5月6日 東京、西木野総合病院内
「…う」
ぼやけている目の前を両手で擦りながら、「高坂穂乃果」は目を開けた。白い壁に自分の周りには点滴などがあった為、ここが病院だと気付くことができる。
「あれ…どうして病院に…?」
体を起こそうとするが腹部や頭に痛みが走り、ベッドに再び寝てしまう。
無理に動かせない事を文字通り、身をもって知った為動かせる範囲で自分の状況を調べてみることにした。
すると、ベッドの右側にあった小さな台にアイドル雑誌が何冊か積まれており、その横には実家である和菓子屋の名物饅頭である「ほむまん」があった。
「雑誌は花陽ちゃん辺りかな…ん?」
ふと雑誌達に埋もれている新聞紙を見つけ、引っ張りだしてみる。
それは、2日前の5月4日付けの新聞で大きく一面に「大阪湾にて謎の飛行物体が墜落?!」と書かれていた。
(4日…?あれ、何か忘れているような…)
穂乃果はゆっくりと今までの記憶を思い出していく、承一と共に沖縄に行き、そこで彼を追ってきたスタンド使いを撃退した後、彼の実家に行った……その後、
(は…!そうだ、あの後は)
「神奈いやび」と名乗った女性が突然襲いかかってきて真姫や他のみんなを避難させた希と一緒に応戦したが、謎に満ちた能力で圧倒されてしまい、二人が倒され自分も絶体絶命なのを彼…承一が助けに来てくれた所までを覚えていたが、それ以降の記憶はなかった。
(真姫ちゃん達もここの病院にいるのかな…?)
そんな疑問は直ぐに解決することになる、穂乃果がそう思った時病室の入り口が開かれ、目をやると…
「ほ、穂乃果…?」
「穂乃果ちゃん…?」
「海未ちゃん、それにことりちゃんも…」
「μ's」の中でも付き合いが最も長い幼馴染が揃って固まっていたので声をかけたら、二人は見たこともない速さで自分が寝ているベッドの両側に駆け寄ってきた。
「穂乃果!大丈夫ですか!?私が誰だか分かりますか?!」
「う、海未ちゃん…落ち着いて…」
「穂乃果ちゃん、良かったよ~ずっと目を覚まさないから心配したんだからね」
「ありがとう、ことりちゃん」
1人は気が動転しているのか同じ質問を繰り返し、1人は至って冷静だったがその言葉からこれまで心配をしてくれたことが伝わった。
そんな時、再び病室の扉が開かれる。そこには、
「目が覚めたんだね、穂乃果さん」
「楓さん…」
スピードワゴン財団に所属して「波紋」と呼ばれる特殊な呼吸法を用いる「落合楓」の姿があった。
「どうして、ここへ…?」
「あなたに伝えたいニュースがあるのだけど…聞く?」
悪戯っ子みたいな笑顔をしながら問いかけてくる楓に、少し戸惑いながらも彼女の言うことならと、穂乃果はそれを聞くことにした。
「そう言ってくれると思ったよ……彼、承一君は生きているよ」
「え……?!」
一瞬だけ間が空いてしまう……今一番知りたかった事がこんな形で聞いてしまったからである。
「そ、それ…本当ですか、本当に承君が…?」
「ええ、さっき本人から電話をもらったからね」
楓はそれを言うと、事の顛末を話し始めた。
◆
数十分前……
落合楓は穂乃果達が入院している西木野総合病院に向かう為、自宅にいた時の事だった。
「さて…そろそろ行くかな」
立ち上がって部屋を出ようとした時、自分の携帯が鳴っているのが分かった。
「電話…?見たことのない番号だけど…」
「はい、落合です」
「楓さん!俺です、比屋定承一です!」
聞こえてきたのは、2日前に行方不明になっていた「比屋定承一」だった。
「承一君かい?無事だったのか、良かったよ」
「何とか…ですけどね、所で穂乃果達やみんなは無事ですか?」
「みんな無事だよ、君は本当に優しいんだね…自分の事よりも彼女達の安否を心配するなんてね」
「まぁ、俺よりみんなの方が気掛かりですので…」
やれやれと思いつつ安堵の表情をする楓だったが、直ぐに気持ちを切り替え伝えるべきことを言う。
「ところで、今は一体何処にいるんだい?」
「言いにくい…ですけど、大阪の岸和田て所なんです」
「岸和田…か、もしかして一昨日の飛行物体墜落の件は君という訳だったのか」
「俺も今さっき知りましたので、おそらくは…」
この事はテレビのワイドショーなどで大きく取り上げられ、今でも警察や消防、果ては海自などが動いており大阪だけではなく、日本中の話題となっていた。
「さて…これからどうするかだけど…」
「テレビで伝えられているとなると、東京に戻るのに新幹線の利用は止めておいた方がいいですね」
「神奈いやび」と名乗った人物…おそらく彼女は「同化人間」の仲間であろう、ならばテレビなどで取り上げられている現状から「比屋定承一が生きている」と当然知られていることだろう…
承一は以前戦った「同化人間・川和」の事が頭に浮かぶ、奴は自分を始末する為に関係のない者まで巻き込んでいて今回も同じ様な事が起きないとは限らない為、それを含めての提案だった。
「確かに…でも陸路からだったら移動手段はどうするの?」
「それなんですが、俺の家にクレジットカードがあると思うのですがそれがあればタクシーなりバスなり利用ができますが…」
少し考えた後に楓はとある提案を出す。
「渡す方法はあるけど騒ぎの中心地では不味いから、別の所で渡すことにしようか…」
「というと?」
楓は部屋にある机の引き出しから全国の高速道路の地図を取り出し、大阪から離れた所でかつ近い場所を探しだす。
「もし何らかの移動手段があるなら、奈良県の「天理PA」まで来れないか?」
「無くはありませんが、どうしてそこに?」
「なるべく早く渡すのなら人じゃないものがいいのだけど、それの行ける限界が大体奈良になってしまうのだよ」
「分かりました、ではそれで」
「君も、気を付けなよ…」
◆
「という事だったんだよ」
全てを聞き終わった後、穂乃果は一つ息を吐いてポツリと呟く。
「良かった…無事で」
その表情はこれまでの明るい感じではなく、心の底から心配しているものからだと気付いた楓だったが、あえて言うことはなかった。
しかし、彼女達はまだ知らなかった…彼等「同化人間」の魔の手はすぐ傍まで来ていることに…
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