東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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届かぬ思いがあるのなら

我が身を焦がそう 思いが天に昇るまで

叶わぬ願いがあるのなら

この身を殺そう 願いが叶うその日まで


by白咲楼夢


ラストチャンス~The Final Time~

「ッ、ハハ!そうだよなあ!こんな一撃だけじゃつまらねえよな!」

 

高らかに笑い狂う楼夢。その目線の先にあったのは、半径三十メートルほどの大穴であった。

 

ーー極大消滅魔法『メドローア』

炎系統魔法の上位に位置する『メラゾーマ』と、同じく上位の氷系統魔法『マヒャド』を融合させ、相反する二つの力が合わさった時に発生する力で敵を消滅させる、威力だけなら最強の魔法であった。

 

そんな魔法を受けた大地は、大穴からモクモクと煙を上らせる。

 

それを打ち消して、彼女ーー鬼城剛は大穴の底から大地まで飛び上がり、着地する。その半身は黒く焼け焦げていた。

 

「初っ端からあの威力か……。なるほど厄介な力を身につけよって」

「厄介なのはこっからだ!来やがれ『ゲイボルグ』!」

 

その手に黒い槍を呼び寄せる。それをグルグルと頭上で回した後、真正面に構えた。

 

「さあて、レッツショータイム」

 

演舞のように槍を回しながら、楼夢は攻撃をしかけた。

基本的に右手で槍を持ち、変速的な動きでなぎ払いや突きを繰り返す。

 

それをいなし、反撃をたまに入れる剛。思わず止まってしまうほどに、槍は変速的で、まるで彼女のことをずっと追い回しているようだった。

だが、それでもいつか一瞬の隙が必ず訪れる。そしてそれは彼女の本能に危機感を持たせた。

 

「響け『舞姫』!」

 

刀を解放すると同時に切り上げる。右手に槍を持っているせいであまり力を入れなかったが、それでも剛の肩には赤い線が走っていた。

 

それを好機に、喉元に向けて、ゲイボルグを投擲した。その一撃を表すなら、黒い流れ星だった。

 

そんなゲイボルグの先端を、右手で握り受け止めた。そして槍をそのままボキリと握り潰した。

 

「そう言えば儂の新たな能力を言ってなかったのう。【圧力を操る程度の能力】、それが力の正体じゃ」

 

【圧力を操る程度の能力】、これは元々チートな彼女が数億年の時を生きた結果、生まれた能力だ。

この能力は気圧、風圧、水圧などの全ての圧力を操作できる、正にチート級の能力であった。

 

「ほれ、おまけじゃ」

 

パチンッ、と剛は指を鳴らす。すると楼夢頭上の気圧が変化し、潰しにかかる。

間一髪で範囲から脱出し、視界を奪うために弾幕の壁を張る。

 

だがそれらは、剛にたどり着く前に気圧によって押し潰された。

 

「なるほどな。遠距離も近距離も危ないと。なら、今度は狐らしく化けてみるかね。『狐象転化(こしょうてんか)』」

 

楼夢の体は突如体内から溢れた金色の狐火によって見えなくなる。

 

そしてそれが消えた時には、高さ二十メートルほどの妖狐が、剛を見下ろしていた。

尻尾の本数は十一本と、まるで楼夢の力をそのまま具象化したような姿だった。

 

「なっ……これは……」

 

妖狐の体は金色の狐火でできてるようで、その色は正に楼夢の尻尾のような輝きを放っていた。

 

『さーて、怪獣大決戦といこうじゃないか!』

 

頭に響くような大きい声で、妖狐は喋る。そしてその右前足で剛を潰しにかかった。

 

「鬼神奥義『空拳(くうけん)昇竜波(しょうりゅうは)

 

だがわざわざ潰される剛ではない。空拳をアッパーのように繰り出し、前足を吹き飛ばした。

 

だが、吹き飛んだ前足が狐火に変わると、妖狐の体の中に吸収される。そして無くなった前足が再び生えてきたのだ。

 

この作業が終わるのに約数秒。どうやら妖狐の体は狐火でできているので、いくらでも元通りにできるようだった。

 

妖狐が十一本の尻尾を振るう。そしてそこから数百、数千という狐火が空を埋め尽くすように放たれた。

 

篠突く雨とはこのことというように、大地に狐火が降り注ぐ。

それを気圧を変化させて潰していく。だがそれでも数の暴力には勝てず、ジリジリと追い込まれる。

 

「ぐっ……『空拳』、『空拳』、『空拳』!!」

 

空気砲のような一撃を連続で放つが、所詮は一方向にしか届かない攻撃なので、広範囲には届かない。

そう、剛には広範囲に届く攻撃がなかった。

 

鬼は種族で言えば一、二を争うほど力が強い。だがそのためあまり頭を使わず、力だけで生きているので術式を描くのは苦手であった。

それは彼女とて例外ではない。

 

徐々に押し潰すように迫る狐火の雨。それの対処で動けなくなっている剛へ、さらなる攻撃が追加される。

 

金色の太陽。そう評せるほどの大きさの金色の狐火が、空に浮いていた。

この状態で最も高威力の狐火を、楼夢は放つ。

 

「『狐火金花(きつねびきんか)』」

 

花が咲いたかのように、地面は金色の炎で埋め尽くされる。

その所業、正に灼熱地獄。

美しい炎が、辺り一帯を焼き尽くした。

 

大地には枯れ葉一つ残っていなかった。勝利を確信し雄叫びをあげる。

 

 

その時、一つの赤い閃光が煙から飛び出した。

それは狐火でできた高温の妖狐の体を、豆腐に針を刺すかのようにたやすく貫いた。

 

そのあまりの一撃に、楼夢は一瞬動きを止めてしまう。そこで見えたのは赤い閃光がくるりと方向転換してこちらに向かってくるところだった。

 

再度、体に風穴を空けられる。そこから先は一方的だった。

 

まるで蜂のように高スピードで飛び回り、息つく暇もなく体に風穴を空けてくる。

いくら再生できるといっても、数秒の時間が必要だ。そしてその数秒で赤い閃光は何回も攻撃してくる。

 

まさにジリ貧。

 

『グゴォォォォオッ!!!』

 

巨大な炎の爪を、方向転換してきた閃光にぶつける。

激しい衝撃と共に、一瞬閃光の動きが止まった。

だが楼夢は追撃できずにいた。

 

『……グゥ……ッ』

 

 

なぜなら、炎の爪は、赤い光をまとった剛の拳によって、グチャグチャに潰されていたからだ。

 

怯んだ隙に前足に手を伸ばし、それを掴む。そして次の瞬間、楼夢の前足は跡形もなく引きちぎられ、その衝撃で消滅した。

 

「……仕置きじゃ。心して受けい。『閃光爆裂拳(せんこうばくれつけん)』」

 

妖狐の顔を、赤い閃光の一撃が貫く。

そしてその後、大爆発を起こした。

 

ドッゴォォォォオンッ!!!そんな火山の噴火のような爆発の後、剛はスタッと地面に着地する。

 

「……まだピンピンしておるか」

「ったりめーだ!こんなんで死ぬわけねえだろ!」

 

煙の中から、無傷の楼夢が出てくる。

金色の巨大妖狐が貫かれてすぐに、楼夢は自ら狐火を爆発させ、その爆風で発動者である自身を、剛の拳から守ったのだ。

 

(とはいえ、これでもしかしたら効くかもしれないネタは全部使い切った。こっからは切り札を一枚一枚使うしかねえか)

 

「『スーパーハイテンション』」

 

楼夢は以前の火神戦での切り札の一つを切り、身体能力を底上げする。

 

(だがまだ足りねえ……。スピードでは俺が確実に勝っているが、それ以外は全てアイツより下だ。……あの赤い光……多分【物質を纏う程度の能力】で妖力を体に流さずに直接纏っていやがる。いつまでも光を放っているのがその証拠だ。それで体に負担をかけずに強化しているのか)

 

妖力の身体能力強化は、普通体に妖力を水のように血液などに流し込んで使用する。楼夢のテンションは、それをさらに細かくし、細胞一つ一つに妖力を流し込んで、体を強化している。

 

だがもちろんいくらでも強化できるという訳ではない。自分の体の限界以上に妖力を流し込むと、たちまち体全体を壊してしまう。

 

それに比べて、剛の身体能力強化は実に効率的であった。

能力【物質を纏う程度の能力】はあらゆる物質をその身に纏う。故に妖力を流し込むのではなく、直接纏うことで体の負担をゼロにしたのだ。

おまけに通常どおりに妖力を体に流し込むことで、二種類の身体能力強化を同時に行うことで爆発的に体を強化していた。

唯一心配なのは、大妖怪でも十分を持つかどうかという量の妖力消費だが、その点は剛には心配ない。

彼女は六億年の年を生きた、伝説の大妖怪なのだ。たった千年生きた妖怪の持つ妖力とは、桁が違う。

 

言うなら、これが究極の身体能力強化であった。

 

「うらァァッ!!」

「ハアァァァッ!!」

 

楼夢の斬撃と剛の拳が衝突し、互いに静止する。だが均衡したのは一瞬で、すぐに後ろに弾かれるように吹き飛ばされた。

 

だがこれでいい。楼夢は空いている左手を前に突き出し、能力を発動する。

 

すると 、楼夢の周りにあった空気が螺旋状に回転しながらドリルのように剛を襲った。

 

「空気を操るのはテメェの専売特許じゃねえんだよ!」

 

渦のように回転しながら、突風は剛を吹き飛ばそうとする。だがさきほどのように能力を発動させ、気圧が突風を押し潰そうと均衡する。

 

その間に、楼夢は巫女袖から、以前火神から勝ち取った約千個の武器を、全て空に浮かべた。

しかも、それだけではない。千個の武器は一つ一つが火、水、風……などのように様々な属性を纏っていたのだ。

これはひとえに、楼夢の術式操作の技術の高さを表している。風の動きを計算して突風を起こし、さらにそれに並立して千個の武器を属性付与しながら自在に操っているのだ。

大きく分けて三つ、細かく言えば数千個の術式を同時に操るその所業は、正に神を超えていた。

 

「命懸けで奪った武器の数々だ。受け取りやがれ!」

 

色とりどりな武器達が、その合図と共にシャワーのように降り注ぐ。

安全のため、楼夢は空を飛び空中でその光景を眺める。だがいつまで経っても剛はまだ無傷のままだった。

 

原因は予想以上に剛の能力が強力だったことだ。鬼は術式の展開は苦手だが、術を使えないという訳ではない。

彼女の場合、能力を操るための脳内で構築した術式一つに、無理矢理妖力を込めることで、能力の範囲と威力を強化しているらしい。

 

正直言うと、これは完全な力技である。もし楼夢がこの作業を行うとしたら、能力の範囲、威力、能力を操るための術式の三つに分けて、これらを同時に発動させるだろう。

実際にこれだけで妖力消費量は、剛の術式の三分の一にも満たない。

だが妖力の消費を気にしなくていい彼女にはあまり関係のない話なのだろう、と内心楼夢は舌打ちをする。

 

「……面倒じゃの。『合掌破(がっしょうは)』」

 

だんだん面倒になってきた剛はパンッ、と手のひらを合わせる。そしてそれを中心に、衝撃波が波のように広がった。

 

これにより、次々と武器が破壊されていく。

それを、もったいないと思ういながら『舞姫』の刀身に手を撫でるように置く。

 

「鳴り響け、『舞姫式ノ奏』」

 

シャランという鈴の音色と共に、楼夢の手に刀と扇が握られる。

そしてちょうど剛が全ての武器を破壊し終えると同時に一直線に超速で切りかかった。

 

刀の一撃を、剛は両腕をクロスさせて防ぐ。

普通は腕に切り傷が刻まれるのだが、剛にはそれがなく、むしろ何かに弾かれたような感触を感じた。

 

だがおそらくは刀と比べると小さくて気づかなかったのであろう。一撃を防がれた楼夢は、すぐに左手の扇で再度剛を切りつける。

 

「『森羅万象斬』!!」

 

霊力の刃を、放つのではなく叩きつけた。

直後、青白い光が剛を後ろに吹き飛ばした。

 

だが楼夢は剛にダメージがさほどないということを感じていた。

 

剛の両腕。そこには目に見えないが、【圧力を操る程度の能力】で圧縮され、【物質を纏う程度の能力】で纏われた風の鎧が、両腕を守っていた。

 

一撃目の斬撃が何も傷を与えなかったのは、そういう理由があった。ならいくら森羅万象斬といえど、ダメージを与えるには不十分だろう。

 

だが、それでいい。

楼夢は武器を消し去り、巫女袖から豪華な装飾が施された弓を取り出す。

 

(『森羅万象斬』ではあの風の鎧を突破できない。だが風を弱めることぐらいはできる。そこに貫通力が高い攻撃をぶち込めば……)

 

それが、楼夢の策であった。

彼が取り出した弓の名は、虹弓『ラルコンシエル』。『ゲイボルグ』と並ぶ、楼夢が創り出した神器だ。

そんな最強クラスの弓を引き絞り、一気に解き放つようにその手を放した。

 

「『つらぬくもの(アーティクル・ペルセール)』!!」

 

虹の弓から放たれたのは、一筋の金色の光。

剣よりも小さく、月よりも儚げなその一撃は。

 

 

ーー風を、空を、世界を貫いた……。

 

「グッ……ゲホッ……!?」

 

突如胸を貫通された剛は、それに気づくと同時にダメージを自覚し吐血する。

 

その隙を、楼夢は見逃さない。

武器を『舞姫式ノ奏』に持ち替え、一気に接近する。

そこから奏でられるのは、炎の悪魔をも打ち消す演奏。

 

「『百花繚乱』!!!」

 

光の速度の斬撃が、二つの刃から幾度となく繰り出される。

 

(策はもうない。こっから先は……単純な力技だ!)

 

そう内心で叫び、刃を振るう。そして振る度に速度が増していった。

 

 

だが、その斬撃の嵐の中、何かの音が、楼夢には聞こえていた。

 

「雷鬼神究極奥義『星砕(ほしくだき)』」

 

その声はまるで、地獄の底から響いたかのように、恐ろしく感じられた。

 

と同時に、前方から妖力で作られた巨大な拳が、楼夢に迫っていた。

 

「……ッ!?」

 

すぐに斬撃を数発放ち、なんとか相殺する。だがその先に待っていたのは……巨大な拳が機関銃のように連続して放たれた光景だった。

 

斬撃の嵐と拳の嵐が互いにぶつかる。だが徐々に押されているのを、楼夢は感じていた。

 

(畜生が!やっとここまで来たんだ!ここでくたばってたまるか!!)

 

「ウガァァァァァァア!!!」

 

楼夢の体には、相殺し切れずに攻撃を受けた後が、所々に見れた。

体中打撲で肌が青くなっていても、それでもさらに速度を上げる。

 

だが、届かない。

巨大な拳一つ一つは剛の放つ『空拳』の威力を超えていた。

対して楼夢の『百花繚乱』はいくら威力が上がってもスピード型。火神よりも遥かに攻撃力が高い剛の拳を受け止めるには不十分であった。

 

「チックショウがァァァァ!!!」

 

最後の一撃。楼夢は二つの刃で同時に今日最高の威力の斬撃を放った。

 

桃色の閃光。そう表した方が正しい。そんな一撃を、剛の拳は無慈悲に打ち砕いた。

 

楼夢の刃が、天高く空を舞う。見れば剛が今しがた放った拳を、引き戻しているのが見られた。

 

その動作が、楼夢には何故かスローモーションに見えた。

 

(ここで……くたばって……)

 

最後に楼夢が見た景色には、巨大な拳が自分に迫ってくるシーンがあった。そして

 

 

ーー剛の拳が、楼夢の顔を、全てを打ち砕いた。

 

そのあまりの威力に、数十本の木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされる。そして崖の壁に背中からめり込み、その勢いを止めた。

 

距離にして約一キロ。それが楼夢の吹き飛んだ距離であった。

 

壁をめり込ませた後、ゆっくりと頭から地面に崩れ落ちる。

その瞳はまだ闘志に燃えていた。

 

(畜生!もう時間がねえんだ!これがラストチャンスなんだよ!!)

 

楼夢の目的、それは最強の妖怪になることだった。

 

かつての人妖大戦で楼夢は多くのものを失った。

その時にこう思った。もっと自分に力があればと。

 

そう思ったとたん、楼夢は武者修行の旅に出た。最初は剛に勝って見返してやるのが主な目的だったが、旅をする途中でたくさんの大切なものを知った。

 

どんな敵だろうが、自分の大切なものを守る。それが楼夢の決意だった。

 

だが戦いを続ける中、自分の体はあまり頑丈でないことを知った。今のまま戦いを続ければ、全盛期が終えるのは数百年後だろう。

 

故に、ラストチャンス。次はない。楼夢はその意味をよく理解した上で、剛と戦った。

 

(……止まれよ血ィ。動けよ体ァ。俺は……俺の誇りにかけて……負けるわけには、いかないんだよッ!!)

 

そう言い残し、楼夢の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

Next phantasm……。


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