東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「……っ! ハァッ、ハァッ……! やっぱりこの体での……っ、神解はキツイ、ね……っ!」
神解が解け、刀と髪の毛の色が元どおりになった途端、私は膝から地面に崩れついて荒い呼吸をし出す。
くそっ、力が入らない……。
おそらく妖力を使い切ってしまったのだろう。体が重く感じられ、しばらくは立ち上がろうとする気力すら湧かなかった。呼吸が静かになってきたのを頃合いに、ゆっくりと立ち上がる。
天子を倒したら一瞬で全てが元どおり……ってわけにはいかないらしい。空は相変わらず真っ暗で、視界の端には生命の輝きが感じられる青が広がっている。
ここの景色は好きだけど、いつまでもはいられないからね。早いとこあのバカを探して地上に帰してもらわなくては。
先ほどの戦闘の余波によって荒れた大地をさまようこと数分。お探しものは案外あっさりと見つかった。
「アハハッ、アハハハハッ……! 最高、最っ高よあなたぁ……!」
相変わらず狂ったような笑みを浮かべて地面に横たわっている天子。
うげっ、倒れながら笑うな気持ち悪い。
「はぁ……ムカつく」
「じゃあ殴ればいいじゃない」
「
「……あら、気づいてたんだ」
ほとんど確信していたことを言ってやると、案の定正解らしい。そこまで言ったところで彼女の笑みはピタリと止み、最初に会った時のようなこちらを見下す冷たい視線を向けてくる。
「いつからかしら?」
「あなたの体を斬った時からだよ。天人の体は天界になる桃によって鉄以上もの強度がある。それなのにも関わらず、刀はまだしも私程度の拳が当たった時でさえ、あなたは痛そうにしていた」
「わからないわよ? 実は私桃が嫌いなんてこともあり得るのだし」
「頭に桃飾っててよく言うよ。それに根拠はこれだけじゃないさ。最後のレーザー、明らかに威力が弱かったもの」
「弱い、と言うと? 『全人類の緋想天』は私が今日放ったどのスペカよりも高威力なはずなんだけど」
「巨大な大地を宇宙に限りなく近くまで上昇させられるのだとしたら、その力は明らかに大妖怪最上位クラス。それなのにあなたのレーザーは私の斬撃と一瞬ぶつかっただけですぐ押し返されてしまった。これほど不思議なことがある?」
「……ふふ、どうやらごまかせはしないようね」
二メートル以上はありそうなほどの岩が突如地面の下から出現した。天子はそれに飛び乗り、腰掛けると、こちらに目も向けず青々と輝く地球を見下ろし、その口を三日月に歪めた。
「地上の奴らってほんとバカよね。どいつもこいつも私が本気で戦ってないのにも関わらず満足げに勝ち誇ってそのまま帰っていくんだから。その間抜けな姿を見るのがすごく楽しいのよ」
「それが弾幕ごっこで手を抜く理由?」
「それもあるけどね。天人である私が地上の奴ら相手に本気になってたら恥ずかしいでしょ? つまりはそういうことよ」
……やっぱクズだわこいつ。
改めて本気で切り刻んでやりたいところだけど、残念ながら今の私じゃとても無理だ。体もボロボロで妖力も絞りカスぐらいしか残ってない。
悔しいけど、これ以上は私にできることはなさそうだ。
「あなたの理屈は納得はできないけど理解したよ。で、私は元の場所に戻してもらえるのかな?」
「別に私はずっとこのままでもいいんだけどね。あなたがどうしてもって頭を下げるなら……」
「あ、じゃあいいよ。一応自力では帰れそうだし」
「……ちっ!」
へっ、論破。
天子はわざと私に聞こえるように舌打ちすると、剣を地面に突き刺して大地の高度を下げていく。
そしてしばらくして私たちが乗っている大地は元の場所まで戻ってきた。
「んじゃ天子、私はこれ以上ここにいたくないからもう帰るね」
「ええ、さっさと消え失せなさい。次は
「……ありゃりゃ、そっちも中々勘が鋭いじゃん」
歩みを止め、彼女の方へ振り返る。
「相手に本気出せって言ってるわりには自分はその実手を抜いている。こういうのを矛盾って言うのかしら?」
「矛盾? いいや違うね。これはちゃんと理にかなっているよ」
「と言うと?」
「私とあなた程度の本気を一緒にするなってことだ」
「……へぇ。それは楽しみね。あなたからその本気を引きずり出し、叩き潰す日が」
私の話を聞いてますます天子の口角が釣り上がっていく。それはさながら、新しい獲物を見つけた狼のようにも見える。
「あ、そうそう、忠告しとくよ。次来る子は今の私よりも強いよ。遊ぶんだったら本気でやることだね」
これ以上言うことはないとばかりに何かを振り切るように天子に背を向け、天界から出て行った。
そしてその数分後に、博麗の巫女は天界の地に降り立った。
♦︎
異変は結論から言うと、無事解決された。
最後の天子戦は中々苦戦を強いられたようだ。帰ってきた霊夢の服はあちこちが破け、切り刻まれ、焦げていた。
この感じだと、天子は私の忠告をちゃんと聞いて本気でやったぽい。それでも勝ったのだからさすがは霊夢と言ったところだろう。
そんでもってどんちゃん騒ぎの宴会が行われてから数日後。
私は人里に下りて買い物やらを楽しんでいた。
ちなみに今日は予定もないし時間もたっぷり余っているので、普段はあまり歩かない路地裏や小道を散策することにしている。
今は昼時。しかし日の光は建物によって差してくることはない。まるでここが世界から切り取られたかのようだ。そんな薄暗い路地裏を歩いていく。
そこでふと目に入った団子屋の看板が気になり、入店する。見たことない店だったが、内装の古さからして昔からここにあったのだろう。中では腰を少し曲げた婆さんが手招きをして私を席に案内してくれた。
壁にかけられた木板に書かれているメニューを目で追う。
ふむぅ……きな粉もいいけど今日はみたらしにしようかな。いやでもあんこも捨てがたい……。
迷いに迷ったが、最終的にはあんこを選ぶことにした。
手を挙げ、婆さんに注文する。
頼んだ団子が来たのはその数分後くらいか。
テーブルに置かれた皿。その上に並べてある串をつまんで、三段重ねになっている団子のうちの一番上を口に運ぶ。
うむ、甘くて美味しい。最近の世じゃ菓子なんていったら砂糖ばっかが使われるが、長年生きてる身としては慣れしたんだあんこなどの方が個人的には好きだ。
だが悲しいことに最近の若者でこの想いをわかってくれる人は少ないらしい。ちょうど私の背後の席に座ってるさっき入店してきたやつとか、その最たる例だ。
「婆さん、ショートケーキ一つ頼むぜ」
「いやなんで団子屋でケーキ頼んでるんだよこのバカ」
とりあえずアホなことぬかした金髪の少女の後頭部にチョップを打ち込んでおいた。
ちょっと力が入り過ぎて彼女の口から女の子が出しちゃいけないような声が出たけど、気にしない気にしない。
「いや人の頭叩いといてそりゃねえだろうが!」
「バカなこと言った魔理沙が悪い」
金髪の少女——魔理沙は若干涙目になりながら頭を抑えて私を睨んでくる。
「いやそんな目しても私は謝らないからね。というかなんでこのいかにもザ・団子な店にケーキがあると思ったんだよ」
「最近じゃ新しいものを取り入れようと和菓子屋のくせに洋風の菓子を作る店も少なくないんだぜ。だからここにもあるのかなって思って」
「表通りならいざ知らず、こんな路地裏にある店じゃそんなものはないよ。さっさと普通のものを頼むことだね」
「ちぇっ」と呟きながら魔理沙はメニューを見ると、みたらし団子を注文した。
そしてついでとばかりに席を離れ、私の正面に座り直した。
「せっかくの縁だ。一緒に食おうぜ」
「いいよ。私も一人は飽きてきたころだし」
やがて魔理沙の分の団子がテーブルに運ばれると、先ほどの私と同じように串をつまんで彼女はそれを食べる。
彼女が団子を味わってる隙に私もみたらしの皿に手を伸ばして串を一つ。そして三つ一気に口の中にほうばった。
「おいっ、それ私のだぞ!」
「いいじゃんちょっとくらい。そんなケチケチ生きてたんじゃ世の中楽しめないよ?」
「あいにくと楽しむ金がないほど生活がカツカツでな。目の前の幼女でも売り払えば多少の金にはなるか?」
「ああ、それだったら最近知り合った良いキャバ嬢になりそうな娘を紹介してあげるよ。というか今度一緒に捕獲しにいこう」
我ながら十代の女の子と何を話してるんだとは思うんだけど、ふと衣玖のことを思い出すと自然に口走っていた。
あの子元気にしてるかなー。ほとんど冗談で風俗に誘ってたけど、これを機に本格的に計画立ててみるか?
……いや、別にお金には困ってないしやっぱいいか。どっちかと言うとああいう清楚系な娘がいかがわしいことを強要されて苦しんでいるのを見たいというだけだしね。処遇『くっころ』ってやつだ。
「そういえばさ。博麗神社の件、知ってるか?」
「ん、なんのこと?」
「ほらあれだよあれ。今回の異変で神社が崩れただろ? それの修理をなんとあの不良天人が引き受けたって話だ」
「……それ本当?」
あの他人を見下すことしか能のない天人もどきが? 神社建設を引き受けた? なんの冗談だそりゃ。まだ退屈すぎて死んだとかの方が現実味があるぞ。
「大丈夫なのそれ?」
「私も正直心配だぜ。なんせあいつ、他人のことを全員見下してる節があったからな。いくら自分を打ち負かしてそのうえ迷惑もかけた霊夢のためとはいえ、怪しいぜ」
「霊夢はなんて?」
「いつも通りだよ。『ただで修理するんだったら何も言うことはないわ』だってさ」
霊夢からしてみたら神社を立て直す金なんてないだろうし、自然に天子に頼るしかなかったのだろう。とはいえ心配だ。いくら彼女が天性の勘を持ってるとしても、金に絡む件ではしょっちゅうポカを起こすからなぁ。
ただ、それで白咲家の力を貸すってのもちゃんちゃらおかしい話だし。
ぐるんぐるんと迷いが頭の中を回りまくる。
「……でも、霊夢ももう子供じゃない。彼女がいいと言ったんだから、私はそれ以上首を突っ込まないでおこっかな」
結局私が下した決断は放置、だった。
い、いや、別に調査したりするのが面倒とかじゃないんだよ? 本当だからね?
魔理沙も迷っていたようだが、私の選択に引っ張られたのか今回のことは見送るそうだ。そしてしばらく話し合ったあと、彼女は先に帰っていった。
飲みかけのお茶を一気に飲み干し、婆さんに礼を言って私も外へ出る。
気づいたらもう夕方か。ガールズトークは長くなるってのは本当だったか。いや私は女じゃないけど。
とにかく暗くなると不良やらに絡まれやすくなるので早く帰ることにするか。そう思ってセカセカと足を動かし、大路地へと出た。
空は真っ赤に染まっている。だが私の背後を追うように、徐々に闇が広がり出していた。