東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

83 / 292
草むらのトカゲの尻尾を掴む

そこで私は立ち止まる

否、身動きが取れなかったというべきか

なぜなら、それはトカゲの尻尾だという証拠がなかったからだ


by白咲楼夢


Mountain Faith の誘い~Prelude of Gods~

 

ここはとある森の中。辺りに眩しい差すような日差しが降り注ぐ中、楼夢は自分の娘たちの戦いを火神と共に観戦していた。

 

心地よい日差しを浴びて眠そうになりながら、自分の左足を見つめる。

既に火神との殺し合いに等しい戦いから数ヶ月の時が経ったが、未だに楼夢の左足は治らなかった。

否、まだ完治していないといった方が正しいか。付け根から損失していた部分は、今は太ももあたりまでは生えてきている。

 

今の楼夢は歩く時は数ヶ月前に自ら作った杖を支えにし、走ったり戦闘時は火神との戦いで無意識に生やした宙に浮かぶ黒い球体から生えた漆黒の翼を使用していた。

 

翼が生えている黒い球体は、楼夢の背中と連接していないように見えるが、実際は楼夢が意識しても見えない程に微量の妖力が、電波のように球体と繋がっており、楼夢が意識することで、それを通して翼を動かすことができる。

楼夢はそれを目で見ることはできないが、妖力の主であるため、確かにそれを感じていた。

 

まあぶっちゃけると、彼が翼を使う理由はただ単純に手を動かす感覚で翼を操作できるので、楽だからだ。

 

そんな思考をしながら、楼夢は辺りの様子を見る。

森の中は美夜たちの戦闘音を除くと静まり返っており、辺りに動物も見当たらなかった。

それも当たり前か、と楼夢は心の中で悟った。

 

現在この森には先ほど美夜たちが倒した中級妖怪『牛猿』や上級下位妖怪『牛猿王』のような、牛系が混ざる妖怪が多くいた。

なので人々からは『牛鳴(うしなり)の森』と呼ばれ、一般人にとっては禁止区域とされている。

 

そんな森の中に楼夢たちがいる理由は、火神が現在の都ーー平安京で受けた賞金稼ぎとしての依頼のせいだった。

 

内容はただ単純に下級と中級の妖怪の駆除だったはずだ。

楼夢はそんな、うろ覚えな記憶を探りながら、考える。

 

そして、再び視線を美夜たちに戻す。どうやら無事、ことが済んだようだ。

 

「お父さーん!終わったよー!」

 

と、清音が満面の明るい笑みをしながら近づいてくる。楼夢は彼女たちの頭を撫でると、帰るかと告げる。

 

すると

 

「いやぁぁぁぁあああああ!!!」

 

甲高い女性の叫び声が、森の奥から響いた。

 

すぐに楼夢は注意を向ける。どうやら先ほどの悲鳴の主が妖怪と遭遇したようだ。

 

マズイな、と内心楼夢は思う。同時に助けに行く必要あるか、と思ってしまう。

 

今の楼夢という男は友人の頼みなどではない限り私情よりもメリットを中心にして動く。そして今回の叫び声が間違いなく赤の他人だ。つまり助けに行く必要はない。そう冷たく切り捨てようとすると、ふと美夜たちと目線が合う。

 

「お父さん、助けに行かないの?」

「清音……いやでも、人間助けたところで俺たちにメリットは……」

「いや、メリットならある」

 

ドンッ、と自信満々に火神はそう答える。

正直言うと楼夢は火神の今の言葉に驚いていた。火神という妖怪は我が強く、自分のメリットがない限り例え誰であろうと助けはしない。

逆にデメリットになる場合は一瞬のためらいもなく邪魔者を、害虫を駆除する感覚で排除する。

 

そんな火神が助けるといったのだ。驚かないはずない。

 

「……ちなみにそのメリットってやつは?」

「金の匂いがするからだ!」

「……相変わらずの執着心ね」

 

その胡散臭い答えに、楼夢とルーミアは呆れるが、とりあえず助けに行くことに決めた。

現在の楼夢たちの資金は、連なる旅で雀の涙ほどしか残っていなかった。なので少なくとも報酬だけは、と楼夢は決心する。

 

ちなみに火神の方は現在の手持ちが雀の涙ほどしかないだけで、彼の今まで稼いだ国丸々一つに等しい大金は、日本のどこかに保管されているらしい。

どうやら隠し場所は火神以外の正攻法で行くと、数千以上の非常に質の悪いトラップが仕掛けられているそうだ。実際にこの数百年で数十人は隠し場所にたどり着いたが、そこにあるトラップに引っかかて全員十番目のトラップに至らずに力尽きたという。

 

(ったく、そんだけの金があるならちったぁ貸してくれりゃいいのに)

 

そんな金欠不足を一瞬で解決する方法を考えながら、楼夢は十一本の尻尾を揺らして、奥に歩き始めた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「だっ、誰か、助けて!」

 

案の定、というべきか、そこには十歳ほどの少女が鋭い二本の角を生やして二足歩行する汚ェ牛約二十頭の群れに襲われていた。

 

汚ェ牛は大きな口元からだらだらと臭い吐き気がするよだれを垂らす。うん、アイツらの名前は今日から汚ェ牛だ。

そう結論づけると、舞花が顔を青くしながら汚ェ牛を見つめていた。

 

「嘘……上級下位妖怪『牛鬼(うしおに)』の群れ……ッ!?しかもあの一際大きい個体、まさか『牛鬼帝(うしおにみかど)』ッ!単純な戦闘力だけなら上級中位を上回るあの……」

 

おっ、おう……なんか解説のときだけキャラ変わってない?

と楼夢は心の中にある唯一の疑問を浮かべる。

どうやらあの汚ェ牛は牛鬼と言うらしい。

というか牛鬼帝って無駄に名前かっけぇな!?

 

そんなことはさておき火神の予感は当たっていた。

少女は貴族が着るような豪華な着物を身にまとっていた。つまり彼女の家はかなりの金持ちなのだろう。

 

なぜ少女が一人こんな森の中にいるのかは気になったが、今は救助を優先すべきだ。

その考えに至ると、楼夢は能力で持っている杖の先を槍のように鋭くする。

 

今回美夜たちはお休みだ。彼女たちの尻尾の数はまだ五本で中級妖怪程の妖力しかない。まだ格上を倒すには早すぎるのだ。

 

「さぁてと、せいぜい暇つぶし程度にはなって欲しいものね。『ダーウィンスレイブ』」

「いざお金を救うために!『憎蛭』」

 

それぞれが武器を構えたところで戦闘は始まった。

 

先手は楼夢である。彼は杖を槍を投擲する感覚で少女に一番近かった牛鬼の脳天に投げつける。

杖は牛鬼の脳みそをたやすく貫き、その後自動で楼夢の手の中に戻っていった。

 

『何者ダァァ、貴様ハァ!?』

 

牛鬼たちは突如の襲撃に声をあげながら警戒する。ちなみに普通中級妖怪ぐらいになれば妖怪でも知能を持ち始める。だがどうやら牛系統の妖怪は知能が低く、本能で動くそうだ。

道理で牛猿たちは喋れないわけである。一応牛鬼は話せるみたいだが、基本的に本能に従って行動しているようだ。

なぜならその会話が

 

『幼女、犯ス、産マセル』

『ブハァァァ!久シブリノ女ダァ!』

『イイ匂イ!美味ソウダァ!』

 

知能を感じさせないほど本能に従っていたからだ。

よし、汚物は消毒だ。

 

どうやらその考えに至ったのは楼夢だけではないらしい。他の二人も楼夢と同じような顔をしていた。

 

「消えろ変態。『メラ』、『ヒャド』、『バギ』、『イオ』、『ギラ』、『ドルマ』、『デイン』、『ジバリア』」

 

そう冷たく呟くと別属性の魔法を同時に発動させる。

炎が、氷が、風が、爆発が、闇が、雷が、土が、牛鬼たちを襲う。

それだけで前衛の五、六頭の牛鬼たちは物言わぬ肉片へとなり果てた。

 

「失せなさい。『エンドレスブレードワルツ』」

 

ルーミアの言葉と共に牛鬼たちの地面が闇に包まれ、そこから無数の漆黒の刃が飛び出した。

それらは牛鬼たちを切り裂き、切り裂き、切り裂き続ける。

漆黒の刃たちが消えたときには、既に数センチの肉すら残らず、ただそこに不気味な赤い液体だけが残っていた。

 

「便利だなァ、二人とも。俺が使える広範囲攻撃は極大五芒星魔法しかねェからな。『火炎大蛇』」

 

そう呟くと火神は炎の大蛇を口から吐き出す。

大蛇が通った後には、舞い散った灰と黒いシミ以外、何も残らなかった。

 

圧倒的な蹂躙劇。そう表す他なかった。

 

二十以上いた牛鬼たちはリーダーである牛鬼帝を含めてわずか五頭の群れに成り下がっていた。

 

その事実に襲われていた少女は驚愕し、牛鬼たちの表情は恐怖を浮かべる。

 

「はぁ……。やっぱ強すぎんのも問題だな。やっぱ常時はもうちょっと力抜いておくか。最近さらに強化されてるしよ」

 

その言動を嘗められたと感じたのか、牛鬼帝以外の牛鬼たちはそれぞれその手にバトルアックスを握り締め、突撃する。

 

「……一応嘗めてるわけじゃないんだが。『ベギラゴン』」

 

魔法の術式を脳内で高速建築すると、左手を掲げる。

するとそこに、灼熱を表すかのような、竜を模した炎が現れた。

それをためらいなく牛鬼たちへと放つ。

 

瞬間、辺りが炎の海に包まれた。

そこに先ほどまで存在していた牛鬼たちの姿はない。

ただ、一瞬だけ辺りに醜い断末魔が満ちた。

 

「さてと、フィナーレにしようか」

『フッ、フザケルナァァァァアアアアッ!!!』

 

牛鬼帝は自分の同胞を殺しても余裕な表情をする楼夢に激怒する。

 

牛鬼帝の大きさは約五メートル。その太い両手には、他の牛鬼のとは明らかに格が違うバトルアックスをそれぞれ二本、装備していた。

 

その二本のバトルアックスにありったけの妖力を込める。

いくら牛系統の妖怪でも、上級妖怪は上級妖怪。

先ほどの交戦でまともに戦えば勝ち目がないことを牛鬼帝は本能で察する。

 

奴を殺すには不意を突いて最高の一撃を当てるしかない。

そう考えてこそ牛鬼帝は両方のバトルアックスを同時に振りおろし、二個の赤い巨大な斬撃を放った。

 

赤の斬撃は地面をえぐりながら縦に楼夢に向かう。

だがそこで楼夢の杖が青白い霊力に包まれた。

 

「『森羅万象斬』」

 

楼夢は杖を横に払い、青白い斬撃を放つ。

その威力は凄まじく、一瞬の接触で赤の斬撃を文字通り吹き飛ばし、消滅させた。

 

『ナッ、馬鹿……ナッ!?』

「おそらく今のが全力だったみたいだけど残念だったな。まっ、最後は華々しく散らせてやっから感謝しなぁ」

 

絶望に染まった牛鬼帝の顔をおかずに、また脳内で術式を構築する。

すると今度は楼夢の杖の先で、メラゾーマとマヒャドが融合し始めた。

 

出来上がるのは太陽のような、月のような神々しい巨大な球体の光。

その杖の先を牛鬼帝に向けると、最後に一言。

 

 

「絶えやがれ。

究極消滅魔法『メドローア』」

 

その最後のセリフと共に光が放たれ、巨大な人影はそのまま消滅した。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「この度は本当にありがとうございました」

 

少女は楼夢たちに感謝の言葉を告げると、頭を下げる。

 

現在、楼夢たちはある屋敷内にいた。

 

予想通り、今回の件で襲われていた少女ーー稗田阿礼(ひえだのあれ)は貴族だった。しかもかなり高位の。

 

それに稗田阿礼と言えば古事記作成に関わったことで日本ではとても有名だ。

流石に本人は何代目かの稗田阿礼であって、先ほど話した人物本人ではない。

だがそれでもかなりのお偉いさんを助けてしまったことに変わりはなかった。

 

「いや、別に報酬かなんかがもらえりャそれでいい」

 

中々がめついことを、当たり前といった表情で火神は話す。

阿礼も、そのことを予測していたのか、全く動じていなかった。

 

「とりあえず俺らが求めるのは金だ。それ以外はいらねェ」

「分かりました。後で働いた分に見合う報酬を出させましょう」

「ケチるなよ。多少は多く含めておけ。じゃねェとわりに合わん」

「ええ。ご了承しました」

 

話が終わると、阿礼はすぐに屋敷の使用人を呼び出し報酬の準備をさせる。

そのため部屋には使用人もいないので、しばらく沈黙が訪れる。

 

「そういえば、阿礼……だっけ?は、なんであんな禁止区域にいたのよ。しかも護衛も引き連れずに」

「はい。それもお話したいと思います。ですがその前に……そこの桃色の髪の御方。貴方様はもしかしてかの有名な産霊桃神美(ムスヒノトガミ)様で御座いますか?」

 

楼夢はその質問に驚いた。

なぜなら楼夢の神名をフルネームで、しかも本人かと尋ねられたからだ。

顔には出さないで、冷静に答える。

 

「……一応、そうだ。俺の名は白咲楼夢。神名は先ほどお前が言った通り産霊桃神美だ。それにしてもよく分かったな」

「ああ、やっぱりなのですね!私が分かったも何も、神関係の話ではかなり有名ですよ。

曰く、桃のような髪を持つ。曰く、そのお顔は月のように美しく。曰く、縁結びの神である。曰く、十一本の金色(こんじき)の尻尾を持つ最古の狐である。曰く、その力は高天原の全戦力に匹敵する。などなど。その伝説はかなり有名ですよ」

 

突然の阿礼からの宣言。そして自分がどのように言い伝えられているのかを知ると、楼夢は

 

「……マジかよ」

 

そんな世界が終わったような顔でそう呟くのであった。

 

「実際に貴族の中にも、産霊桃神美様を祀る方は多いですよ。まあ、それらのほとんどが色恋沙汰関連ですがね」

 

一応、楼夢を信仰すると男女の仲がよくなるというのは本当だ。

楼夢はこう見えてれっきとした縁結びの神なので、信仰したときに受けられる恩恵は主に男女の仲を結ぶなどであった。

 

どうりで最近力が増すわけだ、と楼夢は納得する。

 

その後、阿礼が何か言いかけていたが、このままだと泥沼になるのでルーミアが止めにかかる。

 

「はいはいそこまで。それで、お嬢ちゃん。さっきの続きだけどなぜあなたは牛鳴の森なんかにいたの?」

 

面倒くさいので、あえてストレートにルーミアは問う。その答えを返すのに阿礼は言いたくないという表情をした。

 

「その……実はーー」

 

阿礼が言うには以下の通りだった。

 

阿礼はどうやら古今東西様々な妖怪のことを研究し、それを書物として記しているらしい。

その一貫で牛鳴の森に、牛系統の妖怪の整体調査をしていたようだ。

そこで運悪くその森の中最強の存在、牛鬼に出くわし、護衛を全員やられたらしい。

後は楼夢の知る通りだ。

 

「なるほどね。理解できたわ。それにしてもなんも力ないのに森に行くなんて、度胸だけは一人前ね」

「はは……。褒めていただき誠にありがとうございます。そして皆さんに一つお願いがあります。

私に是非、皆さんという妖怪について、ご教授ください!」

「いいけど……俺たち三人の情報はバカ高ェぜ?報酬を倍にするってなら……」

「すぐに手配させます!」

 

急いで使いを呼び出し、報酬の倍化を手配する。

その表情は喜々としており、はしゃぐ子供のようだった。

 

「あっ、妖怪のことに詳しいンなら、できれば追加で最近の面白い情報をくれ」

「それならつい最近手に入ったお得な情報がありますよ!」

「……へェ」

 

火神の、あからさまに次に面倒なことが起きそうな質に、阿礼は最新の情報を提供した。

 

それを興味なさげに見ていた楼夢だが、次の阿礼の一言で、表情を変える。

 

 

「なんと、現在『妖怪の山』に鬼が出現したそうですよ!」

 

その一言で、楼夢の瞳が、ギランと輝いた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。