東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「気符『天啓気象の剣』」
「ハ……ッ、ガ……ッ!!」
天子の突きから放たれた赤い閃光が私を貫いた。
さっきのダメージを腹がえぐられたと表現するなら、今のはまるで風穴が空いたかのようだ。そう錯覚させるほどの痛みが私を襲う。
涙で少し滲んだ視界の中に跳躍しながら剣を振り上げる天子の姿が見える。
とっさに刀を横にして上にかかげ、その上に緋想の剣が叩きつけられる。しかし次に来る地震は防ぎようがない。案の定体勢が崩れたところを押し切られ、体重の乗った刃が私の肩に、正しく言えばその部位に張ってある結界にめり込んだ。
「ぐぅっ……! 邪魔だぁぁぁ!!」
妖桜を投げ捨て、めり込んだ刃を左手で思いっきり握りしめる。結界が火花を放ちながら削れていくのがわかるが、それを気にしている余裕はない。
「ちょっ、ちょっと離しなさいよ!」
さすがに危険を感じたのか、慌てて天子は剣を引き戻そうとする。
ぐっ……! すごい力だっ。基本筋力がほとんどない私じゃ気を抜いただけで体ごと持っていかれそうっ。
だけどそれは逆に言えば、ある程度は持ちこたえられるということ。そしてそれは私にとっては十分すぎる時間だ。
右手に握ってある舞姫をも捨て、代わりに懐から取り出したスペカを投げつける。そして腰を深く落として正拳突きの構えを取ると、右拳に術式で作り出した雷を集中させた。
「——『雷神拳』ッ!!」
限界まで引き絞った拳が突き出され、天子のみぞおちにめり込む。あまりの威力に彼女は体は軽々と持ち上げられ、弾かれた球のようにその場から吹き飛ぶ。そして木の一つを幹ごとぶち抜いたところでようやく止まった。
だけど、あれはこんなんでやられるタマじゃない。
すぐさま二本の刀を拾って追い討ちをかけようと走り出す。
天子は迎撃のためになんと地面に倒れながらも単純な足の力だけで折れた木の幹を蹴って私の方へ飛ばしてきた。
視界が一瞬塞がれる。だがたかが木だ。刀で両断すればそれで終わり……というわけにもいかないか。
木の幹の後ろには、さっきまで倒れていたはずの天子が隠れていた。
不意打ちをもう片方の刀で受け流し、二、三回ほど彼女の剣と打ち合う。そこで彼女は一旦距離を取り、剣を地面に突き刺した。おそらくは地震を起こさせるためだろう。
だけど、それは地に足が着いてなければ意味がない。つまりは飛べば無効化できる。
超低空飛行のまま突っ込み、剣を突き刺して無防備になっている彼女の顔面へ両足を揃えてドロップキックをお見舞いした。
「ぐふっ!? ……よくも私の顔を……!」
宙返りの要領で体勢を立て直し、意地でも倒れることを拒否する天子。
まったく、軟体動物かおのれは。ああもくねくねされると正直気持ち悪くて仕方がない。
彼女は緋想の剣を再び地面に突き刺す。
ん、何のつもりだ? 今ので地震はもう通用しないってことを理解できたはずなのに……。
「地符……『一撃震乾坤』!」
スペルカード名を叫ぶとともに大地が震える。だが、もちろんそれだけじゃなかった。
なんと私の真下の地面から、数十もの岩でできた柱が伸びてきたのだ。
やっばっ!
慌てて回避を試みるも、土柱の伸びてくるスピードの方が速く、腹部に殴られたかのような衝撃が走る。
「カ……ッ、ハ……ッ!」
体内の空気が押し出される。
動きの止まった体。その瞬間、土柱たちはハイエナのように次々と襲いかかり、私の体を空へと突き上げた。
身体中に鈍痛が走るけど、今がチャンスだ! 私は飛ばされた勢いを利用して土柱が届かない距離まで一気に上昇した。
これによって実質的に第三のスペカ突破。
でも、まずいね。三回もまともにスペルカードを食らってしまった。私の結界の耐久は残り僅かだ。これ以上は大技を受けてはいけない。
つまり、勝つためには短期決戦しかないってわけだ。なら、ここでずっと浮いてても仕方がない。
「氷華『フロストブロソム』」
スペルカードを投げ捨てて宣言。氷でできた幻想的な薔薇を作り出す。ただし出現させた場所は天子の近くではなく、私の足の裏だ。
それを足場にして蹴り砕き、舞い散る花弁とともに一気に地面へ、天子の頭上へ突っ込んだ。
天子が迎撃のために赤い弾幕を放ってくる。だがスペカの弾幕と通常のでは威力が決定的に違う。なす術なく弾幕は花弁に貫かれ、彼女の足元や腕に着弾した。
そして怯んだ隙に、上下が逆さになったまま全体重を込めて刀を振るう。
「ハァァァァァァッ!!」
「ぐっ……負けるかァァァァッ!!」
天子は剣を頭上に掲げてそれを防ぐ。
鍔迫り合いという形になり、刃と刃が擦れ合う。しかしそれ以上にも頭と頭が擦れ合うほど私たちは密着していた。
だけど、天人と木っ端妖怪じゃ元々の筋力に差がありすぎる。均衡したのは最初だけで、私の体は天子が本気を出しただけで軽々と吹き飛ばされてしまった。
でもこの程度で諦めてたまるか。
背後の方に氷薔薇を召喚。それを足場に再び突っ込む。
ただし今度はまっすぐではない。ちょっと斜めの方だ。そして氷薔薇を再召喚、突っ込んで、再召喚。それを繰り返して天子の周囲を飛び回り、撹乱する。と同時に砕いた薔薇の花弁によって攻撃をしかける。
高速に飛び回る私に連れられて風が巻き起こり、花弁が天子の周りを包み込み始める。
その光景は、第三者からは青い竜巻のように見えただろう。
次第に天子の視界が塞がれていく。それを頃合いと見て、私は薔薇を蹴り、一気に背後から彼女へと突っ込んだ。
「こんな目くらましが通じると思う? 甘いのよ!」
しかし天子にはバレバレだったようだ。張り巡らされた蜘蛛の巣を無邪気に破る子供のようにあざ笑うと、くるりと背中を反転。そして手に持つ剣にさらなる霊力を込める。
「非想『非想非非想の剣』!」
彼女のスペカが発動すると、剣の表面に『封』という光でできた文字が浮かび上がる。それを押し当てるように、彼女はハイスピードで突っ込んでくる私にカウンターで剣を振り下ろした。
その時に浮かべた彼女の表情は計画通りと言った自信に満ち溢れたもの。
だけどね、こんなお粗末な戦術は計画とは言わないんだよ。
刃が頭に触れるかどうかという瞬間に、突如氷の華が盾のように私の前方に展開された。
天子の剣はそれをたやすく砕く。しかしそれによって花弁が飛び散り、彼女は全身で氷の弾幕群を目一杯浴びることとなった。
だけどこれで終わりじゃない。突然の被弾に怯んだ隙に足を一歩大きく踏み出し、いつのまにか納めていた両刀のうち舞姫の方を抜刀。
「楼華閃『雷光一閃』」
地を蹴りさらに加速し、すれ違いざまに雷を纏った刀を振り抜く。
その斬撃は目線どころか音すら置き去りにした。そして納刀がトリガーとなったかのように、天子の腹部に横一文字の線が光を放ちながら出現した。
「そ、んな……ありえない……!」
腹を抑えながら天子は片膝をついてうずくまる。その口からは鮮血が流れていた。
「これが結果だよ。散々自分は強い賢いって思ってるようだから教えてあげる。あなたが思いつくことなんてそれなりに経験積んでれば誰でも考えられることなんだよ」
技術は申し分ないけど、彼女にはそれを活かすだけの戦術、つまり経験がない。
当たり前だ。さっきの話では天界は毎日歌や踊りを踊っているだけの極めて平和な世界であるらしい。そんなところで育ったお嬢様が戦闘経験豊富なわけがない。
私も天子も残りスペカは一枚だ。結界の耐久も心許ない。
天子は先ほどまでの余裕はどこへやら、殺気すらも纏って私を睨みつけてくる。どうやら先ほどの煽りがよほど効いたらしい。
と思ったらなんか急に狂ったように大笑いし出した。
なんだ? あまりのストレスに脳が蒸発しちゃったのかな?
「ク、フフフッ! アハハハハッ!! あなたは最高よ! ここまで私をイラつかせたやつは初めてだわ!」
「お褒めに預かり光栄だよ」
「ええ、褒めてるのよ? だから、手っ取り早く消してこのイライラを解消させてもらうわ!」
天子の叫びに呼応するように再び大地が揺れ始める。
なんだ? また性懲りも無く地震か? だったら無意味だ。先ほどのように空を飛んでよければいいだけだし。
そう思い、私は地面を蹴って上に飛翔する。
しかし、なぜか私の足は地面に着いたままだった。
……? どういうこと? たしかに私は今空を飛んでいるはず。なのに地面が一向に足から離れる気配がしない。
不思議に思い飛行を解除してみる。
その瞬間、とてつもないほど大きい気圧が私の体を地面へと磔にした。
「な、これはまさか……大地が上昇している!?」
横を向けば、雲が流れるように上から下へ移動していっているのがわかる。
空を飛んでも足が一向に地面から離れなかったのはこれが原因か!
「最初にあなたが私のところに来た時点で、すでに大地を切り取っておいたのよ。つまり今この大地は巨大な要石そのものなの。それを操れば、こんなこともできる」
だんだんと空が暗くなっていく。
もちろん夜が来たわけじゃない。この大地が天空の遥か彼方——すなわち宇宙に急接近しているんだ。
妖怪のため、空気がなくても一応は動けるのが救いか。
そして数分後、ようやく大地の動きが完全に止まった。
体にかかっていた力も消えたので、立ち上がって周りを確認してみる。
言葉が出なかった。
大地の切れ端から下を覗いて見えたのは、どこまでも続く広大な青。大きすぎて視界の全てがそれで埋まってしまうほどだ。それが私たちが住んでいる地球だと心の奥底から理解できたのはその数秒後。
上には闇色のベールによって包まれた無限に続く黒と、その上に塩でもぶちまけたかのような細かくて白い粒たちが見える。だがそれ以上に私の心を揺さぶったのは赤や青、緑などの鮮やかで淡い色を纏う光のカーテン、オーロラだった。
そしてその光を羽衣のように纏う天人が一人、宙に浮いていた。
彼女の前方には緋想の剣が一人でに回転していて、なにやら赤い光を集めている。
「消し飛びなさい——『全人類の緋想天』」
剣から解き放たれたのは極太の赤いレーザー。それもマスタースパークに匹敵、いやそれ以上の密度と大きさだ。
それが文字通り地を、空気を穿ちながら私に向かってくる。
しかし私の脳裏には恐怖も敗北のビジョンも映ってはいなかった。
あるのはそう、この視界のほぼ全てを埋めつくさんとばかりに迫ってくる光を打ち砕く姿のみ。
「——神解『
旋毛部分と肩から下にかけての髪が藍色に、両手に握る二つの刀の色がそれぞれ桃色と青紫に染まる。そして赤と青の雷を纏い始めた。
それを背中に峰が当たるほど大きく振りかぶって——。
「——霊刃『超神羅万象斬』!!」
——斜め十字に力の限り振り下ろす。
もはや私の身長の何倍もあるのかすらわからない光の刃が二つ、赤と青の雷を纏って突き進んでいく。そして目の前の赤い閃光と衝突。
衝撃波が私を含めた近くにあるあらゆるもの全てを吹き飛ばす。発生した光が私の視界を塗りつぶしていく。耳すらもキーンという甲高い音が鳴るのみで完全に麻痺してしまった。
天子のレーザーと私のロザリオ。二つのエネルギーがせめぎ合う。
しかしその均衡を打ち破り、相手の攻撃を食い破ったのは——赤と青の十字斬撃だった。
二つの斬撃はレーザーを天子の一歩手前まで押し込むと、そこで形が崩れて爆発。膨大なエネルギーの暴走に間近にいた彼女が逃れられるわけもなく、そのまま赤と青の光に影すら飲み込まれて消えていった。