東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「滅符『
炎と氷の翼を生やした私は、天へと飛翔し幽香を上から見下ろす。そして翼を羽ばたかせ、炎と氷の弾幕群を竜巻とともに繰り出した。
「中々の風ね……でもそれだけじゃ、私には勝てないわよ!」
それに対抗するために幽香のやつは……うおっ、マジかよ! 傘を薙ぎ払う勢いだけであっちも竜巻を作りやがった!
竜巻対竜巻。全体的には私の方が押しているが、進むペースはかなりゆっくりだ。このまま幽香に届くまでに随分と時間がかかりそう。
炎と氷の弾幕も竜巻のせいであらかた砕かれちゃって役に立ってないし、このままだと私のスペル時間が過ぎて終わってしまうな。
……仕方ない。こうなれば不本意だが、接近戦にふたたび持ちかけるとしよう。
幸いなことに、このスペカは接近戦にも対応している。ほら、このようにっと。
風を味方につけて滑空することで高速で移動し、幽香へ接近して刀を振るう。
幽香は傘を縦にすることでそれを防いだ。が……。
「ぐ、重い……!」
推進力だけは完璧には止めれなかったみたいだ。幽香は私の刀と傘を当てながらも、吹き飛ばされないように踏ん張る。そして地面に足をつけたまま数十メートル後ろへ押されたところで、ようやく私の運動エネルギーは止まった。
だが、さすがに足に負担がかかり過ぎたのか、彼女は片膝を地面につけながらも顔をしかめる。そこに追い打ちをかけるように、私の剣舞が襲いかかる。
さすがというべきか。この一瞬で十数もの斬撃を繰り出したのに、半分しか当たってくれなかった。恐るべき戦闘のカンと防御テクニックだ。
おっと、彼女の足が完全に回復したらしい。あいも変わらず元気に傘を振り回してくる。
このまま打ち合ってもいいのだが、決着をつけるまでに時間がかかるのでやめておこう。薙ぎ払いをアクロバティックな動きで避けると同時に、空中で翼を広げ、空へ避難する。
もちろんこの時羽ばたいたことで、抜け落ちた羽のような炎と氷の弾幕が傘を振り切って無防備な幽香を襲い、さらにダメージを与えてくれる。
そして怯んだ隙に再び滑空し、接近戦をしかける。
遠距離も近距離もこなせる私の最も得意な戦法と言っても過言ではないだろう。
最近は実践的な戦いがほとんどなかったから少し自分の強みを忘れかけてたけど、この弾幕ごっこでだんだんと思い出してきたよ。
時たまに幽香が私を追って空へ飛んでくることがあるけど、無駄無駄。彼女は私のように空気を固めて足場にできないため踏ん張れず、腕力だけで傘を振るうことになってしまう。
そうなればいくら幽香と言えども、打撃の威力は半減する。逆に私は風の力を利用して物理攻撃の威力を増すことができるため、斬撃の重さはそれだけで跳ね上がる。打ち合えば、どちらかが吹き飛ばされるかなんて言うまでもないだろう。
それを彼女も理解しているのか、二回目の空中戦では弾幕を主に使ってきた。
けど、当たらない。
もともと私と幽香では速度に差がある。それでも私が苦戦していたのは、彼女の超人的な近接戦闘能力があったからだ。
だが、今そんなものは消え去ってしまっている。
はっきり言っちゃえば……負ける要素はない!
弾幕をかいくぐり、両刀を振り下ろす。幽香は傘で防御するが衝撃を受け止めきれず吹き飛ばされ、地面へ背中を打ち付けた。
……そろそろスペカの時間が切れるな。
ちょうどいい。幽香も現在は仰向けに倒れていて動きが止まっているし、今がとどめを刺す好機だろう。
私自身の体を包み込むように、炎と氷の翼をぶつけ合わせ、融合する。そしてできた膨大なエネルギーを身に纏い、光の竜と化して大地へ飛び込み、その顎を彼女へ突き立てた。
そしてそのまま、幽香は竜の牙に噛み砕かれる……ことはなかった。
「重いのよこの……デカブツがぁぁああああ!!」
「なにっ!?」
竜の口の中に、幽香の傘に先端が突き刺さる。
そして彼女はそのまま、仰向けに倒れている状態でなんと、私の突進を受け止めたのだ。
驚いた。こいつが筋肉バカなのは今に始まったことではないが、まさか私の光竜の一撃をも耐えるとは。
でも、それもここまでだ。
さらに全身に力を込める。すると巨竜の体が一回り大きくなり、幽香の背中が地面にどんどんめり込んでいく。
「さっきのには驚いたけど……このままいけば私の勝ちだ!」
「ふふ……っ、それは、どうかしらね……っ!」
——微笑。
おかしい。こんな絶体絶命のはずの状況で、なぜ笑っていられる?
……いやな、予感がする。
まるで、チェスで王を取ろうとして、逆に自分が知らぬ間にチェックメイトを受けていた時のような……。
そして。
幽香の傘の先端に、七色の光が集まっていくのを見た時、私は自分の予感が的中していたのを確信した。
「ねえ、私の
「……ま、さか……!」
「——魔砲『マスタースパーク』」
——全てを焼き尽くす巨大な閃光が、竜の首を引きちぎり、天を貫いた。
閃光、爆音。
視界が光に覆われ、気付いた時には焼け焦げた地面の上に寝転がっていた。
意識が飛びかけた。
あれがマスタースパーク? なんの冗談だ。明らかに魔理沙のファイナルスパークよりも威力は上だった。じゃなければ、私の光竜を一撃で粉砕することなんてできやしない。
結界は……やばいね。多分次に一撃でも受けたらすぐに壊れちゃいそうだわ。
形成逆転。チェスの盤面を入れ替えたかのように、勝機は一気に幽香へと傾いてしまった。
彼女はすでに立ち上がっており、余裕の表情で私を見つめている。
私もすぐに立ち上がろうとするのだが、体に走る痛みで中々すぐに起き上がれない。
これは……多分体のどこか複数箇所をヤったね。最低でも捻挫、悪くて骨折と言ったところだろう。
いくら結界が張ってあると言っても、元の体が貧弱では怪我をすることもあるということか。全く、相変わらずこの体が恨めしくなってしまう。
幸いなことに、幽香は私が立ち上がるまでなにもしてこなかった。
ちっ、傲慢なことで。大方さらなる絶望だかなんだかを私に見せつけてやるつもりなのだろう。
そして悲しいことに、再び私の予感は当たることになる。
ふと、幽香の姿がぶれたかと思うと、次の瞬間、
……いや、比喩じゃないよ? まんまその通りに、幽香が二人に増えたんだって。
あれはおそらく分身……かな? どっちにしろ、感じる妖力は二人とも本物並だ。
「ふふふ、驚いたかしら? この私の奥の手中の奥の手」
「昔戦った時は見せる暇がなかったけど」
「「今なら十分に、私たちの恐ろしさを味わせてあげられる」」
そう言うと、二人の幽香は同時に傘を突き出し、その先端に妖力を集め始める。
おい、嘘でしょ……?
まさか……!
「魔重砲『ダブルスパーク』」
「一つでも受け止めれなかったあなたに、耐え切れるかしら?」
二つのマスタースパーク。
避けることはほぼ不可能だろう。魔理沙のとは違って、幽香のは馬鹿みたいに広範囲を焼き払ってくる。それが二つともなれば、発射と同時に前方の視界全てが光に包まれることだろう。
だ、け、ど。
油断したね幽香。切り札を隠していたのは、お前だけじゃないんだよ……!
「神解——『
妖力が具現化した光に包まれながら、私の姿が両手に握る二振りの刀とともに変わっていく。
髪はつむじの近くと肩から下が藍色に変色し、瞳はサファイアとルビーをそれぞれはめ込んだようなオッドアイとなっていた。
そして発動体となった二本の刀。その内の舞姫は赤く染まって炎を、妖桜は青く染まって氷をそれぞれ纏った。
「へぇ……どうやらこの数百年間、怠けていたわけじゃないみたいね」
「ふふ、感謝してよね。そして後悔しろ。私にこれを使わせたことを」
「そう言う言葉は、勝ってから言いなさい!」
最大まで溜められて七色の光が、幽香たちの傘から同時に解き放たれた。
それだけで地面がえぐれ、空気が焼ける。
しかしそれに怯みもせずに、私は最後のスペルを唱える。
「『千花繚乱』ッ!!」
千を超える森羅万象斬並みの斬撃。
それは瞬く間に幽香たちの閃光を細切れにかき消し。
二人の姿は、刃の嵐に呑まれて消えていった。
その時、パキンっ! という甲高い音が雪降る雪原にこだました。
これは結界の割れる音だろう。つまりはそういうこと。
——私の勝ちだということだ。
「ぷはぁぁぁ……! つ、疲れた……! もう絶対あいつと弾幕ごっこやらないからね……!」
神解を解いた時、あまりの脱力感に膝をついてしまう。そのついでに仰向けになって空を見上げながら、私はそう誰にでもなく誓うのだった。
♦︎
「『反転結界解除』……これでよし」
指をパチンと鳴らして結界を解くと、辺りの景色は真冬の夜空の下から真夏の太陽の下へと早変わりした。
うーん、作った私が言うのもなんだけど慣れないなぁこれ。
だったら下手に季節を逆転させるんじゃなくて普通に現実と同じ世界を作れよって話なんだけど、実はそうも簡単にいくものでもないわけで。
一応早奈戦で見せた『思想結界』という、私の精神世界——『混沌と時狭間の世界』に対象を引きづりこむ結界もあるわけだけど、自分の心の中にあまり人を入れたくないと考えるのは誰でも同じだろう。
ふと幽香を探してみると、十メートルほど離れた場所に横たわっていた。
どうやら気絶しているようだ。ちょうどいいし、待っている間は傷を治すことに専念しよっと。
回復の術式を練り上げ、手のひらを腹部に当てて唱える。
それだけで体のあちこちにある捻挫が治った。
だが、この姿じゃ治せる傷にも限度がある。現に骨折やマスパに直撃した部分ではせいぜい痛みが軽くなる程度だ。
「ん、ぐっ……!」
お、そんなこんなで時間を潰していたら幽香が起きたようだ。
彼女は初め自分が地に伏しているのに疑問を持っていたようだが、傷だらけの体と私を見て、何が起こったのか納得したらしい。
思いっきり脱力して、起こした上半身を再び地面の上に寝かせた。
「やられたわね。一度ならず二度までも、この私が負けるなんて」
「今回は弾幕ごっこだったからね。実践だったらお前が勝ってたさ」
「それは『今のあなたの体だったら』という仮定を含めてと解釈していいかしら」
「否定はしないよ」
相変わらず生意気ね、と負け惜しみの言葉がかけられる。
そりゃどーも。あいにくこの歳になってもそれだけしか取り柄がないもんでね。
とりあえず幽香にも勝ったし、もうここに用はないだろう。
踵を返し、太陽の畑を出て行こうとする。
「ちょっと待ちなさい」
だがその時、倒れた状態の幽香から声がかかってきた。
「どうしたの? リベンジマッチはもうやらないよ?」
「違うわよ。……これを持っていきなさい」
ぽいっと、無造作に投げられた何かを落とさずキャッチする。
見たらそれは、謎の液体が入った瓶だった。
「それは回復のポーションよ。飲めば多少は妖力が回復すると思うわ」
「そりゃありがたいけど、幽香は使わなくてもいいの?」
「それは報酬よ。私の分なんて腐るほどあるし、気にしなくていいわ」
「そう。それじゃあさっそく……」
瓶の蓋を開け、一気に中の液体を飲み干す。
おお? 微量だけど、なんだか徐々に妖力が回復していっている。
「って、即効性じゃないのかよ……」
「 馬鹿言わないでちょうだい。それでも十分即効性よ。半日もあれば失った妖力を全て回復できるんだから」
いや、まあ確かに高性能なんだけどさ……。
昔永琳が私用によく作ってくれたものと比べると、ねぇ?
まああっちは『あらゆる薬を作る程度の能力』を持ってるわけだし、比較対象がそもそも間違っているのだろう。
なんにせよ、幽香には感謝しなくちゃいけないな。
「ありがとね幽香。私はそろそろ行くよ」
「……無縁塚、行くんでしょ? 気をつけなさいよ。今あそこは三途の川と繋がってるはず。あそこの閻魔はかなり口うるさいわよ」
「よく知ってるから大丈夫。それに私はあくまで仕事をサボる馬鹿にお灸をすえに行くだけだしね」
その言葉を最後に、私は太陽の畑を出て、空へと浮遊する。
次の目的地は魔法の森。その奥にある無縁塚だ。
霊夢が動く前に解決しようとしたこの異変も終わりが見えてきている。
さーて、ここまで私を動かしたんだ。どうやって天罰を落としてやろうかな……?
道中の暇つぶしは、そのことを考えるのでいっぱいだった。
「小説書いてたら久しぶりに操作ミスでデータが吹っ飛びました。こういう時ってもう小説書くのやめようかなとか毎回一瞬だけでも思うんだけど、わかる人いないかな? 作者です」
「お前メンタルめっちゃ弱いからな。受験前なんて、友人の何気ない縁起の悪いジョークでナーバスになったって聞くじゃねえか。狂夢だ」
「なんか花映塚編が自分でも思った以上に長続きしてる気がする」
「本来はどんな感じで終わらせるつもりだったんだ?」
「幽香戦で共倒れしてジ・エンドの予定でした。その後魔理沙に引っ叩いてもらって、意識を取り戻して帰宅する的な」
「まあ花映塚はやったことないし、イマイチやる気起きないのはわかるけどよ」
「なんかもういっそ花映塚飛ばしちゃおうかな、とか受験後の初めは思っていました」
「じゃあなんで続けたんだよ」
「いつもの悪ノリです」
「はぁ……そんなんだからこの小説が未だに完結しないんだよ」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてねえよ!」