東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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普通の魔法使いの焦り

 

 

 

 

 霊夢と勇儀の戦闘の余波はすさまじいものだった。

 見よ、眼下に広がるこの無数の瓦礫の海を! まるで巨大地震でも発生したかのようだ! 

 

 と、若干テンション高めで心の中で呟く。

 だって霊夢があの勇儀に勝ったんだもん。嬉しいわけがない。

 正直、彼女らの戦いの予想はは4:6で勇儀が有利だと思っていた。

 なんせ大妖怪最上位の中では間違いなく一番の腕力と体力を持つ相手なのだ。種族最強レベルとはいえ、勇儀に対して決定打と呼べるようなものを持ってなかった霊夢ではちょっと荷が重いと思っていた。

 

 しかし蓋を開けてみればまさかの勝利だ。

 まさか体を動けなくさせた後に高火力の技を二つも連続で決めるとは。さすがの勇儀も体のバネが効かなくなった状態であれを受けちゃ、ひとたまりもなかっただろうね。

 

 

 さてさて、そんな霊夢をねぎらって私たちは街の中心部を目指していた。

『地霊殿』。そこが今から行く屋敷の名だ。例の異変の黒幕はそこにいるはず。

 

 霊夢は魔理沙の箒に乗せてもらうような形で移動していた。

 結界である程度は防御していたとはいえ、勇儀の拳をまともにくらったのだ。骨にもヒビが入ってるだろうし、しばらく休んだほうがいいだろう。

 

 顔の一部が真っ赤に染まっている友人を心配してか、魔理沙が声をかける。

 

「お、おい霊夢、お前ほんとに大丈夫か? やっぱしばらく安静にしてた方が……」

「休める場所なんてどこにもないわよ。ここは地底、凶暴な妖怪の住処。そんなところで寝ちゃったら、あっという間に食べられて終了よ」

 

 霊夢も言った通り、それが怪我した彼女をまだ異変に同行させている理由だ。

 とはいえ戦力の低下は免れないだろう。だから本命の妖怪以外はもしかしたら私と魔理沙で相手をしなければいけないかもしれない。

 

 さっきは酔ってて何もできなかった魔理沙は、そのことに負い目を感じているらしく、その分気合が入っている。

 この調子だったら、次の戦いは彼女に任せた方がいいかもね……。

 

『見えてきたよ。あれが地霊殿だ』

 

 陰陽玉から萃香の声が聞こえてくる。

 間近で見た感想は、やはり街の雰囲気に合っていない、だ。

 この街は古き良き日本の見本とでも言うように、木造建築が中心となっている。それ以外にもほとんどのものが『和』で構成されていた。

 

 しかしこの館は明らかに『西洋』だ。

 紅魔館にも少し似た、石造建築の壁。庭に置いてある石造も日本じゃ見かけない悪魔たちをモチーフにしたものが多く、噴水もあり、さらにランタンもつるされている。

 まるで、この館だけ別の場所から転移してきたかのようだ。

 

「なんかどこぞの赤い館と違って落ち着く外観だなぁ」

『あれはレミィの趣味よ。私は何度も紫に塗り替えせって忠告したわ』

『いや、紫もおかしい気がするのだけど……』

 

 紫もやしさんと虹色の魔女が色について語り合う。

 

『私はパチュリーに賛成ね。紫っていいじゃない』

『なんか見事にネクラな二人の性格を表してそうだねぇ』

『あら萃香、何か言ったかしら?』

『うぐぐっ! ギブギブ! 首絞めちゃダメだって!』

『ったく、陰キャは引っ込んでろ陰キャは』

『そーよそーよ。心の中紫色は黙ってなさい』

『そういうあなたはイメージカラーが黒じゃない! 紫よりも明らかにそっちの方が暗いでしょうが!』

 

 ……あー、うるさい。

 通信機の奥の六人組はすっかり色の議論でヒートアップしていた。現に今でも私たち三人のマジックアイテムからはそれぞれ声が出ている。

 私たちは互いに顔を見合わせ、頷いた。

 よし、無視することにしよう、と。

 

 地霊殿の正面扉に触れる。どうやら鍵はかかっていないらしいので、そのまま入ることにした。不法侵入は異変解決の基本です。

 

 内装もやはり洋風らしい。微妙に薄暗さを感じるのは、中の光源が所々につけられているロウソクのみだからだろう。エントランスのような広い空間にはシャンデリアがつるされていたりするのだけれど、それでも明るいとは決して言えなかった。

 

 しかしそんなことは私たちにとっては些細なことに過ぎない。むしろ、私たちは別のことが気になっていた。

 それは、館の中の動物の数が異常なほど多い、ということだ。

 

 猫などはもちろん、カラスやウサギ、果てには虎なんてものもエントランスにはいた。少し歩くだけで次々と別の動物が出てくる。しかし彼らは肉食獣も含めて私たちを襲うような素振りを見せることはなかった。

 

 アテもないので適当に歩いてはいるのだが、中々住民が姿を見せることはなかった。それでも私はもうすぐで住民に会えると確信していた。

 なぜなら、私たちの歩く先が敵に誘導されているからだ。いくつかの通路を塞ぐように動物たちが集まっているところを複数見てからは、その疑問は確信となった。

 

 そしてしばらく歩いていくと、ひときわ大きな扉が立ちはだかった。

 触ってみた感じじゃ罠はない。ならやるべきことはひとつだ。

 一旦下がって扉と距離を取る。そして加速し、全力でライダーキックを繰り出した。

 

「チェストォッ!」

「ヒャッハー! 死にたくなかった手をあげるんだぜ!」

「元気ね、あんたら……」

 

 効果抜群! 扉は見事に吹き飛び、向こう側の壁にぶつかって砕け散った。

 だが弁償はしない! 後悔も反省もしていない! 

 

「下手な鬼よりもたち悪いですね」

 

 テンションが上がっている私たちに声がかけられる。

 

 部屋の中は予想通り、かなり広かった。それこそ弾幕ごっこが問題なく行えるぐらいには。

 床は赤と黒の二種類のタイルとステンドグラスが敷き詰められている。壁も同様。

 その部屋の中央に、声の持ち主は立っていた。

 

 どことなく親近感を覚えるピンク色の髪を持つ少女。身長は今の私とさほど変わらないぐらいか。体には目玉のようなものと繋がったチューブをいくつも巻きつけており、それが不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「ようこそ、地霊殿へ。私はここの管理をしている古明地さとりと言うものです」

 

 そう言って、さとりはぺこりと頭を下げた。

 思いのほか、礼儀正しいね。地底の妖怪なんだからてっきり鬼みたいな強顔をしているもんだと思っていたけど。

 他の二人も同じ考えだったのだろう。目を点にしてまじまじとさとりを観察している。

 

「地底の妖怪が全員強いというイメージを持ってるのがわかりましたが、それは誤りですよ。この世界にいるのは強い妖怪ではなく忌み嫌われた妖怪です。ですから私のような力の弱い妖怪がいることは珍しくはありませんよ」

「そりゃご丁寧に説明ありがとう……って、私なんか話したっけ?」

『そいつはさとり妖怪。他人の心を読むことができる妖怪よ』

 

 いつのまにか復帰していた紫の言葉に、さとり以外のこの場の全員に動揺が走った。

 だってそうだろう。もし彼女が本当に私たちの考えていることがわかるなら、出さなかった言わなくていい部分まで筒抜けになっているというわけなんだから。

 

「証拠をお見せしましょうか。たった今私のことを魔理沙さんは弱そうなチビと、霊夢さんは綺麗な楼夢と思っていましたよね?」

「げっ、まじかよ……」

「驚いたわ……正解よ」

「ちょっと待って!? さとりが綺麗な私なら、普段の私はそれ以下なの!?」

「……」

「『むしろ勝てる要素ある?』とおっしゃっています」

「ちくしょう!」

 

 この2Pカラーめ……! まんざら嬉しそうな顔するんじゃない! 

 あったまきた。刀を引き抜く。

 この世で二人もピンク髪はいらない。ここで成敗してくれるわ! 

 

「おいちょ、楼夢! 次は私の番じゃないのかよ!」

「うるさい魔理沙! 同じピンク髪を持つ者同士、負けられない戦いがあるんだ!」

「——とか言いつつ、本当は魔理沙さんじゃ私に勝てないって思ってるんでしょう? 素直じゃないですね」

「なっ……どういうことだよ楼夢!」

 

 さとりの言葉に激昂してしまった魔理沙は、私の胸ぐらを掴んだ。

 ちっ……こうなるからあんまり言いたくはなかったんだよ。

 魔理沙は自信過剰な一面の裏腹、非常にもろい一面も持つ。今もこうやって怒っているのは、仲間の私から勝てないと思われていたと知ってしまったからだろう。

 

「さとり……あなたが嫌われる原因ってたぶん能力じゃなくてその性格なんじゃないの?」

「さあ、こればかりは。なにせ私はただ見えたことだけを言ってるに過ぎませんので」

 

 ちっ、悪趣味な妖怪だ。最初は好印象だったけど、地底に住んでいる以上本性はこういうものか。

 とりあえず、今は魔理沙をなんとか説得しなくては。それもさとりがいる以上、限りなく本心で言葉を選ばなくてはならない。

 面倒ばかりかけてくれるよ、まったく。

 

「……さとりのいう通りだよ。私は魔理沙じゃアレに勝てないと思っている」

「そんなに私が頼りないのかよ!?」

「違うさ。橋姫の時にも言ったでしょ? 相性の問題って。こうやってあいつの安い挑発に見事に乗っかっちゃってる時点で、あなたに勝ち目なんてないんだよ魔理沙」

『楼夢のいう通りよ。さとり妖怪は精神攻撃においては全妖怪の中でもトップクラスに秀でているわ。橋姫の時点で不利なあなたにはとうてい無理な相手よ』

『それに、この地底じゃ敗北は死を意味するのよ。最初の弾幕ごっこでそれを学んだはずじゃない』

「……わかってるっ。わかってはいるさ……! でも、ここで認めちまったらおしまいじゃないか!」

 

 魔理沙は服を掴む手をさらに強くしながら、そう吐き捨てる。

 その表情はまるで心臓を何かに締め付けられているかのように苦しげだった。

 

 おそらく、悔しいのだろう。

 私たちの中で一番劣っているのは魔理沙だ。それでも自分は役に立てると信じて、ついてきた。

 だけど、さっきの霊夢の一戦。あれを見てしまってからの魔理沙は何かに焦っているように感じられた。それは彼女じゃとうていできっこない領域に、親友がいるのを再認識してしまったからなのだろう。

 そして今ここでも、力不足を指摘されている。悔しくないわけがない。

 

 大きくため息をつく。

 

「わかったよ。さっきの魔理沙じゃ無理って言葉は撤回してあげる」

「それじゃあ……!」

「でも、私はあなたに戦いを譲る気はないよ」

 

 胸ぐらを掴む彼女の腕を横に押して、たやすく拘束を解く。そして彼女に背を向け、さとりが立っている場所へ向かって一歩前を踏み出した。

 

「楼夢、お前……!」

 

 普段はとても出さないような怒りに染まった声が聞こえてくる。

 彼女の怒りももっともだ。だけど私にはこれしかできない。

 私は彼女に最後の説得、もとい言い訳をした。

 

「勘違いしないでよ。私はあくまで魔理沙でも倒せる雑魚の掃除をしてあげるって言ってるんだ。それでも納得がいかないのなら黙って見て、それで判断しなよ。……まあ、瞬殺になるだろうから、敵の力量なんてまともに測れないかもしれないけどね」

 

 そう言い切ると、彼女の方へ顔だけ振り向いて笑いかける。

 自分でもむちゃくちゃ言ってるとはわかっている。実際魔理沙もあまりの意味不明さに口を大きく開けて間抜けな顔を晒していた。

 しかしそれによってすっかり毒気を抜かれてくれたようだ。しばらくすると彼女はため息を一つついた。

 

「……そいつは屁理屈って言うんだぜ?」

「さあ? 私は事実を言ってるだけだから、屁理屈もクソもないと思うけど」

「……はぁ、もういいぜ。なんかお前のガキみたいな理屈を聞いてたら燃えてたもんも冷めちまったよ」

 

 魔理沙は呆れた表情を浮かべて、引き下がった。

 

「ただし、さっさと倒すことだぜ。長引かせたら承知しないんだからな」

「はいはいっと。……待たせたねさとり、さあ始めようじゃないか!」

 

 刀を突きつけ、目の前の少女を睨みつける。

 彼女は私たちのやり取りを冷めた目で見ていた。そして今もその目で私をじっと見つめている。

 

「理解できませんね、あなたも彼女も。なぜわかりきった嘘をついて、それで納得するのですか?」

「わからないのなら自慢の瞳で覗いてごらんよ。まあ、建前って言葉を知らなさそうなあなたの脳みそじゃ理解することは難しそうだけど」

 

 これ以上語ることはないと、カードを三枚抜き出し、それを見せつける。

 ルールはスタンダードのスペカ三枚残機二個。

 

 私とさとりの弾幕が同時に放たれ、中央で爆発する。

 それが合図となって、弾幕ごっこが始まった。

 

 


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