東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「……知らない天井だね」
体の節々に痛みを感じながら起き上がる。
えーと、なんで私はここにいるんだっけか。たしかさとりを倒したところまでは覚えてるんだけど……。
情報を得るために辺りを見渡す。
畳に障子、屏風そして布団。愛刀たちはそのすぐ横に置いてあった。
どうやらここは和室のようだ。半分開きかけている障子の奥からは縁側が見えている。空は黒かったが、夜空に浮かぶ星々のように壁や天井に宝石が埋め込まれているのでここは間違いなく地底のどこかだろう。
ここでじっとしてても始まらないな。
とりあえず外に出てみることに決めた。縁側に向かって歩いていく。
しかし足を動かした途端、ジャラジャラという不快な金属音が突然聞こえてきた。
音源は下からだ。足元を見下ろす。
するとそこには、見慣れない金属の枷が私の左足首につけられていた。
……はっ?
何かの間違いだと思いもう一度足元を確認する。しかし現実は非情で、そこには変わらず枷が足にひっついていた。しかもよく見れば鎖で壁と繋げられている。
……あれ? この枷、どこかで……?
そのとき、私は全てを思い出した。
そうだ。私はあのときあの女に、剛に気絶させられたんだ!
てことはこの家はまさか……。
そこまで考えが至ると、滝のように全身から冷や汗が流れてきた。
ヤバイヤバイ! このままじゃ間違いなく性的に襲われる! 早く逃げ出さなきゃ!
しかし枷を壊そうと衝撃を与えてもビクともしなかった。
よくよく考えたらこれは剛が持っている枷なんだし、見た目以上に超頑丈なのかもしれない。というかもしそうなんだとしたら、これ壊すのほぼ無理なんじゃ……。
いや、諦めるな私! きっと頑張っていればいつかは……!
「おっ、起きたようじゃな!」
間に合わないにしても早すぎませんかねぇ?
勢いよく障子が開かれ、赤髪の女性が飛び込んでくる。鎖に繋がれた私は避けることができず、彼女に抱きつかれてしまう。
そのまま彼女は私の頭に髪飾りのように咲いている桜の匂いを嗅ぎ始めた。
「ふふふっ、やはりお主はいい匂いがするのう。甘くて濃厚で、実に甘美じゃ」
「そのうち頭からかじられちゃいそうだよ。というか髪を舐め始めるな! 味がついてるわけないでしょうが!」
「いんや、普通に桃みたいに甘いぞ?」
「えっ?」
予想外の彼女の言葉に思考が一瞬止まる。その隙にまた剛は髪を口にくわえ始めたので殴ってやめさせた。
……私の髪って味あるんだ。六億歳になって初めて知ったよ。これぞ生命の神秘ってやつかな。
って、どうでもいいこと考えて現実から逃げる場合じゃない。まずはこの状況をなんとかしないと。
結局、逃げないことを条件に剛をなんとか引き剥がすことに成功した。今は大人しく私の前に座っている。
「んで、なんで私をさらったの? 一応言っとくけどまだ異変解決の途中だったんだからね」
「異変? なにか地上で起きたのか? てっきりお主が儂に会いにきてくれたのかと思ってたんじゃが……」
「そんなわけないでしょうが。まあいいや、わかってくれたならさっさと地霊殿まで戻してよ」
「それは断る」
即答ですかそうですか。仮にも地底の真の支配者的ポジションにいるはずなのに異変を放っておく始末。思いっきり他人事だと思ってるねこりゃ。いや実際は他人事なんだろうけど。
「はぁ。責任とかなんとかって言ってもダメなんでしょうね」
「当然じゃ。仮に今回の異変が長引いても儂は困らんし、困るのは地底と地上の住民だけじゃ。ならば自分たちで解決すればいいものを、若造どもはやれ地底の支配者としての責任やらと他人に押し付けて自分たちだけは安全なところに逃げようとする。全くもって不愉快なことじゃ」
思い出したらイライラしたのか、剛は私の前では珍しく眉を寄せる。
あっちこっちに手を出しては動き回ってる私が言えたことじゃないけど、彼女の言い分には共感できる。おそらくはこれを聞いてる火神も同じだろう。
私たちは基本的に誰かがいなくても困らないのだ。というか古代の妖怪たちはみんなそういう者たちしかいない。
兄弟としてこの世に生を受ければ、次の瞬間にはどちらかが餌となるまで争い合うのも珍しいことじゃない。みんなみんな生きてくのに必死すぎて他人のことを考える思考を持っていなかったのだ。
私は都市の中で暮らしていたからある程度はマシだけど、もし違ってたら火神や剛と同じようになっていただろう。
「ちなみにそれ言ったやつらは?」
「全員殺したぞ? それ以来儂に話を持ち込んでくる者も消えたし、万々歳じゃ。それに儂に命令できるのはお主だけじゃ」
「じゃあこの枷外して地霊殿まで連れてって」
「いやじゃ。命令されてもいいとは言ったが、必ず聞くとは言ってないからのう」
屁理屈である。
こうなったらと、布団の横に置いてある刀たちは見つめる。
「ちなみにその枷は儂のと同じのじゃから、本気のお主じゃない限りとうてい壊せないと思うぞ?」
「ああ、やっぱり剛のと同じなんだこれ」
「これをぺあるっくと言うのじゃろう?」
「お揃いの枷とかどんなマニアックなカップルだよ!?」
しかし、壊せないとなると脱出はさすがに無理っぽいな。
一番の山場の前でリタイアか……。なんか二人にものすごく申し訳ない気持ちになってくる。
まああの二人なら大丈夫だろうとそれ以上考えるのをやめ、ゴロンと布団に横になって吉報を待つことにした。
♦︎
「呪精『ゾンビフェアリー』!」
「うわっ、なんだこの気持ち悪いやつらは!?」
旧灼熱地獄入り口付近にて。
生気が微塵も感じられない妖精たちがお燐によって生み出され、魔理沙を襲う。
いくら弾幕で撃ち抜いてもボロボロになって追いかけてくる様に魔理沙は顔をしかめる。
『あれは怨霊を元に作られた擬似的な妖精、言っちゃえば妖精のゾンビね。いくら怪我しても一回休みにならない代わりに消えるまで追いかけてくるわよ』
『魔理沙、スペカよ! お得意の高火力で跡形もなく消し飛ばしてやりなさい!』
「わかってるよ! 魔符『スターダストレヴァリエ』!」
魔理沙は杖のように箒を振りかざす。すると複数の魔法陣が出現し、大量の星型弾幕がばらまかれた。
それらはゾンビに当たった瞬間に爆発。跡形もなく体を消し飛ばしていく。
それでもゾンビたちの数は多く、そのうちの数匹が弾幕群を突破してきてしまうこともある。しかしそのときは魔理沙のそばで待機していた人形たちが金属製の武器を持って迎撃していた。
「やっぱりこの人形便利だな。おかげで苦手な接近戦が克服できたぜ」
『私が操ってるからでしょうが。あなたじゃ戦闘中にこの子たちを動かすなんてとうてい無理な話よ』
近くにいた一体からアリスの声が聞こえてくる。
そう、これらこそが魔理沙に渡されたマジックアイテムだ。と言っても操作は人形を通して映像を見たアリスが行なっているだけなので、魔理沙が操っているわけではないのだが。
星形弾幕と人形たちの手によってゾンビ妖精たちは無事全滅した。
となると次に狙うのはお燐のみだ。しかし彼女は彼女でスペカが突破されると事前に悟り、地上に降りて逃走していた。
「やっぱ一人で戦ってるときとは全然違うな! 負ける気がしないぜ!」
『そう言ってるんだったらさっさと魚くわえた猫を追いかけなさい。まっ、あの速度じゃあなたの弾幕が届くかはわからないけど』
「そういうときのためにこれがあるんだろう、が!」
お燐は猫の妖怪であるせいなのか、空中とは比べ物にならないほど凄まじい速度で地上を爆走していた。地面は熱せられているはずなのだが、そこは妖怪だから大丈夫なのだろう。
このまま距離をとって戦況を整えるつもりなのだろうが、そうはさせないと魔理沙は腕につけられたブレスレットをかかげる。
すると突然お燐の目の前に土でできた巨大な壁がせり上がってきた。
パチュリーから渡されたブレスレットには彼女の得意とする七行の魔法を補助する効果がある。そのうちの一つである土行を使って、魔理沙は土を操ったのだ。
お燐はぶつからないため足を止めようとする。
しかしそれが魔理沙の狙いだった。
「へっ、そこだぁ! 恋符『マスタースパーク』ッ!!」
構えられたミニ八卦炉から人どころか、建物一つ丸々飲み込みそうなほど巨大な閃光が放たれる。
さすがのお燐も光の速度には勝てず、さらには足を止めていたこともあり、彼女は土の壁ごと光に飲み込まれる。
そして破壊の彗星が過ぎ去った後には、はるか彼方までえぐられた地面と、その中心に黒焦げになって立っているお燐の姿があった。
彼女はふらつきながらも、己の体が傷ついた原因である魔理沙を睨みつける。
「ぐっ……調子に乗るなよ人間! 体が傷つきそうだったから手加減してたけど、もう構うもんか! グチャグチャにして地獄を見せてやる!」
魔理沙がいる空中までお燐は飛び上がり、スペカを投げつける。
そしてその身に宿る妖力を
「妖怪『火焔の車輪』ッ!!」
彼女を中心に全方位に放たれたのは赤と青の波のような弾幕。
それらのうちの一つが壁に当たったとたん、先ほどのスターダストレヴァリエとは比べ物にならないほどの爆発が起きた。
「おいおいおい!? あれ絶対殺す気だろ!?」
『所詮は獣ってことね。熱くなって完全にルールを忘れてるわあれは』
「呑気に言ってないでどうにかしてくれ!」
『どうにかするにもなにもここからじゃ無理よ。まあ、アドバイスというのであれば——殺す気で弾幕を撃ちなさい。じゃなきゃあなたが殺られるわよ』
「くそっ、もう地底なんざ二度と行ってたまるか!!」
もうなりふり構っていられなかった。最初に反則したのはあちらという大義名分を心の中で言い訳にし、ミニ八卦炉に今まで込めたことのないほどの量の魔力を込める。
「『マスタァァァスパァァァァクッ!!』」
そして最大出力のマスタースパークが火を吹いた。
その威力は山を一撃で焼き尽くせるほど。それほどの威力と範囲を持つ閃光がまばゆい光を撒き散らしてお燐へと迫った。
そして彼女がいた場所を通り過ぎた次の瞬間、爆発。
遠くの大地でドーム状に光が集まったかと思うと、轟音とともに大地やマグマなどのあらゆるものを消し飛ばした。
その一部始終を魔理沙は息を切らしながら最後まで見続けた。
「……はは、こーりんがミニ八卦炉を最大出力で撃つなって言った理由がわかったぜ。たしかにこりゃ地上でやったら花火どころの騒ぎじゃねえな」
呆れと驚き、そして恐怖。色々な感情が彼女の中で渦巻く。
自分でやったことだというのに乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。どうリアクションすればいいのかがわからなかったのだ。
次第に緊張は抜けていき、脱力する。
しかしそれがいけなかった。
身に迫る危険に気づいたのはアリスの声が聞こえてから。
『っ、魔理沙! まだ終わってないわ!』
「へっ……? ぐあっ!?」
『魔理沙っ!』
背後から魔理沙に向かって飛び出してきた影にアリスの人形が突っ込んだ。
影はすでにその鋭利な爪を振り下ろしており、人形を魔理沙ごと切り裂く。しかし人形が盾になったおかげで急所は外れ、腕が切られるだけで済んだ。
「ちっ、仕留め損ねたか」
「お前、あれくらってまだ生きてたのかよ!?」
魔理沙を攻撃した影の正体は先ほど消し飛んだと思っていたお燐だった。彼女は全身から血を流しながらも、獣のような鋭い目と牙をむき出している。誰がどう見ても激昂しているのは間違いなかった。
「あのときとっさに回避しようとして助かったよ。おかげでアタイは吹き飛ばされるだけで済んで……こうしてお前を殺せる!」
「ちっ、くたばり損ないが!」
「『キャットウォーク』」
魔理沙はブレスレットをつけた腕ごと箒を振るい、星型弾幕や炎、水、岩など様々な攻撃を繰り出す。
しかしお燐は空気を蹴るような動作をすると急に加速。地上にいるときと同じぐらいの速度で弾幕をくぐり抜け、爪を振るってくる。
それをアリスの人形が数人がかりで弾き、防いだ。
だがお燐の攻撃は終わらない。再び空気を蹴ると加速し、今度は不規則に魔理沙の周囲を跳び回る。
『これは……どうやら妖力を固めて足場にしているようね。飛ぶより走った方が速い獣系の妖怪がよくやることだわ』
「適当に撃ったら当たるか?」
『やめといたほうがいいわ。少なくともマスパ並みの速度じゃなきゃほとんど無意味。全部避けられるわ。だけどマスパはもう二回も見せてしまっている。次は通用しないと思うわ』
「じゃあどうすればいいんだよ!」
魔理沙のスペカの中にマスタースパーク並みの速度を持つ弾幕はない。絶対絶命の状況で魔理沙は頭を抱える。
改めてカードを見る。スターダストレヴァリエにミルキーウェイ、イベントホライズンなどなど……。その中で彼女は一つのカードを見つけた。
そうだ、こいつがあった!
「おいアリス。次あいつの攻撃が来たら人形を何体犠牲にしてもいいから動きを止めろ。その隙にこいつで一気に決めてやるぜ」
『わかったわ。ただし失敗したら今後近接攻撃を防ぐ手段がなくなってゲームオーバーよ。それでもやるの?』
「ああ、覚悟はできてるぜ!」
『そう……なら、いくわよ!』
ちょうどお燐が妖力によって限界まで伸ばされた爪を振るわんと迫ってくる。方向は魔理沙から見て右。
アリスは全人形を操って、武器や人形の体を盾にすることで攻撃を防いだ。
そして爪が止められたことによってお燐の動きが一瞬止まる。
その隙を見計らって、魔理沙は箒の先にミニ八卦炉をつけ、そのままマスタースパークを放った。
「『ブレイジングスター』!!」
彗星と化した魔理沙は呆然としているお燐の腹に突っ込んだ。箒の先端が命中し、彼女は口から液体を吐き出す。
しかし彼女も一筋縄ではいかなかった。お燐は箒にしがみつ、吹き飛ばされることを拒否する。そしてそのまま魔理沙と同じようにに彗星と一体化し、旧灼熱地獄を飛び回る。
「ぐっ、がっ……! 人間なんかに、負けてたまるかァァ!!」
「くそっ、離れやがれ!」
箒にしがみつきながらも振るわれた爪が魔理沙の体をかすめる。
このままではいずれ箒に乗られて形勢逆転だ。だが彼女をなんとか振り下ろす手段がない。
だったら……!
「しがみついてたきゃしがみついてろ! ここから先は地獄コースの始まりだぜ!」
「何を……!」
魔理沙は箒の取っ手の部分にバランスを取って立ち上がると、急に角度を下げて地面へ思いっきり突っ込んだ。
箒の先端と地面に挟まれてお燐が苦しげな声を上げる。だがそれに追い打ちをかけるように、魔理沙はその角度を保ったまま前進し、お燐の背中を引きずり回した。
「ガアアアアアアアアアッ!!!」
耳が裂けたと錯覚するほどの絶叫が響く。だがお燐はそれでも箒から手を離すことはしない。
なので魔理沙は箒の角度を斜め上に向けた。その先には岩で覆われた天蓋が。
「おまっ、お前ェェェェ!!」
次に起こる未来を悟ったのだろう。全身の皮をズタボロに剥かれながらも、お燐は呪詛のような叫び声を上げる。
だが無意味だ。
魔理沙はためらいもせずに天井へ突っ込んでいく。
そして、大爆発。
地霊殿全体を震わせるほどの衝撃がはしる。メキメキと天蓋にヒビが入り、いくつもの岩が落ちていく。
その中心には天井の一部と化しているお燐の姿があった。
彼女はもう意識がなかった。まるで罪人のように張り付けにされ、そのまま落下することも許されずにそこにとどまっている。
「名付けて『サングレイザー』だな。……二度と使いたくないぜ」
そう吐き捨てると、霊夢が飛んでいった方向へ飛んでいく。しかしその直後に魔力を使いすぎたのか、フラついてしまった。
『あなたはよくやったわ。霊夢は大丈夫だろうし、今は休んで起きなさい』
「……そうだな。私もさすがに疲れた。このまま近づけるだけ近づいて、あとは高みの見物とさせてもらうぜ」
旧灼熱地獄の奥に向かってしばらく進んでいくと、途中で大地が途切れていることがわかった。その代わりに先に映るのはマグナの海。
それの真上で弾幕を撃ち合う少女たちを魔理沙は見続けることにした。
「最近は地味に三連休が多くて嬉しい! だけどどこにもいく予定はない作者です」
「9月24日Switchで配信予定のドラクエ2と3をプレイを楽しみに待っている狂夢だ」
「なんか今回はいつも以上に殺伐とした内容でしたね」
「まああんまり弾幕ごっこが浸透してない地底だからな。そして何気に魔理沙の初殺し合いでもある」
「魔理沙さんは一応普通の魔法使いですからね。霊夢さんと違って戦闘経験はほぼないし、そういう意味じゃ今回のは大快挙じゃないんでしょうか?」
「そういえばサングレイザーの描写がけっこう原作と違ってたよな? ありゃいったいどういうことだ?」
「サングレイザーに関してなんですが、ゲームではちゃんと違いがわかるんですが、文字で書くとなるとどっちもマスタースパークを利用した突進になってしまうんですよね。だからこの小説でのサングレイザーは突進するとともに箒で敵の体を固定し、壁や地面などにぶつける技となっております」
「まあその威力は本編で見ての通りだ。マスパで加速したままぶつけられるんだからそりゃすげぇダメージ入るよな。おまけにマスパの魔力の暴走でぶつけた瞬間爆発も起こるし」
「改めて聞くとマジで殺傷専門の技みたいなものですよね。願わくは魔理沙がこれを再び使う日がないことを」
「フラグか?」
「違うわい!」