川和が発現させた「スタンド」は見た感じは何の変哲もない人型であった。
赤と黒の縞模様が全身を覆っており、顔は口元以外が鉄製の仮面を被っており表情が窺うことができない、さらに両手甲に時計の文字盤みたいなのが付いているのが分かる。
「川和・・・・征四郎・・・」
「比屋定承一、学院外だからといって先生呼ばわりしないのは感心できんな」
いつも学院内で見ているのと違い、嬉々とした目でこちらを見ている・・・・それはこれから獲物を狩るハンターの様な目ともとれた
俺は後ろにいる雪穂ちゃんに目をやり・・・
「早く、ここから離れた方がいい・・・危険だから」
「でも・・・」
「俺はここで奴を食い止めないといけない・・・だから早く」
「わ、分かった・・・・・」
少しばかり殺気立った発言に驚いたのか、彼女は足早に去ろうとした時・・・
「いけないな・・・女性に向かって殺気を立てるとは」
いつの間にか川和が彼女の背後に立ち、手首の所を掴んでいた。
「お、お前・・・・!」
「せっかくの観客だ・・・この子も交えて楽しもう・・・・か!!」
「あ・・・う・・・」
そう言うと、奴は彼女の首元を一瞬だけ強く圧迫すると力なく崩れてしまう・・・
「な!?き、貴様ァ!!」
「落ち着け、一瞬だけ気道が圧迫されたことによって酸素が行き辛くなりそれによって気絶しただけの話だ」
「まさか・・・人質にするつもりか・・・」
「そんなことはしないさ・・」
それを言い終わる前に奴の「スタンド」が掴んでいる手首に対して手刀を構えるようにしていた。
「その手を離せッ!彼女は関係ないはずだッ!」
だがその叫びは届かず、奴はその状態から横一文字に手を素早く動かし手首を切り裂いた。だが・・・・
そこから多量の出血はなく、その代わりそこには「C」を逆向きにした「マーク」があった。
奴はそれを確認すると、彼女をこちらに渡してきた。
「これから私はお前を殺すが、ただ殺すのはつまらないから・・・ゲームをしよう」
「ゲーム・・・だと・・・?」
「十分だ、我が「アイズ・トゥ・トゥモロー:C3(シーキューブ)」の力によって「十分後に手首からの出血が始まる」という未来を確定させた。」
「な・・・に・・・」
「簡単な事さ・・・それまでにお前は私を倒せばいい、そうすれば能力は解除される。できなかったら彼女と共に死ぬだけさ」
「お・・お前・・・は・・・!!」
「始めようか・・・本物の命を懸けたゲームを・・!」
奴のその言葉と同時に俺の脚は既に動いていた、早く倒さないといけない思いに駆られて・・・
一メートルの距離まで詰め寄り、左ストレートを放つ・・・それを躱したのと同時に右フックを顔面に喰らわせてやる・・・・だが
「見え見えの動きだぞォッ!!」
それを読まれていたかの様に、腕を掴まれ引き寄せられてしまい逆に奴の肘打ちを受けてしまう、さらに「スタンド」の蹴りを腹に直撃し吹き飛ばされてしまった。
モロに入った影響で胃酸が逆流しそれを吐き出す。
「どうした?その程度か・・?」
「・・・く!」
挑発に乗りそうだったがそれを堪え、今度は「スタンド」能力を使う。
奴の右腕に近くにあった木から葉を集めさせる・・・その影に隠れ突進する。これなら・・
「フン・・・つまらん」
葉がまだ集まりかけている時、俺の「スタンド」も射程内に入った。
「そこだッ!!」
ラッシュを喰らわせようと拳を突き出した、その時だった・・・突然鋭い痛みと共に体がよろける・・・
よく見ると、奴が拳を突き出していたのが分かった。
「く・・・う・・」
「何が起こったのか分からない顔だな・・・我が「スタンド」能力によって「私自身のパンチが三十秒後、比屋定承一に絶対に当たる」という未来を確定させたのだ」
「だから、姿が見えずともお前に当たったのだ」
「そんな事が・・・」
「飛鳥と座井部を倒したから、少々期待していたが・・・とんだ外れだな」
「それでいて奴の息子だというのだから、人間は心底不思議だな」
「な・・!お前は・・父さんを知っているのか?!!」
「知っているも何も、奴を始末したのを手伝ったからな」
やっぱり・・・こいつらが・・・父さんを!、また心の中から怒りの感情が湧いて出てくるのが分かった。
「何故・・・父さんを・・・?」
「奴は我々の「計画」を潰し、無駄な延長をさせたからだ」
「だから・・・殺したのか・・?」
「全ては「計画」の為だ」
「うあああああッ!!!」
怒りが頂点に達し、その為か考えるより、脚が動く・・・こいつらのせいで、こんな奴なせいで・・・!
がむしゃらに走り、「スタンド」で高速の拳を繰り出す。
「さっきより動きはいい、だが!」
一つ一つ弾かれた上に、その都度カウンターをもらい耐えられず地に伏せてしまう
「が・・はぁッ!!」
「単調すぎるな、これでは楽しむことができないぞ・・・」
そう言うとゆっくり俺の傍まで近寄り、先ほどの木の破片によってできた傷口に足を乗せる。
「私を楽しませてくれよッ!、なァ!なァ!なァ!なァ!なァ!!」
そこを踏みつけるように何度も足蹴にする。
「ぐあ・・・があっ!!」
傷口からは出血が始まり、あまりの激痛に声が出てしまう・・・
「まだ三分ちょとしか経ってないが、もうお終いにしようか・・・」
そう言うと懐から数本のナイフを取り出した。
「これらに「ある」未来を確定させた・・・何かは分かるよな・・・?」
「・・・・!まさか!」
「青ざめたな、勘の良いお前なら分かるだろう・・・三十秒後に起こる凄惨な未来が!」
そして、鈍い光を放つナイフが空中を舞う、一瞬だけ止まったかと思うと切っ先がこちらに向き・・・・そして一斉に飛んできた。
弾く・・・いや破壊しないと・・・!!
「オオオオオッ!!オラオラオラッ!!!オラァッ!!!」
全てのナイフを破壊し、少しだけ気が緩んでしまう・・・そんな時背後から声が聞こえる。
「やはり、人間だな・・・所詮「空条」の血筋であっても・・な」
「な・・!」
「同化人間の性質をもう忘れたのか?ナイフはただの囮・・・さ!」
奴のスタンドの拳が体に直撃する・・・・・
「人間の努力など、無駄なことだァッ!!!!」
「WRYYYYYYYーッ!!!!死ねッ!「空条仗世也」の忘れ形見が!!」
高速のラッシュが一発また一発と打ち込まれていき、最後は顔面にクリーンヒットし「スタンド」にひびが入りそこから血が飛び出る。
地面に仰向けに倒れ、息が絶え絶えになる。
「まだ息があるのか、その生命力には父親と同じだな・・・」
「か・・・は・・・」
口の中に血が溜り、言葉を出すのも辛くなっている・・・
(俺・・は死ぬのか・・・ここで・・・何もできずに・・・)
(俺は・・・)
「一人で死ぬのは辛いだろう・・・安心しな」
「お前に関わった奴らを全員みな殺しにしてやるよ・・・それなら寂しくないだろう?」
「・・・ッ!」
その言葉に反応する・・・「μ's」の皆が・・・!
皆の顔を思い浮かべる・・・穂乃果、真姫、希、海未、ことり、凛、花陽、絵里、にこ・・・・皆が殺される・・・?
(ふざけるな・・・・そんな事はさせない・・・絶対に!)
視線を少し上げると倒れている雪穂ちゃんが目に入った。
(俺が死んだら彼女も死ぬ・・・・)
心の中に父への思いが呼び起される・・・・
(家族を失わせはしない!あんな思いは誰にも味わって欲しくは・・・・ない!!)
その時ーーーー
心の中に怒りでも憎しみでもない感情が生まれた・・・それは力強くそれでいて暖かく、全身に満ちていく感じがした。
(そうか、この気持ちは・・・・)
ゆっくりと立ち上がり、奴と向き合う・・・・
「ば、ばかな・・・!立ち上がる・・・だと」
「・・・俺にも不思議だよ、こうして立ち上がれることが・・・だが」
胸に手をあてる。
「全身に満ちていく・・・この思い、分かる気がする・・・・」
それはーー
「「大切なものを守る」・・・ただそれだけ・・・・
「俺はようやく分かった、これまで分からなかったこの気持ち・・・これだけで人が強くなれることを!!!」
「そんなもので・・・そんな事でッ!!!」
「お前には一生かかっても分からんだろうな・・・・独りで生きていけるお前達には!」
「限りある命だから大切な人達を共に歩むことこそが、人間の素晴らしさ!そしてそれを脅かすものと闘う為の力の源が、俺の中に満ちていくこの思いなんだ!」
「く・・・・あ・・・・」
圧倒的に俺の方が不利な状況で、奴は何も言えず・・・ただ後ずさりするだけだった。そう思っていると不意に右腕を見る、そこには・・・
「これは・・・「矢」が・・・・」
矢尻だけの「弓と矢」が右腕の途中でへばりついている・・・そしてそれはズブズブと音をたてながら腕の中に入っていく。
俺はその光景に何も疑問を抱かなかった・・・・何故なら・・・
(感じる・・・・「矢」の力を・・・)
ほとばしる「矢」のエネルギーが俺の中に入ってくるのが分かる・・・
その光景を見ていた川和はすぐさま行動をした。
(な、何かがヤバい・・!止めなければ・・・!)
「くッ・・!トドメだッ!!比屋定承一!!!」
「スタンド」がラッシュを放つ・・・・だが
ーーー
「はッ!!!?」
放った先には誰も居ず、ただ拳は空を切っていた・・・
(ど、どこへ・・・・?!」
すると、背後からすさまじい気配を感じた・・・
「決着をつけよう・・・・川和征四郎」
いかがだったでしょうか?
次回で川和戦に決着がつき、そして第二章も終わり新章が始まります!お楽しみ!
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