東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
星を見る。夢を浮かべる
風が吹く。雲が消え去る
星が消える。都会の闇に
夢は散る。泡沫のように
その時の幻想世界。俺は一生忘れない
by白咲狂夢
目が覚める。意識が覚醒した。
楼夢は辺りを見渡す。
周りには、壊れた高層ビルの欠片が上下左右斜めでバラバラに浮いていた。どうやら楼夢もその欠片の一つの上にいるらしい。
正にカオスな光景。
そして楼夢は気づく。
そう、ここは『混沌の世界』。楼夢の精神世界であった。
「……俺は……負けたのか」
「いや、正確には負ける寸前ってとこだ」
後ろで、そんな声が聞こえた。
振り向けば、全身白い巫女服姿の青年がいた。
「どういう意味だ狂夢?」
「言葉通りの意味だ。現在テメェは気絶中。床でおねんねってわけだ。幸い剛の野郎は歩いて来ているから、まあ後数分は大丈夫だろう」
やれやれと、首を横に振りながら笑う。その笑顔が自然と不気味に感じてしまう。
「で、何が言いたい」
「おいおい、自分から呼んどいてそれはねぇんじゃねぇか?」
楼夢には、その問いかけの意味が自然と理解できた。つまり、そういうことなのだろう。
狂夢の瞳を見る。相変わらず濁ったような瞳には、燃えるような紅が潜んでいた。
だが、今は恐怖を覚えない。むしろ何が言いたいのか理解できてしまった。
「さぁて、答え合せだ。テメェの
不思議と心が落ち着く。砕かれた闘志が再び燃え上がる。
迷いはない。楼夢は自分の答えを、狂夢に伝えた。
「俺は……最強の妖怪になりたい。この身が朽ち果てる前に、老いぼれが戦えなくなる前に……最後の願いを叶えたいんだ!!」
「それでテメェの全盛期が終わったとしても?」
「それでもいい!どうせ残り数百年の力だ!この戦いで
楼夢の瞳から、燃えるような闘志が溢れ出る。
おそらくこの戦いが生涯最後の全力の戦いになるだろう。
だがそれでも楼夢は夢を追いかけ続けた。その先で燃えつきようが、灰になろうが、その思いは揺るがない。
「……合格だ。テメェの魂、しかと見届けたぜ。受け取れ、これが『舞姫』の神解だ」
楼夢の目の前に、二つの剣の形をした光が現れた。
片方は白く、暖かく。もう片方は黒く、冷たかった。
「さあ呼べ。これがテメェの神解。その名はーー」
「ーー『
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここは妖怪の山。そのとある場所で、俺にとっては非常に愉快な、相手にとっては地獄絵図が浮かんでいた。
「ハァァァァア!!」
「我らが天狗の誇りを嘗めるなァァッ!!」
後ろから烏がまた二羽、飛んできた。
それにしてもうるさい。まだにわとりの方がマシだ。
相手の刀を片手で受け止め、へし折る。
そのことに間抜け面を晒している内に、回し蹴りを放ち二羽の骨を砕く。
「あ、ありえない……」
確か射命丸文だったか?が、そんな言葉を漏らす。
まあそりゃ信じたくないだろうよ。なんせ目の前には白狼天狗、烏天狗、そして鬼を数えた数千のオブジェが転がっているのだから。
辺りを見渡し、生き残りを確認する。
えーと、後残ってんのは……チビ鬼と乳牛と大天狗と最速(笑)か。それ以外にも何人かいたが、戦力外なので数に数えていない。
尚、生き残りと言っているが、この戦いでは死者は出ていない。大怪我はするが、戦闘不能で済む。
わお、俺って優しい~。
「んで、三人ならぬ四人寄れば文殊の知恵というし、少しはァ足しに何だろォな?」
その言葉に、生き残りは集まり始めた。どうやら作戦会議をしているらしい。
俺の聴覚で盗み聞きしたいが、そこは天狗の長。風を操って俺のところに音がいかないようにしやがった。
まあ余興にはなるだろう。
しばらくすると、それぞれバラけ始まる。どうやら終わったようだ。
「とりあえず、この作戦で行くぞい」
「ああ、アタシは異論はない」
「私もだね」
「上司の策なので」
「作戦会議は終わったか?ならさっさとしな。暇過ぎて仕方がねェ」
「後悔するなよ!」
天狗の長の合図と共に、鬼二人が飛び出す。俺の注意を引くためと思うのが妥当か。
「オラァッ!!」
「くらえッ!!」
風を切り裂く音が聞こえた。それほどまでに凄まじい拳。だが当たらなければ意味がない。
真っ直ぐ伸ばされた腕に裏拳をぶつけ、軌道をずらす。そしてすぐにカウンターで乳牛を殴りつけ、チビ鬼を蹴りあげる。
それぞれが野球ボールのように吹っ飛ぶ。さらに追い討ちをかけるべく、俺は左手で魔法陣を描いた。
だがその瞬間に、俺は後ろに二つの気配を感じた。
「させるか!」
「今じゃッ!」
二人は協力して風を圧縮させ、それを俺に砲撃のように放った。プラズマを纏っていることからかなりの威力があると予測する。
だが甘い。俺の魔法陣も既に完成していた。
「吹っ飛べ!『
魔法陣から巨大な炎の竜巻が現れる。それは砲撃を打ち消し、奥にいる天狗たちを飲み込んだ。
とりあえず一息つく。地面には天狗二人が転がっていた。
「電池が切れりゃァ、ただのガラクタってか。......んっ?」
だが次の瞬間、二人の体が突如破裂した。
この時俺は、何が起きたのかを瞬時に悟った。
「しまった、偽者か!」
「ご名答。そして遅い!」
強力な風が無防備な俺を拘束する。
数十秒もあればなんとかなるが、戦闘中にそんな暇はない。
さらに俺の体を射命丸文が羽交い締めすることで、抜け出すのがさらに困難になる。
ふと、顔を上げる。そこには先ほどの二人の鬼が、指をポキポキと鳴らしていた。
「「『三歩必殺』!!」」
二人は一歩、二歩、三歩と力強く踏み込み、拳で俺を殴りつけようとする。
「鬼を馬鹿にした罪は重いよ!」
「クッ、クソがァァァァァァッ!!!」
鬼のトップ二人の、全力の一撃。
それは風を裂き、ゴォォォォッ!! という音を出しながら俺の顔に叩き込まれた。
「ーーーーなーんちゃって」
だが、俺は攻撃が当たる前に能力を使い、術を発動する。
「『バニシング・シャドウ』」
そして、俺は自分の影の中に潜り込み、そこらの木の影から出て緊急脱出する。
驚く四人。だが一度放った攻撃は止められない。
鬼の全力の一撃は、突如俺が消えたことで呆然としていた文に放たれ、ボールのように吹っ飛んだ。
「文ァァァァア!!」
「同士討ちかァ......無様なもんだ」
一人戦力が減ったことで動揺する三人。その隙を俺は見逃さない。
地面に伸びる影を虫を踏みつぶすように踏む。
「『影龍』」
すると、三人の影から複数の刃が飛び出し、串刺しにする。
文を直接殴った鬼二人はこれに反応できず、腹を貫かれ倒れた。
「勇義!萃香!クソっ」
「さァて、残りはテメェ一人だ。せいぜい足掻きな」
天狗の長は上空に飛ぶことで攻撃を回避する。
しかし面倒だ。上空に影は伸びないので、影から攻撃ができない。
『それなら直接ぶつければいいでしょ』
「まあ、一分か二分かの話だ。楽に終わればァ、それでいい」
地面を靴底で叩き、爆発を起こす。そして爆風にのりながら、俺は空に舞い上がった。
天狗の長が風の刃を複数飛ばして来たが、関係ない。それら全てを手で握り潰す。
上を見上げれば、天狗の長が風を集中させているようだった。しばらくするとプラズマが発生し、輝き始める。
単純に威力を予測すると街一つを一撃で吹き飛ばすほどの威力。どうやら全ての妖力を詰め込んだようだ。
「これが儂の全力じゃぁぁぁぁ!!!」
青い閃光が、叫びと共に放たれた。
音速の三倍以上の速度のそれは、数えるまもなく俺の元に届く。
(届いた!儂の勝ちじゃ)
俺が避ける動作も見せなかったことで、どうやら彼女は勝ちを確信したようだ。
その証拠に口元が歪んでいた。だがそれはすぐに恐怖に変わる。
「はァ......だりィ。『ダークサイドローブ』」
闇のローブが閃光を飲み込んだ。
ジュワッ、という消火されたような音と共に、閃光は消え去った。
自分の全力があっさりと止められたという現実。それが、天魔の胸に突き刺さった。
そんな心理状態の彼女に、容赦ない俺の追い討ちが迫る。
「うっ、嘘じゃ......こんなもの!大妖怪最上位の儂の......全力の一撃を......一瞬で止めるなど!」
「たかが大妖怪がこの世に三人しか存在しねェ『伝説の大妖怪』に勝てると思ってんのか?第一俺はテメェの数千、下手すりゃ数万倍生きている。お前が百人いたところで全員を軽くひねるぐらいはァ、できんだぜェ」
圧倒的実力差。
それを見せつけられた天魔の顔は、もはや泣きわめく小娘にしか見えなかった。
「理解できたかァ?できたなら、大人しく床ァ這いつくばって、間抜け面晒しながら寝込んでやがれェッ!!!」
グギャリッ、という音と共に悪魔の一撃が天魔の顔に突き刺さる。
俺の拳によって、天魔は鈍い音を立てながら、数十メートル先にある大木の幹に背を打ち付け、そのままゆっくりと重力に従い崩れ落ちた。
「う......ぐぅ......」
「でもまァ、遊んでいたとはいえ俺相手に五分以上持ったことは素直に褒めといてやるよ。後は......」
地獄のような光景の大地に降り立ち、ゆっくりと歩く。
そして魔法を発動。楼夢のいる『反転結界』の中に入れないか、試してみた。
だがしばらくすると、魔法が何かに弾かれ、消滅した。
「......ちっ、アイツどんだけ高度な術使ったんだ。ただの空間魔法だけじゃなく、東方の術式を完全に複合させた上に、もう一つ変な術式が絡まってやがる」
俺が分かったのは、楼夢の空間には侵入できないということと、今のアイツの状態だ。どうやらさっき空間魔法で繋げようとしたことで、俺しか感知できないほどの妖力が大気に混じって流れ込んできていた。
「......いきなり瀕死かよ、おい」
感じ取れた楼夢の妖力の弱々しさに呆れたような表情をした。だが内心では驚きを隠せないでいた。
あの楼夢がこれほど簡単に......。これが最強の妖怪なのか?
だが、次に感じ取れた妖力を見ると、俺の不安は自然と消え去った。
「『最強の妖怪』か。強くなりすぎた俺には目的はねェが、それでも夢はいいもんだ」
かつて、俺も楼夢のように最強を目指していた時期を思い出し、自然と笑みがこぼれた。
「負けんじゃねェぞ、楼夢」
俺は、一人静かに友の勝利を願った。
Next phantasm......。
どーも皆さん、作者です。
えっ?狂夢さんは?彼は急な出番に疲れて、現在お休み中です。
というわけで、皆さん読んでいただきありがとうございます。
最近、なろうの方の小説ばっかり読んでいて、あんまりこっちを書けてないんですよ。
今度自分もオリジナル書いてみようかな。まあ、もし書くとしてもこの『東方蛇狐録』が終わってからだと思いますし、最低でも一年以上はかかりそうですけどね。(笑)
と言うことで、次回もよろしくお願いします。
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