東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
迫り来る電気をまとった五つの巨大弾幕。
私は二つの刀を手前で斜め十字に構えて、それを受け止めようとするけど……。
「ぐっ、ぐぐぐ……っ! お、重い……っ!」
勢いを殺しきることはできず、地面をズリズリと削りながら少しずつ押されていってしまう。
こうなったら……!
歯をくいしばって『形を操る程度の能力』を発動。私の真下に子供一人がすっぽり収まるほどの深さの落とし穴を一瞬で掘る。そして重力に従ってそこに落ちる形で中に避難した。
その何コンマ後で頭上を弾幕が通過していく。それを確認したあとに地上へ急いで飛び出た。
そして落とし穴に突き刺さる、落雷。
危なかった……。あと少し遅れていたら黒焦げになるとこだった。
衣玖は以前変わらずふわふわと浮きながらこちらを見ている。余裕のつもりか、はたまた観察しているだけなのか。どちらにせよ、何もしてこないというだけで私のプライドがささくれていくのを感じる。
だけどここで冷静さを失っても得はない。
私は白紙のカードを一枚取り出し、新たなスペカを誕生させる。そしてそれを懐にしまい込み、再び両刀を構え、突進した。
それ自体は先ほどとは変わらない。唯一変わった点と言えば、常に左足を地面につけていることだ。そんなことをすれば当然左足を引きずるように走ることになり、いつもほどの速度は出なくなる。だが、それでいい。
数多の斬撃が繰り出され、その度に衣玖は躱し、バックステップをすることでそれらをさばいていく。
悔しいけど、この体の私じゃ多分まともな手段で衣玖を斬るのは不可能だ。それほどまでに彼女の回避能力は高い。
でもね、それで割り切れるほど大人じゃあないんだよ。私はね!
私は体を捻って力を溜め、回転しながら今まで見せたこともないほど大振りに両刀を振るう。
だが、そんなもの衣玖に当たるわけがない。『溜め』の時点で既に彼女は私の斬撃の圏内から脱出しており、私が振ったころには彼女の姿は遥か遠くにあった。
だ、け、ど。
「全て計算通りだよ、衣玖!」
笑みを浮かべながら、地面に引かれた線に向かって両刀を突き刺す。
そして次の瞬間、地面に衣玖が立っている場所を中心とした巨大な五芒星の魔法陣が光りながら浮かび上がった。
「なっ……いつの間にこんなものを……っ!?」
「さっき刀を振ってた間さ。ま、経験の差ってやつだね」
そう、私が片足を地面につけながら走っていたのはこの魔法陣を描くためだったのだ。
衣玖は全然気づいてなかったようだけど、まあ当たり前だね。そうなるように私が視線から刀を振る角度などなど、いろんな技術をフル活用して上手く魔法陣が描けるように誘導してたんだから。ま、ここんところはさっき言ってた通り経験の差ってやつだ。
刀を通して魔法陣に魔力を流し込む。すると導火線に火がついたように、魔法陣内の光が急激に強くなっていき——。
「開け——『
——魔法陣から発射された超巨大な光の柱が、中にいた衣玖を巻き込んで天を貫いた。
よし、直撃だ。
衣玖は回避能力は高くても私のように素早いわけじゃない。あれだけの範囲を巻き込んだ全方位攻撃にはさすがに対応できないはずだ。
だが、安心するのはまだ早い。
私は最後のスペルカードを投げ捨て、刀を構えながら光の柱へと突っ込んだ。
私と柱があと数秒で接触する——という時にちょうどスペルカードの制限時間が来て、柱が消えて行く。だけどこれはもちろん偶然なんかじゃない。全部私の計算に基づいたものだ。
そして光が徐々に収まっていき、中から薄っすらと衣玖の姿が。
今がチャンスだ。
「——『百花繚乱』ッ!」
叫ぶのは私の奥義のうちの一つ。
この光の柱に閉じ込められているうちに逃したら二度と衣玖を捉えることができなくなるだろう。だからこそ、そうなる前に決着をつけてみせる。
二つの刀がオーラにも似た光を纏う。それとは対照的に光の柱は完全に消え去っていき、衣玖の体がはっきりと見えてきた。
そう、
「魚符『龍魚ドリル』!」
右手のドリルの正体は彼女が纏う羽衣。それを腕に巻きつけ、風と雷を高速で纏うような形で高速回転させている。
そんなものが、私を穿とうと迫ってくる。
「っ、ぐぅぅ……っ!」
咄嗟に私も右の舞姫で突きを繰り出す。
両方は私と衣玖の目と鼻の先で激突。激しい火花と光を撒き散らしながら辺りを照らす。
しかし、徐々に。徐々にだが私の体がズリズリと後退させられていく。
『百花繚乱』は私の剣技の中でも最高の一つと言えども、その真価は斬撃の連続攻撃だ。決して一撃一撃に必殺の威力が込められているわけじゃない。
つまり、一発の威力は雷魚ドリルよりも下だった、ということだ。
けど、ここまできて諦めてたまるかぁ!
私は必死の力を込めて、突き出した刀でドリルの回転とは反対向きに高速で円をひたすら描いていく。するとその勢いに辺りの風が巻き込まれ、刀を中心にドリルとは真逆に回転する竜巻が巻き起こった。
これにより、徐々に衣玖のドリルの回転力が弱まっていく。それに比例して威力もだだ下がりとなった。
完全に状況が逆転した。
竜巻を纏った突きが衣玖を捉えたことを勝機に、さらに激しい斬撃のハリケーンを巻き起こす。
一度当たれば止めることなどできやしない。私のみに許された領域、すなわち神速。
赤と青に輝く二つの刃が、閃光と化して縦横無尽に駆け回る。
衣玖は倒れることもできぬまま、瞬く間に体全体を数百もの斬撃に切り刻まれた。
当然結界は破裂。ものの数秒でガラス片のようなものを撒き散らしながら粉々に砕け散った。
それを確認してからようやく刀を鞘に納める。同時にドサリというなにかが地面に落ちた音がした。
「く、うぅ……やりすぎじゃあ、ないですか……っ?」
今まで宙を浮いていた衣玖が俯けに倒れながら呟く。
彼女の体にはいたるところに刀傷が刻まれており、そこから痛々しいほど紅い血が流れ出している。
あーあ、だからこの技を弾幕ごっこであまり使いたくはないんだよなぁ。
百花繚乱って数秒で数百とかいうおかしなペースで刀を振るうから途中で止めるのがすごく難しいんだよ。実際に結界が壊れたのを見てから技を中断してあの傷だ。
でもあれ以外にさっきの局面を突破できなかっただろうし、しゃーない。
何はともあれだ。
衣玖が倒れ込んでいるところに近づく。そして謝罪の意を込めて回復の術式をかけたあと、尋問を開始した。
「さて、さっき『あの方』がなんとかって言ってたけど、そいつが地震を起こした犯人?」
「……」
うーむ、無言か。まあ結構お固そうなタイプだしね。
「もし答えなかったら人里の風俗送りにしようって考えてるんだけど」
「天界にいる比那名居天子様です! おそらくはあの方が犯人だと思います!」
「うわぁ、いとも簡単に仲間売ったよこの子……やっぱりクズだね」
「答えて欲しいのか欲しくないのかどっちなんですかあなたは!?」
日那名居天子か……。聞いたことのない名前だね。天界にいるってことで天人だってのはわかるんだけど。
そもそもよく考えたらあいつら天界から基本的に出てこない引きこもり集団だから名前なんて知ってるわけないじゃん。でも竜宮の使いが様づけで呼んでるってことは相当地位が高いんだろう。
「ねえ、天界ってどこにあるの?」
「ちょうどこの山の真上ですよ。……もう帰っていいですかね?」
「んー、まあいいか。必要なことはもうあらかた聞け出したし」
「それじゃあ私は一刻も早くここから立ち去らせてもらいます」
言うが否や、衣玖は弾幕ごっこ中でも見せたことのないほどのスピードでここから飛んで行ってしまった。
でも彼女の仕事上、私以外の異変解決組にもまたボコられそうな未来が見えるんだけど……まあそれはいいか。
ともあれ行くべきところは決まった。
睨みつけるように天空を見上げる。ここら辺は雲よりも高度が高いから気質が影響することはない。すなわち天気は快晴である。しかしその晴天の空のさらに奥に、薄っすらと巨大な岩の一部のようなものが見えた。
あそこだな。妖怪の山の真上にあったのは好都合だ。
地を蹴って跳躍し空へ。いくら上昇しようが右も左も青々とした景色がひっついてくる。それを引き剥がすようにぐんぐん上昇していく。
空気が薄い。体が軽く感じる。おそらくかなり上にまで上ってきたはずだ。
そして上昇すること数十分ほど。とうとう目的の場所が見えてきた。
「毎回ながら投稿遅れてすみません。この二週間ほど、リアルでとても忙しくなるので投稿をお休みします。そこから先は多分夏休みの終わりくらいまでは暇だと思いますので、どうかご了承ください」
「というわけで今回も出番なしの狂夢だ」
「今回は久々に新技出ましたね」
「ああ。今までは極力そういうのは控えて、昔作られた一度しか使われてないようなものを再利用してたのにどういう風の吹きまわしだ?」
「いやだって今回の展開で代用できそうな技がなかったんですもの。じゃあ作るしかないでしょうが」
「今回のスペカも一発屋にならないことを願うが……」
「対上空のスペカかぁ……地面とかに魔法陣を描かなきゃいけない分、基本空中戦の弾幕ごっこじゃたしかに需要ないかも……?」
「ほれみろやっぱり一発屋じゃねえか!」