「・・・・」
「ったく…せっかく寝ていたのに…」
入ってきた計7名の人物は各々席に座っていく…それを見計らったように一人の女性「神奈いやび」が現れる。
「揃いましたね…「テレマコス」の皆さん、まずは飲み物でも配っておきましょう」
その言葉を合図にするかのように何処から用意したのかティーセットが現れ、それを手際良く全員に配り終えると静かに話題を切り出した。
「今回召集した理由についてだが…神場崎渚が死に、その上「弓と矢」も二本共奪われた」
すると、一人が口に含んでいた飲み物を吹きだして笑い出す。
飛んで行った液体が対面に座っている人物の手元まで届いたのを気づかずに…
「はっ!死んだ奴の尻拭いみたいなのを俺らにやらす気かよ、こりゃ傑作だぜっ!!」
「そうなってしまいますが、我慢してください」
「だから…」
そう男が言う前に、テーブルを強く叩く音がする。
見ると体を震わせながら立ち上がっているオレンジ色の髪の女性がいた。
「その前にさ…あんたの汚ったねぇ口から出たもんがあたしの所まで来たんだけど!!」
「悪かったな、お前のような意地汚い「スタンド」を持っている奴がそんなに潔癖とは思わなかったぜ…!」
「そうかい、そんなに肉塊にして欲しいのか?クソ野郎が!」
「やってみろよ…メス豚風情が!」
二人の間に一触即発の空気が流れるが、それぞれの近くに座っていた人物がそれを止めた。
女性の方は隣に座る同じ髪色の女性に、男は隣にいた長身で中性的な顔立ちの男に
「…何のつもりだ?」
「面倒事を起こすな…それだけだ」
舌打ちをしながら席に座り、脚を組んで不貞腐れる。女性の方も納得はしていなかったが渋々席に座る。
それを確認したいやびは話を続ける。
「あなた達にやって貰いたいのは「矢」の捜索、しかしその途中「彼等」を見つけたらついでに始末しても構わない」
それを言うと全員に見える様に四枚の写真を広げる。
「何だ?ガキまでいるのかよ…ならさっさと終わりそうだな」
「なら、あんたは出なくてもいいんじゃない?」
「あ?」
「何よ?」
再び火花が飛び散りそうな勢いだったが、長身の男がある質問をしたことでそれが止む。
「ん?「比屋定承一」がいませんが、もう始末されたのですか?」
「彼に関してなら、既に手を打ってありますから気にかける必要はありませんよ」
すると女性用帽子の一つである「キャペリン」を被った女性が立ち上がり、出口に向かって歩いていく。
「どちらへ?」
「善は急げ…ですわよ、早速向かわせて貰います」
「分かりました、くれぐれも失敗はしないように…」
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同日、マンション「ベルフォレスト」正面ロビー
ここは承一が住むマンションの正面の入り口である、そこに一人の人物がいた。
「ここか…」
黒の女性用スーツに身を包んだ「落合楓」は、珍しく緊張した面持ちで訪れていた。
しかし無理もないことだった、何故なら承一の親族と偽ってマンションの管理人からマスターキーを使い、部屋に入ろうとするからである。
(と言っても私自身49歳になるからなぁ…親になっても不思議でもないし…いや、これ以上考えるのはよそう)
「波紋」の効力で大分若いように見えてるが、体の中身まではそうはいかないことまで考える前に「管理人室」と書かれている扉をノックする。
しかし……
(…?おかしいな、留守な訳ないと思うけど…)
そう思い、ドアノブに手をかけ静かに回す。すると小さく金属音の後にゆっくりと扉が開かれていく。
(まさか!)
半分まで開いた扉から中の様子を窺う、しかし特別変わったことはなく…そこにいるべき住人がいないことを除いては…
楓は自らの「スタンド」を出し、扉を勢い良く開ける。
「誰もいない…」
目の前に広がるのは、誰もいない空間に淹れたばかりであろうコーヒーが入ったカップだけであった。
カップに触る…まだ熱くなっていることからいなくなったのはほんの数分ぐらいであろう。
(もう、こちらの動きが読まれていたのか?!)
それにしては早すぎる…あの電話が盗聴されていた…?それは無理がある、携帯は常に肌身離さず持っていたから細工できる隙はない…ならどうやって?
(尚の事、急がなくては)
楓は管理人室から飛び出し、エレベーターに向かいボタンを押そうとした時だった…
「ぐッ!!」
突如現れたツタのような植物に手足、そして首に巻きつかれてしまう。
(な、何だ…こいつらは?!)
振り解こうとするも締め付ける強さが増し、首が圧迫され呼吸が苦しくなる。
(か…はっ!、このままだと不味い…「ツヴァイ」!!)
現れた「ツヴァイヘンダー」が凄まじい剣捌きで、ツタを切っていく。
それと同時に圧迫から解放され、少し咳き込む。
「も、もうここまで来ているなんてね…新手の「スタンド使い」は!」
いかがだったでしょうか?
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