東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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メイド・イン・ザンゲキワールド

 

 

刃と刃がぶつかり合う。

火花が弾け、一瞬お互いは硬直状態に。だがすぐに私の刀が咲夜のナイフを体ごと押し返した。

咲夜はその勢いを利用して跳ぶように後退。しながらも両手に挟んだ複数のナイフを投げつけてくる。

 

それらを刀で弾き返し、前に出ようとしたが咲夜の方が早かった。私の懐へ潜り込み、今度はしっかりと握り込んだナイフを突き出してくる。

身を捻りそれを回避。だが薄く張ってあった結界には当たってしまったらしい。結界の耐久力がわずかにだが削られたのを感じる。

咲夜はもう片方の手に握っていたナイフを同じように突き出してくる。しかし何度も同じ手が通用してたまるか。

刀の柄頭で彼女の手の甲を叩き落とすと、その顔面に柄頭を打ち付けた。目を狙ってやったので結界があろうがなかろうが関係ない。一瞬だけど視界を奪われた咲夜はその本能に従い、無意識のうちに後ろに数歩後退した。

 

その機を逃さず、右の刀を思いっきり横薙ぎに振るう。

しかし咲夜の判断も早かった。とっさに前進して同じように右のナイフを振るい、私の刀へと打ち付けたのだ。

刃と刃が腹の部分を滑る。

私と咲夜の体がすれ違い、交差する。

そして互いに右回転し、その勢いを利用した斬撃がぶつかり合った。

今日一番で大きな火花が舞う。伝わる感覚で右手がビリビリと痺れた。

 

「さすが妹様を倒した妖怪ね……その見た目のくせして恐ろしいほど技がキレている」

「そりゃこっちのセリフだよ。まさか人間の剣術にしのぎを削ることになるとは。……だ、け、ど」

 

体を捻り、後ろ蹴りを繰り出す。咲夜はつばぜり合いに夢中で反応が遅れ、モロにそれをくらった。そして数歩後退する。

 

「遊びはここまでだ。体術と剣術が合わさった私の武術、見せてあげるよ」

 

地面を思いっきり蹴り上げ、加速しながら刀を振るう。

先ほどまでとは比にならないほどの速度。

反応が遅れた咲夜は真正面からそれを受け止めてしまい、大きく後ろへ吹っ飛んだ。

そしてそれを追いかけるように再び加速。彼女が着地すると同時にスピードを乗せた飛び膝蹴りを繰り出す。

しかし今度のは当たることはなかった。咲夜はとっさに体を仰け反らしてそれを回避。だが私の連撃はまだ終わらない。

 

飛び膝蹴りが避けられたことで私は彼女の体を飛び越えてその背後へ回る。そして着地と同時に回転し、両刀を力強く振り抜く。

咲夜はそれをかいくぐり、私の懐へナイフを突き刺そうと飛び込んできて——思いっきり吹き飛ばされた。

 

私が繰り出したのは何も斬撃だけじゃない。回転の勢いを利用して後ろ蹴りも斬撃の後にセットしておいたのだ。結果的にそれがカウンターとなり、咲夜の腹部を見事に蹴り抜いた。

もちろんこのチャンスを逃す手はない。加速して吹き飛んでいる彼女に追いつくと、未だ空中に浮かぶ体にとどめの一撃を振り下ろす。

しかし不発。

斬撃が地面を切り裂いただけで、気づいたら彼女の姿はどこへもなく消えていた。

 

「時止めか……厄介だね」

「ご名答。でも遅いわ。——幻符『殺人ドール』」

 

その言葉の意味はすぐにわかった。

いつのまにか私の周囲には無数のナイフが空中で静止していた。そして彼女の言葉をスイッチにそれらはゆっくりと動き出し、弓で弾かれたかのように一斉に私に向かってくる。

しかしこの程度なら何も問題はない。回転しながら両刀を振るい、視界に入る全てのナイフを叩き落とした。

 

この間に咲夜は次のナイフを時を止めてセットしようとしていたみたいだけど、やらせはしない。

『時空と時狭間を操る程度の能力』を発動。咲夜の時止めが解除される。彼女は私から見てちょうど右斜め上あたりに浮いていた。

 

「みーつけた。楼華閃『烈空斬』」

 

スペカを唱え、右手に握る舞姫の刀身に風を纏わせる。そして咲夜に接近し、真空波を叩き込む。

だが彼女に当たる直前で謎の球体が出現し、真空波を受け止めた。

 

「こっちだって時止めが効かないのは十分承知してるわよ。なら、ある程度対策を練っておくのは当然でしょ?」

「で、その対策が今のボールってわけね」

 

あれは確か春雪異変の時に咲夜が持っていたマジックアイテムだったはず。能力はナイフを自動で連射することができるんだとか。実際にはその光景を見たことないが、前に彼女本人から説明を聞いたことがあるのでなんとなく覚えていた。

確か名前は……。

 

「『マジカル☆さくやちゃんスター』」

「ぶっ殺すわよっ!」

 

うおっ!? 正式名称言ったらなんかめっちゃ激昂されたぞ! 『マジカル☆さくやちゃんスター』改めてボールからナイフがマシンガンの弾のように飛んでくる。

結界を張って弾切れになるまで少し待ってみたけど、ナイフの弾幕は衰える気配すらない。どうやらあれは霊力でナイフを生成して飛ばす仕組みたいだね。しかも燃費はけっこう良さそうだし、このまま何もしないでいるとジリ貧か。

 

ナイフの弾幕を避けながら接近し、刀を振るう。だがそれは咲夜のナイフに受け止められた。

さっきまでならここから追撃を繰り出していくんだけど、あのボールのせいでそうもいかない。もう片方の刀を振るう前にナイフが発射され、私はその場からの移動を余儀なくされた。

だがまだだ。

移動した先は咲夜の背後。そこで再び刀を振るい、また受け止めれられる。

 

そこから先は今起こったことの繰り返しとなった。

咲夜の死角を突くように移動しては刀を振るい、また移動する。

一見意味のないようなローテーションだが、それは確実に咲夜に私の刀を受け止めさせるため。そして先ほどまでと同じように咲夜がナイフで斬撃を受け止めたところで。

 

「霊刃『森羅万象斬』ッ!」

 

ゼロ距離での森羅万象斬。

受け止めたはずの刀身が青い光に包まれて巨大化し、彼女の目の前で爆発した。

煙で彼女の姿はよく見えないが、かなりのダメージを与えたはず。あとはこの煙が晴れたと同時に突っ込んでとどめを刺してやる。

そして胡散していく煙に黒い影が映ったと同時に私はその場から飛び出した。

 

だが、そんな私のほおをなにかがかすめていった。

 

「光速……っ『C. リコシェ』ッ!」

 

煙の中の咲夜から放たれたのはたった一つのナイフだった。しかしそれは尋常もなく速かった。少なくとも幻想郷最速の私ですら目で追うことができないほどに。

ナイフは最初は一直線の軌道を描いていたが、障害物に当たった途端に跳ね返って角度を変え続け、私の周囲を飛び回る。

 

C. ……つまりは光の速さか。なんという皮肉だ。

流石に本当に光と同じ速度は出ていないと思うが、それでもマッハ数十は確実にあるだろう。少なくとも今の体の私じゃ撃ち落とすことなんてとてもじゃないができない。

彼女のスペカにルミネスリコシェというのがあったと思うが、名前や特徴からしてそれの上位互換だな。

ここ境内には障害物なんてものはないと思ってたけど、すっかり神社が潰れていたことを忘れていた。咲夜のナイフはその破片や瓦礫を障害物に見立てて跳ね返ってくるのだ。

 

そうやって動くのをためらっていると早速脇腹あたりをナイフが通り過ぎ、切り裂かれる。

こうもジワジワといたぶられちゃいずれ私の結界の耐久もそこを尽きちゃう。良い案も浮かばないし、しょうがないか。

 

背中からナイフが迫ってくるのを風切り音で感じ取る。

だが私は避けることはおろか、動こうともしなかった。そしてナイフは凄まじい速度でそのまま私の背中に突き刺さった。

 

くそっ、いくら結界があると言ってもさすがにこれは痛い。痛すぎる。というかナイフの速度が速すぎて結界を完全に貫通しちゃっている。そのせいで背中からは燃えるような痛みと真っ赤な血が流れてくる。

だけど……っ、結界はまだ壊れちゃいない。背中部分に少し穴が空いただけで、元の状態を保っている。

 

「なっ……!?」

 

咲夜が計算違いだとでも言うように驚きの声をあげる。

まあそりゃそうだよね。普通だったらあれの直撃もらって先ほどの攻防で削られた結界が耐えられるはずがない。

だけど、それはあくまで近接弾幕ごっこ用の結界一枚しかない場合だ。

 

背中に出来る限りの結界を重ねるように張って、あとはわざとナイフを受け止める。そうやってやれば結界へのダメージを軽減できるしうるさいナイフも止めることができるってことだ。

 

「これでお終いだよ! 楼華閃『風乱(かざみだれ)』!」

「くっ……! 傷魂『ソウルスカルプチュア』!」

 

私の両刀が風を、咲夜のナイフが光を纏う。あとは斬撃の応酬だった。

狂ったように咲夜はありったけのナイフを投げつけられ、私も一心不乱に神速で二刀を振り続ける。そしてこの両者一歩も弾くことのない打ち合いを制したのは私の刃だった。

 

ナイフとナイフの間をすり抜けて私の斬撃が彼女を斜めに切り裂く。それに一瞬怯み、反撃してきたがその時にはもう私は彼女の背後に回っていた。

彼女が振り返るよりも早く私の斬撃が一、二と背中を切りつけ、それを起点に斬撃の嵐が巻き起こる。咲夜はそれに呑み込まれ、数えることすら億劫なほど背中を切り刻まれて倒れ込んだ。

 

ようやく弾幕ごっこが終了した。

私は背中からナイフを抜くと、それを咲夜の方へ投げ捨てる。せき止められていた血が噴水のように一気に流れたが、傷口を術式で塞いでおいたので問題はない。

 

「ふぅ……まだ寝てもらっちゃ困るよ。あなたに聞きたいことはまだあるんだから」

「はぁ……いいわ。敗者に拒否権はないもの。それで何が聞きたいの?」

「さっき私に異変の容疑者としての疑いがかかってるって言ってたよね? 誰なの、そんな疑いかけてるのは?」

「……妹様よ。最近探偵ものの小説を読んだらしくてね。今では探偵ごっこをするのがマイブームとなってるわ」

 

フランか……。そういえばちょくちょく顔は見るけど、永夜異変以来はまともに会話したことはなかったな。手段を選ばない戦い方で彼女を囮にして関係をギスギスさせたのは私だし、自業自得なんだけど。

でもそろそろ会ってみてもいいだろう。仮にあの時のことをまだ根に持っていてもすぐに謝ればいい。よし決めた!

 

「咲夜、私を紅魔館に連行していっていいよ。私もフランとは話したいしね」

「わかったわ。それじゃあ早速いきましょ」

 

メイド服についた砂を払い、宙に浮く咲夜。背中部分の布は私が切ったせいか消失しており、かなり際どい衣装になってはいるがまあ問題はないだろう。

同じように空に飛ぶと、その際どい背中を追いかける。ほおに生温い風が当たるのを感じながら、紅魔館を目指した。

 


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