第50話 5月6日 SIDE「比屋定承一」
真っ黒な空間が広がっていく。
ここは…何処だ…?
俺は…どうなったんだ……?
思い出すことは確か…神場崎を倒して母さんとみんなが待つ家に帰った所、謎のスタンド使いと遭遇して戦い…そして能力が分からないまま、倒されてしまったんだ。
その事まで思い出すと真っ黒だった視界が徐々に明るくなっていくのが分かった。
「…ん?」
目を開け、一番最初に入ってきたのは薄暗い室内と古ぼけた天井だった…周りを確認しようと上半身を起こした所、腕や背中などに痛みが走る。
「痛ッ!」
無理に動かさない方がいいと判断して目だけを動かして見る、畳張りの床に年季の入ったキッチン…といっても食器棚とガスコンロと冷蔵庫、換気扇だけのシンプルな見た目であった。そして衣類を入れるのだろうかクローゼットも確認できた。
一通りの周りを見渡した所で玄関の鍵が開く音がした、ビニール袋が擦れる音が聞こえたた為買い物帰りか何かだと思われる。敵かもしれないので用心して自らの「スタンド」を出しておく。
扉が開かれたーーー
「気が付いたんだね、いやぁ~良かった良かった」
そこにいたのは、180cmぐらいの身長で服の上からでも分かるがっしりとした肉体で、黒髪の短髪で何より目立ったのが右目の下にある数センチの切り傷がより強面の印象を与えていた。
「あ、あなたは…?」
「自己紹介は初めてだね、わいは「島 秀二(しま しゅうじ)」ていう者で怪しい見た目だけど、怪しい者じゃないからね」
その外見で言われてもあまり説得力がないような…そんなことを思っていると買い物袋を開け、慣れた手つきで冷蔵庫にしまっていく。
「それにしてもびっくりしたよ~まさか、空の上から落ちてくるなんて…」
「え、そうなんですか!?」
「まぁ嘘だけどね~」
「嘘かい!!」
体が痛むから心の中で盛大にずっこけた…あんな見た目で冗談を言うなんて、人は見かけによらずとはまさしくこのことだろう。
「でも目を覚ましてくれて良かったよ、今から夕飯の準備をするからね」
「あ、ありがとうございます」
取り敢えず悪い人には見えなさそうで一安心した。しかし俺自身の現在状況がまだ分からないままなので、夕食を食べたら聞こうかな。
「ご馳走でした」
「ああ~食べた食べた!」
お腹をぽんぽんと叩きながら島さんは寝そべっている、俺は食べ終わった食器達を重ね、キッチンのシンクに運ぼうとしたが、何故かシンクが見当たらない…あるのはガスコンロとまな板を置くのか多少のスペースぐらいしかなかった。
「あの…島さん?シンクがありませんがどうしたら…?」
「そこに置いていいよ、後で大家のとこで勝手に借りて洗うから」
さらりと問題発言を聞いた気がするが流しておくか、それよりもシンクがないのは本当に驚いた、まさか今の今まで大家さんの所から借りて洗っていたのか…考えただけで頭が痛くなってきたので一旦忘れよう、それよりも…
「いくつか聞きたいことがあるのですか、大丈夫ですか?」
「スリーサイズ以外なら何でも」
いや、そんな堂々と真顔で言われてもツッコミずらいことこの上でないのでスルーして話を進むようとすると、物凄く不服そうな顔をする……ボケをスルーされたことは少なからず同情するも今の俺はどうしても知りたいことがあるので我慢してもらうとし、気を取り直して質問をする。
「ここは何県の何市になるのですか…?」
「…?、不思議な事を聞くもんだね~君は」
若干怪しまれそうになり、嫌な汗が背中を伝う……だがそれを気にしている場合ではない、今は少しでも情報が必要だから…
「何か訳ありって感じだけど、深く追及はしないでおくよ…質問の答えだけど、ここは「大阪の岸和田」てとこだね」
「大…阪…?」
衝撃が走った、沖縄からそんなに移動をしてしまったらしい…財布も携帯も持っていないのにどう東京に戻ったらいいのやら、その衝撃でからか頭がどんどん冷めていくなかで
もうひとつの疑問が浮かんだ。
「後一つ、俺はどのくらい寝ていましたか…?」
「2日ぐらいかな、確か」
衝撃が再び襲った……沖縄にいた頃が五月四日だったから、今みんなの状況がどうなっているのか分からない…携帯がない以上、楓さん達と連絡を取り合うことができない…自分の状況を知れば知るほど気が早まってしまう。
「何か、困っているのか…?」
「え…い、いや…」
どうする?目の前にいる島さんに頼るか……しかし、関係のない人を巻き込む訳にはいかないけど俺一人ではこの状況を打開することはできない…どうする…?
「何を思っとるのかは分からないが、わいにできることがあれば何でも言ってくれや!これも縁というやつだからな」
「島さん…」
厳つい見た目に反して優しくそれでいて強い言葉に、不思議と安心感を覚えてしまう……その言葉に甘えて最初にやるべき事を告げようとした時、玄関の扉は勢いよく開かれた。
「兄貴ィ!すぐに…」
「うるせーーーぞッ!!!」
「ぶべらッ!!?」
扉を開け入ってきた小太りの男性に対して、島さんが見事な飛び蹴りをかまして部屋の外に吹き飛ばした。
「開ける時は静かに開けろっていってんだろ!!何回言わす気だ、ゴラっ!」
「兄貴~酷いっすよ~」
「やかましい!…で何の用だ?」
「はい、実は……」
部屋の前で何やら二人で話し始めたかと思うと、ものの数分で島さんが戻ってきた。
「悪い、今から出かけなきゃいけない用事があるから留守番をお願いしてもいいかい?」
「大丈夫です、それとこの近くで公衆電話とかありますか?」
「それなら、このアパートの前の道を北に真っ直ぐ行くと「オーソン」ていうコンビニにあると思うよ」
「分かりました、それと…」
「お金の事だろ?だったらクローゼットの中に瓶詰にしてある小銭があるから、そこから取りな…じゃあ行ってくるから」
それを言って島さんは速足でその場から去って行った、俺はクローゼットの中から少しばかり小銭を拝借して公衆電話に向かった。
いかがだったでしょうか?それと大変お待たせしまして申し訳ないです、仕事の合間を見つけるのが精一杯でしたので…
遂に、最終章に入りました!これから承一と「μ's」の最後の戦いが始まります、是非見守ってください。
それではご意見・感想お待ちしています。
*番宣(?)みたいなもの
同時投稿しています「東方冒険奇譚」も宜しくお願いします!